JICの皆さま、本レポートを読んでくださっている方々、ご無沙汰しています。小山八郎記念奨学制度第39期の勝田梨聖です。
後ろ髪を引かれる思いでシャンペーンを後にし、日本に帰国してから早一か月が経過しましたが、今回は(1)春学期の授業、(2)課外活動・休暇、(3)留学全体を通しての振り返りについてお話ししたいと思います。
(1)春学期の授業
繰り返しになりますが、春学期には以下の授業を受講しました。
GLBL350 Poverty in a Global Context (Prof. Brian Dill)
MACS (/PS)389 International Communications (Prof. Luzhou Li)
PS 282 Governing Globalization (Prof. Konstantinos Kourtikakis)
PS 280 Intro to International Relations (Prof. Ryan Hendrickson)
EPY199 Leadership in Global Engagement (Prof. Jenn Raskauskas)
GLBL350 Poverty in a Global Context (Prof. Brian Dill)
このコースでは貧困や国際開発について学んでいますが、後半部ではとりわけ資源の呪いや食料安全保障、エネルギー貧困を扱いました。受講人数が25人ほどの比較的小さなクラスで、毎授業リーディングを基にディスカッションを繰り広げますが、教授もお手上げの白熱した議論を交わすこともあります。全コースを通して様々な側面から一つの国の貧困状況を考察するproject paperが4回課されましたが、立てていた仮定が立証されなかったときなどは思わず大きな溜息をついて立ち止まるなど、ひどく根気が必要な作業でした。しかし適切かつ詳細にデータを用いて分析して考察に導くスキルが体得でき、その集大成であるfinal paperではその国の貧困プロファイルと生活水準向上のための提案をまとめて、満点を取ることができました。またもう一つの期末課題として、スライド一枚につき20秒×全20枚がルールのPechakucha Presentationがありました。日本でも名が知れたプレゼン方式で、特に非ネイティブ話者にとっては20秒で詳細に、またシンプルに纏めるには随分と策を練る必要がありましたが、それぞれクラスメートがピックアップした国々のPechakuchaプレゼンはどれも観点が多様で非常に興味深かったです。
MACS (/PS)389 International Communications (Prof. Luzhou Li)
この講義では、メディアが国際社会や政治において果たす役割について学びました。毎週金曜日は映画やドキュメンタリーを鑑賞し、翌週それを基にディスカッションを進めます。なかでも面白かったテーマは、ドラマや映画での人種・ジェンダーの描写や、第三世界から情報を発信するAl JazeeraとBBCやCNNとの比較、そして政治権力者によるメディア検閲です。特にジェンダーや検閲については、アジアとりわけ日本人としての意見を求められることも多くありました。期末課題はFinal PaperとGroup Video Projectで、Final Paperは’mobile Health’という携帯電話機能を利用した保健サービスがアフリカのAID/HIDSに与える影響について、Group Video Projectでは各国のメディアへの検閲状況をテーマに作成しました。比較的一方向のレクチャー、平均ベースの成績評価という所謂アジアスタイルの授業のため戸惑っている学生が多くいましたが、個人的には教授へのアクセスが一番良く、授業後の話し合いも楽しめました。
PS 282 Governing Globalization (Prof. Konstantinos Kourtikakis)
このコースでは、国家、国際機関、市民社会、多国籍企業などのアクターの役割に焦点を置いてグローバル化を分析しています。トピックは人権、環境保護、開発、貿易など多岐にわたっていましたが、特に米国・EUなどの大国と途上国グループの利害対立構造のなかでどのような公式・非公式のルールが成り立っているのかという観点で講義が繰り広げられていました。Advanced Writing ClassのためFinal Research Paperの量も今期のクラスの中で最も多かったものの、草稿段階でのフィードバックも細かいため最終目的地までは辿り着きやすかったです。
PS 280 Intro to International Relations (Prof. Ryan Hendrickson)
この講義では、PS282よりも米国を基軸にして安全保障政策や貧困、感染病に対する海外援助、人権保護などのテーマを解説しています。テロ対策や軍事政策、核兵器についても扱っていますが、米国と中国、EUとの政治経済・軍事関係も詳細な数字のデータを用いながら教授が解説します。毎週金曜日は講義内容に関連したトピックのリーディングを基にTAとディスカッションをしますが、ただ著者の主張を理解するだけでなく自分自身はそれに賛成か反対か、またその理由までも明確にしないと議論に参加できなかったので、ある物事の背景知識をまず正しく理解するところから始めなければいけない点に苦労しました。
EPY199 Leadership in Global Engagement (Prof. Jenn Raskauskas)
このコースでは、澳門大学からの交換留学生11人と異文化間コミュニケーションを学んでいます。同じ寮の建物にある教室で、お菓子をつまみながらプレゼンを聴いたりアクティビティをしたりと、とてもリラックスした雰囲気の授業です。4月にはUndergraduate Research Symposiumがあり、私のグループはアメリカとアジアでの礼儀や対人関係に対する異なる観念から生じる挨拶の違いについて発表しました。グループのメンバーは全員同じ寮に住んでいたので、おしゃべりも交えながら晩遅くまで一緒に作業したのは良い思い出です。シンポジアム当日はリサーチ内容について多くの質問を受け、終了する頃には皆ぐったりとしていましたが、このような場で発表できる機会はめったにないので貴重な経験をすることができました。
(2)課外活動・休暇
<春休み>
3月下旬に一週間ほどの春休みがあったので、在籍大学の友達が複数人留学しているシアトルへ旅行に行きました。シアトルは海と湖と森に囲まれた自然豊かな土地で、全米で最も住みやすい都市にも選ばれているそうです。誕生日に友人との数か月ぶりの再会ができ、留学の思い出や苦労話をしながら、(ちょうど合法になったばかりの)お酒片手に美味しい魚介類を堪能しました。ワシントン大学やチョコレート工場見学、市場、スターバックス第一号店など、シアトルには見どころがたくさんあり、わずか数日間でしたが非常に有意義な時間を過ごすことが出来ました。
(写真1. シアトルでは天気にも恵まれました。)
<アジア系イベント>
アジア人の人口が多いからか、イリノイ大学にはアジア系団体が主催するイベントがたくさんあります。例えばインドやネパールで有名なヒンドゥー教の春祭である「ホーリー」というイベントがあり、キャンパスの芝生グラウンドに集まった学生が誰彼構わず ’’Happy Holi!!” と色粉を塗り付けます。おかげで顔や髪の毛は赤、青、ピンク、紫、黄色に見事に染まり、完全に落とすには5回程洗わなければなりませんでした…笑
またアジア系の学生団体の多くが出展するAsia Festival というお祭りもあり、自国の文化を紹介したり、ステージで踊りや音楽を披露したりもしていました。(個人的にはインド舞踏が大好きなため、このフェスティバルや他のイベントでも数回目にすることができ満足です。)
このフェスティバルの日は、日本館もこどもの日のイベントを開催しており、夜にはマレーシアや台湾の団体もそれぞれ屋台を出していたので、(迫っている試験や課題をひとまず寝かせて)友人と声が枯れるほど一日中遊んでいました。
<寮生活>
私は一年間、Living Learning Community(LLC)に属していたので、寮内でのイベントはたくさんあり、同階に住む友人と関わる機会も多かったように思います。春学期はイベントの勢いこそ衰えていきましたが、それでも部屋に帰る途中に出会った友達とラウンジでお喋りしたのは、授業の疲れが吹っ飛ぶように楽しい時間でした。帰国後も特に仲の良かった友人とは連絡を取り合っています。大きなベッドマットをわざわざ部屋からひっぱり出し、ラウンジでオールナイトの映画鑑賞パーティー(withフロア中のポップコーンの匂い)を開催する友人にはさすがに若さを感じましたが、秋学期のオハイオ州・インディアナ州への旅行をはじめ、このLLCで出会った友人と多くの貴重な経験できてよかったと思っています。
フロアメイトの多くはシカゴ周辺に家があるため、期末試験終了後に延泊届を出して残ったのはなんと私とルームメイトだけでした。寮内は普段ではあり得ないほど閑散としていましたが、最後に彼女と一年間の思い出話をしてイリノイ大学での生活に幕を閉じました。学業に非常に熱心に取り組むルームメイトは私の刺激にもなり、くだらない話から少し真面目な話までよく盛り上がったのを思い出します。一年で一番腕を磨いたのは、部屋に出現した虫を二人で退治する連携プレーでしょうか。
(写真2. スタジアムでのCommencement (卒業式)の様子)
<帰国前日のシカゴ観光>
早朝にキャンパスを離れ、友人とシカゴで一日観光することが出来ました。11月下旬に一度シカゴを訪れていましたが、酷寒だったその頃と比較するとはるかに心地よい天気で、子ども達も元気よく公園を駆け回っていました。かの有名なMillennium ParkのBeanや噴水、ユニークな建築スタイルのビル街などを散策したほかに、高さ10cmはあるようなチーズケーキや、名物のDeep Dish Pizzaに舌鼓を打ち、(久しぶりに)食も楽しむことができました。
(写真3. シカゴ大火に端を発したシカゴ派建築)
(3) 留学全体を通しての振り返り
帰国後に再会した友人たちに必ず聞かれるのは、「…で、どうだった?」という質問です。しかしこの九か月間を一言で表す言葉はなかなか思い浮かびません。色々思いめぐらせて話しているうちに、なんだか雰囲気を湿っぽくしてしまうなんてこともあります。というのも、このイリノイ大学への留学は、自分がいかに「井の中の蛙」であったかを思い知った挫折だったからです。
① 自分の立ち位置、力量を知るものさしを手に入れて
留学前は、自分が一回り大きくなって帰ってくると思っていましたが、結果的には「小さく」なってしまいました。例えるならば、ズーム機能で拡大されていた自分が縮小されて小さくなった、といった感じでしょうか。それは、イリノイ大学で同分野や全く異なる学問を勉強する学生に出会い、私よりも明らかにはるか上を進んで行っているのを目の当たりにしたからです。生半可ではなくしっかりと腰を据えて勉学と向き合える教育環境下で、身近なものを次々と成長のチャンスに変えていく友人たちの話を聞いていると、「私も負けていられない」と思うと同時に、このようにして同年代の学生が今後あらゆる分野の最先端でどんどん世界を変えていくのだということを身に染みて感じました。世界での私の立ち位置に気が付いたことは一つの収穫ですが、それだけで終わらず、自分の立ち位置や力量を測るものさしを手にした今は、いかにして私の今後目指すポジションを築きあげていくかが取り組むべき課題です。
②薄れる、快適な環境から飛び出した「私」の存在感
もう一つの挫折として、自分が心地よいと感じる場所から全く新しい環境へ飛び出した時に「私」が消えてしまいそうになったことでした。「こいつは誰だ」と思われるにはまず、相手に興味を持ってもらわないと始まりません。しかし、自分から進んで主張していかないことには「不在」とみなされ、居場所を見出すことはできません。全員が私を全く知らない状況で、英語という言語を使いながら表現していくには勇気も必要で、特に秋学期前半の授業ではそれに苦労しました。全く未知の環境での自己表現は徐々に慣れていきましたが、それでももう少し努力すべきだったというのが本音です。
これら二つが私の直面した「挫折」であり、私の弱さでした。もちろん言語面で苦労したこともありましたが、それ以上にじわじわと苦しめるような壁でした。…と、やはり湿っぽい話を展開してしまいましたが、一つお伝えしたいのはこの人生最大の挫折の経験が、私のみる世界を豊かにしてくれたということです。この挫折なしでは、いつまでたっても狭い世界に生きていることすら気づかずに暮らしていたでしょうし、今の自分に必要なものを知ることもなかったと思います。イリノイ大学で9か月間ひたすら興味のある学問を追求し、「私」について考え悩んだからこそ、帰国した今はまた新たにスタート地点に立つことができました。そしてこれからは学んだことを生かして、目指す先へまた一歩ずつ歩んでまいりたいと思います。
最後になりましたが、イリノイ大学への留学という貴重な機会を与えてくださったJICの皆さまには深く感謝申し上げます。また私を支え、励ましてくれた両親や友人にも感謝の想いでいっぱいです。本当にありがとうございました。
(写真4. 桜も綺麗に咲き、私を送り出してくれました。)