西村崇さんの2007年4月奨学生レポート

006年度奨学生4月レポートの第4弾は西村崇さんです。西村さんは日常の出来事からアメリカという社会について深く考えたり、アメリカの特徴ある場所を訪れたりしています。とても興味深い西村さんのレポートを、どうぞお楽しみください。

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陽春の候、ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。JICの皆様はいかがお過ごしでしょうか。ここアーバナ・シャンペーンでもようやく春が訪れ・・・ と言いたいところですが、3月中旬~下旬に2週間ほど暖かくて天気のいい日々があったのを最後に、どんよりとした雲空と最高気温10度以下の日々が続いて 冬に逆戻りしたような気分です。この帰国までの短い日々の中で、ここの澄み渡った青空を見る機会があまりないのだなと考えるのは少々憂鬱です。しかし、そ の寒空の下では先学期にも増して充実した日々が過ごせているという自信があります。

今回のレポートでは、春学期の日々の生活から、春休みのアメリカ国内旅行についてお話していきたいと思います。

<授業>

今 学期は、SOC226 Political Sociology, SOC367 Globalization Dynamics Debates, SOC 380 Social Research Method, SPCM323 Argumentationの4つのクラスをとっています。今学期は授業以外の活動に時間を使いたいと思い、クラスのレベルを上げる代わりに授業数を減ら して金曜日を完全休日にしました。先学期に勉強に集中して取り組んだ分だけ、同じ時間で処理できる課題の量が以前に比べて大幅にアップした感覚があり、少 ない勉強時間で成績を維持することが出来ています。もっとも勉強以外に費やす時間が大幅に増えているので、相変わらず睡眠不足の日々は続いています が・・・さて、上の授業の中からお気に入りの授業2つについて紹介したいと思います。

・SOC367 Globalization Dynamics Debates

冬 休み中に参加したドミニカ共和国での短期プログラムの影響で、Globalizationという現象が世界各地にどういう影響を与えているのだろうかとい うことに興味を持ち始めていたので、またせっかく留学しているのだからアメリカ人や海外の大学生とひとつのテーマについて討論する機会を持ちたいと思い、 今までほとんど縁の無かった分野の授業をとってみることにしました。そして結果的に、この一年で一番面白い授業に幸運にもめぐり合うことが出来ました。教 官はイラン革命に参加したこともある中東出身の方で、せいぜい20世紀後半ぐらいから、あるいは先進国の視点から語られがちなGlobalization という現象やそれが及ぼした影響を、歴史的な観点からあるいは発展途上国などの視点から批判的に捉えなおしていくという講義をしてくださいます。授業のタ イトルの”Debate”の意味は「研究者・識者間の論争」というもので、残念ながら授業中に学生同士が議論するという機会があるわけではないのですが、 それでもなお、これからの世界を考えていくうえで、あるいは日本国内の問題(例えば、フィリピン人看護士受け入れ問題)を考察していくうえでも貴重な視点 が得られているという心地よさがあります。また、単に講義の内容だけでなく教官が授業中にしばしば発するジョークも冴え渡っていることも、この授業をより 魅力的なものしてくれています。ちなみに一番の私のお気に入りのジョークは、多国籍企業や先進国がどういう場所に投資するかというトピックについて講義し ていた時に、イラク問題に関連させて教官がおっしゃったものです;”You know, people do not want invest their money in unstable places because of the fear of losing money. Or, you should be Dick Cheney”

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・SPCM323 Argumentation

先学期に履修したSPCM101 Public Speakingの授業が、英語のスピーチの練習をするうえでもどのようにスピーチを書いていくかを学ぶ上でも役にたったことから、今学期も何かしら Speech Communicationの授業をとりたいと思いましたそこで自分がどちらかといえば苦手としている議論のやり方などを学べればよいと思い、上記の授業 を履修しました。授業が始まる前は、ディベートなどの口頭での議論を練習していく授業を想定していたのですが、実際に始まってみると、媒体を問わずいかに して有意味な議論をつくりだしていくかということに主眼が置かれ、課題の内容も、新聞への投書作成から巷で論議を呼んでいる話題について紹介するプレゼン テーション、「トールミンモデル」と呼ばれる議論の形式に関する理論を用いて先日アカデミー賞を受賞したドキュメンタリー映画『不都合な真 実』(“Inconvenient Truth”)を批評する課題、ディベートなど多岐にわたり、様々な切り口から議論の深め方について学んでいけてとても楽しいです。人生で初めて出した投 書がシカゴ・トリビューン紙のWebサイトに掲載されたことは、ちょっとした記念になりました(笑)

また、この授業を履修していて印象深 い点は、決して単なるスキルの修得に終始していないことです。文献課題の大半は修辞学などの分野での主要な論文で、”Argumentation”の定 義・適用範囲や過去と現在を比較して議論画タイプ別に社会に対してどのような影響を与えうるのかといったトピックを扱っています。これらの文献課題を読ん でも、上手な議論の進め方が分かったり説得力のある文章を書くためのヒントを得られたりというように直接的な利益があるわけではありません。ただ、このよ うな作業を通していくことで、表面的なスキルを修得するだけでなく良質な議論の受容者、発信者になることを目指していくという授業の方針は、アメリカの大 学での授業はとにかく実践的なものが多いというステレオタイプを持っていた私には少なからず衝撃的なものでした。それと同時に、日本の現状に対しても若干 危機感を覚えるものでした。単純に言ってしまえば、日本の風潮として、実践的なことを学ぶことばかりが奨励されて、理論的なものが軽視されていると個人的 に感じています。しかし、もし理論と実践の両方をこなしてきた者が競争相手となったのなら―そして振り返ってみれば、UIUCで受けた授業の大半は両方こ なすことを求められていましたが―、(大げさに言って)日本人は果たしてこれからも立ち向かうことが出来るのだろうかと疑問に感じています。この点につい ては、できれば最終レポートで考察を深めたいと思います。

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<課外活動>

上の方でも述べましたが、今学期はなるべく授業以外のことにも時間を割こうと思い、時間を見つけては外に出て何らかのプログ ラムに参加したり、寮の友人達と様々なトピックで話をしたりしています。今回のレポートでは、その中からIllinois Leadership Center主催の”Insight”というプログラムについてご紹介したいと思います。

・”Insight”プログラム

イ リノイ大学では、”Illinois Leadership”というなるものを大学の一つの誇りとしていて、学部の授業としてはアメリカでもこの大学独自の授業といわれている ”Introduction to Leadership”という授業もあるなど、Leadership教育を充実させています。その教育の中心にあるのがIllinois Leadership Centerという機関で、学生に対して様々なプログラムやインターンシップの機会などを提供しています。メインプログラムとしては全部で5つあるのです が、その全てが大学の卒業生や民間企業による寄付金で賄われているため、驚くべきことにホテルへの宿泊を含むプログラムですら参加費用は全て無料です。そ のため学生の間での人気も非常に高く、参加者の募集が始まるとすぐにFullになってしまうほどです。このプログラムの存在を知って以来、自分も参加する 機会を伺っていましたが、先日ようやくその願いを実現することができました。

私の参加したプログラム”Insight”は、グループワー クやワークシートへの作業を通じていわゆる自己分析を1泊2日かけて行うものです。JICの奨学生に選出されるまで就職活動をしていた者としては、残念な がらプログラムの内容自体には目新しいものを感じませんでしたが、プログラムの充実度には感心しました。会場までは高速バスをチャーターして、一泊数十ド ルはするだろう中級ホテルを何十室も借り切って宿泊し、食事・軽食なども無料、性格診断なども受けさせてもらえて、最終的には参加者全員がプログラム参加 記念の写真立てをプレゼントされるというように、いったいどれほどのお金と時間が準備と実行に費やされているのだろうと思います。これだけのプログラムな のに参加費用は無料ということに、イリノイ大学の学生はいかにめぐまれた環境で生活を送っているのだろうということを改めて知らされました(もちろん、そ の分学費も高いわけですが…)

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<春休み>

春休みは、一緒に旅行を計画していた相手が直前になって遠出ができなくなってしまったために、残念ながら一人でコロラド州とネ バダ州を旅行していました。いかにもアメリカらしい場所を回りたいという単純な理由から、ロッキー山脈があるデンバーと世界最大の歓楽街のひとつであるラ スベガスにそれぞれ2日間ずつ滞在し、今は寂れてしまった町で金鉱山の歴史を誇らしげに説明する元鉱山労働者がいる一方で、途上国数ヶ国に相当するエネル ギーを消費しているのではないかと思われる街が共存しているという現実を前に、この国の幅広さを体感しました。

ただ、この旅行で一番興味 深かった時間を過ごせたのは、ある日本人女性の方と話した時のことでした。デンバーには、「さくらやスクエア」というデンバーに住む日本人コミュニティに よって運営されている共同施設や小売店が集まっている地域があるのですが、そこにある中古書店兼レンタルビデオ屋を興味本位で訪ねたところアルバイトをし ている中年女性の方とたまたま出会い、しばしお話させていただきました。その方は70年代前半にアメリカ人男性と結婚して渡米して以来、現在に至るまでの ほとんどの時間をアメリカ人で過ごされてきた方で、デンバーには80年代半ばから住んでいるそうです。長期滞在者から見た日本、バブル期に絶頂を迎えたデ ンバーの日本人コミュニティ、それに関連して日本人が起こした不名誉な事件と東洋人への偏見、そして近年の韓国人・中国人コミュニティの進出と日本人コ ミュニティの衰退、デンバーで深刻化する富裕層と貧困層の棲み分け問題・・・淡々な彼女の口調とは逆に、語られる話はどれも生々しくかつ刺激に富むもので した。お話しした時間はたった1時間ぐらいだったと思いますが、この1時間があっただけでも旅行した甲斐があったと感じさせてくれる時間でした。

以 上、春学期の生活とアメリカ国内旅行についてお伝えいたしました。奨学生の先輩方からは、春学期は時間が過ぎていくのが早く感じるとお聞きしていました が、本当にそのように思います。残り1ヶ月、授業だけならば2週間を切りましたが、アメリカを離れる最後の瞬間まで最大限に満喫して留学生活を終えたいと 思います。次回のレポートを書く頃には、既にこの留学を終えて日本に帰国している頃でしょう。次回には、留学の総括についてお送りしたいと思います。

最後になりましたが、私達の留学を支援してくださっているJICの皆様方、東京大学関係者各位、日本にいる家族や友人、そしてここで出会った全ての友人達に、この場を借りて心から感謝いたします。
2007年4月20日

西村崇

東京大学文学部
行動文化学科社会学専修課程4年

<写真>
1、気温が氷点下だった日の深夜にもかかわらず雪と戯れた後、友人達と
2、ロッキー山脈
3、ラスベガス
4、ドミニカプログラムの友人達とバーにて