田中豪さん2011年最終レポート

JICの皆様、こんにちは。いかがお過ごしでしょうか。田中豪です。日本に戻ってきてから4カ月以上が経ちました。一年間の留学生活を振り返りながら、最後のレポートをお届けいたします。

これまでの3回のレポートでは、授業や旅行などについて詳しく書いてきましたが、今回のレポートでは、趣向を変えて、1年間のイリノイでの経験を踏まえて、留学前に聞いた2つの噂とも仮説とも言えるような言説を検証しながら、留学の総括としたいと思います。

仮説1:アメリカの大学生は、日本の大学生よりもよく勉強する。留学すれば勉強できる。

渡米直前、僕は期待に胸を 大きくふくらませていました。というのも、様々な人から、「アメリカの学生はよく勉強する」という話をよく耳にし、留学経験者が口をそろえて、「留学中は よく勉強した」と話していたからです。そんなわけで、アメリカの学生はみんな勉強が大好きで、僕もそんな環境で毎日刺激を受けることができるのだ、と勝手 に思いこんでいました。しかし、結論から言えば、たしかにアメリカの大学生の方が、日本の学生よりも机に座っている時間が長いとは思いますが(日々の課題 の絶対量が多いため)、アメリカのすべての生徒が「学問」に対する高い意識と尊敬を持っているとは限らないですし、留学したからといって勉強できるもので もありませんでした。

日本の学生は、卒業に重きを置いているので、基準が「単位を取るか、落とすか」であるのに対し、アメリカの学生にとっては、成績が重要なので、基準が「Aか、それ以下か」です。つまり、アメリカの学生は、日本の学生より成績上のハードルを高く設定しているだけで、評価のために勉強しているという点で、日本の学生もアメリカの学生と本質的には何も変わらないと思います。前回のレポートでも触れたように、PS310というクラスでは、学生が徒党を組んで教授に抗議し、コミットメントが少なくてすむように、ペーパーから期末テストに変更されました。すべてのアメリカの学生が、知へのあくなき探求心を持っているわけではありません。

また、たしかに、日常的に課題があり、毎週のリーディングアサインメントの負担も軽くありません。それでも、宿題をこなさないと教授に怒られるわけでもないですし、テスト直前に風邪を引いたといってヘルスセンターか病院に駆け込めば、簡単にMake up examの場が用意されます。日本にいたときと同じように、勉強も簡単にさぼることができます。

ですから、アメリカに行っ ただけで学問ができる、というのは幻想であって、その点で、アメリカに行きさえすれば、そこには最高の環境があり、高い意識を持つことなく勉強できるとい う僕の考えは、大きな甘えでありました。結局は、個人がどれだけ自分を追い込んで勉強できるか、によるのだと思います。日本では不真面目だった自分が、留 学すれば大学に通って、日々の課題にも真面目に取り組むようになるだろうと、アメリカ留学という言葉だけに甘えていた自分がいました。勉強するか、しない のか、それは本人の意志の問題で、それ以上でもそれ以下でもなく、留学してもしていなくても同じだと思います。

そんなあたりまえのことに 当初は気付かず、あるいは気付かないふりをしてしまっていたという点で、悔いが残ります。それでも、日本でも、アメリカでも、どんな環境であっても、最後 は自分次第ということを身をもって感じられたのは、僕にとっては大きな収穫でした。これからの人生、環境のせいにするのではなく、どんな場所でも、腐るこ となく精進していこうと思います。

ただ、いくら日本の学生も アメリカの学生も五十歩百歩だと言っても、また、本人の意志の問題だといっても、大学側の学生へのサポート、アクセスには違いがあると思います。アメリカ では、オフィスアワーも制度化されていますし、少人数の授業も多いです。また、(どの程度の実効的な影響力があるかは不明ですが)学生が教授を評価するシ ステムが少なくとも存在し、教授が好き放題に、自分の研究を話すというよりは、学生のニーズにあった授業を心がけ、学生が興味を持ちやすいような課題を目 指している、という学生に対する温かい姿はあると思います。あえて二分論をとれば、日本の大学は、意識の高い学生しか活躍できないけれど、アメリカの大学 は、やる気のない学生にやる気を出させるようなシステムがより制度化されている、ということは言えると思います。

仮説2:留学すれば、英語が上達する

現地で1年間生活するわけですから、当然、英語が上達するだろうと思うわけですが、振り返ってみれば、その場に滞在するだけに甘んじていれば、語学もたいして上達しないという反省があります。

たとえば、授業ですが、日本に比べれば、授業は双方向的かもしれません。それでも、自分が話す時間は、1時間当たり数分。授業が1日に3時間程度であるとすれば、授業では、トータルで1日あたり10分話すかどうかです。課題が忙しいから、睡眠不足が続いたから、と理由をつけ、サークルにも参加せず、友達と出かける誘いも断っていると、スピーキングが上達する機会はほとんどなかったと思います。

ライティングについても、 ペーパーの提出がない授業だけをとれば、長い文章を書かずにすみます。また、たとえペーパーを提出しても、そのペーパーが添削してもらえるかは採点者次第 であって、ライティングの授業でなければ、細かい文法や表現は訂正されずに、内容面だけが評価されることがほとんどだと思います。つまり、間違った表現を 間違ったまま使い続けるわけで、正しい英語を身につけるには、自分で添削をネイティブスピーカーに頼む必要があります。

語彙力についても同様です。現地で漫然と生活しているだけでも、たしかに英会話能力は多少上達するかもしれませんが、New York TimesやThe Economistに出てくるような表現は、机に座って、難しい単語を紙に書いて覚えるような作業をしない限り、身に付かなさそうです。上でも書きましたが、「留学」というかっこいい響きに甘えて、地道な努力を留学中に積み重ねていくことができなかったと思います。

語学についてのこれらの点は、もう留学は終わってしまいましたが、日本でこれからこつこつと頑張っていこうと思います。

自分のこうした反省を踏まえて、もし、僕がもう1回交換留学できるとしたら、心がけることを、次回以降の留学生の参考になれば、と書くことにします。

  1. 学問が好きな学生が集まる授業(General Educationの該当授業はおすすめしない)をなるべく選択する。少人数授業の方がベター。授業やオフィスアワーで教授やTAと積極的にコミュニケーションを取り、できるだけ刺激を受ける。
  2. 個別のLanguage Tutorを学内で見つけて、ペーパーのフィードバックを必ずもらい、書きっぱなしにしない。また、細かい発音のクセや間違った口語表現などを直してもらう。お互いにResponsibilityが発生する、Language Exchangeかお金を払うTutorialの方がより真剣に勉強できるのでいい。
  3. 授業外のアクティビティに積極的に参加する。とくに、定期的にあつまる組織に所属する。趣味のサークルでも、まじめな勉強系のサークルでも、毎週同じ人と顔を合わせて、存在感をアピールできるようになることが重要。

1年間を振り返ってみる と、辛いこともありましたし、それなりには努力できたとは思います。少なくとも、日本にいたときよりは、はるかにまじめに勉強に取り組んだはずです。一方 で、ルーティーンをこなすのに精いっぱいで、自分の努力が、自分の目標に本当に結びついているのか、一番効率的な方法なのか、と振り返る余裕もなく、現状 に満足することなく、よりよい方法を探すような一歩引いた視点が足りなかったと思います。

私事になりますが、5年前後で海外留学する職場に決まりました。今のところは、アメリカの大学院修士課程に留学することを考えています。実際に仕事を始めてみると志望する留学先も変わるかもしれませんが、今回の経験を次回の留学に必ずつなげていこうと思います。

こうして、留学生活を振り 返ってみると、迷える子羊状態であった留学前の自分が信じられません。現在も将来に対する不安はありますが、この留学は、自分に自信をつけてくれました。 最後に頼りになるのも、決断するのも自分。その責任も自分。その他のあらゆることは言い訳にすぎないと分かったのは、この奨学金プログラムのおかげです。 本当にありがとうございます。

そんなJICにいろいろな形で恩返しをしていけるように、今後もお手伝いしていこうと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

2011年10月7日
東京大学 法学部 4年
田中 豪