内倉悠さんの2017年1月分奨学生レポート

JICの皆様、ご無沙汰しております。41期奨学生の内倉悠です。留学生活も後半に差し掛かり、流れる時間の早さを実感しています。二月に入り冬の寒さも少し和らいだことで、キャンパス近辺を歩く機会も増えてきました。こちらに来た当初は気付かなかったシャンペーンのさりげない日常の風景を目に焼き付けながら、残されたイリノイでの生活を楽しんでおります。今回の奨学生レポートでは①冬期休暇、②今期履修中の授業の二点に関してご報告させていただきたいとおもいます。少々冗長になってしまいましたが、目を通していただけると幸いです。

(写真1)夕暮れ時、真っ赤に染まったシャンペーン

冬季休暇

約一ヶ月の冬季休暇を利用し、中高同期の友人と共に、かねてよりぜひ訪れてみたかったメキシコに行って参りました。首都メキシコシティ、町全体が世界遺産の地方都市グアナファト、そして言わずと知れた中米屈指のリゾート地カンクンの3都市を約2週間かけて周りました。

首都メキシコシティに着くやいなや、予想以上に英語が通じないことに動揺しつつも、Uberで中心部に借りたアパートへ。40分ほどの距離もわずか$5と物価の安さにも動揺が隠しきれません。次の日から早速市街地散策へ繰り出します。メキシコシティは観光地というよりlocalな居住地、商業地という印象が強く、食事も朝は朝市のタコスを、昼は屋台のタコスを、夜はレストランのタコスをとMexiconizeに余念がありません。もはやここまでくると英語を喋る方が恥ずかしくなり、スペイン語風のスペイン語(?)でウェイターをまくし立てるところまでやれば、気分はもうメキシコ人です。

居住区内は家々が所狭しと密集しており、自身のテリトリーを主張するかのように灰色に薄汚れたコンクリート塀が張り巡らされています。無機質なモダン建築が立ち並ぶ中、スペイン植民地時代の影響か色鮮やかに彩られた家も散見されました。

メキシコは建築史的に見ても独特な変遷を遂げた国と言えます。20世紀になりModernismの波が到来すると、それまでのコロニアル様式とモダニズムを融合させたような色鮮やかな独自のモダニズム建築が開花します。それと前後するようにメキシコ革命、またそれに伴ったメキシコ壁画運動が興りました。その結果、モダニズムのinternational styleの中にもメキシコ人としての土着の文化が色濃く見られる建築が生まれたのです。

 世界遺産の街、グアナファトではスペイン植民地時代の影響が色濃く残る町並みを堪能することができます。Luis Barragan(建築家)やDiego Rivera(壁画アーティスト)といったメキシコを代表する芸術家の多くは、この都市を訪れインスパイアを受けたと言われています。かつて銀山の採掘場として栄えたこの都市には、無数の地下道が張り巡らされており、カラフルに彩られた家々と共に、ヒューマンスケールで温かみのある街並みを形成しています。「陸のベニス」といったところでしょうか。もし機会がありましたら、ぜひ訪れていただきたい都市のひとつです。

 その後飛行機にてカンクンへ。メキシコ国内では高速バスが発達しているほか、LCC競合各社による熾烈な価格競争のおかげで、格安航空券を見つけることができます。ユカタン半島の先端に位置するカンクンは、はるか昔にはマヤ文明が繁栄し、ここ数十年で急激に観光地化が進んだリゾート地です。溶岩の基盤の上に形成された砂州が主要ホテルエリアとなっており、現在も多くのホテルが軒を争うように建設されていました。ホテルエリアから少し離れたダウンタウン周辺にアパートを借り滞在していると、観光業がいかにlocalの人々の生活を支え、しかし一方で隅に追いやり影を落としているか身を持って感じることができます。中心地からバスに3時間ほど揺られ、マヤ文明を象徴するチチェンイツァ遺跡を訪れました。ここもテーマパークのような観光地化が進んでおり、遺跡敷地内は観光客で溢れていました。一歩外に出ると、何の変哲もなく地元の人々の生活が営まれているのに。入り口付近で物憂げそうに手作りの木製面を売る若者の何ともいえない目付きが今でも忘れられません。この観光地化は果たして本当に”正しい”のだろうか。

旅の途中、まさかの食中毒にかかり、飛行場では飛行機を乗り過ごし、手荷物検査で全てのお土産を没収されるなど、少々ハプニングに見舞われたものの、なんとか無事生きて帰って参りました。共に二週間を過ごした同期は、中高時代の部活動で共に汗を流していた仲間。現在は日本、アメリカ、カナダとみなバラバラの地で、それぞれの専門科目を探求しています。旅行中、通算4回というかなりの口論を重ねながらも、お互いの現状を確認しあい、今後の目標も共有することができ、非常に有意義な時間となりました。隈研吾さんの言葉をお借りするならば、「他分野を追求する仲間に常にアンテナを張ること」。建築家になる上で重要な敏感さを刺激してくれる良き友たちです。

P.S. 春休みを利用し、メキシコで行われる建築ワークショップに参加する予定です。冬休みに引き続き再度メキシコへ。どうやらご縁があるようです。笑

(写真2)世界遺産の街グアナファト、コロニアル様式の街並みが特徴的

履修中の授業

ARCH374 Arch Design and the City (5 credit)

前期に引き続き、設計スタジオを履修しています。今学期は「都市の中における建築のあり方」がテーマとなっており(都市といってもDowntown Champaignですが。笑)、学期を通してDowntown Champaign内の敷地に、職住近接の建築をデザインするというものです。

設計スタジオの課題は前もって学校側が決めるものですが、東京大学とUIUCではその内容も大きく違っています。これは単に学校の方針の差だけではなく、大学の位置する場所、ひいては国の違いにも起因するものだと感じています。東京大学での設計スタジオでは、建築・空間の持つ意味について深く考えさせられるのに対し、こちらでは緻密なanalysisからニーズを特定し設計するという、よりpracticalな設計方法を教わっています。これは東京大学がアカデミアよりの建築の真理を追究する教育方針をとっている一方で、UIUCでは州立大学としてより実践的な教育方針をとっているゆえの違いなのかもしれません。

今期の課題では、初めの約一ヶ月ほどが敷地周辺のリサーチに費やされます。Scale, Material, Detailなどの建築的な要素はもちろん、周辺の土地利用、交通機関、人口(推移)・性別・年齢、主要産業、歴史的変化など、考えられる全ての変数要素をリサーチします。イメージとしては設計というより、もはやマーケティングに近いです。(笑)しかしこの緻密なリサーチが、後に生まれる自身の設計を論理的に説明し、それを必然たらしめることに繋がるように思えます。

ART310 Design Thinking (3 credit)

なぜデザインが生まれたのか、デザインの存在意義とは何なのかを学び、その上でデザインを自身の専門分野と融合させる方法を考える授業です。初回の授業で、教授に“Design is the tool to organize the information.“と言われ、衝撃を受けたのを覚えています。専門分野柄、これまで幾度となくデザインとアートの本質は何かと考えさせられることがありましたが、これほどまでにシンプルかつ明快にデザインを言い表すことができるとは思いもよりませんでした。

せっかくですので、この表現に対する自分なりの解釈を掲載させていただこうと思います。まずこの文を”Design is the tool”と”the tool to organize the information”の2節に分けて考えます。1節目の”Design is the tool”から、デザインは、ちょうどはさみなどの道具と同じように、何らかの需要に応じる形で生まれるものということが分かります、この点で、能動的な創作活動としてのアートとの違いがよく表されていると思います。次に2節目の”the tool to organize the information”では、肝となるデザインの意図が示されています。世界最古のデザインが人々の生活を記録するための壁画に施されたことを考えると、情報を効率的に伝達することがデザインの本質であるというのにも納得できます。また、デザインがinformationに追従する道具だということから、デザインはinformationの形態によって変化しうるものだとも言えます。つまり、informationが文字なのか、オブジェクトなのか、音なのか、、、それによってデザインのあり方も大きく変わってくるということを暗示しているように思えます。いずれにせよ、一句一句の選び方が絶妙で、何度聞いても鳥肌が立ちます。

BADM395 Foundation of Business (3 credit)

College of Fine and Applied Artsの学生のみを対象に開講されているCollege of Businessの授業で、オムニバス形式で毎週ゲストスピーカーを呼び、自身の持つcreativityをどのようにしてビジネスと結び付けていくかを考える授業です。College of Fine and Applied ArtsとCollege of Businessの協働により昨年度から始まったばかりの新たな試みで、僕がこの留学で目標としていた“interdisciplinaryな学び“をまさに具現化したような授業です。(実際、まだ5回目ですが既にinterdisciplinaryというワードを10回以上は耳にしています。笑)

 ビジネスといっても、marketingからfinance、はたまた3D printingまで、様々な分野を専門とした教授が各々の分野のperspectiveを紹介し、学生のinterdisciplinary thoughtを刺激する授業です。毎授業後、講義のtopicを自身の分野に応用した場合の可能性に関するレポートが課され、毎度のように頭を捻りながら考えさせられることで、非常に良い刺激を受けております。今学期終了までに、今後の建築設計の指針となるような何らかのperspectiveを形成することができたらと思っています。

余談ですが、UIUCにはMakersLabというものが存在し、学生が利用することのできる3D printerが20台も設置されています。この規模のLabは全米の中でも特筆すべき施設で、日本ではまずありえないと思います。面白いのは、この施設、なぜかBIF(Business Instructional Facility)というCollege of Businessの所有する建物内に設置されているところ。3D printerを使って模型を作ろうとする建築学生はわざわざ寒い中BIFまで歩かなくてはなりません。同じスタジオの友人に「なんでBIFにあるの?!」と聞いてみても、誰もその理由が分からないとのこと。。。不思議に思っていたところ、この授業の第2回目でMakersLabの所長さんが登壇され、初めてその理由を知ることができました。

3D printerを革命的発明たらしめる所以は、それによって、全ての物理的なmassを持ったobjectがcodeによって書き換えられる点だとのこと。生産者はcodeさえ書くことができれば、特殊な加工技術など必要なく、あらゆるものをobject化することができます。これは生産効率を上げるだけでなく、prototypeの作成や修正効率をも大幅に引き上げます。また一方で消費者側の視点では、code dataさえ入手することができれば3D printerを使うことで、どこでもobjectを入手することが可能です。これによってモノの移動に関する物理的な障壁は一切取り払われます。これらの結果、今までのモノを扱ってきたビジネスの在り方が大きく変わる、という視点から3D printerはビジネスと密接に関連するものとして捉えられ、ゆえにBIF内にMakersLabが設置されているそうです。

ちょうど、Industrial RevolutionによりBusinessが大きく変化した時と同様に、3D printerを含めた近年のDigital Revolutionによって、今後Businessの様相がさらに大きく変化するのはもう確実とのこと。MakrersLab、非常に価値のあるリソースだと思うので、UIUCを訪れる機会がありましたら、ぜひお立ち寄りください。

(写真3)3D printer越しに未来の話をする教授と生徒

SOC364 Impacts of Globalization (3 credit)

名前の通り、Globalizationの影響とその反響としてのLocalizationを考え、さらにその先にあるAlter-Globalizationを自身の専門分野で定義することを目的とした授業です。トランプ政権が誕生し、イギリスのEU離脱が決まったこのタイミングで、Globalizationをリードしてきたここアメリカの地で、この授業を履修できたことは非常に貴重な経験になると思っています。もっぱら建築だけを専門としてきた人間だったので、Globalizationに関しての知識はニュースで耳にすること以外、全くの無知でした。それゆえ毎週、おそらく日本語で書かれていても分からないであろう英論文の解読に追われていますが、毎週新たなトピックに関する新たな知識が得られ、自分の視野が確実に広がりつつあるのを感じています。

現在、授業と平行して、シリアからドイツ国内に移動してきた難民のためのMarketをデザインするコンペティションに参加していることもあり、Globalizationは自身の中でも非常にhotなテーマとなっています。

イリノイに来てもう既に6ヶ月弱が経とうとしています。課題に追われる傍ら、留学修了後のことについて考える機会も多くなってきました。この経験をどのような形で次に繋げるべきか、幸せだなぁと思いつつ悩んでおります。ここでの生活も残り三ヶ月。やり残すことのないよう、精進して参りたいと思います。

(写真4)雪の後の日本館にて

2017. 2. 7

第41期小山八郎記念奨学生   内倉 悠