吉川慶彦さんの2014年12月分奨学生レポート

39期小山八郎記念奨学生

第2回奨学生レポート(2014年12月)

吉川慶彦

 

JICの皆様、レポートを読んでくださっている皆様、いつもお世話になっております。奨学生のキチカワです。先日、最後の期末ペーパーを提出し、秋学期が終了しました。試験期間中は、無料マッサージが受けられたり、セラピードッグと呼ばれる犬が図書館に現れたりと、キャンパス全体をあげての「お祭り」の雰囲気を体験しました。学期の終了と同時に早速寮を追い出されてしまったので、友人のアパートに居候しながら本レポートを書いています。長かったような、でも思い返すと色々あったような、そんな一学期を今回はご報告させていただきます。

写真1:学期終了後の閑散とした寮

(写真1:学期終了後の閑散とした寮)

 

1.秋学期の授業について

まずは留学のメインとも言うべき授業について。今学期は4つの授業を履修しました。

GRK 101 Elementary Greek 1 (4 hours)

CLCV 221 The Heroic Tradition (3 hours)

PS 371 Classical Political Theory (3 hours)

CMN 101 Public Speaking (3 hours)

 

以下、それぞれの授業について感想や反省をまとめたいと思います。

 

・GRK 101 Elementary Greek 1 (4 hours)

古典ギリシャ語の初級の授業です。最初の方こそ余裕ぶっていたのですが、動詞の活用が手に負えなくなってきてから格段に難易度が上がりました。とはいえ、毎週の小テストや課題をこなしていく内に、身に付いていくように授業が設計されています。また、使用している教科書は『From Alpha to Omega』という厚さ5cmはあろう、持ち運びに大変不便な代物なのですが、この教科書の説明がものすごく丁寧で助かっています。自習者にもオススメできるものだと思います。

ところで、古典ギリシャ語は「書かれたものを読む」ことに重点が置かれているため、他の諸現代語と異なり一学期間履修したところで自己紹介すらできず、なぜ取っているのかと友人に訝しがられることもあります。個人的には単純にパズル感覚で楽しいというのもあるのですが、言語学習に関するある動画の中で「(ラテン語を学ぶことで)言語がどのように成り立っているかを知ることが出来た」という言葉があり、なるほどと思わされました。ギリシャ語とラテン語とを一括りにはできないでしょうが、この説明はなかなかしっくり来ると思います。

来学期も引き続いて履修する予定です。Office Hour(授業外で教授やTAに会うことが出来る時間)が設定されており、誰も使っている様子はないので、来学期はその時間を利用し、授業に加えてギリシャ語作文や散文読解を行おうと計画しています。

 

・CLCV 221 The Heroic Tradition (3 hours)

名前だけなら誰もが知っているような代表的な叙事詩(epic)を、英訳で読み進めていくという授業です。最終的に『ギルガメシュ叙事詩』『イリアス』『オデュッセイア』『アルゴナウティカ』『アエネイス』『変身物語』の6作品を全て読みました。いや、少なくともカリキュラム上は読むことになっていました。

・・・というのも、上記の作品の中から、毎週150ページ程度の課題図書が課されるのですが、文学的な表現(たとえば原文を尊重して詩の形式で訳されていたり、目的語が動詞の前に来たり)が多く、また1行あたり知らない単語が3つはあるという有様だったので、日本語訳やネット上で見られるあらすじを参照しながら読み飛ばした箇所が少なくない、というのが正直なところです。とはいえ、ペーパーや試験を契機に集中的に読むと、(ほんの少しですが)共通する単語や表現等にも慣れてきて、授業で教わった構造やテクニックが見えた瞬間には、自分の成長を如実に実感できる授業でもありました。

この授業はGeneral Education(教養科目、要するに古典学専攻の学生以外が沢山いる)に指定されているからか、Feast(ギリシャにまつわる食べ物を持ち寄ったパーティ)やRecitation(詩の暗誦大会)などのイベントが授業中に行われ、興味をそそる工夫が凝らされていました。

来学期は少し専門からは外れてしまうのですが、文学作品を読むことを続けたいため、「ヨーロッパ・アメリカの文学」を履修しようかと検討しています。

 

・PS 371 Classical Political Theory (3 hours)

この授業は悔いの残る形になりました。履修人数が少なく(7人)、扱っている内容も興味関心のど真ん中だったのですが、ディスカッションベースで進む授業に最後まで対応しきれませんでした。ペーパーも、課されるトピックが難解(?)で満足の行くものが書けなかったように思います(期末ペーパーのトピックは「あなたがアリストテレスになったと仮定して、プラトンの『国家』で述べられている考えを批判する文章を書きなさい」というもの)。

授業で分からなかったところはクラスメイトや教授に後で聞く、授業は録音して復習する、ペーパーの相談をOffice Hourを利用してする等々、解決策は今考えればいくらでもあるのですが、これらを実行に移すことが出来ませんでした。後で詳しく書きますが、こうした自分の弱さをどう克服していくかが来学期の抱負の一つです。

授業内容に関して、聖書の一節も課題図書に設定されること、また古代の政治思想を扱っていながらしばしばアメリカの現代政治に言及することが特に印象に残っています。現代への視点を忘れない姿勢は自分で課題図書を読む際にも意識するようになりました。

 

・CMN 101 Public Speaking (3 hours)

学期の最初に「ひとつくらい英語に関する授業を取るか」と急遽履修を決定した授業です。過去の奨学生の方々や同期も沢山履修しており、皆さんそれぞれの感想ですが、私は得るものは思っていたより少なかったように感じます。朝の8時の授業に間に合うように起きられるようにはなりましたが・・・。

今後の奨学生の参考になるかは分かりませんが、せっかく語学留学ではなく(通常の授業を履修できる)単位取得留学なのだから、無理をして「英語学習のクラス」を履修する必要はないと思います。少なくとも自分の場合は、それよりももう一つ専攻の授業を履修していた方が良かったのかもしれません。

ただ、振り返ってみると、今学期は人前でスピーチや発表を行う機会がこの授業以外にほとんどなかったので、場数を踏むことが出来たというのはよかった点です。原稿を予め準備できるスピーチも内容はほとんど覚えて臨まなければならないし、また授業内の即興スピーチはまだまだ言葉が上手く出てきません。来学期以降、積極的に英語で発表する場を探すことで、後になってこの授業で習った理論やポイントが効いてくると期待しています。

 

以上が今学期の4つの授業になります。Classical Political Theoryのところにも少し書きましたが、授業内容云々以前に、「自分が100%やれることをやった!」と言い切ることが出来ないところに悔いが残ります。留学に来たからといって突然に真面目な学生に変わることは有り得ず、ある意味で日本の生活の延長線上にあるのだと思うのですが、それでも新しい環境は自分を変えるきっかけになります。「理想の自分像」を現実の方へ下方修正していくのではなく、現実を理想に少しでも近付けられるよう、些細なところから見直していきたいと思います。

 

 

2.課外活動について

次に、授業外での活動についていくつか簡単に紹介します。

・English Corner

毎週木曜日、キャンパス内にある教会が主に留学生向けにイベントを開いています。ハロウィンやクリスマスなど時節に合わせたイベントも多く、他の留学生と知り合えることから、9月の後半辺りから参加していました。ここで出来た(主に中国人の)友人とはよくつるんでおり、アパートに誘ってもらっては美味しいご飯をいただいています。

また、木曜日のイベントとは別に、週一回のConversation Tableも同団体主催で設けられているのですが、こちらではアメリカ人学生から活きた英語が学べるので欠かさず参加していました。一人で宿題などをしていると「あれ今日あんまり英語話していないな」と思うことが結構あるので、会話の機会を少しでも多く持つという意味で貴重な時間だと思います。

 

・Fall Getaway

10月中旬頃、Bridge International主催の「Fall Getaway」というキャンプに参加しました。これまた教会を母体とした団体で、週末を利用してキャンパスから車で1時間ほどのキャンプ場に泊まり、聖書の勉強会などを行いました。勉強会といっても堅苦しいものではなく、映画を見てそれについて話し合ったり、想像以上にポップにアレンジされた賛美歌を歌ったりと、キリスト教徒でない自分でも楽しみながら参加することができました。なかでも飛び抜けて印象に残っているのは、最終日のキャンプファイヤーの際に行われた、「自らに起こった奇跡体験」をシェアするという時間です。ブラジルの留学生が話した、友達が出来ず寂しい思いをしていたときに祈ると、ちょうど部屋のドアがノックされ、この「Fall Getaway」の誘いが来たという話が衝撃的でした。宗教に馴染みが薄い日本では、と言うと語弊があるかもしれませんが、少なくとも日本で身近に宗教として感じていたものとは違った形で、宗教がいかに生活のバックボーンになっているのかを垣間見ることが出来ました。

また、このキャンプでは人生で最も多くの星を見ることが出来ました。アルバイトを抱えたまま参加しWifiや電話がなかなか通じずほんとうに苦労したのですが、それほどのど田舎、澄んだ空気と邪魔するものが何もない頭上に言葉を失うほど綺麗な星空が輝いていました。

 

・Thanksgiving Break

Thanksgiving(感謝祭)休暇として11月下旬の1週間が休みになり、寮を追い出される留学生の間では、こうした休みに何をするかが一つの話題になります。私はコロラド州デンバーとカリフォルニア州ロサンゼルス、フレズノ、サンフランシスコ、そしてシカゴに友人を訪ねて旅行に行きました。ロサンゼルスでは、日本に留学していたことのある友人カップルの家(ビーチから徒歩10分)に泊めてもらい、サンクスギビング当日はその友人のさらに友人の家で感謝祭のパーティに呼んでもらいました。メキシコ人大家族の温かい歓迎を受け、とても楽しい一日を過ごしました。

ところで、この1週間で合計6カ所の場所に泊めてもらったのですが、せっかく招いてもらっているのにずっと黙っている訳にもいかず、おのずとアメリカ式ホームパーティを「生き延びる」とも言うべき、特殊能力が鍛えられた気がします。家族の集まりか友人同士の集まりかで微妙な違いはありますが、ホームパーティの基本的な構造は同じで、3〜7人程度のグループで、最近あった出来事などを語るエピソード形式で進んでいきます。ここで大事なのはエピソードに必ず「オチ」を入れることと、一人が話し終わったあとに不自然な沈黙が訪れないように次の人がすかさず話し始めることです。なお、ここでいう「オチ」は必ずしも面白い必要はないようで、むしろ「ここで笑ってください」という明確さが求められます。それがないと次の人にバトンタッチ出来ずに地獄をみます。

なかなか即興でエピソードを語るのは難しいのですが、自分も何も喋らないのも変なので(視線を感じます)、前の人が話している間に頭をフル回転させて文章を組み立てます。困ったときには、「アメリカに来て感じた違和感」を面白おかしく話したり、「日本では〜」という話をしたり出来るので、そういった留学生特権はフルに用いました。ここに知性やマナーなどを加えると立派に将来にわたって使えるスキルになると思うので、今後もこうした脳の筋肉は意識的に鍛えたいと思います。

s_写真2:感謝祭のパーティに呼んでくださったご家族

(写真2:感謝祭のパーティに呼んでくださったご家族)

 

3.秋学期を終えてみて

この4ヶ月間で私は、自分が思っていた以上に消耗した、と思います。

日々の一つ一つの出来事を取ってみれば楽しいことが多く、また、あからさまな人種差別に曝されたり、強烈な挫折を経験したり、という訳でもないのですが、1学期を終えてみて「ああ気を張っていたなあ」と。

 

・アメリカが疲れる

言葉や文化の違いという当然のことに相まって、「銃社会」を象徴とするアメリカ社会の暴力的な側面に対して自分が身構えていることに気付きました。深夜に一人で出歩くことは現地の学生でも控えており、実際にキャンパス内で事件が起きたことがメールで流れてくる度に、フィジカルに脅威を感じています。

上にちらっと「人種差別」と書きましたが、多人種が共生するアメリカにおいてこれは完全には解決されていないように思います。「I’m not racist but…」と前置きして割とドギツいことを言ったり(このフレーズは非常に頻繁に耳にし、それだけアメリカ人は敏感になっているということでしょうが、そのことが反対に問題の根深さを表している気がします)、raceやethnicごとにグループで分かれていたり(学生団体など)と日々の生活を通じてそのことを実感します。

写真3:シカゴ観光

(写真3:シカゴ観光)

 

・自分に疲れる

まだほんの4ヶ月しか滞在しておらず、しかも「アメリカ社会」のごくごく一部の地域、一部の側面しか見ていないにも関わらず、そしてとりわけ「人種」等は日本でずっと暮らしてきた自分にとって文章にしづらいトピックであるにも関わらず、なぜ上のことを書いた(書いてしまった)のだろう、と自問しました。

一つには、人生で初めて外国に一定期間滞在することで自分に生じた変化を、モヤモヤとした形ではなく、何か文章にして残したいという動機があります。しかしそれ以上に、より本質的には、何か言い訳を探しているというところに理由があると感じました。日本でのバックグラウンド、ネットワーク、言語能力等々を使えない状態で、初めて「自分自身」で勝負しなければならなくなりました。一時期は、自分のやりたいことは何か、自分には何ができるのか、自分はなぜ留学をしているのか、友達ってなんだっけ等々のウダウダとした考えから抜け出せず途方にくれてしまったこともありました。(ちょうどその時期がボストンキャリアフォーラムの時期と重なり大変でした・・・というのはまた別の言い訳です。)

自分の至らなさを環境の所為にして打ちのめされて「ぬくぬくとした環境」に安住するのか、それともその機会を最大限に利用して踏ん張るのか。前回のレポートで「留学生活はすべてが自分次第」と書いたような気がしますが、これがまさに一番大きな点での「自分次第」です。また、そんなマゾヒスティックな環境への向かい合い方だけではなく、その良いところを最大限に利用するという正攻法だってある訳です。

残り1学期。秋学期とは比べ物にならない早さで過ぎていくでしょうから、漫然と過ごすことは避け、まだまだ変化を厭わず、動いてみたいと思います。

 

第39期小山八郎記念奨学制度奨学生

吉川慶彦