乾弘哲さんの2012年11月分奨学生レポート

 JICの皆様、お久しぶりです。そして、それ以外にこのレポートを読んでくださっている方、はじめまして。2012年度奨学生の乾 弘哲です。

こちらアーバナ・シャンペーンでは、美しい紅葉の季節も過ぎ、朝夕には氷点下を記録するようになりました。そんな留学生活も早2ヶ月が過ぎたなかで、第1回レポートをお届けします。
渡米後も、過去の先輩方のレポートにはいろいろな意味で助けていただいているので、私のレポートもなるべく詳細に書こうと思います。

I. 渡米と、新生活の始まり
II. 授業の様子(以下は、今期受講しているクラスです)
PS280 Introduction to International Relations
GEOG110 Geography of International Conflict
PS300 Special Topics: Human Rights
CMN101 Public Speaking
III. 寮生活と課外活動
IV. 英語について

I. 渡米と、新生活の始まり

                       Freshmen Convocation(入学式のようなもの)の様子。このあと数名の                            教授による管楽器伴奏で、校歌斉唱、Chancellorによる祝辞などがありました

私は、8月19日に伊丹空港発の成田経由で、20日にシカゴのO’Hare空港に到着しました。20日の夜はシカゴのホテルで一泊し、観光したいなーと思いつつも、長時間のフライトで疲れていたため夕方から夜まで寝ていました。起きてからは、せっかくシカゴに来て何もしないのももったいないと思い、ホテルの近くのパブで名物のスペアリブを食べて記念にしました。
翌日は、朝からAmtrakという長距離列車に乗り込み、2時間余り列車に揺られながら都市から畑へと移り変わっていく風景を眺めて過ごしました。
大学に到着してから数日は街中を散策したり買い物に出かけたりしていたのですが(ちなみにこの散策の途中で電子辞書をなくすという失態をやらかし、今でもときどき後悔しています)、数日後にさまざまなイベントが始まり授業が始まると、毎日毎日息つく間もなく何かしている状態になりました。フロアメイトに呼ばれ、イベントに行って初めてそれが何のイベントだったか知ることもままあり、それらが落ち着いたのはようやく1か月が過ぎた頃だったと思います。日本の大学に入学したとき以上に、こちらでは新入生向けに実に多くのイベントが企画されていて、たぶん私が参加できたのはその2割程度だったと思います。今でも寮の掲示板などには所狭しと催しの紹介がされているので、時間を見つけて行ってみたいと思っています。

                               寮の中。日本にある青少年センターのような感じです

II. 授業の様子
渡米前に決めた私の留学の最低限の目標は、第一に、国際関係について現実の実例を通してより深い理解を得ること、第二に、英語で自分の考えを発信できるようにすること、でした。その目標に合わせて、今期は国際関係のクラスを3つ、スピーチのクラスを1つ履修しています。以下、履修を決めた順にお話しします。

・PS 280 Introduction to International Relations (Prof. P. Diehl)
Paul Diehlという、国連平和維持活動などの分野で全米的に有名な教授の授業です。講義が始まる2週間前からシラバスがWebサイトにアップされ、最初の授業向けに90ページの予習課題が示されて戦々恐々としていましたが、いざ講義に出てみると、基礎的な概念をいくつかの例を取り上げながら説明していくという基礎的な授業でした。しかし、基礎的ではあるものの、現在進行形で起こっている豊富な事例を取り上げての説明なので、今の国際政治についてリアルタイムで知見が得られます。また、月・水2回の50分講義に加えて、金曜日にはTAによる50分のdiscussionが設けられていて、そちらではin-class writing(後述)が課されたり、group discussionがあったりと学生側の参加が求められます。まだアメリカ人が早口で話す英語は聴きとれないことが多いため、なんとか存在感を保とうとユニークな観点からの発言ができるように努力しているところです。

・GEOG 110 Geography of International Conflict (Prof. C. Flint)
Geographyの学部が提供している、地政学の入門講座です。日本で地政学を学んだことがなかったこと、日本では「conflict」に特化した授業を受けたことがなかったこと、また、 Rate my Professorという学生による授業の評判が書かれたサイトで、「簡単なクラスだが、得られるものが多い」といった記載があったことから履修を決めました。
いざ出席してみると「簡単」という評判通り、授業自体はペースがゆっくりなのですが、教えられる概念が非常に実用的です。課題としては、3週間に一度New York Timesの記事から一つを選び、その期間にクラスで学んだ概念をあてはめて分析するエッセイがあります。授業をわかっていたつもりでも、いざ現実に使おうとすると自分の理解が不明瞭だったことに気づくことがしばしばあり、さらには日々のニュースに敏感になるので効果的な課題だと思います。また、このエッセイは非常に細かな採点基準(10点満点で、0.25点単位の減点基準!)が示されていて、A評価を取ろうとするとかなりの神経を使ってこのrequirementsを満たさねばならず、この点はtoughな印象です。

・PS 300 Human Rights (Mr. Malekafzali, PhD)
今期おそらくもっとも勉強になるとともに、もっとも苦労しそうな授業がこれです。中東政治を専門とする先生が、週2回、人権について1時間半喋り続けます。講義スタイルはどちらかというと日本の大教室での授業に近いかもしれませんが、実は定員24人の少人数クラス、それも時が経つごとに減っていき、今では教室には15人ほどしかいません。先生自身も厳しい人で、最初の授業で言われたことは、
1. 授業開始時間は厳守すること、遅れたのなら出席しないように(「社会に出たら君の雇い主は君を待ってくれない」)、
2. reading assignmentの内容は授業で言及、復習したりしない(「そんなことは君たちが自分でやることで、私の仕事はそれに新しい知識を付け加えることだ」)、
3. make-up exam(試験をやむをえず欠席した場合の代替措置)はいかなる理由があっても認めない(「それが公平性というものだ」)でした。
一方、その厳しさの裏返しで、講義は非常に質の高いものとなっています。最初に人権という概念の歴史的成り立ち、理論的枠組みを話した後は、アルメニアのジェノサイドに始まり、イラン、ニカラグア、ナイジェリアなどでの、先進国の政府や企業が絡んだ人権侵害について実例に沿った話が展開されています。先にお話ししたように、頻繁に質問の時間は与えられるのですが、9割以上、先生が話をするスタイルであるため、一回の授業当たり10ページ近くのノートを取っています。また、ときどき先生からクラス全員にメールが送られてきて、人権関係の動画(主にYouTube)を紹介されます。
授業の後半は戦争犯罪と国際刑事法の成立にあてられる予定で、私の専門分野でもあるため今から楽しみにしています。

CMN101 Public Speaking (Mr. York)
JICの先輩方や、同期の奨学生も受講している授業ですが、担当する先生(この授業はTeaching Assistantが担当している)によって授業の進め方に違いがあるようです。基本的にはいかに大勢の聴衆の前で効果的にスピーチをするかを学ぶ授業なのですが、興味深いのは「効果的なスピーチとは何か」を、教科書を使って体系的に学ばせようとしている点です。授業もその体系に従って行われるので、学期中に行うことになる計5回のスピーチも要素別の細かい採点基準に従って作らなければなりません。例えば、聴衆の理解を促すためのAudience Adaptation(スピーチの内容を、聴衆にとって身近な話題と絡めて話すこと)という概念があり、それを最低3回、スピーチに組み込まなければならないといった具合です。
私のクラスはほとんどが英語ネイティブのアメリカ人、そこに数人留学生が混じっている構成なので、先生、学生とも喋るスピードが完全なナチュラルスピードで、ついていくのがなかなか大変です(他の講義、特に大教室での場合は、先生は多少ゆっくり話すことが多い)。また、事前に準備できるスピーチとはまた別に、私のクラスではImpromptu(即興)スピーチが授業中に課されることがあり、これにも頭を悩ませました。一番落ち込んだのは、9月の半ばにあった、クラスメートとペアを組んだ即興スピーチです。そこでは5分ほどの準備時間を与えられ、一見すると繋がりのない二つの単語をうまく関連させる形でスピーチをするというもので、相手の女の子が序論と結論を、私が本論と具体例を喋ることになりました。テーマについては二人で合意できたものの、準備時間の最後まで彼女が述べようとしている序論と結論が完全に理解できず、そのまま本番を迎えてしまい、序論から本論の流れはうまく行ったものの、本論の言わんとするところと、彼女が述べた結論がずれたスピーチになってしまいました。
この経験から学んだことは、わからないことがあれば「君が言いたいのはこういうことか?」という確認をきちんととって、正確な理解に努めることの大切さです(いまだに実行できていないことも多いですが)。今でも即興スピーチは苦手ですが、なんとか他の部分で補えるよう頑張りたいと思います。

III. 寮生活と、課外活動
私はPARという寮で、IntersectionsというLLC(Living Learning Community:一緒に生活するとともに、特定のテーマに関する理解を深めることを目的としたプログラム)に所属しています。Intersectionsのテーマは、人種、信条、性、国籍など様々なカテゴリーに属する人がいかに共存していくかを学ぶことで、それに即した活動が時々開催されます。
その一つとして、9月半ばにはOhio州CincinnatiにあるNational Underground Railroad Freedom Centerへ旅行に行きました。この施設は、かつて黒人奴隷を北部の自由州(奴隷制が禁止された州)へ逃がすために作られた地下通路(Underground Railroad)から名前をとり、過去から現代までの「奴隷」についてさまざまな展示をしているところでした。この博物館の屋上からすぐ近くに川が見えます。この川が、奴隷であったKentucky州との州境で、この川を渡ってOhioまで逃げようとした奴隷が多数いたといった話をガイドさんから聞き、多民族国家アメリカの辿ってきた足跡を垣間見れた気がします。この旅行で受けた印象はなかなか強烈で、特に「現代の奴隷制度」と位置づけられた人身売買などの展示にも思うところがたくさんあったのですが、それに関してはもう少し考えがまとまってから、改めて書きたいと思います。

                       Cincinnatiでの夜。町中で見つけた広場でIntersectionsのメンバーと

IV. 英語
今までの文章からうかがえるかもしれませんが、こちらに来て苦労しているのは、やはり言語です。渡米前には英語に多少の自信があったこともあり、なんとかなるだろうと思っていたのですが、実際になんとかなっている部分もあれば、なんとかなっていない部分もあります。今後の自分の成長を見届けるためにも、この時点で現状を記しておきます。
まず、日々の生活について。私の印象からすると、ほとんど英語がしゃべれなくとも、こちらで生きていくことはできると思います。それこそ「Yes, No, Thank you」さえ知っていれば、あとは適当に単語の羅列をBody Languageで補うことで買い物や簡単な事務手続きなど、生きていくのに最低限必要なことはこなしていくことができます。
一方、講義やdiscussionでは難しめの語彙が使われたり、クラスメートが早口だったりして、彼らが話していることを正確に理解する段階には至っていません。また、課題の中でも、in-class writingには悔しい思いをすることが多いです。PS280のクラスではdiscussionの時間にときどき10分ほどの時間を使ってその場で短いエッセイを書くことが求められます。他の学生は大体ノート1ページ弱のエッセイをすらすら書きあげるのですが、私の場合はまず構成を考え、そのうえで思うように出てこない英語と格闘しながら書きあげるというステップを踏むため、分量としては彼らの半分ほどしか書くことができません。しかし、数をこなすうち、量(より踏み込めば、提示できる論点の多さ)では負けていても、きちんと課題を理解していることを示すようなポイントを押さえた視点を盛り込むことで高得点を取れると気付きました。そうして結局は予習の量とその理解の深さがものを言うのだなと悟ってからは、いかにすれば無駄な部分を省いて凝縮した議論ができるかを考えています。
それ以外に、ネイティブ同士の会話がほとんど聴きとれないなど、英語に関しては課題が多いですが、現在いくつか考えていることも含めて、次回のレポートでご報告させていただくつもりです。

早いもので留学生活もおよそ4分の1が過ぎてしまいました。これまではいろいろな新しいことに慣れようともがき、日々の課題をこなすうちに時間が過ぎていくという受け身の姿勢でしたが、今後の目標としては、積極的に自ら何かを吸収しようと活動する攻めの姿勢に変わりたいと思っています。

最後になりましたが、これほどまでにさまざまな経験をする機会を与えてくださったJICの皆様、また、こちらに来てからの幾つかの私的な相談にも快く応じていただいた方々にこの場を借りて感謝したく思います。ありがとうございます。

                                 夏のSouth Quad。天気のいい日に横になると気持ちいい

2012年11月7日
京都大学法学部4年生
乾 弘哲