田中洋子さんの2015年7月分奨学生レポート

【奨学生レポート第4回】

田中洋子

皆さんこんにちは。5月半ばに留学生活を終え、無事日本に帰ってまいりました。最後の奨学生レポートとなる今回は、春学期に履修していた授業の報告と、留学生活全体の振り返りを書かせていただきたいと思います。

 

<授業振り返り>

○CMN 368 Sexual Communication

ひょんなことから取ることになった授業でしたが、非常に中身が濃く、学ぶことが多い授業でした。履修登録をした時は、科目名のユニークさに日本では履修出来なさそうな授業だと興味をそそられた部分が大きく、授業内容を詳細に把握していたわけではなかったのですが、コミュニケーションというものを軸にカバーされるトピックは想像以上に広く、期待以上の内容でした。授業後半で特に関心を持って勉強したのが性教育について。Sexual Communication の授業が教育に結びつくとは思っていなかったので、嬉しい誤算でした。アメリカでは州の権限が強力であるため、性教育の方針も州ごとに大きく異なります。性に関することは最小限しか教えず、ひたすら婚前性交渉の禁止を刷り込む州がある一方で、性に関する事柄も人間生活の正常な一部としてオープンに教え、避妊方法の選択肢やパートナーとのコミュニケーションの取り方など包括的な内容の性教育を実施する州もあります。教育に関心があるとはいえ、それまで性教育という分野にはほとんど目を向けておらず、この授業をきっかけにその重要性に気付き、関心が深まったのは非常に有意義なことだったと思います。今後は日本における性教育の現状や問題点、議論などについても学んでいきたいと考えています。

授業後半でもう一つ印象に残っているのは前回のレポートでも触れた性に関する専門家になりきって誰かの相談に回答するという形式のレポート執筆です。私に与えられたテーマはflirting。辞書を見てもあまりしっくりくる訳が見つからずなかなか説明しづらいのですが、本格的な恋愛関係に発展する前の段階の男女間のコミュニケーションとでもいいましょうか(ナンパはこのflirtingの一例だと言えます)。テーマがテーマだけに信頼性のある学術的な情報を厳選するのが難しく、また主観を排除して回答を練り上げていくのは骨の折れる作業でしたが、最終的には納得のいくものが書きあげられ、評価も満点をいただくことが出来ました(いくらなんでも評価が甘すぎると思いましたが・・。何年か続いているこの授業でもこのレポート出題は初めての試みだったそうで、まだ勝手がわからず全員に甘い評価がなされたものと思われます)。この課題を通して感じたのは、TAの存在の大きさです。ちゃんとレポートを書けるか大きな不安を抱えていた私は、オフィスアワーを積極的に利用してTAの方によく相談をさせていただいており、これが本当に大きな支えになりました。レポート以外にも、試験の振り返りを一緒にしていただいたり、授業後の質問に対応してくださったり、懇切丁寧に対応していただきました。私の担当だった人はTAの中でも特に優れた人だったのだと思いますが、日本で通っている大学ではTA制度が定着しておらず、教授一人対学生何百人で学習上のサポートは基本的に無しという状態なので、学生の自立が求められているというような見方も可能かとは思いますが、イリノイ大学のような体制を取り入れてみるのも良い方策なのではないかと感じました。

 

○MACS100 Intro to Popular TV and Movies

前半は映画について学びましたが、後半はテレビについて学びました。映画編で使用されていた教科書と比べるとテレビ編の教科書は内容が高度で、また映画と比べてアメリカのテレビ番組にはなじみが薄かったので、授業についていくのが少々大変でした。毎週火曜日の夜には上映会があるのですが、ドラマを観ていても、ほかの学生がなぜ今笑ったのかが理解できず後でアメリカの友人に説明してもらったりすることもしばしばで、その国で育っていないと獲得が難しい社会的・文化的背景というものの存在をあらためて実感したりしていました。英語を勉強するだけがコミュニケーション能力の向上につながるわけではないのですね。

春休み後はグループ課題の短編映画撮影も頑張りました。班によってはメンバーが協力的ではなく問題が起こったりもしていたようなのですが、私の班は全員責任感があり、仕事もうまく分担しながら作業を進めることが出来ました。課題は、ステレオタイプを覆すような内容の3分程度の映画の制作。私たちは、男女に対する偏見とアスリートに対する偏見の双方に焦点を当てようと、女の子らしいと一般的にされている趣味を持つ男子バスケットボール部のエースを主人公とした作品を作りました。テイラー・スウィフトを好んで聴き、スタバでは流行りのパンプキン・モカとピンクのドーナツを注文、彼女との家デートでは「君に読む物語」や「ミーン・ガールズ」などのいわゆる chick flick と呼ばれる女性向けの映画を観ようと言い出す、実は運動能力ではなく学力を評価され奨学金を授与されたバスケットボール選手。素人感満載の作品でしたが、みんなでアイディアを出し合いながら映画を撮るのは楽しかったですし、自分もちょこっとだけ出演出来て嬉しかったです。期末試験最終日に全作品がリンカーン・ホールという大きな教室で上映され、私も数学が苦手なアジア人学生として(これは現実の私そのままなのですが、アメリカではアジア人は数学が得意であるというステレオタイプが存在するので、ステレオタイプを覆すという課題に対して一定の意味を持った役柄です)スクリーン・デビューを果たしました(出演時間約10秒)。

田中写真1

*写真1:よく足を運んでいたフローズンヨーグルト屋さんです。イリノイ最後の晩も食べに行きました。私のおすすめメニューはパイナップルアイスクリーム+マンゴーです。

 

○MACS262 Survey of World Cinema

後半一番力を入れたのは、1965~1995年に公開された映画をどれか一つ選び、それがどのように宣伝されたかを分析するというレポートです。人と被りそうになく、実際に自分も好きで、かつそれなりの量の資料が見つかりそうな映画ということで最終的に選んだのが、1968年に公開された”Yellow Submarine” です。アニメ映画を選ぶのは面白い試みに思えましたし、ほとんど映画の制作には関わっていないビートルズ(4人の声はほかの声優によって演じられました)が映画の宣伝の上で非常に大きな働きをしたという点が、ほかの映画にはなかなか見られない特異な点であり、そこに光を当てて分析をすれば教授の目にも留まるのではないかと考えたのです。

今回のレポートで難しかったのは、当時の資料を使わなければならないという点です。ネットでYellow Submarine と検索すれば、多くの批評や記事が出てきますが、それらはほとんど最近になってから書かれたもので、資料としては使用できません。いくら有名な作品であるからと言って、レポートを書くのに最適な内容がまとまったような本が都合よく存在するということもなく、図書館の新聞・雑誌記事のデータベースを利用して、デジタル化された過去の記事を遡るほか、デジタル資料が存在しない場合は、実際に図書館に出向き、記事の目録から書庫にある縮刷版にあたるという地道な作業もおこないました。昔の学生はこれが当たり前だったわけですが、ネット世代の私はこうした調べものをした経験が乏しかったため、今回とても良い勉強になりました。また、図書館学の教授でもある司書の方が非常に親切で、学生の勉強を支える人的リソースの充実にここでも感動しました。ちなみにこの教授は私が以前日本映画上映会のために「ウォーターボーイズ」の購入を図書館に希望した際に対応してくださった方なのですが、なんと私が名前を告げると「あの時の学生さんかな?」と覚えていてくださり、日本映画の話でしばし盛り上がるという嬉しい出来事もありました。

田中写真2

*写真2: Krannert Center for the Performing Arts へ“Into the Woods” というミュージカルを観に行った時の写真です。学生なら格安料金で良質な芸術作品が楽しめます。非常に立派な作りの大規模演劇施設で、ぜひ一度訪れてみることをおすすめします。

 

○MACS464 Film Festivals

おそらく私が今学期一番力を注いだ授業だと思います。春休みが終わるといよいよ映画祭本番まで1か月ほどとなり、週1回授業時間内に割り当てられている作業日だけではとてもやるべきこと全ては片付かず、ほぼ毎日映画祭関連の仕事をしていました。深夜に迅速に判断を下さなければならない議題が浮上し、夜中まで100通を超えるメールのやり取りがあったことも・・・。あくまで履修している授業の一つにすぎないのだからどこかで線引きはしてほかのことが犠牲にならないようにしなければならないとは思いつつ、常にメールを確認しておかないと「チームに貢献していない」と批判されそうで、なかなか苦しかったです。もう少しコミュニケーションの取り方に関しては改善の余地があったように思います。ほかにも、ほかのメンバーに意見を言わせる隙を与えずどんどんと話を進めてしまうリーダーや、自分から仕事を探すことをせず授業にもたまにしか来ないメンバー、重要事項を抱えているのにもかかわらず締め切りを把握していない人など、私が所属していたプログラム班はメンバーが「多彩」でした(かくいう私も、反省すべき点は多々あったと思います)。5人中4人留学生というメンバー構成も、残りの1人にとってはあまり快適ではなかったかもしれません。応募されてきた作品があるメンバーのミスでリストから抜け落ちていたことが選考の途中で判明したり、受賞作品が審査員との連絡に問題があり当日の朝まで決まっていなかったり、私たちの班では常に何か問題が起きていて正直ほかの班にしておけばよかったかもしれない、なんて考えが頭をかすめたこともありましたが、そんなこと今さら考えたところで仕方がないし、途中で抜けたりしたら大迷惑だから絶対にそれだけはすべきではないと、何とか最後まで頑張りました。

作業を進める中で気付いたのは、自分は割と裏方が向いているのではないかということです。何十本もある応募作品の細かいデータをまとめたり、パネルディスカッションの原稿作りをしたり、名札のスペルチェックをしたり、地味な仕事にはリーダーが「誰かやりたい人?」と尋ねても進んで手を挙げる人はいません。やはり、有名なゲストスピーカーとの連絡窓口になったり、司会をしたりという仕事の方が人気があります。でも私は、誰もやりたくない仕事をすれば班に貢献出来る良い機会だと捉えて、積極的にそういった仕事を引き受けていました。全ての作業を授業内でやっていない以上、裏方の仕事ばかりやっていれば先生の目に留まりづらく、打算的に考えれば授業評価の上では多少不利になる気もします。ある程度自分の貢献をアピールするのも必要な能力でしょう(クラスのほかの人たちは良い意味でこうした能力に長けているように感じました)。しかし、班に貢献するチャンスだから、逆に言えばそれくらいしか貢献出来そうなことがないという自信の無さの表れの結果だったとしても、そういう不利な面をあまり気にせず、自分がやっていることが全体に良い結果をもたらすのであれば満足と思える性格であるらしいことが分かりました。チームで何かする時、重要なのは自分がどのような役割を果たせばチームとしての成果が最大化されるということを見極めるということだと思います。そのためにはまず、自分の適性を知る必要があります。その意味で、今回ある種自分の適性らしきものに気付けたのは一つ収穫だったように思います。

広報活動が十分とは言えない状態で迎えた本番でしたが、予想以上に多くの人が足を運んでくれ、また特にトラブルが起きることもなく、良い映画祭になりました。演劇関係者の労働組合のシカゴ支部代表の女優さんがパネルディスカッションに参加してくださったり、以前授業でお話ししていただいたこともある映画監督のカンヌ出展作品を特別上映が実現したり、当初の予想をはるかに上回る豪華さでした。本当に小規模な映画祭でしたが、参加してくれた学生にとっては自分の作品を上映し、またほかの学生監督と交流する貴重な機会となったようで、「参加してよかった」と皆さん口をそろえて言ってくれました。途中で抜けたり、手を抜いたりしていたら味わえなかった達成感。最後の日に、やはりこの授業を取ってみてよかったと思えました。

Illinifest のホームページはこちらから→http://illinifest.illinois.edu/

田中写真3

*写真3: 映画祭スタッフのTシャツを作りました。

 

<留学生活全体の振り返り>

今レポートを書いている時点で、帰国してちょうど4週間が経ちました。私は帰国後すぐに大学の授業に戻り、期末試験に向けて休んでいた授業の遅れを取り戻さなければならないこともありかなり忙しく、帰ってきてからあまりゆっくりと自分と向き合う時間が取れていないのですが、このままきちんと留学生活を振り返らずにいたら、残るものも残らなくなってしまいますし、ここで一度振り返りをしてみたいと思います。

帰国してから、「留学どうだった?」と頻繁に聞かれるのですが、これがなかなか簡単に答えられる質問ではありません。なにしろ、9ヶ月もアメリカで暮らしていたのです。本当にいろいろなことがあり、それを一言にまとめるのは不可能です。「楽しかったよ!」と言うのも、もちろん楽しいことはたくさんありましたがそれだけではなかったですし、よくある「価値観が変わりました」という答えも自分にはちょっと嘘っぽく(正直なところ、自分の根本的な部分はそうそう簡単にひっくり返るものではないと思います)、結局「う~ん、いろいろあってなんて言ったらいいか・・・」と曖昧な答えになってしまいます。

今、あらためてその問いに考えを巡らせてふと浮かんできたのが、「人生に対する度胸がついた」という答え。ちょっと大げさな響きがしますが、私が留学先で何を学んだか、またそれによってどう変わったかを語る上でなかなか良い要約であるような気がします。

留学を決心する前の私は、自分の性格をマイペースだと言いながら、一定の枠を越えることを躊躇していました。より具体的には、留学への興味は抱きつつ、大学を休学するという大多数の人とは異なる選択をすることに対して、今思えば必要以上の不安を感じていたのです。それでも、「やった後悔よりやらなかった後悔の方が大きい」という言葉が頭を離れず、応募してみた当奨学金。幸いなことに合格にしていただき、その貴重な切符を手に飛び込んでみたイリノイ大学での生活では、これまでのレポートでも報告してきたように、多くの学びがあり、貴重な体験もあり、そして本当にたくさんの素敵な人たちとの出会いに恵まれました。もしあの時、大多数の人とは違った道を選ぶことを否定していたら・・・。もしもタイムマシンがあったら、悩んでいた頃の私の元へ飛んで行って、「興味があるなら挑戦しなさい!ほかの人のことなんて気にする必要ない!」と説得しに行くでしょう。

日本の大学にもいろいろな人はいますが、さすがは世界中から学生を惹きつけるアメリカの大学というだけあって、イリノイ大学には実に様々な経歴の人がいました。一度働いてから戻ってきている人も普通に見かけましたし、専攻を変えて4年以上かけて学部を卒業することも大して珍しくありません。将来どこの国で働くか決めていないという人と話した時は、「こんな自由な感じでいいんだ」となんだか感心してしまいました。日本人の方にも何人かお会いしましたが、皆さん挑戦する意欲が強い。私だったら異国の大学で博士号を取ろうなんて人生を賭けるようで怖いなと思ってしまう、と話しても、「でも、自分のやりたいことだから」。リスクを取る責任は覚悟しなければならないけれど、別に周囲と違う道を進んでも問題はないし、そういう生き方の方が楽しそうだ、決められたルート通りに行かなければという強迫観念を捨てれば、これからの人生で何か予期せぬことやちょっとした遅れが生じても焦らずに済みそうだ、そんな気付きを得ることが出来ました。

恥をかくことへの抵抗感の薄れというのも、留学を通して得られた成長だったと思います。いくら頑張って英語を勉強しても、やはりネイティブスピーカーのように話すのは難しく、留学当初は訛りのある英語で発言することをとても恥ずかしく感じており、そのせいで発言が消極的になってしまうこともありました。何か発言しても、クラスの人たちが私の発言内容を理解してくれたか、変な外国人がしゃべっているなどと思われていないか、など必要以上に考えを巡らせて落ち込んだりもしていました。でも実際のところ、彼らは私の英語のことなんてほとんど気にしていないと思います。その場では少し聞きづらいと感じたとしても、晩ごはんを食べる頃にはそんなこと頭から消え去っています。100点満点ではいかなくて当たり前、そしてそれをいちいち気にする必要もないと悟った時、すっと気持ちが楽になり、どうせならどんどん壁にぶつかっていこうと思えるようになりました。今後何かに挑戦して恥ずかしい思いをしても、「留学先でさんざん恥はかいたし、こんなの慣れたもの。挑戦してみただけえらい」くらいの心持でいられたなと思います。

ただ、難しいのは開き直って向上心を失ってしまうこととの線引きです。全てうまくはいかないことが想定の範囲内であっても、少しでもうまく出来るように成長するための努力は怠るべきではありません。あくまで、建設的な失敗をずるずる引きずる必要はないということです。

チャンスは手を伸ばせば思っている以上に与えられるものだというのも一つ大きな学びでした。留学前は、転がってきたチャンスは逃さないようにという考えだったのですが、別にチャンスがやってくるのを必ずしも待つ必要はなく、自分から探しに行くことも出来るということに気付いたのです。留学中に経験したインターンや企業訪問、勉強会企画などは元々何か募集がかかっていたわけではなく、まずは連絡先を調べるところから始めて最終的に実現に至ったものです。もちろん、全ての場合でうまくいくわけではなく、むしろ期待通りには事が運ばないことの方が多かったですが、それでも最初からどうせだめだろうと諦めるのではなくとりあえず声を上げてみると、案外大きなことへと発展していくこともあるのです。既存の選択肢からやりたいことを選んだり、解決策を探したりするのではなく、自ら新たな選択肢を作ることも出来る、このような考え方が身に着いたのは自分にとって大きな成長でした。

自分が決心したなら一般的な道を外れてもいいし、恥をかいたりしてもいちいち気にしない、チャンスは自分から作り出すことも可能―実際はここまでパワフルな精神力を身に着けられているか分からないのですが、「人生に対する度胸がついた」というのはいわばこういう考え方が内面化された(されつつある)ということです。

 

最後にあらためまして、今回私に留学の機会を与えてくださり、また私を支えてくださった全ての方に心より感謝申し上げます。本当にありがとうございました。

田中写真4

*写真4: 広々とした芝生。晴れている日は友達とフリスビーで遊んだり、お昼寝をしたりしました。写真の右側には、卒業を控えた4年生が記念撮影をしている様子が写っています。

田中洋子さんの2015年4月分奨学生レポート

【奨学生レポート第3回】

田中洋子

 

皆さんこんにちは。早いものでもう3月も終わりに差し掛かり、長いと思っていた留学生活も残すところ1か月半ほどとなりました。今回のレポートでは春学期の授業の様子や課外活動、春休み旅行について書いていきたいと思います。

 

【春学期授業】

まず授業全般についてですが、先学期は教育学部の授業を中心に履修していたものの、今学期はメディア系の授業、より具体的には映画に関する授業を主に取っています。元々映画鑑賞が趣味だったのですが、作られ方なども把握せずただ漫然と娯楽として接しているよりも、一度学問の対象として捉えてみた方がより深く作品のことも理解出来面白いのではないかと思い、せっかくならば独学するのではなく大学の授業を通して勉強しようと考えたことが理由です。また、後ほど詳しく書きますが、一鑑賞者としてではなく、ほかの人と作品とをつなぐという立場から映画に関わることにも興味がわき、作品の解釈などを学ぶ授業に加え、学生映画祭運営の授業も履修しています。

 

○CMN 368 Sexual Communication

今学期取っている授業の中で唯一メディア系ではない授業です。2学期目、私にとってはイリノイ大学で最後の学期。自分の関心に近い学部の授業だけ調べていて後から実は面白そうな授業を知って後悔するのは嫌だったので、新学期が始まる前に一通り授業の一覧に目を通していたのですが、「へぇ、こんな授業があるんだ」と一際目を引いたのがこの授業でした。私が知らないだけかもしれませんが、日本では性についてオープンに学ぶ機会がなかなか少ないような気がしたので、貴重な経験になりそうだと思い履修を決めました。ちなみに、コミュニケーション専攻の学生の間ではこの授業はなかなか有名らしく、私が履修登録をした時にはどのクラスもほぼ満席で、ぎりぎり残っていた枠に滑り込んだという感じでした。

内容としては、授業名の通り人々が性に関する事柄にどのような形で関わっているかを様々な角度から学ぶというものです。性に対する態度の男女間・人種間・世代間・国家/地域間の違い、性に関する知識の伝達における家族の影響、インターネットが性的なコミュニケーションに与えてきた影響、広告という媒体を通した性的メッセージの伝達、などテーマは多岐に渡ります。

授業の形式は、毎週2,3本ほど指定される論文に基づいて講義が行われ、そこで説明された内容についてディスカッションのクラスでより詳しく掘り下げて学ぶというものです。シラバスを読むと相当の負担があることを覚悟するようにといったことが書いてあり少々不安になるのですが、扱う内容は確かに多いものの、論文の要点がつかみやすいよう教授が要点に関する問いを載せた質問用紙を作成してくださっている上、穴埋め出来るようになっている授業ノートも配布されるため、それらをきちんとこなしていれば授業についていけなくなることはなく、とても親切なシステムになっていると思います。また、教授の講義はテンポがよく、ディスカッションクラスも私のTAさんは時間を最大限使えるようメリハリのある内容の濃い授業をしてくださるので、退屈に感じる時間がありません。

現在は、春休み直後に行われる試験に向けて勉強すると共に(と言っても、現在春休み真っ最中でこの文章も旅行から帰る列車の中で書いているので、どこまで時間が取れるかは分かりません。一応論文はスーツケースの中に入れてきました)4月下旬に提出のレポート執筆の準備をしているところです。このレポートは、一人ひとり違う問いを与えられ、性に関するエキスパートになりきって、資料に基づきその問い(ある人からの性に関する相談内容という形になっています)に答えるというもので、大量に論文を読まないとまともな内容が書けなさそうなので負担は大きいものの、このようなユニークなレポートを課されたことがないのでわくわくしています。

 

○MACS100 Intro to Popular TV and Movies

アメリカの映画・テレビ(今後テレビについても扱うようですが、今のところ主に映画について学んでいます)についてジェンダーやエスニシティ等の観点から分析を加えるという内容です。100番台の授業であるためそこまで高度な内容は扱われず、また履修人数が非常に多いこともありディスカッションクラスもないためそこまでの負担はないのですが、特に各エスニシティの表象に関しては、様々なバックグラウンドを持った人々が織りなすアメリカ社会のありようを垣間見ることが出来、外国人である私にとっては非常に興味深いです。映画の授業というよりはむしろ、映画そのものではなく、それを媒体にアメリカ社会の歴史やその内包する問題について学ぶ授業と言った方が正確な気がします。また、ジェンダー、特に女性の表象についてはCMN368 Sexual Communication で学んだ広告における女性の表象と重なる部分があり、相互に知識が深まります。気にしだすと切りがないというか、深読みしすぎてしまうのも逆によくないのではないかとも思うのですが、授業を受ければ受けるほど今まで何も気を留めてこなかったものの背後にある言外の意味に敏感になり、まだまだ浅い解釈しか出来ませんが観察者としての目が育つ感覚を面白く感じます。今まで観たことのある作品をもう一度観直して以前の自分と今の自分の解釈の差を確かめてみるのも楽しそうです。

授業の形式についてもう少し詳しく書くと、週2回の講義に加え、火曜の夜は出席が義務付けられた映画上映会があります。その週のテーマに沿った課題が毎週出されるのですが、基本的には授業で習った概念を上映会で観た映画と関連付けて自分で改めて説明し直すということが求められます。授業内で毎回選択式の小テストがあり、またオンライン上で提出する試験もあります(実質的には課題とそれほど変わりません)。これらに加え、学生がランダムに5,6人の班に振り分けられ3分間の映画を撮影するというグループ課題も用意されています。春学期の直前にようやく動き出したので、詳細については次回のレポートに書きたいと思います。

写真1_田中

宿題のため映画を観に行ったダウンタウンの映画館です。ハリウッドの大作だけでなくインディペンデント映画や昔の名作も上映しており、度々足を運んでいます。

 

○MACS262 Survey of World Cinema

毎週違うジャンルの映画を扱い、そのジャンルの時代背景や著名な監督、有名な作品、表現方法の特徴、ほかの映画に与えた影響などを学ぶ授業です。今のところ扱ったジャンルは、イタリアネオリアリズム、日本のサムライ映画、ヌーヴェルバーグ、ドイツ戦後映画、ヒンドゥー映画など、本当に様々です。毎週全く異なるジャンルを扱うので、一つのことを深く追求するというよりは、幅広くいろいろな知識を身に着けるという感じで少々せわしない感じはしますが、限られた時間で濃縮された講義をしようという教授の努力が伝わってくる授業です。私はこのジャンルを特に詳しく知りたいというものがそれほどなく、むしろ今まであまり目を向けてこなかったジャンルを含め様々なものに触れてみたいという思いがあったのでこの授業を取ったのですが、同じMACSの授業でフランス映画、ドイツ映画、またネイティブアメリカン映画に特化した授業もあり、専門性が高くなるがゆえに難易度も少々上がるようですが、これらの授業を履修することも選択肢としてありえると思います。

週2回授業があり、前半は丸々映画の鑑賞に使われ、後半は前半で鑑賞し切れなかった分の映画を観た後に教授による講義を受け、最後に教授の立てた問いに沿ってクラス全体で議論するという形で、ディスカッションのクラスはありません。クラス全体で出席者は50人程度いるので、前の方の席に座っていないと発言が難しい上、少数ですが映画マニアのような人もいて段々議論の内容が高度になっていってしまうことがしばしばなので、なかなか毎回は発言できず、もう少し頑張らねばと思っています。

一般的な話として、私は学んだことが教室の外で生かせると勉強する楽しさを感じるのですが、この授業はまさにその典型で、授業で扱ったジャンルの有名な作品のDVDを図書館から借りてきて授業で習ったことをその作品の中に見つけると、今までは素通りしてしまっていたかもしれない場面をこの授業を受けたことで立ち止まって考えることが出来ている、と嬉しくなります。今までは脚本や俳優の演技に専ら注目してしまっていたのですが、それらにも客観的な分析を加えられるようになってきたことに加え、照明の使い方やショットの使い分け、小道具の意味などにも気が回るようになり、映画を観るという行為が何倍も面白いものになりました。あれこれとアンテナを張ってしまい、あまりのんびりと観られなくなるという側面もあるのですが・・・。

評価は授業で扱ったジャンルが全般的に問われるノート持ち込み可の記述試験2回とレポートでなされます。レポートでは好きな作品を各自選び、その作品の一場面に分析を加えるというもので、私は「イヴの総て」という1950年のハリウッド映画を題材にレポートを書き進めています。個人的に映画の感想を作品全体について書く機会は以前からあったのですが、時間にして数分に過ぎないある一場面について詳細に分析を加えるということはしたことがないので苦戦していますが、教授のサポートも手厚いので、その助けを最大限生かして納得出来るものを仕上げられたらと思っています。

 

○MACS464 Film Festivals

映画祭をテーマにした授業です。今まで映画自体には関心があったものの映画祭についてはあまり注意を払ってこず、映画祭に焦点を絞った授業というのも映画理論を学んだりする授業に比べあまり耳にしないので履修を決めました。400番台の授業なのでついていけるか不安もあったのですが、教授の面倒見がよく、学生が全部で15人程度しかおらずアットホームな雰囲気ということもあり、確かに負担はそれなりにあるものの何とか楽しく授業に出ています。

前半は映画祭の歴史的変遷や今日の世界に大小合わせて何千とあると言われる様々な映画祭のうち特にほかへの影響が大きいものについて書籍や論文を通して学んでいきました。よく考えてみれば当たり前なのですが、どんなに良い映画でもお金が生み出せなければ多くの観客に観てもらうことは出来ない、評価の高さも純粋に作品の質のみが反映されているわけではない、そして映画祭(特にカンヌやベルリンなど大規模なもの)は芸術としての映画を楽しむ場というよりはむしろビジネスの場としての側面が強い、それらを知ったことで映画を産業の観点からも捉えるようになったことがこの授業を通しての自分の中での一番大きな変化であるように思います。

外部の方を招いての講演も多く、地域の小中高生対象の映画脚本コンテストの主催者、サンダンス映画祭のスタッフ経験者、シャンペーンの映画協会の方々など、実際に映画の世界で働かれている方の生の声を直接聞くことが出来るのもこの授業の魅力です。

後半は、座学の授業と並行して私たち自身が学生映画祭を運営するというプロジェクトに時間が割かれています。この授業が開講されるのは今年が初めてではないので、一応の方向性やイベントの大枠のようなものは予め決まっているのですが、基本的には私たちが好きなように一から映画祭を作り上げていきます。クラス全体が会場、広報、プログラム、ウェブなどの小さな班に分かれて活動しているのですが、私はプログラム班の一員として、映画祭に作品を出展したい人との連絡や、審査をお願いする方々とのやり取りなどを担当しています。活動が本格化するのは春休みが終わってからになるので、これからが忙しくなりますが、少しでも貢献出来ることを探して良い映画祭にしていければと思っています。

 

【課外活動】

○Epsilon Delta

先学期から参加している教育学部公認の学生団体です。もう一つ顔を出していた同じく教育学部公認の団体があったのですが、こちらの方が知り合いが多く団体の雰囲気も好きなので、今学期からはこちらにだけ行くことにしました。

基本的には2週間に1回ミーティングがあり、これには出席が義務付けられているのですが、そのほかにもメンバーでボーリングやスケートをしに行ったり、ごはんを食べに行ったりと交流の機会が用意されていてなかなか楽しいです。ミーティングでは地域の小中学校の先生や教育関係のNGOの代表の方をお招きしてお話を伺ったり、教育に関連する映画を観てそれに基づき議論をしたりしており、毎回充実した時間を過ごしています。ほかの授業ではなかなか教育に関心のある人に知り合う機会がないので、ここで出来たつながりを今後も大切にしていきたいと思います。

 

○日本映画上映会

先学期からすでに細々と寮で日本映画の上映会を行っていたのですが、今学期になってから同じく日本映画上映会を開きたいと考えている日本人学生の人と知り合い、より多くの人に来てもらえるよう場所を移して新たな日本映画上映会シリーズを始めました。映画を通して日本文化の発信をしたいというのは留学以前から考えていたことだったので、このような出会いに恵まれたことに感謝しています。

先学期の上映会では専らアニメ映画を観ており、私自身アニメは好きですし、それはそれで楽しかったのですが、「日本映画=アニメ」という凝り固まったイメージを壊したいという思いがあり、今回は少しアニメも挟みつつ(来てくれている人の希望でジブリの「かぐや姫野物語」を鑑賞しました)基本的には実写映画を中心に観ることにしました。今まで鑑賞したのは、上記の「かぐや姫野物語」に加え、「用心棒」「東京物語」「HANA-BI」「二十四の瞳」などです。日本映画にそもそもあまりなじみがない人、アニメは好きだけれどほかのジャンルはほとんど見ない人に、日本映画はもっと幅広く魅力ある作品があるということを伝えたいという思いで始めたものですが、私自身名作をあらためて鑑賞することを楽しんでいます。

あくまで趣味の延長でやっていることなのであまり堅苦しくならず出来る時に上映会を開ければいいかなという姿勢なのですが、今のところ毎週のように上映会を開いており人数もそれなりに集まってくれているので、学期が終わるまで楽しく続けて行けたらと思っています。

写真2_田中

イリノイ大学の図書館のDVDコレクションはかなりラインナップがよく、借りたい作品は大抵置いてあります。「二十四の瞳」は置いてなかったのですが、購入希望を送ったところすぐに購入してくれました。

 

【春休み旅行】

春休みの予定をそろそろ立てようかと考えていたところに丁度高校の同級生から東海岸旅行の誘いを受け、二つ返事で彼女と一緒に旅行に行くことにしました。行先はニューヨーク、ボストン、ニューヘイブン。かなり盛りだくさんの旅だったので全ては書けませんが、特に印象的だったことを抜粋して書いていきたいと思います。

○飛行機の大幅遅延!

空港に向かうバスの中で元々乗るはずだった飛行機がキャンセルになり、それより1時間遅く離陸するほかの飛行機に振り替えられたとのメール。ほんの少し前に吉川くんがワシントンに向かう飛行機がキャンセルになりホテルに泊まる羽目になった話を聞いていたので、「まさか自分の身にもこんなことが・・・」とため息をつきつつ、1時間程度の遅れなら我慢しようと思いました。しかもその日シカゴは雪がたくさん降っていてバスも1時間近く遅れていたので丁度よかったとさえ感じていました(感謝祭休暇中にサンフランシスコに行った際、空港に着いたのが離陸40分前でパニックに近い状態で空港の中をダッシュしたという経験から時間には余裕を持たせようと心を入れ替えたので、一応1時間程度のバスの遅れなら大丈夫なように予定は組んでいましたが)。

が、最終的には5時間近くの遅延。度々離陸時間変更のアナウンスが流れ、「ああ、一体いつになったら出発できるんだろう、友達はニューヨークで待っているのに・・・」と旅の出鼻をくじかれてしょんぼりしてしまいました。

とはいえ、何とか無事ニューヨークにたどり着き(ホテルに着いたのは夜の9時頃でした)友達と合流を果たせたのでした。一日目はほぼ移動に費やされました。

 

○ニューヨーク

自由の女神を見に行ったり、セントラルパークをお散歩したり、オペラ座の怪人をブロードウェイで観たり、とニューヨーク観光王道という内容でしたが、特に印象に残っているのはある映画・演劇の製作・配給・興行を行っている企業のニューヨーク事務所の方からお話を伺ったことです。OB・OGのつても何もなく問い合わせフォーム経由で面会をお願いしたので当初はダメ元という気持ちだったのですが、実際にお時間を取っていただけることになり、最初からあきらめず動いてみるものだなと思いました。

私はどちらかというと映像方面に興味があるのですが、ニューヨーク事務所は演劇に特化しており、今まで映画に比べるとそれほど関心を払ってこなかった演劇のことについて詳しくお話を伺えたのは新たな選択肢を知るという意味でとても貴重でしたし、そのほかにも仕事全般に通じる姿勢などもお聞きでき、本当に濃い時間となりました。

写真3_田中

オペラ座の怪人の会場の様子です。生のミュージカルは胸に迫ってくるものがあり、感動して泣いてしまいました・・・。

 

○ボストン

ダックツアーという、水陸両用の車に乗ってボストンの主要な建物をガイドさんの説明つきで見て回るというツアーに参加しました。ちなみに、これはアヒルを見に行くツアーではありません。私はこのツアーに関してはすっかり友達任せで下調べをしておらず、ツアーの名前、河に入るということ、またアヒルグッズがあちこちで売られていることからすっかりアヒルを見に行くのだと思い込んで興奮しており、「ずいぶん陸を走る時間が長かったなぁ、あれ、でもようやく河に入ったけれどアヒルがいない??」と混乱してしまいました。

もちろん、アヒルは見られなくてもツアーはとても面白かったです。ボストンは非常に古い都市なのでまさにこの場所がアメリカ独立の歴史の舞台の一つだったのだと世界史の授業も想起され興味深かったことに加え、一緒にいた友達が都市のことを大学で勉強しているので時々建築物について授業で習ったことを教えてくれ、知識が深まりました。

ハーバード大学とMITもせっかくの機会なので訪れました。ハーバードはさすがアメリカ最古の大学というだけあって歴史を感じるアカデミックな雰囲気で、MITは同じく名門ではありますがやはり想像通り理系の空気が漂い、ハーバードと比べるとだいぶ現代的な雰囲気がする場所でした。大学巡りもなかなか楽しいもので、今後また旅行をすることがあればその地の大学を訪問することが一つの楽しみになりそうです。

写真4_田中

名物ロブスターを堪能しました。うっかり写真を撮り忘れてしまったので、お土産に買ったロブスターマグネットの写真を載せておきます。

 

○ニューヘイブン

私の友人と私の共通の先輩をイェール大学に尋ねにニューヘイブンに行きました。なんと、そこで吉川くんとばったり。滞在時間が短かったため予定調整が出来ず会う約束はしていなかったのですが、もし偶然会うことがあったら、と話しており、実際に遭遇出来てラッキーでした。

キャンパスをじっくりと見せていただきながら昔の思い出話、大学生活について、将来の仕事や結婚のことなどいろいろなことをゆっくり3人で話したのですが、旅の最後にじっくりと内省の時間が取れ、これもまた普段の忙しい生活の中では出来ない、春休みならではの時間の使い方だったなと思いました。

 

今回のレポートは以上になります。留学生活もあと残り1か月半。どんな過ごし方をしたとしても、やはり何の悔いも残さないということは難しいように思いますが、それでも残りの時間を最大限生かして、シャンペーンを清々しい気持ちで後に出来るようにしたいです。

田中洋子さんの2014年12月分奨学生レポート

【奨学生レポート12月分】

田中洋子

 

JICの皆様、いつもお世話になっております。つい先日期末試験を終え、秋学期も正式に終了いたしました。今回のレポートでは、今学期の振り返り及び冬季休暇中の予定について書かせていただきたいと思います。具体的には、

 

1.留学中の目標途中経過

2.秋学期授業

3.課外活動

4.感謝祭休暇

5.冬季休暇の予定

 

という順番で書いていきます。

 

【1.留学の目標途中経過】

前回のレポートで、留学中の目標として以下の二つを掲げました。

(1)教育について集中的に学ぶ

(2)迷ったらやってみるの精神でいろいろなことに挑戦する

 

まずは、(1)に関して振り返りたいと思います。

今学期履修している授業4つのうち2つは教育学部の授業ですし、通学時間がほぼなくなったおかげで時間にも多少余裕が持てるようになり自主的に本を読んだり出来る時間も作りやすくなったため、日本にいた頃に比べれば教育に関する勉強に割ける時間は格段に増えたと思います。授業の課題図書を読んでディスカッションに備えたり、宿題をやったりするだけでもかなり時間は取られてしまいましたが、せっかくアメリカの大学にいて洋書へのアクセスも容易になっている上、イリノイ大学の論文データベースも留学生として籍を置いている今ならば使い放題なので、休日などに興味のある書籍や論文を読む作業をよくしていました。特に印象的だった書籍は、教育史家であり、ブッシュ・クリントン政権下で教育長官の補佐を務めていたこともあるDiane Ravitch という人の書いた公教育制度解体の動きに対する批判を展開する内容の“Reign of Error”や反転授業のノウハウを論じた “Flip Your Classroom: Reach Every Student in Every Class Every Day” 、題名の通り高等教育バブルに警鐘を鳴らす“The Higher Education Bubble”などです。1冊目の本はEPS201

の課題図書として指定されていました。

ただし、「集中的」と言えるほどの勉強量であったかどうかというと、決して自分の限界までがむしゃらに勉強を続けたとは言えないように思います。もちろん、勉強は留学の核ではありつつほかにも有意義な時間の使い方はあるはずなので、まるで大学受験期のように勉強中心で全てが回るような生活が最善というわけではないように思いますが、それでも来学期はもう少し真剣に教育の勉強に取り組めればと考えています。勉強に充てる時間量以外にも、今学期は興味のあるものを片っ端から順序関係なく読み進めていたので、もう少し体系立てて勉強することを意識する、後ほど勉強会については触れますが、基本的に一人で勉強する時間が多かったので学び合いの場を作れるように工夫する、といった改善の方法があると考えています。

 

次に、(2)について振り返ります。

これも概ね守れたように思います。何しろ2学期間という限られた時間しかいられないわけですから、「後で」は基本的に永遠にやらないことを意味するということを自覚し、日本にいた頃以上に活発に、ただし別の言い方をすれば熟考せずにあれこれ動き回っていました。所属団体を見てみるだけでも、日本語を勉強している学生が集まるJapanese Conversation Table (JCT)、教育学部所属の学生団体二つ、音楽クラブ、留学生の交流会などに顔を出していました。ただし、それなりにコミットできるコミュニティの数というものには限界があり、人並み外れて社交的な性格というわけでもないので、結局定期的に活動に参加していてメンバーと言って差し支えないのはJCTと教育学部の学生団体のうちの片方だけだと思います・・。音楽クラブに関してはあまり音楽の嗜好の合う人が見つからず、それでも楽器の練習は続けたかったので、ダウンタウンにある楽器屋さんに併設のスタジオで個人的に細々と練習を続けております。ちなみに、この時に交渉の結果スタジオ使用料がだいぶ下がり、アメリカで生活するなら交渉力が大切といういつか誰かから聞いた言葉の意味を実感しました。

「挑戦する」というほどのものではありませんが、迷ったらやるという目標は日々の行動にも少しずつ変化をもたらしたように思います。例えば、授業中の話し合いにしても、最初はやはり気後れしてしまい、毎回のように「なんであの時発言できなかったんだろう。あの時この意見を言えればもっと議論の流れもよくなったはずなのに・・」とくよくよしていたのですが、途中から、「とにかく迷っているくらいなら手を挙げよう。手を挙げてから考えてもいいんだ。英語がすらすら話せないからなんて気にしている場合ではない!」と積極的に参加できるようになりましたし、学期中を通して少なからず起こったルームメイトとの問題に関しても、「変に遠慮して我慢するのはよくない。思い切ってはっきり言おう」と考えるようになり今ではだいぶ風通しの良い関係になっているように思います。

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Alma Materの銅像です。地面に雪が残っているのが見えますが、11月半ばは非常に冷え込みました。

 

【2.秋学期授業】

<Public Speaking (CMN101 –L2)>

教育学部の授業ではありませんが、今学期楽しさという点では一番だったように思います。前回のレポートでも説明しましたが、学期全体で5つのスピーチをこなす少人数の授業です。3分程度の自己紹介から始まりましたが、段々5分、7分とスピーチの持ち時間が増え、内容もinformative speech, persuasive speech といった、少し高度なものになっていきます。Informative speech では自分の専攻分野と関連のある内容について論じるようにとのことだったので、私はアメリカにおける英語学習児童(English Language Learners :ELLs)を扱い、またこのスピーチの次に行われたpersuasive speech ではアメリカにおける高等教育費高騰について話しました。

元々この授業には英語が母語である生徒用のクラスと非母語である留学生向けのクラスの2種類があるのですが、TAの忠告を振り切りネイティブ向けのクラスに登録した私は案の定クラスでただ一人のノンネイティブの学生で英語の即興スピーチなどではやはりほかの人たちに太刀打ちするのはなかなか厳しいものがあったのですが、先ほど触れたスピーチでは評価の重点が内容に置かれていたので、それならば自分も勝負出来るはずだとスピーチ原稿執筆のための調査はかなり頑張りました。そもそもそこまで評価の辛いクラスでもなかったのですが、それでも頑張りが多少は報われたのか良い評価をもらえた時は達成感があり嬉しかったです。

良いクラスメイトにも恵まれました。いつも隣の席で元気に話しかけてくれる子、独特のユーモアの持ち主で毎回クラスを奇妙な笑いに包んでくれる子、クールで皮肉屋でありながら実は面倒見が良い子、ジャイアンのような風格で(あくまで見た目です)クラスをまとめてくれる子。違うクラスに登録している友人の話曰くクラスによってだいぶ雰囲気も異なるようでしたが、私は運良く大変雰囲気の良いクラスに割り当てられ、のびのびとスピーチをすることが出来、それがこのクラスでの成長につながったのだと思っています。

 

<Elementary French 1 (FR101)>

こちらも一体感のある雰囲気の良いクラスに恵まれ、一度も欠席することなく受講しました。

日本で受けていたフランス語の授業が読み・書きに重点を置き、一通り文法事項を学習した後はひたすら仏文和訳という形式であったのとは対照的に、このクラスではとにかく聞く・話すということが重視されており新鮮でした。もちろん文法事項をきっちり勉強した方が効率がよいこともあると思うのですが、実用的なコミュニケーション能力を培うには、このような「習うより慣れろ」形式が有効なのかもしれないと思いました。

ただし、よく耳にする「日本の外国語教育は読み書き偏重でよくない」という批判に与するつもりはありません。先ほども述べた通り、文法事項を一から順序立てて学んだ方が長い目で見れば効率が良く、知識も継ぎはぎにならないという利点があり、一方でそれでは日常会話などの力はつきにくい。結局一長一短ということで、各人の必要に応じて(ビジネスなどで人と会話する場面が多いのか、あるいは研究職などについていて論文執筆のために読み・書きの力の方がより重要になってくるのか)採用すべき形式も変わってくるということにすぎないと思います。ただ、例えば日本における義務教育段階の英語教育といった話になると、基本的に全ての生徒に同じ形式で授業を行うことになると思うので、そういう状況において今の教育形態が適切なのか、どのような改善の方法があるかということに関してはもう少し考えてみたいと思いました。いずれにせよ、日本とはずいぶんと違う語学教育の現場に自分の身を置いたことは良い経験になりました。

 

<Foundation of Education (EPS201)>

アメリカ教育史を軸に公教育の意義や問題点、今後のあり方などを扱った授業です。とにかく教授がエネルギッシュな方で、大半が教育学部所属ということもあり学生のやる気も高く、行く度に刺激をもらえる授業でした(ただし、150人以上いる大講堂での授業で自分から発言することは結局出来ず、私がほかの学生に対し何か貢献することは達成出来ませんでした・・)。

課題もなかなかボリュームがあり、特にグループで取り組んだ中間試験(試験という名前ですが実際は通常の課題と大差ないものです)には苦戦しました。私は基本的に課題には個人で取り組む方が好きなので、そもそもいつ課題をやるかというタイミングがメンバー内でなかなかまとまらなかったり、それほど大きな意見の対立は生じなかったものの細かいところで考えが一致しなかったり、今まで避けてきた人との調整という作業をこなすのには相当の体力を要しましたが、非常に良い経験にはなったと思います。ほかの人と共に課題に取り組んでいると自分にはない視点を得られたり、自分の考えに対するフィードバックをもらうことで自分だけでは気付かなかった論理の穴に気付けたり、反論を展開する中でさらに自分の論理が強化されたりもしくは逆に自らの矛盾に気付いたりと、一人だけで課題に取り組んでいては得られないものがありました。もちろん、どこかしら妥協もしたものに自分の名前を書いて提出するということにはいまだ抵抗が消えないのですが・・。とはいえそれこそ大学を卒業して働き始めればチームとして何か成果を出すことを求められる場面が増えると思うので、限られた時間の中で出来るだけ多くの議論を重ね、協調しつつ自分も納得できるレベルまでものを作り上げるという場が今後もあれば、良い勉強だと捉えていきたいと考えています。

個人で提出するschool desegregation をテーマとする期末レポートでは、Lau vs. Nichols という、1970年代前半にサンフランシスコの公立小学校に通う中国系児童がバイリンガル教育の不備を主な理由として学校区を訴え、その後のバイリンガル教育を巡る議論の基礎を提供した有名な判決を扱いました。この判決に関しては以前英米法の授業でも少し学んだことがあったのですが、全て英文の資料を用い、当時の地方紙の記事なども参照しながらもう一度調べてみると、知らなかったことも数多く学べ、英語の資料へのアクセスが容易になっている現在の環境をあらためてありがたく感じました。

このレポート執筆を通して思ったのは、70年代当時からアメリカにおけるバイリンガル教育の状況は大幅に改善しているとは言い難く、いくら判決が出たところでそれはあくまで判決に過ぎない、司法の要求とそれを受けた制度設計側の真摯な取り組み及び現場の適切な対応、それら全てが揃わないと物事は変わらないということでした。司法の判断が実際社会問題に対しどれだけの実効力を持つのかということについては以前から関心があるので、今後自主的に教育に関わる判決を中心に勉強を続けてみたいと考えています。

この授業のディスカッションのクラスでは、各人が交代で議論の進行役を行います。私は、professionalization of teaching というテーマを設定し、教師の専門性を高めるにはどのような制度・方法が適切なのかということについて議論を行いました。日本でも教員免許取得の上で大学院修了を必須要件にするということが議論されていますが、果たして大学院教育は教員のレベルを上げることに本当に資するのか、リカレント教育の役割は、評価制度は適切か、といったことについて話し合い、教員志望者にとっては非常に身近な問題であるため、思っていた以上に議論が盛り上がり、45分間も場を持たせられるか様々なシナリオを予想しながらはらはらしていた私は胸をなでおろしました。

 

<Educational Psychology (EPSY201)>

「教科書に書いてあることを鵜呑みにせず、自分の目で確かめよう」という最初の授業での教授の言葉通り、学期を通して調査とその報告レポートの提出を続ける授業でした。調査自体は非常に簡単なものが多く、従ってやっていたことのレベルはそれほど高くもないのですが、受け身でひたすら授業で聞いたことを頭に叩き込むといった授業とは正反対で、レポートを書くのもなんだか中学校の時の理科の授業のようで楽しかったですし、実際に自分で確かめて納得するという作業の大切さを学んだ気がします。理論通りの結果が出ないこともしばしばでしたが、誤差の範囲だと乱暴にごまかすのではなく、なぜこのような結果になったのか原因を探るようにすることで、その過程を通しより教育心理というものに対する興味も高まりました。

特に印象に残っているのは、学期の最後に行ったテーマ自由設定での調査レポートです。私はほかの授業との関連もあり語学教育に関心があったため、第一外国語と第二外国語の学習に対するモチベーションの違いを探ることで語学学習の動機付けの方法について考察することを試みました。アンケート作成の方法に一定の制限がありとてもシンプルな設問しか作れなかったこと、また英語が母語か否かで外国語学習に対する姿勢が大きく変わるのではないか(今日では外国語学習≒英語学習のような状況が見られるからです)という予想を立てることなく、回答者の母語を尋ねることをしなかったことなどから、大変稚拙な内容のレポート(というよりは失敗報告書)になってしまいましたが、全て一から自分の手で好きなことを調べるのは思いの外面白いものでした。

 

【3.課外活動】

先述のJCTと教育学部学生団体のほかに、不定期ですが教育学部の学生と自主勉強会を作ってたまに一緒に勉強しています。それほどかっちりした集まりでもないので、時によっては教育と全く関係のない話(最近話題の映画のこと、もしくは誰かの恋愛相談など・・笑)をしていることもありますが、面白かった書籍や論文を共有したり、教育学部生向けのボランティアの情報を交換したり、TEDの教育関連の動画を一緒に見たり、授業の課題を相談しつつ進めたりと、私にとっては非常に有意義な場所になっています。正直、寮での人間関係はそれほど広くはなく、また授業にしても授業外でも定期的に会うような友人はそう多くは作れないので、この勉強会を今後も大切にしていきたいと思います。

寮で立ち上げた映画クラブは、今学期は参加者のリクエストに応えてひたすらアニメだったので(「時をかける少女」「風の谷のナウシカ」「借りぐらしのアリエッティ」「AKIRA」など)、もちろんアニメも好きですが、来学期は小津安二郎特集など、もう少し企画のようなものを行って、日本文化⇒アニメ、という多くのアメリカ人の頭の中にある思考回路を少しでも変えられたらと目論んでいます。

 

【4.感謝祭休暇】

感謝祭休暇中は、サンフランシスコを訪れました。当初はアラスカに行くつもりでガイドブックまで買い、オーロラを見るためにロッジの予約もしていたのですが、一緒に行こうと話していた友人の予定が急遽合わなくなり、車も運転できない自分が一人で行っても、しかもオフシーズンだし・・ということで西海岸に切り替えることにしました。

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かの有名なGolden Gate Bridgeです。ダウンタウンから自転車で行きました。

サンフランシスコの第一印象は、とにかく暖かい!!コートなしで歩けるなんて、日中でも氷点下のシャンペーンからしたら夢のようでした。また、アジア系住民の割合が高く日本食レストランも豊富にあったので、毎日何かしら日本食を食べていました。久しぶりに食べた焼き鳥、涙が出そうになるほどおいしかったです。

ゴールデンゲートブリッジまで自転車で行ったり、北米最大級と言われる中華街に行ったりと一通り観光らしいこともしましたが、特に予定を立てずのんびりぶらぶらしている日が多かったように思います。でも、そういうふうに過ごしていると、ガイドブックには載っていない細い路地にある素敵なレストランに行き着いたり、さびれた映画館を発見したり、また違う楽しさがあるのです。

感謝祭の翌日から、一度サンフランシスコを離れてヨセミテ国立公園を訪れました。カリフォルニアということもあり思っていたほど寒くもなく、豊かな大自然の中を一日中頭を空っぽにして歩き回り、良い気分転換になりました。写真は、お土産屋さんで運命の出会いを果たした鹿の女の子です。

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公園内ではあちらこちらでこのような壮大な自然の風景を目にすることが出来ます。

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お土産屋さんで運命の出会いを果たした鹿の女の子です。

【5.冬季休暇の予定】

冬季休暇中は、ニューヨークにある日系の通信社にてインターンをさせていただくことになりました。つい先日開始し、初日から私のパソコンに問題が見つかり皆様にご迷惑をおかけする事態となりましたが、なんとか1か月頑張りたいと思います。

教育に関心があるのに通信社?と思われたかたもいらっしゃるでしょうか。実は高校生の時から報道の道にも関心があり、短い期間ではありますが報道の現場の様子を実際に内部に入って自分の目で見てみたいと考え、今回のインターンに至りました。どの職業でも大変なことはつきものでしょうが、報道の世界は特に仕事が厳しいと聞くので、果たしてこの世界は全力を傾けることを厭わないと思えるものか、またそれとはまた別に自分に向いていそうなものか、といった将来の進路を考える上でのヒントをほんの少しでも得ることが出来ればと思います。

土日は自由時間になり、冬季休暇中にニューヨークを訪れる友人も何人かいるようなので、インターンをまず第一に頑張りつつ、楽しい時間も過ごしたいと思います。

 

今回の報告は以上とさせていただきます。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

田中洋子さんの2014年9月分奨学生レポート

JICの皆さま、ご無沙汰しております。また、このレポートを読んでくださっている方々は、はじめまして。現在第39期奨学生としてイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校に留学しております田中洋子と申します。

8月の下旬にこちらに到着してから、早いもので1か月以上が過ぎました。今回のレポートでは、留学の目標や新たな地での生活の様子、授業、課外活動などについてご報告させていただきたいと思います。

 

【留学の目標】

(1)教育について集中的に学ぶ

(2)迷ったらやってみるの精神でいろいろなことに挑戦する

の2つを大きな目標として掲げています。以下、もう少し詳しく説明を加えます。

 

(1)教育について集中的に学ぶ

私は日本の大学では法律を専攻しています。本当にいろいろと考えた末に法学部を選択し、それについて後悔はないのですが、将来は何かしら教育に関わる方面に進みたいと考えており、一度教育について時間をとって学びたいと思っていました。そこで、日本の大学で法律を勉強しながら教育学部の授業も受けるといったことをするよりも、グローバル化が進む中日本の大学も見習わねばならんと声高に賞賛されているアメリカの大学というものが実際どのようなものなのか自分自身の目で確かめてみたいという思いも手伝って、アメリカに留学して1年間しっかり教育について勉強してみようと思い立ちました。イリノイ大学を選んだ理由の一つも、教育学部のコースが充実していたからです。したがって、教育について集中的に学ぶというのは今回の留学の柱とも言えます(とは言え、後述の通り実際の時間割は教育学部の授業のみではありません。教育学部の科目に集中すべきかとも思ったのですが、勉強の手段は授業に出るだけではなく、自主的に図書館で見つけてきた本や論文を読んだりもしているので、自分の興味関心にしたがって選択した結果このような形になりました)。

 

(2)迷ったらやってみるの精神でいろいろなことに挑戦する

私がイリノイ大学にいられるのはたった9ヶ月という限られた時間です。日本であれば、運が良ければ「今年は出来なさそうだけど、来年やろう」と物事を先延ばしにすることも出来ますが、ここではそれは出来ません。私は、迷った末に何かをやらなかったせいで後悔をすることが嫌いなので、何か興味があることを見つけたらとりあえずやってみようと思っています。そうは言っても何かをやったせいで大後悔、ということも多々あるのですが、アメリカで失敗したところで大した傷にはならないはずですし、怖いと思っても、うまくいかなさそうだと思っても、挑戦することを大切にしたいです。

ではなぜいろいろなことに挑戦したいのか。それは、自分の中にある隠れた興味の引き出しを出来るだけ多く発見したいからです。私はまだ、自分が将来何をしたいのか確固たる答えが見つかっていません。そもそもそんなものいつまでたっても見つからず、とりあえずその時点で一番良いと思われる道を選んで、振り返った時に自分はやっぱり正しかったと思ったり、なぜあの道を選んだのか後悔したりするのが人生なのかもしれませんが、いずれにせよ何か選ぶときには選択肢が多ければ多いほど自分の下した結論に自信が持てるように思うのです。いつかはそれなりに自分の専門分野のようなものを選び、狭く深くそれを掘り下げる段階へと移っていくのでしょうが、今はまだ自分の幅を広げる段階だと思っているので、今回の留学を通して、自分の幅を広げる作業をしていければと考えています。

【生活の様子】

まず住居ですが、留学生用の奨学金の枠に応募してみたところ幸運なことに通ったためIllini Tower という場所に住むことになりました。タワーというだけあって16階建ての高層建築で、ここの10階に住んでいます。2部屋でキッチンやシャワーを共有するような形になっているのですが、ルームメイトは中国出身の工学専攻の1年生、向かいの部屋の学生は同じく中国出身のホテル経営を勉強する学生とシカゴ出身の中国系アメリカ人で保健衛生を専攻する学生で、2人も同様に1年生です。ここの寮は中国・韓国からの留学生がほかと比べて多いような気がします。

食堂もあるのですが、1週間に12食というプランになっているのと、毎日ピザやフライドポテトでは健康に悪いということで、部屋にある台所で自炊もしています。幸いなことに寮からバスでそれほど離れていない場所にアジアンスーパーがあるので、そこで日本食をたくさん仕入れることが出来ます。炊飯器も買ったので毎日白米を食べていますし、お味噌汁も作っているので、食生活は当初心配していたほどアメリカンにはなっていません。中華料理や日本食のお店も近くにあり、時々友達と食事をしに行っています。ただし、お店によって当たり外れが大きいので事前の情報収集が欠かせません。新しくラーメン屋さんが開店すると聞いて楽しみにしていたのですが、聞く人みんな「あそこはおいしくない」とのことでがっかりしています・・。矢部先生がシャンペーンにいらっしゃった時に私たち4人を連れて行ってくださったお店はどれもとてもおいしかったのですが、車がないと少々行きづらい場所にあるのが残念です。

 

車といえば、こちらの交通事情を少しご説明します。学生の基本的な移動手段は徒歩・バス・自転車で、車を持っている人はそれほど多くないように思います。バスは学生証があれば無料で乗ることが出来、それなりに頻繁に走っているのですが、休日や夜になると本数が減り、場合によっては次のバスを30分以上待たなければいけなかったりします。その点、自分の好きなタイミングで好きな場所に移動できる自転車はとても便利です。とても遠い場所でもなければ自転車の方がむしろバスより早く着けることもあるのではないかと思います。また、自転車を持ってバスに乗ることも可能です。

というわけでこちらに来て早速中古自転車を購入し快適な自転車生活を楽しみあちこち探検したりもしていたのですが・・なんと、先日盗まれてしまいました!!!!とっても悲しくて落ち込んでいます。ちゃんとU字の頑丈な鍵をかけていたのに。授業が終わって帰ろうと自転車置き場に行ったら、ない!あちこち探しましたが、やっぱりない。一応届け出はしましたが、返ってくる可能性は低いと思います。10月も終わりになると雪が降り始め4月頃まで自転車は使えなくなってしまうので、安くはない自転車を買い直す気にもなれず・・。短い自転車生活でした。

【授業】

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今学期登録している授業をご紹介します。

 

<Public Speaking (CMN101 –L2)>

いろいろな形式のスピーチの仕方を学んでいく授業です。日本では、授業でプレゼンをするなど人前で話す機会もそれなりにはあるもののスピーチに特化した授業はなかなかないですし、高校生の時に英語弁論大会に出場した経験があるのですが、その際は基本的に全て自己流でやってしまっていたため、スピーチのルールというものを一度きちんと学んでみたいと考え、この授業を受けることにしました。通常の授業と英語が母国語ではない学生用の授業の2種類があったのですが、せっかくならばネイティブスピーカーの学生たちにまじって授業を受けた方が学べることが多いだろうと思い、通常授業を選択しました。結果として英語が母国語ではないのはクラスで私一人だけで、ほかの授業とは異なりライティングで挽回したりする機会もなくとにかくうまく話すことが命、英語能力がものを言う授業でこのような環境にあることには少々緊張が伴いますが、ほかの学生たちのスピーチを聞いていると非常に良い英語の勉強になりますし、幼い頃から人前で意見を表明する場に何度も立たされてきたためかみんな話し方が堂々としていて、話す時の身振りもとても参考になり、やはり通常授業を選択しておいて正解だったと思っています。

教科書に沿ってスピーチの方法について講義を受ける回と実際にクラスメイトの前でスピーチをする回が交互に組まれており、今のところ、ことわざを交えた自己紹介とdemonstration speechの2回を終えました。2回目のスピーチの際は、日本文化を紹介する良い機会だと思い、折り紙、浴衣の着方、お味噌汁の作り方、などいろいろと候補を考えたのですが、最終的に日本から持ってきていたけん玉を紹介することにしました。全員に本物のけん玉を用意するのは難しかったので、前日にスーパーで買ったプラスチックのコップとアルミホイル、ひもで作った簡易けん玉を配りました。アメリカ人学生は全員けん玉を見たことも聞いたこともなかったようで、自分のスピーチを通して彼らの知らない日本文化を一つ広めることが出来て嬉しかったです。

 

<Elementary French 1 (FR101)>

最初はアメリカに来てまで外国語の授業を取るつもりはなかったのですが、講読が中心の日本の外国語教育と比較してアメリカでは聞く・話す能力により重点が置かれているという話をよく耳にしていたので、実際にどうなのか体験してみるのも面白そうだと思い、大学1・2年生の時に履修していたフランス語を再度勉強してみることにしました。

確かに授業では聞く・話すことが圧倒的に重視されています。まず文法が説明され、あとは文章の和訳をひたすらするという授業を受けてきた私にとっては、文法の説明は最低限で、会話の中で各自段々と理解を深めていくような形式の授業は新鮮でした。主語がこれで、動詞がこの位置に来て、形容詞が・・と文法にあてはめて考えるのではなく、フレーズごととにかくまず覚えさせられるのです。なぜ「私は日本人です」がJe suis japonaise. なのかは細かく説明されず、Je suis~で「~人です」と言うことが出来る、と教えられます。フランス語に似ている英語話者であれば感覚的に分かるためこのような形式が取られているのかもしれませんが、このような日本とはずいぶん違った外国語教授法は、グローバル化に応じた英語能力養成が叫ばれ、英語を英語で教えるなど教授方法に関しても議論が生じている日本における英語教育を考える上で一つの参考になるように思います。

 

<Foundation of Education (EPS201)>

今学期履修している授業の中で一番好きな授業です。アメリカ教育史から派生したような授業で、公教育とはそもそも何か、なぜ必要なのか、公教育制度はどのような問題を抱えているか、といったテーマについてアメリカにおける公教育制度の成立過程をなぞりながら考えていく内容です。人種隔離政策を巡る裁判については日本で受けていた法学部の授業の内容とも重なる部分がありましたが、似た内容を学ぶにしても韓国系アメリカ人である教授ご自身のほかにも祖父母から実際に人種差別の話を聞いたことがある学生が少なからずおり、そうした人たちの話に耳を傾けていると問題に対する距離感がより近く感じられます。

教授がとてもエネルギッシュで熱気に満ちた授業をされる方で、どんどん学生に意見も尋ねるため、100人以上いる大教室での授業ではありますが非常に双方向的な内容になっています。また、履修している学生の大半は教育学部生であるためやる気のある人が多く、授業中に展開される高度な議論にはいつも刺激を受けています。

この授業は、週2回の講義と週1回のディスカッションがセットになっており、ディスカッションのクラスでは学生が持ち回りで授業と関連するテーマを設定し議論の司会を務めます。段々と英語を聞き取ることにも慣れ、TAやほかの学生が言っていることは大体理解できるようになってきたものの、まだ英語で考えながら同時に話すということがなかなか出来ず、つい日本語で浮かんできてしまう考えを一度頭の中で英語の意見にまとめ直す作業をしているとどうしても議論に遅れ、意見を言おうとした瞬間に議論のテーマが次に移ってしまうなど悔しい思いもしていますが、毎回興味のあるテーマで議論が出来るので50分の授業が本当にあっという間です。元々20人のクラスにいたのですが、少しでも発言の機会が増えるようにと思い5人しかいないクラスに移ってきたので、今後は議論をリードできるくらい頑張りたいと思っています。

また、私が日本からの留学生ということから扱ったテーマに関して日本の状況を尋ねられる場面が度々あり、うまく答えられないと恥ずかしいので聞かれそうな事柄を予習して授業に臨んでいるのですが、日米比較によって自分の意見もより深まり、とても良い勉強の機会となっています。

来月後半の自分が司会を務める回では、アメリカの英語教育政策のあり方について70年代カリフォルニアで起きた裁判に基づいて議論をすることを考えています。

 

<Educational Psychology (EPSY201)>

科目名の通り、教育心理の授業で、Foundation of Educationに劣らず教授が教育熱心な方です。同じ教授のゼミに入りたかったのですが、相談させていただいたところ、まずはこの授業で基礎を学んでからにすべきだとの指示を受けたためゼミは来学期に回して今学期はこちらを履修することにしました。

教育心理学の基礎を学んでいるのですが、とにかく実践につなげることに重きが置かれており、新たな理論を学ぶとすぐにそれを実際の教室でどのように生かすことが出来るかについて話し合いをさせられます。教科書を読んでその内容についてテストをするだけでは教科書の内容をいかに理解しそれを解答用紙の上で再現できるかということが重要になりますが、ここでは習った内容をいかに活用できるかということが大切にされているのです。

また、理論を学ぶ際も出来るだけ学生が実際の体験を伴いながら学べるように工夫がされています。例えば、ピアジェの思考発達段階説を扱った際には実際に5歳・8歳・12歳の子どもを教室に連れてきて私たちの目の前で実験を行ってくれました。ピアジェの説通りになった部分もあればそうではなかった部分もあり、教科書を読んでいるだけでは学べないことを知ることが出来、興味深かったです。

この授業も講義とディスカッションがセットになっており、近々ディスカッションのクラスの人たちとグループで受ける試験があります。何を参照してもよく、時間内に提出すればどこに行くのも自由という形式の試験で、今までこのような種類の試験を受けたことがないのでグループにきちんと貢献できるか不安である反面、とても楽しみにしています。

 

10月の後半からは、Career Theory and Practice という教育学部の集中講義が始まる予定です。また、ディスカッションがほかのクラスと被ってしまい登録できなかった授業の講義だけをこっそり聞きに行ったりもしています。

最後に教育学部の特徴ですが、とにかく女子が多い!新学期に新入生の写真撮影に行ったところ、ざっと見渡す限り女子は100人以上、男子はわずか4人という男女比で、ここまで偏るものなのかと驚きました。また教員志望の学生の割合の高さも特筆に値します。日本の大学では教育学部はあったものの教員志望の学生はかなり少なかったので、教員を目指すほかの大勢の学生と共に勉強出来る環境はとても良い刺激になります。

 

【課外活動】

教育学部所属の学生団体に2つ入りました。どちらも規模の大きい団体なので、どれだけ活動に参加するかはともかく、教育学部の学生の多くがとりあえず登録だけはしているようです。それぞれ2週間に一度部会を開いており、日にちが被らないようになっているので、どちらか一方に絞る必要性も特に感じなかったこともあり双方の部会に顔を出しています。部会では今後のボランティア活動の説明や近々予定されている教育関連のイベントの情報共有のほか、付近の学校で働かれている先生をお呼びしてお話を伺ったりしています。教員志望の学生がほとんどなので本当にみんな一心にメモを取りながら聞いていて、質疑応答も毎回かなり盛り上がっています。私自身は中学校と高校の教員免許を取得するつもりなのですが、小学校の先生のお話も興味深く伺っており、特に英語が母語ではない児童への接し方や学校で起こる文化的軋轢に関する苦労について実際に現場に立たれている方からお話を伺った際は内容が面白く、手を挙げて質問もしました。

また、部会のほかに不定期でイベントも開かれています。先日は”Waiting for ‘Superman’ “ という、様々な事情からチャータースクールへの入学を希望する親子の姿を追いながらアメリカの教育制度に対し問題提起していくというドキュメンタリー映画の上映会があり、日本にいた時は知らなかったチャータースクールに関する知識を得られたと同時に、上映後にあったディスカッションを通して教育機会の平等・質の担保といった問題についてほかの学生と意見を交わすことが出来、有意義な時間となりました。

 

Japanese Conversation Table (JCT)という、日本語を学ぶ学生の集まりにも参加しています。毎週金曜日に集まって日本語で会話することを通して日本語の上達を図るというのが趣旨のようですが、私にとっては「日本語ではこういう表現をするけれど英語ではどう?」と尋ねることで生きた英語表現を学ぶ機会にもなっています。練習の後は大抵みんなでごはんを食べに行くのですが、ここでは英語で話している人が多いので、日常会話の良い練習になります。ここで学んだ学生がよく使うスラングをほかの場面で使ってみて周りの人たちの反応を見るのも楽しいです。日常会話を勉強する方法はいくつかあると思いますが、せっかくこういう環境にいるので、どんどん積極的にネイティブスピーカーの自然な会話の中に飛び込むのがよいのではないかと考えています。

 

最後に、私が寮で作った映画クラブについてご紹介します。私はすごく映画が好きで、アメリカでも映画を通して日本に興味を持ってくれる人を増やせたらと思っていたのですが、ある日寮の同じ階の人たちと一緒にごはんを食べていたら、二人とも日本のアニメが好きだということが判明し、しかも寮の地下に大きなスクリーンのある映画室があることを教えてくれました。そこで近くのお店で「時をかける少女」を借りてきて上映会を開いてみたところ、これが予想以上にたくさん人も集まり好評で、せっかくならば活動は不定期でもいいからグループを作ろうと考え、Illini Tower Movie Society というグループを作ってしまいました。今のところ3回の上映会を行い、メンバーはIllini Tower 以外に住む学生も含めて20人近くいるというような状況です。次回はジブリ作品のどれかを上映しようと考えているところです。

 

 

今回のご報告は以上になります。段々と寒くなってきて、氷点下20~30℃と聞く冬の訪れに戦々恐々としていますが、次回も充実した内容をご報告できるよう、また日々頑張っていきたいと思います。読んでくださった皆さま、どうもありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

*写真説明

・台所の戸棚の中身です。日本の家の戸棚とあまり変わらないくらい日本食を常備しています。

・授業で使用している教科書の一部です。アメリカの教科書は日本のものと比べて分厚くて値段が高いです。どうしても新品しか手に入らない場合は仕方ありませんが、出来るだけ中古の安いものを買うようにしました。

・文章中には出てきませんが、大学のスタジアムの様子です。キャンパス内にこんなに大きな施設があるなんて驚きです。学期中に一度アメフトの試合を観に行くつもりです。