2008年度奨学生レポート(椿 晴香)

JICの皆さま、日本では年度変わりのお忙しい頃と存じますがいかがお過ごしでしょうか。研究室の4℃の冷蔵室に入った時に暖かく感じたほど外が寒かった1月からあっという間に花が咲き始め、3月も終わりになってしまいました。帰国後の計画を本格的に考えなくてはならなかったり、春休みはどうするの?に加えて、学期が終わったらどうするの?という会話が出てき始めたりと、残り時間を意識するようになりました。今回は留学期間もまだ半分あると思っていた春学期前半から春休みまでのできごとをご報告致します。

☆授業

春学期の授業も半ばを過ぎました。今学期はGEOL 333 Earth Material and Environment、GER 101 Beginning German 1、GER 199 Undergraduate Open Seminar (German Choir)、CPSC 483 Outreach Education Skills、NRES 487 Soil Chemistry、HIST 142 Western Civilization since 1660を履修しています。週1回2時間しかないクラスも二つあり、科目数の見た目よりはコマの数は少ないのですが、研究室での作業も引き続き続けているためなかなか忙しくなってしまいました。さらに、高学年向けの授業が多くなり、西洋史の講義以外は6~20人程度の少人数クラスになったため、毎週の小テストがマーク式でなく記述になったり、各先生方が名前で学生を覚えて下さったりと、真面目に取り組まざるを得ない環境になったので、ますます大変です。

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復学後は研究に没頭することになると思うと事実上最後の学部の授業になるので、専門の科目やイリノイで深めたいと思った土壌学の他に、日本の大学の教養課程の時に学びきれていなかったものを学びたいと、ドイツ語をやり直し、近現代史を履修することにしました。特に、西洋史の授業は20世紀世界史が面白いという旧友の勧めだけでなく、11月の大統領選の時に研究室の先輩と日本の人はアメリカのことが嫌いなのかしら、という話をしたことがありアメリカ人の歴史観に触れてみたいという意図がありました。中間試験も終わったにも関わらず慣れない科目もありますが、どこか発見があり考えさせられる授業は面白いです。

忙しい中、息抜きになっているのがGerman Choirです。これは正式な科目の一つとして加わったのですが大学生のメンバーは私一人、他は社会人で合唱のベテランの方々ばかりでした。しかし、たった一人の学生でしかもアジア人の私を温かく迎えてくださいました。このメンバーの良いところは、お子さんの就職状況などの話が出てくるなど大学生との会話ではわからない社会情勢が少し見えるところです。高校まで音楽が比較的盛んな学校に通っていたため、ドイツ語だけでなくラテン語の宗教曲が出てきても幸いにしてそう困らず、初めての混声合唱を純粋に楽しんでいます。2時間のまとまった練習も英語での歌の指導も経験がなかったので慣れるまでは少し戸惑いましたが、大きな声でソプラノの高い音を歌うと気分がすっきりします。4月末の発表会を楽しみに練習しています。

☆新学期徒然

春学期が始まり、1月後半はこれもまた体験と思いつつ、どういうわけだか娯楽の多い日々を過ごしました。Super Ball(アメリカンフットボールの年1回の大きな試合)をテレビで見ながらトランプをするパーティーをし、アカデミー賞発表の前だからか今までにないほど友人たちに誘われて1月だけで4回(そのうち冬休み後の2週間で3本)映画を見るなど。この間に見た映画の一つ『Yes Man』には、留学を希望する前から今までの自分の姿勢を振り返させられました。どんな機会も逃さずとりあえず「Yes」と答え、いろいろなことに挑戦することが果たして最もよいことなのか。もちろん、私の場合はそんな主人公とは異なり自分なりに考えた上で選んできたことですが、「挑戦」と「無難な道」との間の選択で、後悔していないかどうか。高校時代に芸術家の岡本太郎さんの言葉を聞きました。「私は、人生の岐路に立った時、いつも困難なほうの道を選んできた。」、そして「危険だ、という道は必ず、自分の行きたい道なのだ」と。結論は留学期間が終わるまで持ち越しかもしれませんが、この冬は改めて今までの選択を振り返る時となりました。

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日本で言うところの四月病(新学期にやる気になりすぎること)、五月病でもないでしょうに、1月末から2月前半は何となく憂鬱な日々になってしまいました。きれいですらあった雪は数日の南風で融け、道は水浸し。雪どけ水は地球をめぐる水循環の大切な一要素とは思えど、実際に体験するとちっとも気持ちのよいものではありません。また、日本の同級生たちは卒業論文を仕上げて春には次の道を歩もうとしているときに私はまだ授業を受けるのみの学部生。それでも精一杯学ぼうと楽しみにしていた時間割なのにどこか日本で聞いた話ばかりで充実感がなく、イリノイに来てもう半年になるのに未だに先生やTAの英語が日によってはさっぱりわからず、やはり日本で勉強をつづけた方がよかったかと思うことさえありました。アメリカ風バレンタインデーについて話していた人たちにはたまたまアメリカ人留学生に関わらず家族と同居している人が目立ち、親族が恋しくもなりました。一時帰国をさえ考えましたが授業や宿題を休まずに帰省するのは難しく断念せざるを得ませんでした。そんな時に構内でばったり同期奨学生の本間さんに会いました。忙しい中、昼食がてら日本語でのおしゃべりにつきあってくれ、それだけで気分が随分変わりました。心からありがたかったです。親しい人との日本語での会話が、こんなにも助けになるとは想像だにしていませんでした。新たに日本人の友人を増やすほど社交的でもない私にとっての数少ない仲間、JICの仲間と一緒に留学していて本当によかったです。

その後は雪のなく汚らしい景色にも授業にも慣れ、落ち着いた日々を過ごすことができました。日本で習得した偏光顕微鏡を使って岩石を鑑定する実習も、またかとつまらなく思うのではなく、ペアの子がわからないと言った瞬間に英語で説明できると快感、私でなく後ろの子に聞き始めると、もっと上手い説明はないかと考えるなど、前向きに考えることができるようにもなりました。ちょうどこの頃から、言語学専攻でドイツ語と日本語ができるかねてからの友だちと3カ国語でおしゃべりをするようになり、他愛もない談笑が何とも楽しかったです。悩みは絶えそうにありませんが、自分で選んだ留学という無難ではない選択肢を楽しんで過ごすことができたらと思います。JICの方々を初め、たくさんの人たちのお世話になっているということも励みにし、日々を大切に生きていきたいです。

☆課外活動

今学期も寮のMA(Multicultural Advocate)さんやRA(Resident Assistant)さんが各種イベントを主催しています。彼女たちの人格によるところも多いのですが、私と年齢が近いこともあり日ごろから親しくしているので、都合がつく限り参加してみました。参加者はあまり多くなかったのですが、小正月のお祝いやダンス教室(写真Busey3)はよい気晴らしになりました。

土曜日には隔週で地元のUrbana Park Districtが自然公園の整備のボランティアを募集しています。もとからそのような活動が好きだったのと11月に参加して楽しかったため、宿題や試験勉強が少ない日には行くことにしました。作業中の気温が華氏10度台(摂氏-10℃ほど)のような寒すぎる日には中止になりましたが、0℃前後の日に外で2時間働くのは楽とは言えません。体を動かすとはいえ、息が切れるほどは動かないので。しかし、地元の自然のことを知り外来種駆除に少しでも加わる機会があるのは、一般の住民にとってもよいことだと思いました。2月に参加したときには草原にもともと生えていない種類の木を公園の係の人が切り、私たちボランティアは切り出した丸太をひたすら運びました。次の整備の時に野焼をするとのことでした。(写真:Weaver Park)

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春休みには、冬休みにも参加したAlternative Spring Breakという団体でオハイオ州のエリー湖の畔にある公園整備のボランティア旅行に参加しました。公園整備ということだったので上記のUrbanaの活動の拡大版かと想像していましたが、実際はスキー場の貸靴の片づけ・ビジターセンターの部屋の模様替え・砂浜の流木を取り除くなどレクリエーション施設の整備が主な仕事でした。その他には農場で果樹園の剪定のお手伝いが私にとってはアメリカでの初の農作業で新鮮でした。イリノイとあまり変わらず外仕事がつらい気温ではありませんでしたが、終日となると大仕事をした気分になりました。しかし、フリスビーのコースを新設するための試行と称して半日は実質遊んでいたり、仕事後に森に連れて行って下さったり、掃除をした湖で貸しカヤックを無料で使わせてくださったり(写真:Lake Erie)、半日の休みには近くのCleveland観光に行ったりと、気候のよいところや実家に遊びの旅行に行った学生たちをうらやましく思わないほど遊ぶ時間もありました。

このボランティアは普段の大学生活では知りあわないような学生に出会えることが大きな魅力です。アメリカ人と寝食を共にする点は、ルームメイトと暮らす日々と大して変わりませんが、一緒に活動をすることで今までのアメリカ人に対するイメージが少し変わりました。女子寮で暮らし、冬休みの旅行も女子ばかりだったのに対し、今回は男子学生も多かったこともあるかもしれません。私にはとても真似のできない人格者なのに身だしなみもお行儀も日本の知り合いと比べてまるでなっていない人がいるかと思えば、普段は愉快なのに公園のベンチに土足で上がってはいけないと思うと真顔で言う人がいるなど。適当な人ばかりではないことがわかりました。

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この2ケ月の活動のどれも、日本で忙しい大学生活をしていた頃にはできなかったことばかりで、授業以外のことにもこれだけ精を出すことができるのは幸せなことだと思います。残りの1ヶ月は、最終発表ラッシュで、学業中心の日々になりそうです。ぼんやりしているとあっという間に過ぎ去ってしまいそうな短い間ですが、やり足りないことに挑戦し有終の美と言えるようなひと月にしていきたいです。JICの方々、また他の関係者の方々、引き続きお世話になりますがよろしくお願いいたします。

東京大学理学部地球惑星環境学科4年 椿晴香

写真解説
1、Quadの小型除雪車です。
2、Busey Hall(寮)の3階の住人たちでダンス教室に行きました。
3、Weaver Parkです。球戯場として開発する計画もありましたが、遊水池にもなる公園として保存することにしたそうです。
4、ASBのメンバーとエリー湖でカヤックに乗りました。私は中央寄りの黄色のボートに乗っています。

2008年度奨学生レポート(椿 晴香)

JICの皆様、日本は例年より少し暖かいと言われているようですが、それでも寒い季節、いかがお過ごしでしょうか。前回のレポートから数カ月経ち、イリノイでの生活がすっかりしみついてしまいました。毎日のように氷点下の世界で、考えてみると決して過ごしやすい土地ではないのですが、冬休みの間イリノイを離れシカゴの空港に戻ってきて寒い空気に触れたとき、何とも懐かしい気持ちになった自分に気づきました。授業の教室がどこか出先の建物の一室のように感じていた初秋にはここまでの感情の変化がは想像していませんでした。きっかけは最初の2ケ月にあったのだと思いますが、いろいろなことが起こったその後の3か月ほどの一部をご報告いたします。

☆研究室
Department of Plant Biologyはじめ、イリノイ大学の多くの学科には学部生対象に研究室に所属して研究の過程を体験するというシステムがあります。専攻によっては日本の大学の卒論にあたる研究がないようで、学部生のうちに研究室に入ることはあまりないため、Undergraduate researchの経験は大学院進学の時に有利とされています。私の入れていただいた研究室では4~5人の学部生が大学院生の研究の分析補助をしています。日本で卒論のための研究室を選ぶ前に休学してイリノイに来たため比較はあまりできませんが、朝は8時前から始まり夕方は4~6時頃には帰宅という研究スタイルは良いなと思いました。日本ではともすると夜遅くまで残っていることが美徳とされがちなのに対し、とても健康的です。私は授業が半日ない曜日にまとめて週12時間ほどを研究室で過ごしています。帰国後自分の研究を始めたときに、ここで身につけた試料の処理法がそっくりそのまま役に立つことはありませんが、一つ一つの試料を丁寧に扱うことは共通していますし、データとして見るだけでは思いもよらない地道な作業が研究の裏にはあることを実感しました。

研究自体も面白いのですが、広い大学の中で学問的興味が近い研究室メンバーと知り合えたことも大きな収穫です。バーベキューや先生のお宅でのパーティーもあり、料理を持ち寄り、普段はそれほどできない会話をし、楽しい時間を共有できました。PhDの学生にとって将来家庭を持ったらどう研究と両立させるか、配偶者の就職先によって研究場所をどうするかなど日本と変わらない悩みがここにもあるのだなと、考えさせられました。何より助かったのは、自分の興味に即した研究室を選んだため、関連する授業でレポート課題が出たときに、英語のチェックをしていただけたことでした。初めの頃こそ長時間の分析に疲れてしまうこともありましたが、気さくな方ばかりで今では大切な居場所になっています。

☆Crazy fish lover lives here.
10月のある日、いつものように授業後に研究室で試料袋をならべて測定準備をしていたところ、研究室に隣接するResearch Assistantさんの部屋(office)からかん高い声が聞こえてきました。彼女はそこで飼っている魚にそのように語りかけてかわいがっています。その日はそれがいつも以上に長く、ついに一緒にいた学部生がofficeのドアに何やら貼り紙をしました。何だろうと思って顔をあげると、「Crazy fish lover lives here.」と。思わず吹き出し、さらに「We have to warn people.」などと言うもので、笑いが止まりませんでした。

箸が転がっても可笑しいと言われる年頃が過ぎても日本にいたときはよく笑っていたのに、イリノイに来てからその日までは笑うことがほとんどありませんでした。アメリカ人の学生たちは友達同士で談笑していましたし、Illini Unionで開かれたコメディショーでは一緒にいた他の人は笑っていたので、大学内に面白いことが全くないわけではないのです。それにも関らず楽しめなかったのは、リスニングは得意な方だと思っていたもののコメディーはスラングも多く、学生同士のおしゃべりでたまに聞き取れたことが下品なことだったりするとそれ以上聞きとる気力を無くしてしまったためかと思います。毎日のあいさつやThank you!は笑顔でと心がけていたのでほほ笑むことはありましたし面白い授業はあったのですが、心から笑える体験がありませんでした。

それが、Crazy fish loverの一件の後、何となく気が軽くなりました。リスニング力が多少向上したこともあったのでしょうか。じっくり聞いていると、周りの人たちが実に面白いことを話しているのがわかり、一緒に笑えるようになりました。以前のように思い出し笑いをすることもあり、精神的に余裕が出てきたのを自覚しました。ふと、大学に着いた最初の日のオリエンテーションで、外国に行き異文化に接したときには、初めは「あばたもえくぼ」と夢見心地で受け入れるものの、次第に憂鬱になり、紆余曲折を経たのち最後には自分の新しい故郷と感じる、という段階を経ると聞いたことを思い出しました。早く故郷と思える段階になるには周りの人との関わりが大切だとのことでした。ちょうど遊びに誘われる時間が研究室の時間と重なることが多く、なかなか寮の友だちとの時間がとれていませんでしたが、学年も近い研究室の人たちとのつながりが私にとって大きな意味を持っていたのだなと、学術的なメリットしか考えていなかった研究室の意外な面を発見することができました。

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☆日本館
今年は大学にある日本館が設立10周年にあたり、10月の最後の週末には記念行事が開かれました。そこで、友だちを誘ってお茶会や飴細工、手品を見に行きました。日本庭園や和室を見て、飾ってある額には何と書いてあるか、お茶の時には何をしているところなのかをできる範囲で彼らに説明しました。ただ、お茶は10年くらいぶりでかすかな記憶しかなく、日本紹介の使節としてではなく理系の学部生としてアメリカに行くのだから新たに日本文化の知識をつけて行かなくてもよいだろうと、日本にいる間にあまり勉強していかなかったのを少し後悔しました。それでも、面白いわと言ってくれ、私自身も久しぶりに日本文化を楽しむことができました。夕方にはピクニックがありました。JICの方々数名にもお会いして励ましのお言葉を頂き、改めて多くの方々のお世話になってイリノイに来ることができたことを実感しました。普段の生活では日本人と会うことはほとんどなく、主に自分のパソコンや書物でしか日本語にも触れない環境で2か月以上暮らしてきた後のことだったため、きちんと日本語でご挨拶ができるかさえ心配でした。実際は流石にそんなことはなく、この週末を機に日本出身であること、日本からたくさんのサポートを頂いていることを感謝する、よい機会となりました。後にアジア系アメリカ人の友だちとどうして中国館・韓国館はないのだろうという話になったときには文化交流のための日本館があることを誇りに思い、また設立・維持に関わっておられる方々に感謝の念でいっぱいになりました。

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☆Thanksgiving break
11月の最終週、丸一週間の休みがありました。多くの科目でここぞと宿題が出、また期末試験も近かったので寮が閉まっても自宅に帰省して勉強したいだけできるアメリカ人が少しうらやましかったです。しかし叶わぬこと、みんなができないことをしたいと思い、ちょうど国立公園の植物・自然についての課題が出ていたので気候のよいフロリダ南端にあるBig Cypress National Preserveを選び、現地へ観察に行くことにしました。出身の関東にもイリノイ中部にもない熱帯と温帯の植物が両方見られ、文献だけではわからないことを見つけることもできました。結局この課題は同じ科目の以前のレポート課題ほど好成績ではなかったのは残念でしたが、読んでいただいた研究室の先輩は褒めてくださり、専門外だった湿地の生態学や植物学の専門書も読み漁り、楽しいレポート作成になりました。

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感謝祭の直前にイリノイに戻り、その後は教会の勉強会で知り合った方のお宅に泊めていただきました。そのお宅で感謝祭の食事は食べられなくなるまで食べる食事だと聞き、そんな食事が日本にはあるかと聞かれました。いつもとは違うごちそうをたくさん味わうのはお正月ではないかと答えました。家族で祝う祝日であること、翌日にはセールがあることも似ていると思いました。そして、そのような大切なお祝いに私を交えてくださったのは本当にありがたいことでした。

休み明けは国立公園の課題含め二つの学期末のレポートとその口頭発表に続き期末試験もあり、大変慌ただしくなりました。この頃から本格的に雪が降り始め、過ごしにくくなったもののきれいな雪景色は眺めるだけで気晴らしになりました。

☆冬休み
前半2週間ほど親戚もいる西海岸で過ごしたのち、冬休み最後の1週間はYMCA内の団体であるASB (Alternative Spring Break)の主催するボランティア旅行に参加しました。行先は昨年度の八尾さんと偶然同じく、テキサス南部にあるメキシコからの移民のための施設です。多くの人が農業に従事しているということで関心を持ち選んだ行先でしたが、旅行前の班ごとの勉強会で日本の農村とその抱える問題とは異なることがわかりました。不当な労働条件のため低所得で、アメリカ国内で最も貧しい地域の一つにあたり、非舗装の公道、トレーラーや小屋のような住宅は衝撃的でした。普通の大学生活では感じることのない移民問題や貧困を目の当たりにし、施設の方に言われるまでもなくアメリカの皆で考えていかなければならない問題であることを実感しました。

また、このボランティアを通して多くの人との出会いがありました。メンバー11人中10人が女性ということもあり、11月頃から週1回あったミーティングや募金活動に始まりシャンペーンから24時間近いドライブと現地での6日間で仲を深め、今後も親しくしたい友人に出会うことができました。現地では施設で働いている方と、まだまだなのという英語と私の本当に片言のスペイン語とでお話し、交流もできました。他のアメリカ人のメンバーが施設の人たちとなかなか打ち解けられないと言う一方、私は英語のわからないつらさから共感できたのは皮肉なことですが、よかったのかなと思いました。しかし、今度来るときはスペイン語がもう少しできるようになっているね、とも言われ予備知識全般ともども勉強不足だったことを後悔しました。

昨年度と同じくウィスコンシンとアイオアからの大学生も同じ時期にボランティアに来ていました。グループの皆とも言い合っていたことですが、アルコール禁止で少なめの予算で自炊をするイリノイのASBはボランティア活動に専念できるよい団体だと思います。寮の掲示や留学生オフィスからのメールでもお知らせがありましたので、来年度以降来られる方々で関心をお持ちの方はぜひ参加なさることをおすすめします。

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ここには書ききれないくらい他にも授業内外でイリノイでしかできない様々な体験がありましたが早いもので、留学生活も後半に入りました。1月19・20日とMartin Luther King Jr.誕生日と初の黒人大統領就任式が続き、世の中も変わりつつあります。この歴史的な瞬間にアメリカにいることができること、ただ滞在しているだけではなくイリノイ大学という素敵な環境で学ぶことができることを感謝しつつ、私自身もまた成長して変わることができるように、今学期も精一杯頑張ります。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

東京大学理学部地球惑星環境学科4年 椿晴香

(写真1:SouthQuad…10月24日にしてもう紅葉)
(写真2:Research farm:10月末に交換留学生対象で大学の牧場の見学に行きました。胃の中を研究するための穴に腕を入れさせてもらったところ。)
(写真3:Florida…カヌーでマングローブの中に入ったところ)
(写真4:SanJuan:メキシコ移民の人たちの住んでいる地域)

2008年度奨学生レポート(椿 晴香)

東京大学理学部地球惑星環境学科4年 椿晴香

JICの皆様、日本も少しずつ秋らしくなったところと存じますが、いかがお過ごしでしょうか。早いもので、私たちが日本を経ってからもうすぐ二ケ月になります。初めの数日こそ家族や友人との別れが寂しくこれからの一年の長さに圧倒されていましたが、その後は毎日のreading課題に追われてあたふたと過ごしてきた二月でした。入寮した日に寮のRA (resident assistant)さんに、授業が始まると家が恋しくなっている場合ではなくなると言われ、その時は信じられませんでしたがその通りでした。後に述べます研究室での分析済み試料が箱の中でだんだん増えていく様子、また周りのトウモロコシ・大豆畑が着いたころにはまだ青々としていたのが今日通りがかった時には刈り取りが始まっていたことを見ると月日の経ったのを感じます。考えてみると留学期間のほぼ五分の一が過ぎてしまったことになりますが、早かった二月の間にもおかげさまで様々な経験をすることができましたので、その一部を報告させていただきたいと思います。

 

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<授業>

 

総会等でも申し上げましたが、一年間の留学期間中には大学で今まで学んできた地学の知識を生かして、地球上に住んでいる生物や表面を覆う土壌と地球そのものとの化学的な相互作用(生物地球化学)について学び、地球環境への理解を深めることが目標です。その分野が進んでいるアメリカ、特に農業が盛んなイリノイで土壌の勉強ができて恵まれているとこちらに来て改めて思います。そこで今学期は地学から生物地球化学への移行期間として、農学が専門でない人向けのNRES 201 Introductory Soilsと植物科学が専門でない人向けの環境科学IB 102 Plants, People and EnvironmentGEOL481 Earth System Modeling、その他に専門の地学GEOL 110 Exploring Geology in the FieldwritingESL 114を履修することにしました。研究室の単位を含めると上限の18単位ぴったりとなり、忙しくはなりましたが100200番台を中心にしたこともあり無理なく、また知的に満足のいく時間割になっています。

 

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授業形式としては、初めの二科目は典型的な教養学部の理系科目のようで、講義と実習からなるものです。東京大学での始めの二年間も教養学部所属でしたが、実習と講義が組になっている科目はほぼありませんでした。週一回ずつの授業が多かった中では時間割として難しいのかもしれませんがいイリノイ大学でのこの形式は素晴らしいと思いました。土壌の授業で習ったことをその週のうちに確かめる実験のコマ(laboratory)、環境問題の授業では50分の授業中にも隣の人と話し合う時間が与えられる他により詳しく議論を深め実物を見て考える週2時間のdiscussionのコマは、講義とは別に課題もあり大変ですが楽しみな時間です。理系科目で机上の学習だけでは十分に身につけられないことをこのように、しかも二十~三十人という比較的少人数で経験できると英語が多少分からなくても知識として定着しやすくなるように感じます。これらの実習では主に大学院生がTAとして担当しています。年が近いため、実習課題以外に講義のフォローや次の小テスト範囲の要点を教えてもらえるというのも学部生にとっては勉強しやすい環境だと思います。特に、初めはとても不安だったので恥ずかしながら、留学生でdiscussionのときにあまり英語がわからないことがあるかもしれませんが頑張りますと言いに行きまた授業後に質問に行ったため、覚えてもらえたのかその後は声をかけてもらえたなど、TAの方と親しくなることで実習により参加しやすくなりました。

 

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意図していなかったことでしたが、これらの授業を通してイリノイの地理・自然史に詳しくなることができました。およそ二百万年前にこの辺りは氷河で覆われており、氷河によって昔はあった山や丘が削られて今のような平坦な地形になったこと、同時に肥沃な土壌が運ばれてきたこと、その土壌の上に人々が移住する前はプレーリーと呼ばれる豊かな草原が広がっていたこと、それはまた畑作にも最適だったため開拓し今では一面の畑になったこと、その畑作の中でもトウモロコシと大豆を交互に作付するとよりよく育つこと。私にとってはとても興味深く、一年を過ごすイリノイについてこの段階で知ることができたのは嬉しいことでした。そして、いつも山や海を見ながら育ってきた後にイリノイの単調な地形の中で過ごすことになり、若干物足りなさを感じていたところでしたが、地形の形成史とその利点を知ることでこの地形を好きになることができたようにも思います。

<地学巡検>

 

日本で地質学を学び各地の地質を見てきたところで、アメリカで地質学的に面白いものが見られたらなと思いつつ、自分で計画しないどこにも行けないかと憂慮しておりました。そんな時にDepartment of Geologyの学生・教員対象のAnnual Field Trip(巡検)が行われるのを学科のホームページで知り、交換留学生で所属学科というものがはっきりしていないがとメールで相談したところ、参加してよいと言っていただけ、九月の初めにシカゴの南Thorntonにある採石場とインディアナ州、ミシガン湖畔のIndiana Dunes National Lakeshoreに行くことができました。また、履修科目の一つで10月初めに二泊でミズーリ州のOnondaga CaveElephant Rocksに行きました。

大きな大陸のアメリカで、日本にはない太古の岩石を間近に見られたこと、道中の州立公園の雄大な自然に触れられたことも大きな収穫でしたが、日本とアメリカの地質学の少なくとも学生実習の形式の違いを見られたのも有意義なことでした。日本では火山や断層の調査実習に行こうとすると近くに温泉宿があり、そうでなくても数十キロ以内には人里があります。しかし、こちらではそうでもないらしく、調査中はお風呂なし、テントでキャンプ生活にもなるそうです。充実したキャンプ施設、それほど汗をかかない気候、日本人のようにお米を炊かずにピーナツバター・ジャムのサンドイッチと袋詰めの人参で満足できる食生活がそれを可能にしているようでしたが、随分簡素だと感じました。アメリカの文献を読むだけでは分からない、調査中の様子をうかがう面白い経験でした。

 

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さらに東京大学での専門課程の授業では適宜英語が使われ、専門用語にそれほど苦労しなかったこともあり、ガイドの人や先生方の議論も比較的理解することができ、いっそう充実した時間となりました。留学が決まってからそれまで以上に英語の勉強に努めてきたつもりでしたが、日常生活でのマカロニに始まり実習でのメスシリンダーまでなかなか思うように外来語のカタカナから英語につながらず、そもそも単語を知らず言葉で説明することもできないことが度々あった中、嬉しい経験でした。言葉がわかると質疑応答の時間にも積極的に参加することができ、さらに細かいところまで理解が深まります。当然のことでしたが、今後の勉強の中で語学の大切さを実感した巡検でもありました。

 

その他の体験からも、今後の課題が見えてきました。約二月があっという間だったとはいえ、まだまだ前半戦、これからも今まで以上に勉学に励み、またこちらでしかできない体験をしていきたいと思います。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

「2008年度奨学生を囲む会」を東京ミッドタウンで開催

2008年4月12日(土)の午後、東京・六本木の東京ミッドタウン内のフレンチレストラン Orange にて、2008年度奨学生を囲む会を開催いたしました。当日は22名もの方にお集まりいただき、4名の奨学生を囲んでイリノイ談義が約3時間半にも渡って花咲きました。

今年度の奨学生の方4名を、次の写真向かって左から順に紹介します。

  • 椿晴香さん:東京大学理学部地球惑星環境学科。
  • 森本なずなさん:神戸大学国際文化学部。
  • 本間奈菜さん:一橋大学法学部。
  • 武友浩貴さん:京都大学工学部地球工学科。

各自の自己紹介は、まもなくJIC会員の皆様に郵送でお送りするJIC Newsletterに掲載しておりますので、楽しみにお待ち下さい。会員登録をなさってない方、あるいは住所等に変更がある方は、この機会にJICホームページ上から新規会員登録あるいは登録情報の更新手続きを行って下さい。 2008年度奨学生(椿さん、森本さん、本間さん、武友君)

会は幹事を担当した2006年度奨学生の河出君の開会の辞によりはじまり、原会長の挨拶、古市理事による乾杯の音頭の後、料理とワインを楽しみながら、奨学生及び参加者全員のスピーチを行いました。1995年度の奨学生だった庄司さんからは、7年振りにコロンビア大学への留学を終えての帰国報告、そして2005年度の奨学生だった白水さんからはこの秋学期からUCバークレイの大学院への留学が決まった旨の報告等があり、奨学生の先輩方の皆さんがその後も海外の大学等で活躍されている様子を知ることができました。

いつものように写真を担当した古市理事の心残りは、集合写真の撮影をすっかり忘れてしまった事です。以下の写真で会の雰囲気をご察し下さい。

開会の辞

料理

歓談中