内倉悠さんの2016年9月分奨学生レポート

JICの皆様、ご無沙汰しております。41期奨学生の内倉悠です。9月も終盤にさしかかり、夏の終わりと共に少し肌寒い秋の始まりを感じております。新学期が始まって約一ヶ月が経ち、こちらの生活にもようやく慣れて参りました。今回のレポートでは

・履修中の授業

・課外活動

の2点について書かせていただこうと思います。

 

履修中の授業

ART105 Visual Design for Non-Majors (3credit)

日常生活の中に溢れているデザインを発見し、考察するという内容の授業です。20人ほどの少人数クラスで毎週、デザインのボキャブラリーとして”Line”や”Space”などのお題が与えられ、それに関連した写真と考察を持ち寄ってdiscussionするという、100番台の割りにはかなりハードな授業だと感じております。好きなデザインを発見することは容易なのですが、なぜそれが美しいのか、という理由を語ることは容易いことではない、ましてやそれを英語でなんて、と打ちのめされそうですが、毎週少しずつ言葉が出てくるようになっているのを励みに、引き続き精進しようと思います。

 

ART153 Digital Photography Seminar (2credit)

毎週アーバナ郊外にある動物保護センターに行き、ホームページ掲載用に保護されている動物のプロフィール写真を撮影するという授業です。7人だけの超少人数クラスで、教授との距離が非常に近くアメリカの教育の質の高さを感じております。この授業では、デジタルカメラの基本的な操作方法からLighting、学期終盤には撮影後のPhoto Editingまで教わることができ、息抜きとして非常に楽しい授業です。ただ、教授からかならず撮影した写真の意図を問われ、その意図にあった技術の正しい運用が求められます。カメラはあくまでも”Tool”であり、撮影者自身がどのような意図を持って撮影するのかという部分が最も大切にされるべきところである、というのを痛感しております。

 

ARCH471 Twentieth-Century Architecture (3credit)

20世紀の建築を軸に、世界の建築がどのような潮流・コンテクストの中で発展していったかを考察する授業です。今学期の履修科目の中で唯一のレクチャー形式の授業で、毎回120枚ほどのスライドをバックに80分間しゃべり続ける教授に圧倒されながら、何とかしがみ付いていこうと必死です。単に時系列順に歴史をたどるのではなく、たとえば曲線やガラスのデザインがどう発達し、当時の社会状況の中でどのような意味を持ったか、といったようなデザインやマテリアルを軸にした建築思想史の解釈を試みる授業で、非常に魅力的な内容です。社会背景を考慮すると同時に形態デザインにも重きを置く、こちらの建築学部の理念が垣間見られる授業だと思います。

 

ARCH373 Arch Design and the Landscape (5credit)

この留学生活で核となる授業で、Semesterにつき2個の設計課題が課され、実在する敷地に架空の建築を設計するというものです。生徒数は全体で約100名、7つのセクションに分かれて各セクション16人ほどの規模で教授とcritiqueを重ねながら設計します。なによりもまず、トウモロコシ畑に囲まれた大学に、世界中から実に多様な国籍の人が集まって来ていることに驚かされました。Exchange Studentは僕だけでしたが、Transferで編入してきた人が数人おり、さらにinternationalということもあって、来る前に抱えていた「馴染めないのではないか」という不安はスタジオ初日に吹き飛びました。スタジオは非常にオープンな雰囲気で、教授ともソファに座りながらおしゃべりをするくらい距離が近いです。課題提出前にはみな泊り込みで作業をするため、他の学生と仲良くなる機会も多く、さまざまな国の人と繋がることができ非常に有意義な時間を過ごしています。こちらでは、批評は先生だけでなく生徒全員で行い、相手が誰であろうとお構いなしに良いと思うところは褒め、不明瞭なところは徹底的に問いただします。変な遠慮なしに互いに意見を交し合う姿勢が、オープンな雰囲気を作り出している所以なのだと思います。

先日一つ目の課題が終了し、こちらに来て初のreviewを経験しました。幸運なことに上位6選に選んでいただき、生徒・教授含め総勢約120名ほどの前でプレゼンテーションをする機会をいただきました。いきなりの英語でのプレゼンテーションで緊張しましたが、自分が何をしたかったのかということだけはなんとしても伝えてやろうと思い、なぜか開き直って挑みました。結果、持ち時間内での発表はなんとか切り抜けられたのですが、質疑応答でクライアント・教授陣にタコ殴りにされるという苦い経験をしました。単語の持つほんの少しのニュアンスの違いで大きな誤解を招きうる、デザインプロセスにおける言語コミュニケーションの難しさを痛感しました。しかし一方で、一枚のスケッチ、一枚のCG画像の持つ影響力の大きさを感じられた瞬間でもありました。

こちらではデザインのプロセスに重きを置くと共に、プレゼンテーションを含めデザインのアウトプットも同じくらい重要視します。教授にかけられた言葉で一番印象に残っているのは、「言葉よりも強力なCGを描け。」というものです。その言葉通り、他の発表者を見てもプレゼンテーションボードにはほとんど文字が見られず、とにかく視覚に直接訴えるようなものが多かったです。そしてなによりみなプレゼンテーションのスキルが高く、やはり話術では圧倒されました。今できることは、ただひたすら他の人のプレゼンテーションを聞き、どのような言い回し、表現、ジェスチャを利用しているのか盗み取ることだけだと感じております。一回目からかなり収穫のある内容でした。

東京大学での設計スタジオには日本人しかおらず、図らずとも少々煮詰まった雰囲気になってしまうことがありました。(相当仲がよいということでもあるのですが。)しかしながら、実際に社会に出て建築の仕事をする上では、さまざまなbackgroundを持った人々と協働することがほとんどで、ここにいるとその縮図のような、適度な緊張感を保ちながらも互いに相手を尊重し、切磋琢磨し合える環境を体感できるように思います。

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写真 1 プレゼンテーションの様子

 

 

課外活動

Lecture : Musturo Sasaki

2016年9月16日、イリノイ大学建築学部にて建築構造家の佐々木睦朗氏による特別レクチャーがありました。(参照ホームページ: http://www.arch.illinois.edu/node/516)

佐々木睦朗氏は建築構造家として伊東豊雄さんやSANAAなどの著名建築家の作品を数多く手がけられ、世界的に著名な自由曲面構造研究の権威でもあります。

佐々木教授が伊東豊雄さんと手がけられた作品の一つに大田区休養村とうぶという大田区の所有する宿泊施設があります。僕は10歳の時に偶然修学旅行でこの建物を訪れたのですが、この建物がきっかけとなり建築家を志すようになりました。僕自身もまさか日本から遠く離れたイリノイの地で、自分の人生の転機となった方にお会いできるとは夢にも思っていませんでした。

レクチャーに先立って、日本館で佐々木教授をおもてなしする特別なtea ceremonyがあったのですが、日本館の館長であるジェニファーさんのご好意で僕も参加させていただき、佐々木教授と直にお話する機会をいただきました。英語で”serendipitous encounter”と表現するように、この奇跡のような素敵な出会いは、留学生活の忘れられない経験となりました。

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写真2 Japan House Tea Ceremonyにて、佐々木教授を囲んで(最前列右から二番目が佐々木睦朗氏)

 

Part-time

上記の佐々木教授のレクチャーに関連して行われた佐々木教授のインタビューを翻訳し、和英のスクリプトを作成した後にインタビュー動画を編集し作成するというものです。tea ceremonyの時に偶然お会いした建築学部の教授が日英対訳のアシスタントとしてジェニファーさんを通してオファーして下さいました。教授のそばで経験を積めるだけでなく、自分の尊敬する方のインタビューを翻訳し見聞を深めることができ、その上おこづかいもいただけるなんて、本当に幸運に恵まれ夢を見ているかのような思いです。来月より本格的に始まるので、与えていただいたチャンスを充分に生かし勉学と両立できるよう励んで参りたいと思います。

 

Competition

設計スタジオをとる傍ら、現地の4年次に在籍する日本人学生とともに一般応募の設計コンペに応募しています。締め切りが10月30日と迫ってきており、mid-termと重なるためハードワークが予想されますが、実際の設計業務でもマルチタスクをこなすことが求められるため、よい練習だと考えております。もちろん学問優先ではありますが、決して妥協のないよう貫き通したいと思います。

(Japan Houseで行われたMatsuriに関する記事は奨学生定期レポートにも書かせていただいたので、ここでは割愛させていただきたいと思います。)

 

 

上記、現状報告に関して長々と書かせていただきましたが、書いていく中で自身のこれまでの留学生活を見つめ直すと、いかに幸運に恵まれ、周囲の方々に助けられてきたかということを痛感しております。留学前から現在にかけて、多くの方々にお会いし、お話を聞く機会を頂きました。勉学もそうですが、それ以上に多くの人から様々な影響を受け、自身を省み、これからの進路を考えさせられる毎日が続いております。それは決して著名な方や教授といった方々だけでなく、イリノイに来て出会った友人を含め全ての人です。

日本にいるときには、ある種自分の“居場所”のようなものがあり、アイデンティティが確立されていたため、ここまで他人から影響を受けることはなかったように思います。日本を離れ、自身の居場所を捨て、ゼロからイリノイの地で自分の在り方を模索する必要に駆られたことで、より敏感なアンテナを周囲に向けることができているように思えます。“Keep moving”という精神を大切にし、常に周囲に敏感であり、自分の在り方を模索し続けたいと思っております。

そして最後に、この場をお借りして、このような貴重な機会を頂いたJIC関係者の皆様に心より感謝申しあげます。

 

2016年9月25日

第41期小山八郎記念奨学生 内倉 悠