こんにちは。ここUIUCは三月後半から突然夏のように暖かくなったと思ったら、ま
た冷え込むということを未だに繰り返し、ようやく春(というかいきなり夏)が訪れ
た感じです。前回のレポートから3ヶ月余りの様子についてお伝えします。とはいい
ましても、もうファイナルウィークに入ってしまい、自分の気持ちはもう留学の総括
に向かっていますが、それとは別に、この特定の期間にもいろいろなことを経験した
ので、思い出しつつレポートに取り組んでいる次第です。具体的には、授業のこと
と、それ以外のことに分けてお伝えします。
(授業のこと)
私はコーラスを含め5つの授業をとりましたが、興味の中心は学期を通して前回お
伝えしたものと変わりありませんでした。よって、同じ二つについて、その後どう
なったかをレポートします。
RHET233:Critically Queer
始めたころは、いきなりESLのライティングから200番台のアメリカ人向けのレト
リックに変えて大丈夫か不安でしたが、結果、この留学を通じて一番とって良かった
と思える授業のひとつになりました。基本テーマはsex, sexualityなのですが、特に
queer politicsの考え方を中心に、Michel FoucaultのHistory of Sexualityから、
現在メディアや私たちの日常で起こっている出来事までを、criticalに、そして
academicに考える、というとても斬新で刺激的な授業でした。よって授業に上る話題
はFoucault哲学から、sex education, 宗教、人種問題、テレビドラマのWill and
Grace、ひいてはアイドル歌手Jessica Simpson (!) に至るまで本当に多種多様でし
た。イリノイ大学で最も前衛的(?)な授業のうちの1つに入るのではないかと思い
ます。日本では、口に出すことすら禁忌であるような(この中西部の白人、クリス
チャン中心のミュニティーであるUIUCでももちろん)こと、でももっと語られる必要
があることを敢えて、先生自身、人種、sexualityのダブルマイノリティーの立場で
行う、ということ自体大変意味深い授業でした。わたしがこの授業で一番、技術的に
学んだと思うことは、文章でも、口頭でも常にcritical なargumentをすることの大
切さと、(まだまだできませんが)その仕方の基礎知識だと思います。それから、
「マイノリティーの視点」という、生活面では抑圧された不利な立場でも、批評理論
上は強い武器になる(と私は思う)「ものの見方」に生まれて初めて触れたことも重
要です。更に、人文系にありがちな(と言われることの多い)陥穽として、自分の学
問以外のこと(特に今現在世の中で起こっていること)に疎くなってしまうところが
自分にはあったので、(もちろん学問を追及する人はそれでいいと思うのですが)こ
の授業での、学問的な理論と日常、特にメディアを結びつけるという作業はリベラル
アーツとしての勉強をする私には、これから社会に出る上でとても必要だったと思う
し、その作業自体エキサイティングなものでした。
MUS 261:Black Chorus
前回は始まったばかりで、たしか “It’s just amazing!”と表現したはずです。
今、commencementでのパフォーマンス一回のみを残した状態で思うことは、本当に素
晴らしい経験になったということです。しかし、この素晴らしいクラスが、大きな悩
みの種の一つとなっていたのも事実です。コースカタログには、「black music全
般」を取り扱うと記述されていましたが、実際はspiritual, gospelと言われるジャ
ンルのものが9割以上という状態でした。ということで、もちろん歌詞の内容は全て
Jesus Christに関するものです。更に、おしえ方も、先生が “Feel Jesus”,
“You have to mean what you mean!” というようなことを熱心に言われることが多
く、非キリスト教徒の私には歌詞で歌っていることと、自分自身の矛盾に苦しみまし
た。今振り返ってみると、この授業をとる前の段階では、“Choir”という簡単な単
語の本質的意味さえも分かっていなかったのだと唖然とします。しかし、悩みつつ
も、半年間やめずに続けて本当によかったと今では思っています。全ての曲(数え切
れないほどの曲数を学びました)は素晴らしいとしか言いようが無いし、更に二回の
Krannertでのコンサート(二度目はsold outでした!)や、地元Champaignの教会で
のコンサート、更にシカゴでの会議に招かれて、皆で旅(?)をして歌った経験など
全ていい思い出です。指揮者、そして現役のソプラノ歌手であり、さらにAfrican
Americanの女性として現在の地位を自らの努力で達成した、“self made”という言
葉にぴったりのDr. Davis自身の存在も大変inspiringだし、自らその成功を、特にま
だまだ苦境にあるAfrican Americanの生徒らに示すという点においても意味深い授業
でした。来年は “black music defines MUSIC of Illinois”という大きな目標のも
とに、更にblack chorus自体躍進していく予定です。去るのは悲しいけど、これから
は遠くから応援したいと思います。
(その他生活について)
上記のような経験を経て、ここイリノイで、自分はマイノリティーだと痛感するこ
とがしばしばでした。さらに他のクラスで勉強したことも含めて、アメリカにおける
構造的な(?)差別に気付き、ショックを受けることもよくありました。元々、私の
無知が原因なのですが、更に私はGlobal Crossroadという学部寮のインターナショナ
ルで、全ての人種が混ざり合って住むという、理想上のアメリカを体現したような場
所に住んでいるため、外とのギャップに苦しんだわけです。例えば、フレッシュマン
で日本人の友人は「レトリックの101、102には白人が一人もいない」という状
況に出くわしました。Diversityを謳う学校における、黒人系とアジア系だけのレト
リックのクラス。いままでの私ならそこで、「へぇ~」としか思わなかったのです
が、更に聞くと、それはそのセクションだけではなく、全体的に言えることだそう
で、そのクラスの先生が「あなたたちがここにいるのは、他の人たちより劣っている
わけではなく、“コミュニティーによる学校のresourceの格差”がある社会のあらわ
れなのです」と、初回の授業で言われたといいます。だから、UIUCのマジョリティー
である、suburbの良いハイスクールを出た白人は初歩クラスに一人もいないという事
態が起こるわけです。更に仲良しのblackのフロアメイトは、「他にもそんなことは
いっぱいある。私は高校で化学を三年間取ったけど、実験が一度もなかった。私たち
の学校(south side Chicagoのblack communityにある高校)は1つの薬品も買うこと
ができなかったんだ」と言います。それでも、ここ中西部はまだ他に比べて、最悪で
はないはずです。そんな状況を「機会の平等」と言ってしまえるアメリカってなんな
んだろう。。。と考え込むことがよくありました。英語の語彙が増えたせいで、その
ような議論をできるようになったのはいいのですが、あまりに悲しい現実です。しか
しそんななかでたくましく生きるマイノリティーと呼ばれる人々に敬意を払わずには
いられません。Black chorusでよくDr.Davisが生徒に「絶対に諦めるな」と励ましの
スピーチを毎回練習後に長い時には30分以上されることがあり、「早くかえりたい
なぁ」と思ったこともありましたが、そうせずにはいられない状況がある、というこ
とを知りました。
更に二・三月にかけては、近隣アジア諸国の日本に対する批判が相次ぎました。そ
の中で、個人の意見は別として、やっぱり溝は深いんだなと悲しくなることがしばし
ばでした。更にここUIUCは少なくとも学部レベルでは日本人が少なく、そして日本を
批判している国の人たちがたくさんいます。そしてCNN headlineでも毎日報道がされ
ていました。その中で、本土から来たと見られる中国人の方々を見るたびになんだか
びくびくしている(これは返って失礼かもしれませんが)自分がいたり、特にデモの
事に関して話している人を見ると聞き耳を立てている自分がいたり、更にたくさん
の、そのような国から来た私の友達は、本当のところそう思っているのだろう、と、
辛い日々でした。そんな中で一緒に来た留学生や、同じ寮の数少ない日本人の友達と
は立場を分かち合い本当に助けられました。今2005年でもこの状況ですから、過去に
ここで学んでいかれた先輩方はどんなに大変だったか想像もつかず、尊敬せずにはい
られません。
(まとめ)
このように冬休み以降の三ヶ月間は、今までのように沢山の友達に励まされつつ
も、イリノイの冬空のように重苦しく悩むことがたくさんあり、辛い時期でした。こ
れまで二回のレポートでとても前向きなことをお伝えしてきたので、レポートを書く
のをためらったのも事実です。先学期とは違って、英語にも困らなくなり、いろいろ
なことが分かるようになったのはよかったのですが、そのせいで、「アメリカの知り
たくなかった部分」にも沢山気付きショックの連続の日々でした。でもそんな中、他
の奨学生や沢山の友達に励まされつつ、いままでここで勉強されてきた先輩もみんな
経験したのかな、と受け入れた感じです。いまとなっては、冷静に振り返って、「こ
れも良い経験だ、留学の醍醐味(?)かもしれない」と思えるので、心配しないでく
ださいね。全体的なことは近いうちに最終レポートでまとめたいと思います。最後に
なりましたが、この留学の機会を与えてくださり、感謝しています。ありがとうござ
います。あとほんとにわずかなので、楽しんで帰ってきます。
古川 愛季子
お茶の水女子大学 文教育学部
言語文化学科 英語圏言語文化コース 3年