2007年度奨学生レポート(長谷川貴也)

先日2008年8月10日、日本に帰国し1年間の留学生活を終えました。奇しくも1年前の同じ日に、成田を出発してから、丸一年が経ちました。今後は休学していた慶應大学に復学 し、5年目の学生生活を送る予定です。帰国が遅くなり、総会で直接報告できませんでしたが、最後のレポートをお届けさせていただきます。イリノイ生活では夏に72日間かけて参加したアメリカ大陸自転車横断やJapanese Coffee Hour など、春学期は秋学期以上に様々なアクティビティに参加しました。それらを通じて半年前と比べても多くのことを学んだなぁという気がします。中でも、留学中出会った、人々の個性的な価値観を知ったことで、自分自身について考えるきっかけになりました。つたない英語は格段の進歩を遂げたとはいえまだまだ発展途上です。(ちなみに1年前はサブウェイでのサンドウィッチの注文に困り、毎回前の人と同じモノを注文していました。)

i4k-chicago.jpg

「Illini4000 for cancer 」(http://www.illini4000.org/

この夏、20人の仲間と共にアメリカ大陸を自転車で横断しました。Illini4000は今年で2年のイリノイ大学の学生組織で、ガン研究のドネーションを集めるために大陸を横断するというものです。また、各州の研究施設、病院などを訪問し、手術経験者にインタビューを行なったりもしました。様々な場でプレゼンテーションを行いながら旅を進めていくというスタイルからもわかるように、当初予想していた肉体的なチャレンジというよりもむしろ行く先々でのイベントに重点を置いたものでした。私にとっては肉体的にも相当ハードでしたが…。

参加者はイリノイ大学の学生20人で女子8人、国籍は中国、インド、スェーデン、アイルランド、ブラジルなど、フレッシュマンから院生まで多様でした。参加動機もまちまちで、メディカルスクールの学生でガン研究に興味があった人、自転車競技経験のある人等バランスを重視してメンバーは選ばれたようです。ただ、開始当初、多様というよりもタイプが違いすぎてなかなかチームがまとまりませんでした。食事のことでベジタリアンと衝突したり、自転車の実力差から不満がでたり。また急なPennsylvaniaの山では故障者がでるなどトラブルもありました。今振り返ってみてもアメリカ中部の退屈な景色の中、強風を正面から受けた一日、氷点下のイエローストーンを走った朝、熊に襲われそうになったこと。大変だったことは多くありましたが、シカゴを過ぎたあたりからチームとしても本音で話し合い修正した効果がでたのか、まとまりがでて肉体的にも精神的にも余裕がでてきたような気がします。その後はロッキー山脈へと進むにつれ旅がハードになって行きましたが無理なくこなせるようになっていった気がします。

私自身帰国後聞いて驚いたのですが、最終的には600万円のドネーションを得ることが出来ました。20人の結束も強くなり、最高の形で旅を終えることができたのではないかと思います。当初私はドネーション集めに消極的で、本当に企業がサポートしてくれるのだろうか?という思いが常につきまといました。また、英語が十分に話せないが故の失敗も多くあったものの、実際に企業や地域コミュニティとのコンタクトを経るにつれ、そういった交渉も克服していきました。金銭のサポート以外に、レンタカー会社から100万円近くのサポートを受け、全国チェーンのカフェからは莫大な数のベーグルを各支店で支給されるなど、数え切れない程の企業からサポートを受けました。各都市で、イリノイ大学のalumni associationからもサポートを受けました。オレゴンにあるNike社へのツアー, イリノイ大学、ノースウェスタン大学の大学病院訪問などはイリノイOBの好意によって実現されました。ガン研究に興味があったというよりは冒険に惹かれて参加を決意した私でしたが、各イベントで刺激を受け、アメリカという国をいろんな方向から見て、また、この国の大きさを肌で実感させられた72日間でした。各町の新聞、テレビなどのメディアに多くとりあげられ、私は唯一の交換留学生ということで取材される機会が多かったのも今となっては良い思い出です。

この旅で何を得たのか?その問いに対する明確な答えはまだわかりません。強いてあげるとすれば「厳しい環境であっても仲間に恵まれれば乗り切れる」という自信がある程度ついたことぐらいでしょうか。1つの目標に向かって全精力を注ぐことができた今回の旅はこれまで私が経験したことのない経験を多く与えてくれました。最終的には忘れたくない思い出がたくさんでき、旅が終盤にさしかかった頃には、いろいろな感情が毎日こみ上げてきました。オレゴンでNY以来の海を見たとき、「しんどかったこの旅ももう終わりか。」そう思った瞬間、メンバーと別れて1人日本に帰るのが急に寂しくなりました。

「日常生活」

Illini4000の話が長くなってしまいましたが、シャンぺーンにいる間、それ以外にも多くに経験ができました。中でも楽しかったのはコスモでのJapaneseコーヒーアワーです。JICのメンバーが中心となり多くの日本人、またその友人が協力してくれ良い思い出となりました。主に全体の進行を指揮したのは湊さんで日本食レストランに出向いてクーポンを獲得したりもしてくれました。その他、ミーティングをまとめたりするのも湊さんでした。料理を担当したのは田辺さんで本番に向けて、材料の買出し、試食パーティーなどを行なっていました。八尾君はテスト直前だったにも関わらず前日夜遅くまで料理の下ごしらえを手伝っていました。私はというと当日、勝ち残り形式のクイズで日本文化の紹介を行なったのですが、想像以上に参加者の知識が豊富で進行が思うようにいかなかったのが反省点です。春学期も終盤にさしかかった忙しい時期にも関わらず彼ら3人がうまく時間をやりくりしているのを見て、感心したのを覚えています。1つのことに取り掛かると他の事に気が回らなくなってしまう自分にとって、限られた1年という期間中にやりたいことが多くあるという状況下、彼らから時間管理について学べたのも大きな収穫です。

coffee-hour.jpg

「最後に」

留学は1年間で終わりを迎えましたが、世界に散らばるイリノイ大学の仲間とは、いつの日か必ず再会するつもりです。1年前までは無かったこのネットワークは、自分のこれからの生活に大きな刺激を与えてくれるだろうし、自分からも刺激を与えていきたいと思っています。そのためにも、JICの一員として活動していけることを楽しみにしています。最後に、素晴らしいアメリカ生活のきっかけを与えてくださったJICの皆さま、どうもありがとうございました。

奨学制度説明会@留学ジャーナル社開催日決定:2008年9月6日

来る2008年9月6日(土)の午後4時から,留学ジャーナル社本社(東京新宿区信濃町.JR中央線信濃町駅下車徒歩0分)にて,小山八郎記念奨学制度の説明会を実施することが決定致しました.

留学ジャーナル社ホームページ上の説明会開催通知

当日は,奨学制度担当理事よりイリノイ大学及び奨学制度の詳細説明を行う他,本制度により留学した先輩による留学体験談等をプレゼ ン致します.今年度の応募を希望されている方ばかりでなく,来年度以降の応募を予定されている方にも紹介して下さい.

2007年度奨学生レポート(田辺夕佳)

JICの皆様、いかがお過ごしでしょうか。東京大学文学部4年の田辺夕佳です。先日、総会にお集まりいただいた方々とは一年ぶりにお会いし、帰国の報告をさせていただきましたが、皆様へのご報告が遅くなってしまったことをお詫び申し上げます。

8月も下旬に差し掛かり、帰国してから3ヶ月も経ってしまったものかと驚いております。今ではすっかり日本の生活に戻り、本当に密度が濃く楽しかったイリノイでの日々を思い返すたびに懐かしさがこみあげてきます。今年度の奨学生はまさに向こうでの生活が始まったばかりと伺いました。1年前初めてイリノイに降り立ったときの感動やこれからの1年間の期待でわくわくしていた自分を思い出しました。

留学生活の中で、今まで自分が身に着けてきた英語力がいかにネイティブにはかなわないものであるかを思い知り、自分とは全く異なった環境で育った人々との文化の壁に悩んだこともありましたが、壁となっていた人々は、同時に多くのことを気づかせてくれた大切な友人でもありました。私がその中でも特に親しくなった友人は、本当にエネルギッシュで、興味の幅が広く、たった1年しかいない留学生である私のことを受け入れ、理解してくれた人たちでした。私もそんな彼らから刺激を受け、彼らには負けられないと思えましたし、一緒に過ごした時間は本当に充実し楽しいものでした。

この1年で大きく成長した、などと大げさなことは申し上げられませんが、楽しかったことも大変だったことも含め、自分にとってかけがえのない経験であり、将来思い返したときにイリノイに行くことができてよかったと自信をもって言えるのではないかと思います。

このようなチャンスを与えてくださり、日本から暖かく見守ってくださっていたJICの皆様に心から感謝しております。

UIUCのシンボルにて

*************

授業:スピーチ

*************

先学期に引き続き、力を入れていたSpeech Communicationの授業についてお伝えします。先学期SPCM101を受け、初めはアメリカ人の大胆な話しぶりやスピーチに織り交ぜられるユーモアなどに衝撃を受けましたが、一学期を経てようやく人前で堂々と話せるようになりました。その経験を通し、スピーチにもルールが存在すること、そしてそのルールに従ってスピーチを構成し、話す内容に関してしっかり自信をもって聴衆の前に立つこと、というのが重要な要素であると感じました。もちろん言語能力で若干のハンデがあるということもありますが、何よりも経験の不足が自分の課題であると思い、今学期は少しレベルも上げてSPCM332に挑戦しました。

この授業でとてもよいライバルとなったのは、同じ交換留学生のスウェーデン人でした。スウェーデンでは日常生活に英語が浸透しているらしく、さほど英語に困っているようには見えませんでした。しかし、よくよく話してみるとそれは私の偏見に過ぎず、彼も同様に私が何の苦労もなく授業に参加していたと思っていたそうです。それを機に、仲良くなりました。先学期までの授業で行っていたスピーチとは異なり、発表時間が長くなる上に、ほぼ何も見ずにプレゼンテーションをしなければならないという決まりはアメリカ人のみならず、当然留学生の私達にも適用されたので、彼も頑張っているのだからベストを尽くす上での甘えは許されないな、という気持ちになり、とてもよい刺激になっていたと思います。

また、この授業は生徒の9割がSpeech Communicationの専攻であったということで全体のレベルも高かったように感じられました。元々人前で話すことが好きな人たちが集まった授業だったので、他の人が行ったプレゼンテーションから学べることも多かったです。ロジカルに話を進めることはもちろんですが、同じ内容を伝えるのでも言い回しは人それぞれで、それによって話全体の雰囲気が決まってきます。それが「その人らしい」プレゼンテーションになっていくのだと感じました。今学期は就職活動の関係で度々帰国しなければならず、何度か授業を休んでしまったのですが、それでも非常に良い評価を頂くことができました。この1年間スピーチに取り組んできた達成感を味わうことができたとともに、人前で話す自信もつきました。

*************

授業:バリダンス

*************

続いて、最も印象に残ったアクティビティの授業についてお話しいたします。今学期、私は苦手とするダンスに挑戦しました。リズム感が全く無い自分にとって縁遠いものと思っていたのですが、アメリカに来て心構えとして変わってきたのは、「挑戦してみたいという気持ちを大切にし、やる気があるなら積極的になるべきである」というスタンスです。旅の恥は掻き捨て、といいますがイリノイにいる間は躊躇せずに色々とやってみようという気持ちが徐々に明確化してきたように感じ、ダンスの授業もその一つでした。ただ、ダンスといいましても私が挑戦したのはヒップホップでもバレエでもなく、インドネシアの島、バリ島に伝わる伝統舞踊であるバリダンスでした。バリダンスにした理由は簡単で、あまり人気がなく履修できた唯一のダンスクラスだったということなのですが、実はこれが最も力を入れた授業かも知れません。たった8人の生徒がインドネシア人の先生と1単位のために週4時間近く練習し、15分の曲に合わせて踊るだけでなく、バリ語の歌も覚えました。

バリダンスはやってみてから知ったのですが、ステップというよりはむしろ顔で表現する踊りで、表情や目の動き、それに首から上のみを左右に動かす独特の動きをマスターしなければならず、生徒達ははじめ苦戦していました。男役と女役に分かれてカップルの愛を表現している踊りは、先生が考案したオリジナルダンスで、動き自体は難しくないのですが、どうやってもみんなの動きはバラバラで、先生の動きとは似ても似つかず、バリダンスの難しさを感じました。学期末の舞台発表会に向けてひたすら練習に打ち込む毎日でしたが、クラスの雰囲気は絶えず和やかで、学部生以外に院生も多く、一人の院生はなんと1歳の女の子のママでもありました。そんなバラエティに富んだメンバーで一つの作品を作り上げることは難しくもありましたが、互いにアドバイスしながら練習を重ねるうちに、ダンスとして形が出来てきて、無事本番を迎えることができました。

リハーサル

本番の日は開始4時間前から、伝統衣装を身にまとい、独特の化粧を施し、エスニックな雰囲気が漂った舞踊集団になることができました。残念ながら、会場はカメラ撮影禁止で本番の写真はないのですが、ガマランというバリの伝統楽器の演奏に合わせて私達8人は無事踊りきることができました。舞台に立ちスポットライトのもとで拍手を浴びる感動、ずっと一緒に頑張ってきた仲間と並んで最後のポーズを決めたときの達成感、そして見に来てくれた友人たちの存在の嬉しさ、このような気持ちを一度に味わえたのは本当に久しぶりだったと思います。

バリダンス

*************

課外活動

*************

昨年から参加していたアイススケートのコミュニティの活動を今学期も続けました。学校内のリンクということもあって日本よりも空いていて練習がしやすく、学生は入場料タダという環境は本当に恵まれていたと思います。細かいフットワークに焦点を当てたものとジャンプ・スピンといった大技に焦点を当てたものの2種類のレッスンに加え、平日の昼間にあるPublic Skatingという一般滑走の時間に練習仲間と一緒に自主練を行い、リンクの近くの寮に住んでいて本当によかったと実感しました。実際、これだけの練習を重ねると少しずつ上達するもので、長年できなかったスピンやジャンプができるようになり、筋力もついて滑りに力強さが増したように思います。

発表会

このような練習の積み重ねの集大成となったのは、毎年恒例の発表会です。今年のテーマは映画ということでクラスごとに映画のテーマソングに合わせた演技を行いました。私は大人クラスとアイスダンスクラスの2演目に出演し、それぞれMen in BlackShall We Dance?の音楽で行いました。ともにおそろいのコスチュームを用意し、メンバーの家で陸上練習も行いました。このメンバーの興味深い点としては、ほとんどが大学関係者なのですが、私が最年少で他の人はこの大学の教授であるという点です。脳の神経や航空宇宙、物理など様々な専門家とともに滑ることが出来る経験はなかなか無いのでは、と思います。そのプロ意識は練習態度にも表れていて、60歳近い年齢でも絶えず向上心を持ち続け熱心に練習に取り組んでいました。休み時間にあるとき、「日本の地震」の話になり質問攻めにあった後、そのあとは各々が持論を展開し熱烈な議論となっていました。

Shall We Dance?

発表会本番になり、フィギュアスケートは中学の頃からやっていたスポーツなのですが、大舞台に出るのは初めてだったので、開演前から緊張しているとみんなが私の元へやってきてその緊張を和らげてくれました。普段は意識していなかったのですが、自分の親よりも歳の離れたメンバーの醸し出す優しさに大いに癒されたことはいうまでもありません。演技自体は、普段の70%しか発揮できず納得がいかなかったのですが、他の出演者も常に成功している技を失敗したりする姿を見て、発表会というものの恐さを感じるとともに、本番でプレッシャーがかかった状態での演技が悔しいけれども、今の実力なのだと感じました。とはいえ、大きなリンクを独占し、自分の動きに合わせてスポットライトが動き、多くの友人が観客席にいるという幸せは一生忘れられないと思います。

*************

まとめ

*************

上記の本文では今学期印象に残った経験について触れさせていただきました。今学期はUIUCで学びたかった、Speech Communicationや経済の授業もSpring Semesterは思い通りに履修でき、先学期はとれなかったActivity系の授業も運よくとれることになりました。最初の学期はひたすら教科書に向かう毎日だったのですが、今学期はもっと人と触れ合う時間を増やしていきたいと考えた上で決めた時間割だったので、実用的な英語力を磨くのみならず年齢も人種も分野も様々な人と出会い、協力して何かを作り上げるという楽しさに没頭することができたと思います。この1年間で自分が身につけることができたものを一つだけ挙げるとすれば、それは度胸だと思います。人前に出て自分を他人に見せるということは舞台上だけでなく日常茶飯事でした。ほとんど毎日、新しい人と出会うのでその度に繰り返される自己紹介などでも慣れてくると自信がつきました。何事も経験と思い、新しいことに積極的に挑戦することも初めは意識的にやっていたのですが、最後はそれを楽しめるようになりました。

友人と迎えた出発の朝

そして、この1年間でできた友人は私の何よりの宝です。学校の中で生活するUIUCの学生は友人と過ごせる時間が本当に長く、楽しかったです。最後の一週間はお別れパーティーがいくつもあり、わざわざ他の町から集まってくれたパリ留学の友人や最終日のフライト時刻まで徹夜でパーティーしてくれた友人など、本当に温かい人たちに恵まれたと思います。帰国してからもいきなり電話がかかってきたり、日本に遊びに来た友人と再会したりと、イリノイにいた1年で終わらない関係を築くことができたことが本当に幸せだと思います。実際、来週もイリノイの友人と二人で香港へ旅行することになっていて、再会が今からとても楽しみです。パリで知り合った友人と再会

最後になりますが、このイリノイでの2学期間は今までの学生生活の中で最も充実した時間を過ごすことができたことは言うまでもありません。このような貴重なチャンスをくださったJICの皆様に感謝いたしますとともに、留学中にお世話になった方々、そしてそれを陰で支えてくれた家族、大学関係者、そして友人にもこの場を借りてお礼を申し上げたいと思います。

引き続き、どうぞ宜しくお願い致します。