第4回奨学生レポート(2015年6月)
JICの皆様、レポートを読んでくださっている皆様、いつも温かいご支援を賜り感謝申し上げます。皆様のおかげで、無事に約1年間にわたる留学生活を終えることができ、日本に帰国することができました。今回は最終レポートということで、春学期の後半について、そして留学生活全体の総括を報告いたします。
1.春学期の授業について(後半戦)
春学期の後半は留学生活の終わりが常に意識され、毎日を大事に生きようとしていました。来た当初は娯楽がなく、閉鎖的な空間であると思っていたシャンペーン・アーバナの地も、滞在が残り数ヶ月を切ると途端に愛おしく感じられ、授業後に意味もなく自転車で散策していました。キャンパスから一歩出ると、レンガづくりの道、一戸建ての家々、カラフルな花や木々、と絵本に出てきそうな世界が広がっています。5月になるとようやく暖かくなり、春を一気に飛ばして夏のような日々も続きました。
さて、そんな春学期ですが、生活の中心のひとつは授業です。6コース18単位を毎日の予習や課題に追われながらこなしたことはひとつの自信になりました。英語文献を読むスピードは相変わらず遅いのですが、それでも効率よくポイントを掴むようにすると意外と時間に余裕はあります。
期末試験期間も騒がれているほど大変ではなく、むしろその一週間前の授業最終週の方が、レポートの締め切りが重なり慌ただしさのレベルは格段に上でした。今学期は毎週何かしらのペーパーを書いており、この最終週ではそれらのまとめとして期末ペーパー(5〜30ページ)を提出しました(・・・と書くとすごそうに聞こえますが、実際は学期中を通して段階的に書くように設計されている授業が多く、これまたそれほど大変ではありません)。
印象深い授業をピックアップして紹介します。
・GLBL328 First Person Global (1 hours)
学期の後半のみ、2時間の授業が週に1回という、変わった構成の授業です。履修の要件が「過去に留学経験のあること」であるこの授業では、毎週あるテーマに沿ってその留学経験の一部を切り取った小エッセイを書いていきます。
出されるお題は、「留学先に対する来る前の印象と実際に来たあとの印象の違い」といった直接的なものから、「留学先で出会った印象深い人について」といったピンポイントのものまで多岐にわたっていました。また履修していた学生は10人ほどですが、変わった人が多く(留学した人に面白い人が多い?!)、ノンフィクションライター志望の学生や、休学して中国をずっと放浪していた30歳の学部生、そして日本人(=私)と様々でした。
ネイティヴの学生に比べると私の文章は毎回小学生の日記みたいで、授業中に読み上げてシェアするのは中々苦痛でしたが、先生は他の生徒と比べるというよりは、毎週の私の中の変化を見てくれていたように感じます。余談ですが、アメリカでは一般的に人のことをほめることが多いように感じました。他の生徒も私のエッセイにも何か良いところを毎回見つけてくれ、コメントをしてくれます。留学生は私ともう一人しかいなかったので、毎週アメリカ生活の感想を聞かれ、改めて考えを整理する機会にもなりました。最終回ではみんなで留学先や母国の「お茶」を持ち寄り、自分もインスタントの緑茶を持って行って、グローバルティーパーティーを開きました。純粋に毎週通うことが楽しい授業でした。
この授業の一番の効用として、日々の生活の中でも「エッセイに書けることはないか」という視点を持つようになり、あらゆることに意識的になったことがあります。本レポート冒頭のアーバナの風景に関しても、この視点が養われたからこそ記憶に残っているのだと思います。
・CLCV222 The Tragic Spirit (3 hours)
あまり良いことばかりを書いていても仕方がないので、辛かった経験も書いておきます。この授業ではギリシャ悲劇を英訳で読んでいくという授業なのですが、悲劇を説明する手法として「現代アメリカポップカルチャー」のアナロジーが多く、一旦それが始まってしまうとほとんど理解することができませんでした。「現代アメリカポップカルチャー」といっても、ディズニー映画や『Game of Thrones』といった大人気TVドラマのことで、観ていない私の方が悪いと言われればそれまでなのですが、それでも毎回毎回こういったものに基づいて話が行われるのでかなり辟易していました。そして授業内のグループワークも多く、古典学専攻の学生にはこういうポップカルチャーに異様に詳しい人が多く、毎回こっそりとGoogleに頼ってあらすじを調べたり、素直に諦めたりして何とかついていっていました。
レポートが学期中に6回あり、授業で発言等少ない分頑張って書いたのですが、あまり成績も芳しくなく、なんだかなーといった授業でした。もう少し悲劇の読み方を体系的に教わりたかったですが、こればっかりは学期が始まってみないと分からないので、何かしら自分で方策を考えるしかありませんでした。
・・・とネガティヴなことも書きましたが、総じて満足度の高い授業が多く、英語面からも知識面からも伸びを感じられました。成績もこの最後の授業以外は満足のいくものでした。
2.課外活動について(後半戦)
春学期に入りいくつか新しい活動を始めたことは、前回もお伝えした通りなのですが、中でも一番力を入れたのはICDIです。ICDIについての詳しい説明は前回のレポートを参照してください。
学期末にはRetreatと称して2日がかりのイベントを行いました。私も運営の一部を担い、ゲスト・ホストの両方の点から楽しみました。ホストとしてはこうしたイベントの運営面でいくつか気付きがありました。イベントでは昼食・夕食をどうするかという問題があったのですが、準備を進める中で「レストランにスポンサーしてもらおう」ということになりました。私はてっきりメールでも送るのかな、と思っていたらそんなことはなく、手分けしてレストランに訪問して声を掛けていくということになりびっくりしました。そして実際に中国人の学生が中華料理屋から30人前のチキンを調達したりするので、更にびっくりしました。これがアメリカならではなのか、キャンパスタウンならではなのかは分かりませんが、なかなか無い発想です。
ゲストとして印象深いのは初日の夜に行った企画です。これは、参加者が質問を紙に書き、それを誰が書いたか分からないようにして一つずつ読み上げていく、そして答えられそうな人が答える、という単純な企画なのですが、日本関連の質問が多く、日本人は私しかいなかったので、必然的に色々と答えることになりました。日本の恋愛事情、靴下事情(なぜ?)などはスラスラと適当なことを答えたのですが、「第二次世界大戦についてどう思うか」という質問には詰まりました。どう答えたか明確に覚えていないのですが、加害者意識・被害者意識の両方があって被害者意識の方が強いかもしれない、学校で習うことはあまりなく普段こういった話もしない、というような旨を伝えたように思います。良い意味でも悪い意味でも日本が注目されていること、それに対して日本がプロモーションを十分にできていないのではないか、ということを考えさせられた夜でした。
課外活動ではないのですが、留学生活が終わりに近付くにつれて、キャンパスや近くで行われるイベントに沢山顔を出すようにしました。『Into the Woods』や『Legally Blonde』といったミュージカルの学生上演や、Holi Festivalというインド発祥の色のついた粉をかけあうイベントにも遊びに行きました。
しかしこういった楽しいイベントを遥かに上回ったのが、Ebertfestという映画祭です。ここになんと私が先学期にハマりにハマったドラマ『How I Met Your Mother』に出演していたJason Segelが来たのです!このドラマで英語表現を勉強したといっても過言ではないほどじっくり見ていたので(全9シーズン)、何としてでも生でMarshall EriksenもといJasonを見たい!とミーハー心丸出しで、参加方法を探しました。前日にFacebookの友人の投稿で知ったので当然チケットは売り切れ、スタッフをしている友人にも尋ねたのですが、結局当日券を目指して並ぶことに。100人くらいは並んでいたと思うのですが、たまたま横になった蚊の研究をしている博士課程の学生と仲良く1階席に入れることになりました。Jasonが出演している新しい映画も面白く、その後のインタビューも聞けて大満足でした。(他にはキャンパスにラクダや副大統領が来ていました。それも同じ日にです。)
非常に充実した2学期目後半戦でした。
3.思ったこと
留学生活の中で思ったことをいくつか書きます。
まずは日本について。「日本から来た」というと、誰も「それどこ?」とはならず、むしろ好意的な返答をしてもらえることが多く、これは偏に先人たちの努力による賜物であるなあと思っていたのですが、実際のプレゼンスはかなり下がっているように感じました。東アジアと言えば中国。留学生数も(もちろん人口も多いわけですが)中国語を勉強する学生の数も到底かないません。だからなんだ、日本のプレゼンスを上げようじゃないか、とはあまりならないのですが、頭ではどれだけ分かっていても日本にいてはやはり自己中心的になってしまい、分からない感覚でした。アニメファンでもなく、日本に全く興味のない学生と話すときに、どこまで自分が魅力的になれるかは今後の課題です。
そしてアメリカという国について。ここで初めて私のルームメイトを紹介したいと思います。ルームメイトは黒人アメリカ人で、親はスーダンの出身、そしてムスリムということで、かなりマイノリティである意識が強く、それがゆえに日本から来た私に対しても親切に接してくれる優しいヤツでした。滞在中、アメリカでは黒人が不当に暴力を受けたり、(別の大学でですが)ムスリムの学生が殺されたりする事件があり、マイノリティの不満がかなり高まっており、そういう話をよくしました。私の「なぜ最近こういう事件が多いのか」という質問に彼は「こうした事件は最近SNSが発達して拡散が可能になっただけで、昔からずっと起こってきたこと。それが顕在化されて我慢できないレベルに達している」というものでした。「America is NOT the greatest country anymore」という動画(『Newsroom』というドラマのワンシーン)も流行りましたが、確かに内外に沢山問題を抱えており、多人種・多文化の共生というのは難しいのだとヒシヒシと感じました。皆がアメリカがナンバーワンだと思って生きている訳ではなく、複雑な思いを持っている人も多いです。当たり前のことですが。
とはいえ、やはりダイバーシティの魅力がアメリカにはあります。色々な人がいて色々な生き方をしていて、畢竟自分の人生は自分の人生だ、ということを実感できた留学でした。中国人のある友人はアメリカでの就職を目標に修士のコースにやってきました。国際関係論を専攻するアメリカ人の友人は日本語に加えポルトガル語を勉強しています。エクアドル人の友人の作るパンは絶品です。私のルームメイトはアラビア語を解し、フロアにいるレバノン人とよく内容の分からない話をしています。そしてルームメイトは朝6時に起き部屋で祈り、レバノン人は同じ時間にジムに行きます。取り止めようもなく書いてしまいましたが、そんな中で自分は生活をし、諦念にも近いような、しかし前向きな実感を得ました。こんな人たちと比べても仕方がない。
日本に帰国して早一ヶ月、すっかり日本人に戻りましたが(いや、向こうでも日本人でしたが)、やはりどこかフィットしないような感覚は残ります。今回はたった一年間、しかもイリノイという一地域での滞在でした。どのような形かは分かりませんが、必ずアメリカという面白く広い国にまた戻りたいと思います。
ここまで読んでくださりありがとうございました。この度は、皆様のご支援のお陰で奨学生として留学をさせていただきました。改めて感謝の気持ちを申し上げます。向こうでの体験は出来るだけ誠実にレポートでお伝えしようと心がけたつもりですが、まだまだ咀嚼しきれない部分もあります。今後はこのJapan Illini Clubという素晴らしいコミュニティに返していく形でそれを還元したいと思います。皆様どうもありがとうございました。
2015年6月
小山八郎記念奨学制度
39期奨学生 吉川慶彦