吉川慶彦さんの2015年7月分奨学生レポート

4回奨学生レポート(20156月)

 

JICの皆様、レポートを読んでくださっている皆様、いつも温かいご支援を賜り感謝申し上げます。皆様のおかげで、無事に約1年間にわたる留学生活を終えることができ、日本に帰国することができました。今回は最終レポートということで、春学期の後半について、そして留学生活全体の総括を報告いたします。

 

1.春学期の授業について(後半戦)

春学期の後半は留学生活の終わりが常に意識され、毎日を大事に生きようとしていました。来た当初は娯楽がなく、閉鎖的な空間であると思っていたシャンペーン・アーバナの地も、滞在が残り数ヶ月を切ると途端に愛おしく感じられ、授業後に意味もなく自転車で散策していました。キャンパスから一歩出ると、レンガづくりの道、一戸建ての家々、カラフルな花や木々、と絵本に出てきそうな世界が広がっています。5月になるとようやく暖かくなり、春を一気に飛ばして夏のような日々も続きました。

 

さて、そんな春学期ですが、生活の中心のひとつは授業です。6コース18単位を毎日の予習や課題に追われながらこなしたことはひとつの自信になりました。英語文献を読むスピードは相変わらず遅いのですが、それでも効率よくポイントを掴むようにすると意外と時間に余裕はあります。

期末試験期間も騒がれているほど大変ではなく、むしろその一週間前の授業最終週の方が、レポートの締め切りが重なり慌ただしさのレベルは格段に上でした。今学期は毎週何かしらのペーパーを書いており、この最終週ではそれらのまとめとして期末ペーパー(5〜30ページ)を提出しました(・・・と書くとすごそうに聞こえますが、実際は学期中を通して段階的に書くように設計されている授業が多く、これまたそれほど大変ではありません)。

 

印象深い授業をピックアップして紹介します。

 

・GLBL328 First Person Global (1 hours)

学期の後半のみ、2時間の授業が週に1回という、変わった構成の授業です。履修の要件が「過去に留学経験のあること」であるこの授業では、毎週あるテーマに沿ってその留学経験の一部を切り取った小エッセイを書いていきます。

出されるお題は、「留学先に対する来る前の印象と実際に来たあとの印象の違い」といった直接的なものから、「留学先で出会った印象深い人について」といったピンポイントのものまで多岐にわたっていました。また履修していた学生は10人ほどですが、変わった人が多く(留学した人に面白い人が多い?!)、ノンフィクションライター志望の学生や、休学して中国をずっと放浪していた30歳の学部生、そして日本人(=私)と様々でした。

ネイティヴの学生に比べると私の文章は毎回小学生の日記みたいで、授業中に読み上げてシェアするのは中々苦痛でしたが、先生は他の生徒と比べるというよりは、毎週の私の中の変化を見てくれていたように感じます。余談ですが、アメリカでは一般的に人のことをほめることが多いように感じました。他の生徒も私のエッセイにも何か良いところを毎回見つけてくれ、コメントをしてくれます。留学生は私ともう一人しかいなかったので、毎週アメリカ生活の感想を聞かれ、改めて考えを整理する機会にもなりました。最終回ではみんなで留学先や母国の「お茶」を持ち寄り、自分もインスタントの緑茶を持って行って、グローバルティーパーティーを開きました。純粋に毎週通うことが楽しい授業でした。

この授業の一番の効用として、日々の生活の中でも「エッセイに書けることはないか」という視点を持つようになり、あらゆることに意識的になったことがあります。本レポート冒頭のアーバナの風景に関しても、この視点が養われたからこそ記憶に残っているのだと思います。

 

・CLCV222 The Tragic Spirit (3 hours)

あまり良いことばかりを書いていても仕方がないので、辛かった経験も書いておきます。この授業ではギリシャ悲劇を英訳で読んでいくという授業なのですが、悲劇を説明する手法として「現代アメリカポップカルチャー」のアナロジーが多く、一旦それが始まってしまうとほとんど理解することができませんでした。「現代アメリカポップカルチャー」といっても、ディズニー映画や『Game of Thrones』といった大人気TVドラマのことで、観ていない私の方が悪いと言われればそれまでなのですが、それでも毎回毎回こういったものに基づいて話が行われるのでかなり辟易していました。そして授業内のグループワークも多く、古典学専攻の学生にはこういうポップカルチャーに異様に詳しい人が多く、毎回こっそりとGoogleに頼ってあらすじを調べたり、素直に諦めたりして何とかついていっていました。

レポートが学期中に6回あり、授業で発言等少ない分頑張って書いたのですが、あまり成績も芳しくなく、なんだかなーといった授業でした。もう少し悲劇の読み方を体系的に教わりたかったですが、こればっかりは学期が始まってみないと分からないので、何かしら自分で方策を考えるしかありませんでした。

 

・・・とネガティヴなことも書きましたが、総じて満足度の高い授業が多く、英語面からも知識面からも伸びを感じられました。成績もこの最後の授業以外は満足のいくものでした。

 

 

2.課外活動について(後半戦)

春学期に入りいくつか新しい活動を始めたことは、前回もお伝えした通りなのですが、中でも一番力を入れたのはICDIです。ICDIについての詳しい説明は前回のレポートを参照してください。

 

学期末にはRetreatと称して2日がかりのイベントを行いました。私も運営の一部を担い、ゲスト・ホストの両方の点から楽しみました。ホストとしてはこうしたイベントの運営面でいくつか気付きがありました。イベントでは昼食・夕食をどうするかという問題があったのですが、準備を進める中で「レストランにスポンサーしてもらおう」ということになりました。私はてっきりメールでも送るのかな、と思っていたらそんなことはなく、手分けしてレストランに訪問して声を掛けていくということになりびっくりしました。そして実際に中国人の学生が中華料理屋から30人前のチキンを調達したりするので、更にびっくりしました。これがアメリカならではなのか、キャンパスタウンならではなのかは分かりませんが、なかなか無い発想です。

 

ゲストとして印象深いのは初日の夜に行った企画です。これは、参加者が質問を紙に書き、それを誰が書いたか分からないようにして一つずつ読み上げていく、そして答えられそうな人が答える、という単純な企画なのですが、日本関連の質問が多く、日本人は私しかいなかったので、必然的に色々と答えることになりました。日本の恋愛事情、靴下事情(なぜ?)などはスラスラと適当なことを答えたのですが、「第二次世界大戦についてどう思うか」という質問には詰まりました。どう答えたか明確に覚えていないのですが、加害者意識・被害者意識の両方があって被害者意識の方が強いかもしれない、学校で習うことはあまりなく普段こういった話もしない、というような旨を伝えたように思います。良い意味でも悪い意味でも日本が注目されていること、それに対して日本がプロモーションを十分にできていないのではないか、ということを考えさせられた夜でした。

 

課外活動ではないのですが、留学生活が終わりに近付くにつれて、キャンパスや近くで行われるイベントに沢山顔を出すようにしました。『Into the Woods』や『Legally Blonde』といったミュージカルの学生上演や、Holi Festivalというインド発祥の色のついた粉をかけあうイベントにも遊びに行きました。

しかしこういった楽しいイベントを遥かに上回ったのが、Ebertfestという映画祭です。ここになんと私が先学期にハマりにハマったドラマ『How I Met Your Mother』に出演していたJason Segelが来たのです!このドラマで英語表現を勉強したといっても過言ではないほどじっくり見ていたので(全9シーズン)、何としてでも生でMarshall EriksenもといJasonを見たい!とミーハー心丸出しで、参加方法を探しました。前日にFacebookの友人の投稿で知ったので当然チケットは売り切れ、スタッフをしている友人にも尋ねたのですが、結局当日券を目指して並ぶことに。100人くらいは並んでいたと思うのですが、たまたま横になった蚊の研究をしている博士課程の学生と仲良く1階席に入れることになりました。Jasonが出演している新しい映画も面白く、その後のインタビューも聞けて大満足でした。(他にはキャンパスにラクダや副大統領が来ていました。それも同じ日にです。)

非常に充実した2学期目後半戦でした。

 

3.思ったこと

留学生活の中で思ったことをいくつか書きます。

 

まずは日本について。「日本から来た」というと、誰も「それどこ?」とはならず、むしろ好意的な返答をしてもらえることが多く、これは偏に先人たちの努力による賜物であるなあと思っていたのですが、実際のプレゼンスはかなり下がっているように感じました。東アジアと言えば中国。留学生数も(もちろん人口も多いわけですが)中国語を勉強する学生の数も到底かないません。だからなんだ、日本のプレゼンスを上げようじゃないか、とはあまりならないのですが、頭ではどれだけ分かっていても日本にいてはやはり自己中心的になってしまい、分からない感覚でした。アニメファンでもなく、日本に全く興味のない学生と話すときに、どこまで自分が魅力的になれるかは今後の課題です。

 

そしてアメリカという国について。ここで初めて私のルームメイトを紹介したいと思います。ルームメイトは黒人アメリカ人で、親はスーダンの出身、そしてムスリムということで、かなりマイノリティである意識が強く、それがゆえに日本から来た私に対しても親切に接してくれる優しいヤツでした。滞在中、アメリカでは黒人が不当に暴力を受けたり、(別の大学でですが)ムスリムの学生が殺されたりする事件があり、マイノリティの不満がかなり高まっており、そういう話をよくしました。私の「なぜ最近こういう事件が多いのか」という質問に彼は「こうした事件は最近SNSが発達して拡散が可能になっただけで、昔からずっと起こってきたこと。それが顕在化されて我慢できないレベルに達している」というものでした。「America is NOT the greatest country anymore」という動画(『Newsroom』というドラマのワンシーン)も流行りましたが、確かに内外に沢山問題を抱えており、多人種・多文化の共生というのは難しいのだとヒシヒシと感じました。皆がアメリカがナンバーワンだと思って生きている訳ではなく、複雑な思いを持っている人も多いです。当たり前のことですが。

 

とはいえ、やはりダイバーシティの魅力がアメリカにはあります。色々な人がいて色々な生き方をしていて、畢竟自分の人生は自分の人生だ、ということを実感できた留学でした。中国人のある友人はアメリカでの就職を目標に修士のコースにやってきました。国際関係論を専攻するアメリカ人の友人は日本語に加えポルトガル語を勉強しています。エクアドル人の友人の作るパンは絶品です。私のルームメイトはアラビア語を解し、フロアにいるレバノン人とよく内容の分からない話をしています。そしてルームメイトは朝6時に起き部屋で祈り、レバノン人は同じ時間にジムに行きます。取り止めようもなく書いてしまいましたが、そんな中で自分は生活をし、諦念にも近いような、しかし前向きな実感を得ました。こんな人たちと比べても仕方がない。

日本に帰国して早一ヶ月、すっかり日本人に戻りましたが(いや、向こうでも日本人でしたが)、やはりどこかフィットしないような感覚は残ります。今回はたった一年間、しかもイリノイという一地域での滞在でした。どのような形かは分かりませんが、必ずアメリカという面白く広い国にまた戻りたいと思います。

 

ここまで読んでくださりありがとうございました。この度は、皆様のご支援のお陰で奨学生として留学をさせていただきました。改めて感謝の気持ちを申し上げます。向こうでの体験は出来るだけ誠実にレポートでお伝えしようと心がけたつもりですが、まだまだ咀嚼しきれない部分もあります。今後はこのJapan Illini Clubという素晴らしいコミュニティに返していく形でそれを還元したいと思います。皆様どうもありがとうございました。

 

2015年6月

小山八郎記念奨学制度

39期奨学生 吉川慶彦

吉川慶彦さんの2015年4月分奨学生レポート

3回奨学生レポート(20153月)

 

JICの皆様、レポートを読んでくださっている皆様、いつもご支援くださいましてありがとうございます。39期奨学生の吉川です。一週間の春休みをニューヨークで過ごし、帰路のバスにてこのレポートを書いています。ニューヨーク滞在中はキャンパスでは食べられないような「ちゃんとした」和食を沢山堪能し、そのクオリティと値段の高さにびっくりし続けた一週間でした。

 

さて、春学期も半分以上が過ぎ、留学生活も残すところほんとうにあと少しとなりました。今学期は一言で言うと、かなり順調に進んでいます。以下、そんな春学期の授業とその他の活動について報告させていただきます。

 

1.春学期の授業について

今学期履修している授業は以下の通りです。

GRK 102 Elementary Greek II (4 hours)

CLCV/PHIL 203 Ancient Philosophy (4 hours)

CLCV 222 The Tragic Spirit (3 hours)

CLCV/ARCH 410 Ancient Egyptian and Greek Architecture (3 hours)

GLBL 392 International Diplomacy and Negotiation (3 hours)

GLBL 328 First Person Global (1 hour)

 

先学期は授業のレベルや量を変に抑えてしまったことから、余計にダラダラする時間が増えてしまったのではという反省があったため、今学期は合計18単位、履修上限のギリギリまで授業を取ることにしました。学期の最初には興味のある授業をピックアップし最初の一週間ですべて出席、シラバスと教科書を睨めっこしながら精査しました。以下各授業に関する簡単なコメントです。

 

・GRK 102 Elementary Greek II (4 hours)

先学期の続きとなる古典ギリシャ語の授業です。授業は相変わらず丁寧で、基礎的な文法事項をカバーしていきます。授業中に扱う課題はギリシャ語→英語の訳がメインなので、個人的にその反対、英語→ギリシャ語訳の課題を先生に提出し、さらなる文法・語彙の強化を図っています。先生自身がギリシャ人で、(現代/古典ギリシャ語で差異はあるものの)感覚的なレベルの指摘までもらえることが貴重な機会だと感じます。

また授業とはあまり関係ありませんが、生徒は先学期から引き続いてのメンバーであるため段々仲良くなり、Classics Clubのイベントを主催したり、St. Patrick Dayの日に昼間から遊んだりと、クラス外での交流も増えていることが嬉しいです。

 

・CLCV/PHIL 203 Ancient Philosophy (4 hours)

プラトンやアリストテレスに関する基礎的な知識が抜け落ちていることに危機感を覚えたので、履修を決めました。大教室での講義形式なのですが、頻繁にReaction Paperが課され(1ページくらいの課題図書の理解度を測る短いペーパーのこと)、またオフィスアワーにも行くようにしているため、学びは大きいと思います。

 

・CLCV 222 The Tragic Spirit (3 hours)

ギリシャ悲劇を翻訳で読む授業です。英語で文学作品を読むことを続けたいため履修しました。先学期の叙事詩に比べ悲劇は、一つあたりの分量も少なく圧倒的に読みやすいのですが、その分エッセンスが濃縮されており味わいの深さは叙事詩のそれに勝るとも劣らずです。一学期間に4人の作者を扱い、それぞれについてReaction Paperとグループプロジェクトが課されています(さらに2回のペーパーがあります)。プロジェクトでは実際に自分たちで悲劇を作って演じたり、現代のキャラクターをギリシャ悲劇の文脈に入れてみたりと楽しい課題がありました。

 

・CLCV/ARCH 410 Ancient Egyptian and Greek Architecture (3 hours)

タイトルの通り、古代エジプト・ギリシャの建築の授業です。端的に言って、今学期いちばん楽しい授業です。授業自体は何の変哲もない一方向の講義形式なのですが、教授の建築にかける熱意がすごく、大画面に映し出される数々の美しいモニュメントにこちら側も圧倒されます。建築物・美術品の背景となる歴史や文化を知ることは、少なくとも視点を提供するという点で、その鑑賞に資すると思うのですが、実際にこの目で観てみたいという思いが日に日に強まります(ギリシャ旅行に早く行こうと毎回授業に行くたびに思わされます)。先日もニューヨークのメトロポリタン美術館のエジプト・ギリシャフロアでは濃い時間を過ごすことができました。

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(写真1:ギリシャ風建築のリンカーン記念館@ワシントンD.C.)

 

・GLBL 392 International Diplomacy and Negotiation (3 hours)

国際政治における外交・交渉論の授業です。上記4つの授業は自分の専攻である古典学に関連した授業ですが、この授業はGlobal Studiesという専攻で開講されており、授業も生徒の雰囲気もまた違ったものとなっています。週2回の授業では基礎的な知識の確認、週1回のディスカッションのクラスでは交渉のシミュレーションを主に行い、内容・形式ともにいわゆる「アメリカっぽい」気がする授業です。

最初のディスカッションのクラスで、ある国に向けて発射されたミサイルをアメリカが迎撃するべきか、見送るべきかというシミュレーションがあり、自分のグループでは迎撃と決まったと私は思っていたのに、グループの一人がクラス全体にシェアした際に実は見送りに決まっていたことが判明するという「事件」がありました。要するに既に一学期を過ごしていたにも関わらず、まだ議論の方向性すら分からない程の英語力だったということです・・・。この事件はかなり衝撃的でしたが、なぜか当時の自分は逆に奮発し、履修し続けることを決めました。また一方でこの間は、小グループで交渉戦略の中間発表をまとめる機会があったのですが、誰も積極的に進めないので結局私が全て仕切り、戦略のアウトラインと各メンバーの分担をまとめて、長々とメールで送るという、これまた別の事件もありました。終始自分が仕切っていいのか、このやり方がベストなのか、という不安もありましたが、結果的に特に反発も起きずスムーズに議論をまとめることができ、自意識過剰に余計な心配をすることはないのだな、と学びました。この気持ちの切り替えは、ひとつの大きな転換でした。ディスカッションも積極的に参加していれば、上のような大きな勘違いは(あまり)起こりません。

この授業は盛り沢山で、学期末には個人ワークの集大成として30ページのケーススタディをまとめることになっています。今年で終戦70年ということもあり、私は第二次世界大戦の終結に関する交渉過程を調べています。見よう見まねですが、英語文献を図書館で漁り、段階的にまとめていく過程からもまた学ぶところが大きいです。

 

・GLBL 328 First Person Global (1 hour)

学期後半のみ、週1日の授業で、自身の留学体験に関するノンフィクションを書こうというユニークな授業です。そのことから履修要件は「留学経験があること」となっており、10人ほどの様々な専攻の学生が集まっています。まだ始まったばかりですが、このイリノイ大学での留学経験を文章化したいと思っていたため、すごく楽しみにしています。

 

・・・と以上、全6コース・18単位、古代のことから現代のことまで、大変充実した履修状況になっています。実際に課題はなかなか大変で、特に春休み前の一週間はペーパーや中間考査が重なりコーヒーの摂取量が増えました。それでも、学期の最初に時間と労力をかけて選んだことで全てやりたいことが出来ており、ぐんぐんと成長している実感があるので、ある意味で苦ではありません(いや苦しいかな)。改めて、「留学したら(自動的に)沢山勉強する」は幻想です。先学期ダラダラしてしまった分を取り戻す勢いで、残り数ヶ月を突っ走ります。

 

 

2.課外活動について

主に留学生向けのイベントに顔を出していただけの先学期に物足りなさを感じ、今学期は特定の活動にどっぷり浸かってみようと思い、いくつか新しい団体に入りました。中でも一番力を入れている二つを紹介します。

 

・ICDI

Intercultural Community Development Initiative、通称ICDIは昨年出来た新しい団体で、生徒間の文化的相互理解を促進し、より皆が「所属していると感じられる(inclusive)」ようなキャンパスを創り上げようという理念を掲げています。メンバーはアメリカ人・留学生が半々くらいで、大小のワークショップを運営しています。ホームページはこちら

学期の始め頃に参加したあるイベントで、「リーダーシップ」がテーマだったのも関わらず、予想以上にDiversityやInclusivenessという側面が強調されていたことが新鮮で頭に引っかかり、もっと詳しく知りたいと思っていたところ、ちょうど友達がICDIに所属していたことから、このテーマを追求できると思い参加することにしました。

 

今の自分がICDIに出会えたことは特に二つの点からラッキーで、日々多くを学んでいます。ひとつは実務的な側面から。もともと「日本で日本語で日本人相手に出来ていたことを、今度は文化や言語を超えてできるようになりたい」というのが私の留学の目標の一つでした。ICDIでは毎週2回のミーティングがあり、そこでは常に発言が求められます。また、3月のワークショップではファシリテーターを務めるというちょっとした大役もありました。これらの機会を通して、意見の吸い出し方、議論のまとめ方、不足の事態に臨機応変に対応する力などなど様々なスキルを磨いています。もともと自分はこうしたスキルに長けていると思います。それでも英語となると一つレベルが落ちるのが如実に分かります。幸いコツは掴んできているので、場数を踏んで鍛えるしかありません。

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(写真2:ICDIでの活動風景)

 

そして、もうひとつはもっと抽象的な側面から。上述の通り、Diversityつまり多様性についてもっと深く知りたいというのがICDIに参加した理由でした。そして実際に毎回のワークショップから、それ以上に普段のICDIでの活動そのものから、この多様性というテーマの奥深さ・難しさを実感しています。まだまだ答えは出ていないのですが、オープンクエスチョンでたとえば「多様性はなぜ必要か」ということを考えてみましょう。よく無批判に、多様性が大事、これからの時代はダイバーシティだ!(?)などと言われますが、多様性のあるチームで集まるよりももしかしたら同質的な人が集まったグループの方が成果が出るのではないでしょうか。たとえば「英語にハンデのある留学生を交ぜるより、アメリカ人だけでディスカッションをした方が効率的ではないか」、というのは留学生の自分にはグサッとくるクリティカルな問いです。これについてどう答えられるでしょうか。ICDIは、コンピュータサイエンス専攻の学部生からロースクールの学生まで分野・国籍・学年が多様なメンバーで構成されています。活動内容が活動内容なだけに、この団体では多様性はかなり役に立っており、とりわけアイデア出しの段階では多様なバックグラウンドが必要不可欠です。しかし、議論の段階になるとやはり英語がより上手く話せる人がよく話している印象も拭えず、なかなか安易な一般化もできません。

もしかしたら問いの立て方そのものが違うのかもしれません。「多様性はなぜ必要か」ではなく、「多様性はどうしようとそこにあるものなのだから、それをどう活かすか」を考える方が生産的なのかもしれません。私は日本ではずっと同質的な環境におり、アメリカに来て色々な人種や国籍をもった人が集まる環境に身を置いて初めて、多様性について考え始めました。アメリカは多様性のある国だなあ、そこでこういう活動ができて嬉しいなあ、と思っていました。しかし、日本でも目立ちづらいかもしれませんが、多様性は確実にあり、それを活かせばもっと創造的なことが出来たり、大きな問題が解決出来たりするかもしれません。また、今後移民や観光客など日本に来る外国人も増える中で、もっと分かりやすい多様性も増えるでしょう。その状況にどう対応していくか、多様性のメリットをどう活用していくかは、一人一人が考えるに値することであると思います。答えが出ていないのでまとまりが悪いのですが、その取っ掛かりを得られているという点で非常にICDIでの活動に意義を感じています。

 

・CU Trickers

ICDIとはうってかわって運動系の活動です。CU Trickersでは、Trickといって、バク転やバク宙といったアクロバットとキックなどを混ぜたものを練習しています。実は全く初心者というわけではないのですが、それでもパフォーマンスを披露できるレベルではないので、私自身はむしろ個人的趣味としてバク転などを綺麗にできるよう、上手い学生に教えてもらっています。この間、夏のように暖かくなったある日にキャンパスのQuadでみんなで芝生の上をくるくると飛び回っていたのは気持ち良さげでした。今後Quadでの練習(というか楽しい集まりですが)も増えると思うので、レパートリーを増やしてもっと参加できるようにしたいと意気込んでいます。

 

 

3.所感

今学期は授業に課外活動にと、ようやく人並みのスタートダッシュを切れた感があり、冒頭にも書いたように、かなり順調に進んでいるように感じます。随所に先学期の反省が見えるように、また前回の奨学生レポートがどことなく暗かったように(読み返すとほんとに暗い!)、先学期はやはりなかなか上手く行っていなかったのだと思います。人生初めての「挫折」は思い描いていたようなポッキリと心が折れるようなものではなく、じわじわとボディブローのようにくるものでした。しかしその経験がバネになり、今学期そしておそらくは帰国後もずっと大事になってくることが見えたとも思います。先学期と今学期の違い、それは自信の有無です。

写真3脳波測定 (1)

(写真3:脳波測定の実験に参加)

 

自信があれば何でもできる。チャンスにも積極的に飛び込めるし、人と話すときにも明るく振る舞えるし、何より毎日を楽しく過ごすことができる。今までは私には無根拠の自信があったと思っていました。それで自分をアピールしなければならない局面でも上手く立ち振舞えていました。自信は主観的なものです。その無根拠の自信のストックはいつの間にか減っており、昨年それはゼロに近付きました。

では、根拠のある自信はどうやったら手に入るのでしょうか。色々なやり方があるでしょうが、ひとつ確実なのは、成功体験を積むことです。特に私の場合、継続的にエネルギーを傾け、何かを成し遂げたという経験に今まで乏しかったため、それが出来れば自信につながるのだと考えました。ここでいう成功体験は、他者からの評価ではだめで、手を抜かなかった、成し遂げたと自分で心から思えなければ自信につながりません。主観的なものですから。一方で成し遂げる経験の種類は何でもよく、一度達成できれば汎用性を伴って他の分野でも再現できるのではないでしょうか。さらに言うと、ここで経験は個性にもつながり、人生における軸にもなります。お得ですね。

 

・・・とまあ、そんなことを学期の初めに考えていました。そして授業も課外活動も(ほとんど)毎日通うジムも、こうした心持ちのもと臨むようにしました。はたして自分の中に変化は?

あと2ヶ月後、すべてが終わってからでないと何とも言えませんが、少なくとも自信は取り戻してきたように思います。そして今回は明確な根拠のある自信ですから、無根拠な過去のそれよりかは幾分心強いかもしれません。一方で自分に向き合うからこそ、至らなさも見えます。ちょうど春休みでリフレッシュできたので、今後も気を抜かず、精進していきたいと思います。

 

 

2015年3月末日

小山八郎記念奨学制度

39期奨学生 吉川慶彦

吉川慶彦さんの2014年12月分奨学生レポート

39期小山八郎記念奨学生

第2回奨学生レポート(2014年12月)

吉川慶彦

 

JICの皆様、レポートを読んでくださっている皆様、いつもお世話になっております。奨学生のキチカワです。先日、最後の期末ペーパーを提出し、秋学期が終了しました。試験期間中は、無料マッサージが受けられたり、セラピードッグと呼ばれる犬が図書館に現れたりと、キャンパス全体をあげての「お祭り」の雰囲気を体験しました。学期の終了と同時に早速寮を追い出されてしまったので、友人のアパートに居候しながら本レポートを書いています。長かったような、でも思い返すと色々あったような、そんな一学期を今回はご報告させていただきます。

写真1:学期終了後の閑散とした寮

(写真1:学期終了後の閑散とした寮)

 

1.秋学期の授業について

まずは留学のメインとも言うべき授業について。今学期は4つの授業を履修しました。

GRK 101 Elementary Greek 1 (4 hours)

CLCV 221 The Heroic Tradition (3 hours)

PS 371 Classical Political Theory (3 hours)

CMN 101 Public Speaking (3 hours)

 

以下、それぞれの授業について感想や反省をまとめたいと思います。

 

・GRK 101 Elementary Greek 1 (4 hours)

古典ギリシャ語の初級の授業です。最初の方こそ余裕ぶっていたのですが、動詞の活用が手に負えなくなってきてから格段に難易度が上がりました。とはいえ、毎週の小テストや課題をこなしていく内に、身に付いていくように授業が設計されています。また、使用している教科書は『From Alpha to Omega』という厚さ5cmはあろう、持ち運びに大変不便な代物なのですが、この教科書の説明がものすごく丁寧で助かっています。自習者にもオススメできるものだと思います。

ところで、古典ギリシャ語は「書かれたものを読む」ことに重点が置かれているため、他の諸現代語と異なり一学期間履修したところで自己紹介すらできず、なぜ取っているのかと友人に訝しがられることもあります。個人的には単純にパズル感覚で楽しいというのもあるのですが、言語学習に関するある動画の中で「(ラテン語を学ぶことで)言語がどのように成り立っているかを知ることが出来た」という言葉があり、なるほどと思わされました。ギリシャ語とラテン語とを一括りにはできないでしょうが、この説明はなかなかしっくり来ると思います。

来学期も引き続いて履修する予定です。Office Hour(授業外で教授やTAに会うことが出来る時間)が設定されており、誰も使っている様子はないので、来学期はその時間を利用し、授業に加えてギリシャ語作文や散文読解を行おうと計画しています。

 

・CLCV 221 The Heroic Tradition (3 hours)

名前だけなら誰もが知っているような代表的な叙事詩(epic)を、英訳で読み進めていくという授業です。最終的に『ギルガメシュ叙事詩』『イリアス』『オデュッセイア』『アルゴナウティカ』『アエネイス』『変身物語』の6作品を全て読みました。いや、少なくともカリキュラム上は読むことになっていました。

・・・というのも、上記の作品の中から、毎週150ページ程度の課題図書が課されるのですが、文学的な表現(たとえば原文を尊重して詩の形式で訳されていたり、目的語が動詞の前に来たり)が多く、また1行あたり知らない単語が3つはあるという有様だったので、日本語訳やネット上で見られるあらすじを参照しながら読み飛ばした箇所が少なくない、というのが正直なところです。とはいえ、ペーパーや試験を契機に集中的に読むと、(ほんの少しですが)共通する単語や表現等にも慣れてきて、授業で教わった構造やテクニックが見えた瞬間には、自分の成長を如実に実感できる授業でもありました。

この授業はGeneral Education(教養科目、要するに古典学専攻の学生以外が沢山いる)に指定されているからか、Feast(ギリシャにまつわる食べ物を持ち寄ったパーティ)やRecitation(詩の暗誦大会)などのイベントが授業中に行われ、興味をそそる工夫が凝らされていました。

来学期は少し専門からは外れてしまうのですが、文学作品を読むことを続けたいため、「ヨーロッパ・アメリカの文学」を履修しようかと検討しています。

 

・PS 371 Classical Political Theory (3 hours)

この授業は悔いの残る形になりました。履修人数が少なく(7人)、扱っている内容も興味関心のど真ん中だったのですが、ディスカッションベースで進む授業に最後まで対応しきれませんでした。ペーパーも、課されるトピックが難解(?)で満足の行くものが書けなかったように思います(期末ペーパーのトピックは「あなたがアリストテレスになったと仮定して、プラトンの『国家』で述べられている考えを批判する文章を書きなさい」というもの)。

授業で分からなかったところはクラスメイトや教授に後で聞く、授業は録音して復習する、ペーパーの相談をOffice Hourを利用してする等々、解決策は今考えればいくらでもあるのですが、これらを実行に移すことが出来ませんでした。後で詳しく書きますが、こうした自分の弱さをどう克服していくかが来学期の抱負の一つです。

授業内容に関して、聖書の一節も課題図書に設定されること、また古代の政治思想を扱っていながらしばしばアメリカの現代政治に言及することが特に印象に残っています。現代への視点を忘れない姿勢は自分で課題図書を読む際にも意識するようになりました。

 

・CMN 101 Public Speaking (3 hours)

学期の最初に「ひとつくらい英語に関する授業を取るか」と急遽履修を決定した授業です。過去の奨学生の方々や同期も沢山履修しており、皆さんそれぞれの感想ですが、私は得るものは思っていたより少なかったように感じます。朝の8時の授業に間に合うように起きられるようにはなりましたが・・・。

今後の奨学生の参考になるかは分かりませんが、せっかく語学留学ではなく(通常の授業を履修できる)単位取得留学なのだから、無理をして「英語学習のクラス」を履修する必要はないと思います。少なくとも自分の場合は、それよりももう一つ専攻の授業を履修していた方が良かったのかもしれません。

ただ、振り返ってみると、今学期は人前でスピーチや発表を行う機会がこの授業以外にほとんどなかったので、場数を踏むことが出来たというのはよかった点です。原稿を予め準備できるスピーチも内容はほとんど覚えて臨まなければならないし、また授業内の即興スピーチはまだまだ言葉が上手く出てきません。来学期以降、積極的に英語で発表する場を探すことで、後になってこの授業で習った理論やポイントが効いてくると期待しています。

 

以上が今学期の4つの授業になります。Classical Political Theoryのところにも少し書きましたが、授業内容云々以前に、「自分が100%やれることをやった!」と言い切ることが出来ないところに悔いが残ります。留学に来たからといって突然に真面目な学生に変わることは有り得ず、ある意味で日本の生活の延長線上にあるのだと思うのですが、それでも新しい環境は自分を変えるきっかけになります。「理想の自分像」を現実の方へ下方修正していくのではなく、現実を理想に少しでも近付けられるよう、些細なところから見直していきたいと思います。

 

 

2.課外活動について

次に、授業外での活動についていくつか簡単に紹介します。

・English Corner

毎週木曜日、キャンパス内にある教会が主に留学生向けにイベントを開いています。ハロウィンやクリスマスなど時節に合わせたイベントも多く、他の留学生と知り合えることから、9月の後半辺りから参加していました。ここで出来た(主に中国人の)友人とはよくつるんでおり、アパートに誘ってもらっては美味しいご飯をいただいています。

また、木曜日のイベントとは別に、週一回のConversation Tableも同団体主催で設けられているのですが、こちらではアメリカ人学生から活きた英語が学べるので欠かさず参加していました。一人で宿題などをしていると「あれ今日あんまり英語話していないな」と思うことが結構あるので、会話の機会を少しでも多く持つという意味で貴重な時間だと思います。

 

・Fall Getaway

10月中旬頃、Bridge International主催の「Fall Getaway」というキャンプに参加しました。これまた教会を母体とした団体で、週末を利用してキャンパスから車で1時間ほどのキャンプ場に泊まり、聖書の勉強会などを行いました。勉強会といっても堅苦しいものではなく、映画を見てそれについて話し合ったり、想像以上にポップにアレンジされた賛美歌を歌ったりと、キリスト教徒でない自分でも楽しみながら参加することができました。なかでも飛び抜けて印象に残っているのは、最終日のキャンプファイヤーの際に行われた、「自らに起こった奇跡体験」をシェアするという時間です。ブラジルの留学生が話した、友達が出来ず寂しい思いをしていたときに祈ると、ちょうど部屋のドアがノックされ、この「Fall Getaway」の誘いが来たという話が衝撃的でした。宗教に馴染みが薄い日本では、と言うと語弊があるかもしれませんが、少なくとも日本で身近に宗教として感じていたものとは違った形で、宗教がいかに生活のバックボーンになっているのかを垣間見ることが出来ました。

また、このキャンプでは人生で最も多くの星を見ることが出来ました。アルバイトを抱えたまま参加しWifiや電話がなかなか通じずほんとうに苦労したのですが、それほどのど田舎、澄んだ空気と邪魔するものが何もない頭上に言葉を失うほど綺麗な星空が輝いていました。

 

・Thanksgiving Break

Thanksgiving(感謝祭)休暇として11月下旬の1週間が休みになり、寮を追い出される留学生の間では、こうした休みに何をするかが一つの話題になります。私はコロラド州デンバーとカリフォルニア州ロサンゼルス、フレズノ、サンフランシスコ、そしてシカゴに友人を訪ねて旅行に行きました。ロサンゼルスでは、日本に留学していたことのある友人カップルの家(ビーチから徒歩10分)に泊めてもらい、サンクスギビング当日はその友人のさらに友人の家で感謝祭のパーティに呼んでもらいました。メキシコ人大家族の温かい歓迎を受け、とても楽しい一日を過ごしました。

ところで、この1週間で合計6カ所の場所に泊めてもらったのですが、せっかく招いてもらっているのにずっと黙っている訳にもいかず、おのずとアメリカ式ホームパーティを「生き延びる」とも言うべき、特殊能力が鍛えられた気がします。家族の集まりか友人同士の集まりかで微妙な違いはありますが、ホームパーティの基本的な構造は同じで、3〜7人程度のグループで、最近あった出来事などを語るエピソード形式で進んでいきます。ここで大事なのはエピソードに必ず「オチ」を入れることと、一人が話し終わったあとに不自然な沈黙が訪れないように次の人がすかさず話し始めることです。なお、ここでいう「オチ」は必ずしも面白い必要はないようで、むしろ「ここで笑ってください」という明確さが求められます。それがないと次の人にバトンタッチ出来ずに地獄をみます。

なかなか即興でエピソードを語るのは難しいのですが、自分も何も喋らないのも変なので(視線を感じます)、前の人が話している間に頭をフル回転させて文章を組み立てます。困ったときには、「アメリカに来て感じた違和感」を面白おかしく話したり、「日本では〜」という話をしたり出来るので、そういった留学生特権はフルに用いました。ここに知性やマナーなどを加えると立派に将来にわたって使えるスキルになると思うので、今後もこうした脳の筋肉は意識的に鍛えたいと思います。

s_写真2:感謝祭のパーティに呼んでくださったご家族

(写真2:感謝祭のパーティに呼んでくださったご家族)

 

3.秋学期を終えてみて

この4ヶ月間で私は、自分が思っていた以上に消耗した、と思います。

日々の一つ一つの出来事を取ってみれば楽しいことが多く、また、あからさまな人種差別に曝されたり、強烈な挫折を経験したり、という訳でもないのですが、1学期を終えてみて「ああ気を張っていたなあ」と。

 

・アメリカが疲れる

言葉や文化の違いという当然のことに相まって、「銃社会」を象徴とするアメリカ社会の暴力的な側面に対して自分が身構えていることに気付きました。深夜に一人で出歩くことは現地の学生でも控えており、実際にキャンパス内で事件が起きたことがメールで流れてくる度に、フィジカルに脅威を感じています。

上にちらっと「人種差別」と書きましたが、多人種が共生するアメリカにおいてこれは完全には解決されていないように思います。「I’m not racist but…」と前置きして割とドギツいことを言ったり(このフレーズは非常に頻繁に耳にし、それだけアメリカ人は敏感になっているということでしょうが、そのことが反対に問題の根深さを表している気がします)、raceやethnicごとにグループで分かれていたり(学生団体など)と日々の生活を通じてそのことを実感します。

写真3:シカゴ観光

(写真3:シカゴ観光)

 

・自分に疲れる

まだほんの4ヶ月しか滞在しておらず、しかも「アメリカ社会」のごくごく一部の地域、一部の側面しか見ていないにも関わらず、そしてとりわけ「人種」等は日本でずっと暮らしてきた自分にとって文章にしづらいトピックであるにも関わらず、なぜ上のことを書いた(書いてしまった)のだろう、と自問しました。

一つには、人生で初めて外国に一定期間滞在することで自分に生じた変化を、モヤモヤとした形ではなく、何か文章にして残したいという動機があります。しかしそれ以上に、より本質的には、何か言い訳を探しているというところに理由があると感じました。日本でのバックグラウンド、ネットワーク、言語能力等々を使えない状態で、初めて「自分自身」で勝負しなければならなくなりました。一時期は、自分のやりたいことは何か、自分には何ができるのか、自分はなぜ留学をしているのか、友達ってなんだっけ等々のウダウダとした考えから抜け出せず途方にくれてしまったこともありました。(ちょうどその時期がボストンキャリアフォーラムの時期と重なり大変でした・・・というのはまた別の言い訳です。)

自分の至らなさを環境の所為にして打ちのめされて「ぬくぬくとした環境」に安住するのか、それともその機会を最大限に利用して踏ん張るのか。前回のレポートで「留学生活はすべてが自分次第」と書いたような気がしますが、これがまさに一番大きな点での「自分次第」です。また、そんなマゾヒスティックな環境への向かい合い方だけではなく、その良いところを最大限に利用するという正攻法だってある訳です。

残り1学期。秋学期とは比べ物にならない早さで過ぎていくでしょうから、漫然と過ごすことは避け、まだまだ変化を厭わず、動いてみたいと思います。

 

第39期小山八郎記念奨学制度奨学生

吉川慶彦

吉川慶彦さんの2014年9月分奨学生レポート

昨年12月に奨学生に選んでいただいてから早10ヶ月、実際にこちらに来てからも既に1ヶ月以上が経ち、この奨学生レポートを書いていると思うと不思議な気がします。自己紹介・留学の志望動機等については、本奨学制度のクラウドファンディングのページに既に投稿させていただいたので、ここでは重複を避けて割愛したいと思います。

https://www.countdown-x.com/ja/project/K6880260/updates/881

 

さて、この度は第1回目のレポートということで、以下のテーマで書きたいと思います。

1.履修している授業・課外活動

2.いま思っていること

3.奨学生として留学するということ

 

自分自身、過去の奨学生の方のレポートを大変参考にしたということもあり、1.では具体的に今学期履修している授業や、その他授業外で行っている活動について記します。

一方で2.では、やや抽象度を高めて、いま自分が考えていることを書きます。僕のことに余り興味のない人は読み飛ばしていただいて構いません。

最後に、本レポートが次期奨学生の申込締切の前に公開されることを念頭に置いて、3.では改めて本奨学生として留学することの意味を考えてみたいと思います。有り体にいうと、奨学制度の宣伝です。特に今まさに留学を検討している/興味のある方にはご覧頂きたい内容です。

 

 

1.履修している授業・課外活動

さて、まずはこちらでの活動について報告したいと思います。僕はこちらではCollege of LAS(教養学部)に所属し、日本と同じくClassics(西洋古典学)を専攻しています。以下、今学期履修している4つの授業を順に紹介します。

 

・GRK 101 Elementary Greek 1 (4 hours)

古典ギリシャ語の初級の授業です。日本で既に履修していたということもあり、今のところ内容は簡単ですが、週3回の授業に加えて、週2回の小テスト・日々の宿題・プラスもう1時間分の課題と盛りだくさんで、日本で疎かにしていた基礎的な文法の確認・語彙力の強化を実感しています。こちらの外国語のプログラムは(もちろん現代語も含めて!)週に3〜5回の授業があるのが通常で、大変な分、身に付くことも多いと思います。余談ですが、先日ドラマを観ていた際に、出てきた英単語の意味がギリシャ語から推測できたのには自分でも驚きました。

 

・CLCV 221 The Heroic Tradition (3 hours)

『イリアス』や『オデュッセイア』といった代表的な叙事詩を、英訳で読み進めていくという授業で、1学期の間に合計6作品を読みます。履修人数が多い(25人くらい)ことに甘えてしまい、発言をさぼっているのですが、勿体ないと思うので、今後はもっと積極的に参加したいと思います。

 

・PS 371 Classical Political Theory (3 hours)

プラトンやアリストテレスといった古典的な作品を題材に、政治理論について学ぶクラスです、履修人数が7人しかおらず、また課題図書も多く一番大変な授業です。特に体系だった教科書に沿って学ぶのではなく、先生の気分次第、クラスの発言次第で、内容が変わっていくことも難易度を高めている一つの要因に思います。

 

・CMN 101 Public Speaking (3 hours)

過去の奨学生の方のレポートを見て履修を決めました。人前で効果的なスピーチをする方法を学ぶ授業で、実際に授業中に即興スピーチがあったり、また学期中に5回、こちらは事前準備ありのスピーチがあったり、と実践的に学ぶことが出来ます。ただ、ギリギリに履修登録をしたので、朝の8時開始のスロットしか空いておらず、毎回起きるのに苦しんでいます。

 

全体的に、課題の量や授業のレベルは、ついていけないほど大変ではないのですが、それでもディスカッションになかなか参加しづらかったり、予習のReadingに何時間も費やしたり、とまだまだ「のびしろ」しかない状況です。今後どう成長していけるか自分自身でも楽しみです。

(吉川)写真1

(写真1:ギリシャ語の授業のポスター)

 

次に、授業外で行っている活動について簡単に紹介します。

・アルバイト

留学前は全く想定していなかったのですが、知人の紹介で仕事をいただけることになりました。通訳者養成のクラスのアシスタントとして、日本語と英語の通訳を訓練する学生に対して、課題となるスピーチを探したり、フィードバックを加えたりしています。

とはいえ、自分の英語レベルでどこまで役に立てているのかは不明で、むしろ10カ国語を操る先生から、アルバイトである私の方が学ぶことが多いです。また、学部学生や留学生であることがネックとなり、実際に仕事をするまでの手続きもかなり煩雑で、部署をたらい回しにされたり、留学生に優しくあるべき留学生課にかなり冷たくあしらわれたりと、ある意味で良い経験もしました。今はアメリカで仕事をする為に必須の(?)Social Security Number(社会保障番号)を申請しようとしているのですが、これまた上手く行きません。また機会があればお伝えしたいと思います。あと、給料日は心躍ります。

 

・クラブ活動

何かの活動にどっぷりと浸かっているという訳ではないのですが、それでもQuad Day(全クラブ・サークルがキャンパスのメインの広場に集まり新歓活動を繰り広げる日)に登録したクラブのいくつかに顔を出しています。特に面白いのはHellenic American Student Organization(ギリシャ系アメリカ人会)で、僕以外のほとんど皆がギリシャ人かアメリカで生まれ育ったギリシャ人で(当然!)、なかなかの疎外感を感じつつも何とか友達を作って参加しています。全ては将来ギリシャに旅行に行くときのためです(半分冗談、半分本気です)。

また、学期の最初に、古典学科の先生たちに順に挨拶回りをしていたときに(ちなみに学科の先生との顔合わせのイベントに古典学の先生は何故か一人も来なかったので、こちらからメールを送ってアポを取って挨拶に行きました・・・)、古典学を学ぶ学生の団体がないということで、これまた突然自分が作ることになりました。偶然、高校のときにClassics Clubをやっていたという学生が見付かったので、彼女に代表の座を譲り、今は最初のイベントに向けて活動しています。

最後に、毎日ピザを食べていながら全く運動をしていないことを懸念しており、また身体を動かさないとストレスも溜まるので何か運動系のサークルを探しています。良いのが一つ見付かったので、もし参加することになればレポートで報告したいと思います。

 

2.いま思っていること

こちらに来てから、ひとりでじっくり考える時間が多くなりました。まだまだ毎日の生活に余裕がある証拠なのですが、それでも今まで過ごしてきたのとは違う環境に身を置いて、鈍感な自分なりに色々と感じるところがあるようです。

留学生活のスタートは比較的しんどいものでした。「留学」というマジックワードだけで浮かれて、ともすればチヤホヤされるのは日本に居る間だけで、一旦留学先に来てからはその「留学」というものは自分で内容を作らなければ何にもなりません。授業を取るのも、イベントに参加するのも、イベントで隣の人に話しかけるのも、全ての一瞬が自分の選択に委ねられます。

 

しかし、僕が当初苦しんだのは、あまりにこのことに敏感になりすぎたからでした。義務感から毎日のパーティに参加している感じを覚えたり、必要以上に日本人を避けようとしてしまったりと、まるで留学を「修行」のように過ごそうとしていました。もちろん、人それぞれタイプが違うので、修行感覚で自分を追い込むことでベストなパフォーマンスを出せる人もいると思います。もしかしたら、その方法が一番英語力も伸ばすことができ、勉強にも身が入るのかもしれません。けれど、やっぱり自分はそのタイプじゃない、楽しまないと毎日生きていくことができない、ということに気がつきました。

何がキッカケで気持ちを切り替えられたのかはよく覚えていませんが、その日以降、授業に出席する際の意識や、毎日すれ違う人に挨拶するときの表情が変わったように思います。「自分は楽しんでこれをやっているか?」ということを問いかけながら、と書くとなかなか恥ずかしいですが、自分なりの一つの軸を大切にして、「留学生活」を送っています。

(吉川)写真2

(写真2:寮から一歩出たところの景色。遠くに見えているのが食堂です・・・。)

 

3.奨学生として留学するということ

さて、ここまで既に長々と書いてしまいましたが、最後に奨学生として留学することの意味を考えたいと思います。

40年近く続く奨学制度の一員として留学することの意味、それは一言でいえば「人のつながり」です。奨学制度の中では最年少、まだ自分の留学を始めたばかりのヒヨッコですが、それでもこのつながりを特にこちらに来てから強く意識します。中でも日本館の館長であるジェニファー先生は、来たばかりで居場所のない僕たち奨学生をものすごく気にかけてくださり、様々なイベントや現地の学生を紹介してくださいました。

(吉川)写真3

(写真3:日本館での浴衣イベント。インターンの学生たちと。)

 

奨学制度を通じて、シカゴで働かれている先輩たちやキャンパスにいらっしゃる縁のある方々にもお会いしました。そしてこのつながりは一生続くのだと思います。普通の交換留学とはひと味違った留学生活、応援してくださっている沢山の方々のサポートに改めて感謝申し上げるとともに、今まで以上に毎日を意識して有意義な一年間にします。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

 

第39期小山八郎記念奨学制度奨学生

吉川慶彦