小松尚太さんの2014年9月分奨学生レポート

お世話になっております、小山八郎奨学生第39期の小松尚太です。留学を開始して1ヶ月過ぎてのレポート執筆です。個人的にはこの1ヶ月は非常に長く感じられました。ここでの生活に慣れることに四苦八苦していたからか、イリノイの時間の流れが遅いのか、その理由は明らかではありません。ただその一方で、この貴重な機会を十二分に活かさねばならないと、少し焦っていることも事実です。このレポートを書く過程で、無為に過ごしてしまった日々が思い起こされ、なんともやるせない気持ちになったりもしています。私のレポートは、皆様が期待するような華々しく輝かしい内容には程遠く、淡々したトーンで進むかと思いますが、将来の奨学生の参考に少しでもなればと思い、素直に書き表すことにします。

 

■なぜ留学を決意したか

大学では主に農業経済学・開発経済学を学んでおります。農業経済が強いイリノイ大学で自身の専攻について学びを深めつつ、多様なバックグラウンドを持った学生と議論をすることで自分自身の考えを相対化したいと考え、今回小山八郎記念奨学生に応募しました。幸運にも奨学生として留学に行く機会を頂き大変嬉しく思うと同時に、この貴重な機会を有意義なものにせねばと背筋が伸びる思いでもおります。また大学での学びとは別に、学生に対して日本酒の啓蒙活動を行っています。日本文化発信の一環として、その素晴らしさをアメリカの地で伝えることができればと思います。

 

以上が「きれいな」留学志望動機ですが、私が留学に行きたいと考えた理由の根底には、別の思いがあります。

 

私が通う東京大学では「よりグローバルに、よりタフに」という方針を打ち立てていますが、先進的な学生はそのスローガンに関係なく、時代の先を進んでいます。学問をただひたすらに究め、社会問題に対し鋭い眼差しを投げかける学生、大学の卒業生と共に研鑽し自身のキャリアに苦悩する学生、東日本大震災の復興支援として大学生を毎週東北に送り出すプログラムを運営する学生。そうした例を沢山身近で見てきた私には劣等感が募るばかりでした。大学受験まではレールに沿って生きていけば良かったものの、大学に入った途端自由度が飛躍的に上がり、それが逆に自分を苦しめることにもなりました。悩み・劣等感が爆発し、途中大学にも行かなくなり、周囲とも音信不通になった時期もありました。

 

その悩みをある大学の卒業生に打ち明けたとき、答えは「とりあえず動け」というものでした。自分自身の哲学・理念に沿って行動している人の言葉には得も言えぬ重みがあり、シンプルなアドバイスが私には深く突き刺さりました。動かないで後悔するよりも、動いて後悔をしたい。その時ふと頭に「留学」の二文字が浮かびました。大学に入ってから留学に行くつもりは全く無かった私に、この二文字が浮かんだことは驚きでした。留学が決定した今でも、なぜ留学に行くのかと聞かれた時は「直感」としか言いようがありません。しかし自分自身について悩みに悩んだ結果辿り着いた「留学」という解に、私は沸々と思いをたぎらせ、猛烈な勢いで準備を始めました。イリノイ大学では農業経済の研究が進んでいるという事実も知り、自らの専攻についての学びを深める可能性も広がりました。「ただ留学に行きたい」という愚直な思いを起点に、少しずつですが、歯車が回り始めたのです。

 

とはいえその歯車はまだ回り始めたばかりであり、不安定でもあります。そうした脆く不確実性に満ちた私の将来に投資して頂いたJICのプログラムには感謝してもし切れませんし、同時に背筋が伸びる思いでもあります。だからこそ私には、劣等感多き学生であっても留学は行くことができるし、行くべきでもあることを、今回の留学で示す必要があり、かつ留学を終えてからも伝える必要があります。それが、JICの皆様はもちろん、家族、そして大学に入ってから数多く迷惑をかけながらも温かく支えてくれた先輩・同級生・後輩への恩返しに繋がるものと信じています。

 

以上が、今回私が留学を決意した理由です。

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こういう食べ物も、1週間すれば飽きます。写真も撮らなくなります。

 

 

■イリノイ到着から学期開始まで

そうしたなんとも暑苦しく重々しい決意を胸に、2014年8月18日にO’Hare International Airportに到着しました。耳に入るものが全て英語。目にするものも全て英語。特に、出口の看板が全て「EXIT」と英語で表記されているのを見て、「とうとうアメリカに来てしまったようだ」としみじみ実感したことを覚えています。アメリカには過去2度旅行として来たことがありますが、今回は留学という長い道のりを見据えての到着だったため、得も言えぬ感覚に襲われたのかもしれません。以前ニューヨークに行ったとき、マクドナルドで恥ずかしくもボディーランゲージでしか注文できませんでした。そのリベンジを空港のマクドナルドで果たし、それっぽく注文することに成功します。こうした小さなことに、ちょっとした喜びを感じていたことは内緒です。空港からはPeoria Charter Coach Companyという会社のバスを利用し、大学に向かいました。バス内ではほとんど爆睡していましたが、途中起きて向かう途中に窓を見てみると、見渡す限りのトウモロコシ畑が広がっていました。地元の人にとってこの風景は飽きるほど見ているため新鮮味はないようですが、日本というゴミゴミとした世界から来た人間の目には、その広大さが幻想的に映るものです。

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大学のど真ん中にある試験用農場。試験用の農場としては世界最古らしいです。

 

それから学期が始まるまで、身辺の準備を進めました。ショッキングだったことは、銀行を開設するときに銀行員の規約についての説明が全く聞き取れなかったこと。この世の言語とは思えないスピードで放たれるその言の葉は、全く意味を持つものとして私の耳に届いて来ませんでした。他にも、ショッピングモールで「うちのスーパーのカードを持っているか」や、「ビニール袋はいるか」といった店員のちょっとした言葉が全く耳に入りません。1ヶ月経った今でも、文脈やジェスチャーをもとになんとか反応しているのが正直なところです。自身の英語耳の鍛錬不足を心の中で嘆く毎日です。

他にも自身に絶望したシーンがあります。ルームメイトとの会話です。ルームメイトはブラジルからのvisiting studentで、1年半英語とcomputer engineeringを学ぶようです。お互い英語に苦労しながらも高め合っている日々ですが、ある日彼が「将来何をしたいか」という問を投げてきました。日本でも同様なことは考えてきたつもりですが、言葉に出すことができません。喉に手を突っ込まれたように、文字通り言葉に詰まったのです。崖の上から突き落とされた感覚でした。自身はこれまで大学で何を学び、何を考えてきたのか。英語ができないという理由のみならず、ただ単に何も考えてなかったということ、すなわちこれまで私は将来について考えてきた「つもり」でしかなかったということではないか。その日以来、「将来何をしたいか」というシンプルかつ深淵な問いに、日本に戻る時どう答えることができるのかが、留学におけるテーマの1つとなりました。

これ以外にも語学面で苦労している場面は数えきれず、自身の脳が腐敗していることを信じてやみません。しかしこれに関しては日々の小さな努力を積み重ねること、勇気を持って英語を使い続けることの他ないと感じています。英語力の拙さを嘆くこと・言い訳にすることは、このレポートのこの部分をもって最後とします。

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Japan Houseにて行われた、千葉清藍氏による書道イベントの様子。

 

■履修について

イリノイでの私の学習テーマは「途上国開発で農業の果たす役割について、理解を深めること」です。農業は途上国経済において、食料生産のみならず雇用の場としても重要な役割を果たし、経済を支えています。農業が経済発展にどのような経路で貢献するか、なぜ農業開発の進んでいない国が存在するのかなど、研究課題は山積しています。そうした観点から学習を進めます。より具体的なステップとしては、日本に帰った後に書く卒業論文を書くために必要な基礎知識、統計的手法を学び復習し、卒業論文のリサーチクエスチョンを明確にすることを、今回の留学の最終到達点として設定します。

 

以下は今学期の履修科目についてご紹介します。

 

ECON450:Development Economics

アフリカに焦点を当てた、エイズ・貧困・農業開発・紛争といった開発問題についての講義です。大量のリーディング課題、教授と学生のディスカッション重視の授業と、いかにもアメリカっぽい授業です。教授が研究している分野が私の関心と近く、またそれについての講義も後半なされることから、今後の展開が非常に楽しみな授業です。

 

ACE251:World Food Economy

その授業名の通り、世界の食料事情について学んでいます。日本でも同様なことを学んでおり、この講義に最初はあまり期待をしていませんでした。しかし、基本的な定義を忘れていたり、統計データに触れる機会がこれまで少なかったりと、農業経済を学ぶ者にとって最低限必要な知識を押さえる上で非常に有意義な授業へと変貌しました。頻繁に行われる抜き打ちテスト、食料安全保障についてのグループワーク、Extra Credit獲得のための宿題など、隙がありません。現地の学生は面白くなさそうに授業に臨んでいるようですが、基礎をもう一度確認したい・英語を修得したい私にとっては一石二鳥の講義です。

 

ACE255:Economics of U.S. Rural Poverty and Development

アメリカの貧困問題、地方の開発問題について学ぶ授業です。農業経済・開発経済を学ぶと「貧困」というワードが頻出します。その貧困について理解を深めようと、この授業の履修を決めました。モデルを用いた分析というよりは、事例研究の色が強いです。アメリカの地方は農業が主産業ですが、その農業が国際競争力を失っているという話は、私にとっては意外でした。こちらも毎回のリーディング、授業への積極的な参加、学期中4回の試験とレポートの提出、さらにはディベートなど盛りだくさんであり、この授業がある火曜日と木曜日は気が重いです。

 

ESL115:Principle of Academic Writing

英語のライティングについて体系的に学んだことがなかったので履修しました。英語の文章構造は非常にクリアであり、作法を学ぶことは英語を読む上でも役に立っています。つまらなそうに受けている学生もちらほら見受けられますが、要は態度の問題なのだと思います。ここからどのような学びを得ることができるか。英語習得も含め、考え方次第ではどんなにつまらない講義も有意義なものになるものと信じています(この授業がつまらないという意味ではありませんので、あしからず)。

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少しぼやけていますが、右がいつも通っている農学部図書館。左に見えるのが時計塔。

 

■今後に向けて

1ヶ月イリノイの地で過ごして生活に慣れてきた時期です。しかし冒頭にも書いたように、この1ヶ月を最大限有効に使い自身の糧とすることができたか、と言われると、まだまだのようです。ご覧の通り履修している授業の数は全く多くありませんが、授業の内容はもちろん、それ以外についても図書館に籠り文献に立ち向かう毎日です。しかし情けないかな、怠惰な性格が顔をのぞかせることもあることも事実です。こうした気分転換とは言えない日をいかに減らしていくかが今後の課題でしょう。

 

…何やら悲壮感が漂う締めとなりましたが、「あれやってます、これやってます」と取り繕うよりは、留学の日々で何を思っているかを素直に綴る方が、私にとっても、このレポートを参考にしてくれる(かもしれない)方にとっても有意義と考えます。あと7ヶ月、この贅沢な機会を日々噛み締めながら、ここイリノイの地で過ごして参ります