2008年度奨学生レポート(椿 晴香)

東京大学理学部地球惑星環境学科4年 椿晴香

JICの皆様、日本も少しずつ秋らしくなったところと存じますが、いかがお過ごしでしょうか。早いもので、私たちが日本を経ってからもうすぐ二ケ月になります。初めの数日こそ家族や友人との別れが寂しくこれからの一年の長さに圧倒されていましたが、その後は毎日のreading課題に追われてあたふたと過ごしてきた二月でした。入寮した日に寮のRA (resident assistant)さんに、授業が始まると家が恋しくなっている場合ではなくなると言われ、その時は信じられませんでしたがその通りでした。後に述べます研究室での分析済み試料が箱の中でだんだん増えていく様子、また周りのトウモロコシ・大豆畑が着いたころにはまだ青々としていたのが今日通りがかった時には刈り取りが始まっていたことを見ると月日の経ったのを感じます。考えてみると留学期間のほぼ五分の一が過ぎてしまったことになりますが、早かった二月の間にもおかげさまで様々な経験をすることができましたので、その一部を報告させていただきたいと思います。

 

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<授業>

 

総会等でも申し上げましたが、一年間の留学期間中には大学で今まで学んできた地学の知識を生かして、地球上に住んでいる生物や表面を覆う土壌と地球そのものとの化学的な相互作用(生物地球化学)について学び、地球環境への理解を深めることが目標です。その分野が進んでいるアメリカ、特に農業が盛んなイリノイで土壌の勉強ができて恵まれているとこちらに来て改めて思います。そこで今学期は地学から生物地球化学への移行期間として、農学が専門でない人向けのNRES 201 Introductory Soilsと植物科学が専門でない人向けの環境科学IB 102 Plants, People and EnvironmentGEOL481 Earth System Modeling、その他に専門の地学GEOL 110 Exploring Geology in the FieldwritingESL 114を履修することにしました。研究室の単位を含めると上限の18単位ぴったりとなり、忙しくはなりましたが100200番台を中心にしたこともあり無理なく、また知的に満足のいく時間割になっています。

 

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授業形式としては、初めの二科目は典型的な教養学部の理系科目のようで、講義と実習からなるものです。東京大学での始めの二年間も教養学部所属でしたが、実習と講義が組になっている科目はほぼありませんでした。週一回ずつの授業が多かった中では時間割として難しいのかもしれませんがいイリノイ大学でのこの形式は素晴らしいと思いました。土壌の授業で習ったことをその週のうちに確かめる実験のコマ(laboratory)、環境問題の授業では50分の授業中にも隣の人と話し合う時間が与えられる他により詳しく議論を深め実物を見て考える週2時間のdiscussionのコマは、講義とは別に課題もあり大変ですが楽しみな時間です。理系科目で机上の学習だけでは十分に身につけられないことをこのように、しかも二十~三十人という比較的少人数で経験できると英語が多少分からなくても知識として定着しやすくなるように感じます。これらの実習では主に大学院生がTAとして担当しています。年が近いため、実習課題以外に講義のフォローや次の小テスト範囲の要点を教えてもらえるというのも学部生にとっては勉強しやすい環境だと思います。特に、初めはとても不安だったので恥ずかしながら、留学生でdiscussionのときにあまり英語がわからないことがあるかもしれませんが頑張りますと言いに行きまた授業後に質問に行ったため、覚えてもらえたのかその後は声をかけてもらえたなど、TAの方と親しくなることで実習により参加しやすくなりました。

 

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意図していなかったことでしたが、これらの授業を通してイリノイの地理・自然史に詳しくなることができました。およそ二百万年前にこの辺りは氷河で覆われており、氷河によって昔はあった山や丘が削られて今のような平坦な地形になったこと、同時に肥沃な土壌が運ばれてきたこと、その土壌の上に人々が移住する前はプレーリーと呼ばれる豊かな草原が広がっていたこと、それはまた畑作にも最適だったため開拓し今では一面の畑になったこと、その畑作の中でもトウモロコシと大豆を交互に作付するとよりよく育つこと。私にとってはとても興味深く、一年を過ごすイリノイについてこの段階で知ることができたのは嬉しいことでした。そして、いつも山や海を見ながら育ってきた後にイリノイの単調な地形の中で過ごすことになり、若干物足りなさを感じていたところでしたが、地形の形成史とその利点を知ることでこの地形を好きになることができたようにも思います。

<地学巡検>

 

日本で地質学を学び各地の地質を見てきたところで、アメリカで地質学的に面白いものが見られたらなと思いつつ、自分で計画しないどこにも行けないかと憂慮しておりました。そんな時にDepartment of Geologyの学生・教員対象のAnnual Field Trip(巡検)が行われるのを学科のホームページで知り、交換留学生で所属学科というものがはっきりしていないがとメールで相談したところ、参加してよいと言っていただけ、九月の初めにシカゴの南Thorntonにある採石場とインディアナ州、ミシガン湖畔のIndiana Dunes National Lakeshoreに行くことができました。また、履修科目の一つで10月初めに二泊でミズーリ州のOnondaga CaveElephant Rocksに行きました。

大きな大陸のアメリカで、日本にはない太古の岩石を間近に見られたこと、道中の州立公園の雄大な自然に触れられたことも大きな収穫でしたが、日本とアメリカの地質学の少なくとも学生実習の形式の違いを見られたのも有意義なことでした。日本では火山や断層の調査実習に行こうとすると近くに温泉宿があり、そうでなくても数十キロ以内には人里があります。しかし、こちらではそうでもないらしく、調査中はお風呂なし、テントでキャンプ生活にもなるそうです。充実したキャンプ施設、それほど汗をかかない気候、日本人のようにお米を炊かずにピーナツバター・ジャムのサンドイッチと袋詰めの人参で満足できる食生活がそれを可能にしているようでしたが、随分簡素だと感じました。アメリカの文献を読むだけでは分からない、調査中の様子をうかがう面白い経験でした。

 

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さらに東京大学での専門課程の授業では適宜英語が使われ、専門用語にそれほど苦労しなかったこともあり、ガイドの人や先生方の議論も比較的理解することができ、いっそう充実した時間となりました。留学が決まってからそれまで以上に英語の勉強に努めてきたつもりでしたが、日常生活でのマカロニに始まり実習でのメスシリンダーまでなかなか思うように外来語のカタカナから英語につながらず、そもそも単語を知らず言葉で説明することもできないことが度々あった中、嬉しい経験でした。言葉がわかると質疑応答の時間にも積極的に参加することができ、さらに細かいところまで理解が深まります。当然のことでしたが、今後の勉強の中で語学の大切さを実感した巡検でもありました。

 

その他の体験からも、今後の課題が見えてきました。約二月があっという間だったとはいえ、まだまだ前半戦、これからも今まで以上に勉学に励み、またこちらでしかできない体験をしていきたいと思います。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。