Japan Illini Clubの皆様、大変お世話になっております。2011年度奨学生、東京外国語大学外国語学部4年の中村真理と申します。奨学生に選んで頂いてから出発までの間、そしてここイリノイに来てからも、様々な形で皆様から温かい励ましのお言葉やサポートを頂き、本当にありがとうございます。早いもので、昨年の今頃は夢であったUIUCでの留学生活も2ヵ月半が過ぎ、”stranger”の意識で外から溶け込もうと必死だったキャンパスにも、随分親しみを感じながら過ごすようになりました。第1回レポートでは、この2ヵ月半の経験と、それらを通して考えたことなどをご報告させて頂きたいと思います。
◇Fall Semesterの授業について
アメリカ留学の動機の一つは、人種や民族、地域などの点で「多様性」が強調されるアメリカにおいて、人々に影響を与える一つ一つの法や政策は、どの集団のどの様な意図を反映して、どの様に形成されていくのかという過程を詳しく学んでいくと共に、自分自身も生活者となってその「多様な」社会を肌で感じたいというものでした。今学期は、アメリカ国内の政治に対する理解を深めることを目標として、Political ScienceやLatina/o Studiesで開講されている授業を主に履修しています。とりわけ印象的な授業をいくつかご紹介させて頂きたいと思います。
・PS101 Intro to U.S. Government and Politics
2学期間という限られた期間と単位数の中で、この基礎クラスを受講すべきか、それともアメリカ政治における具体的な組織やテーマを掘り下げる授業(“The US Congress”や”Religion & Politics in the US”など)にどんどん挑戦していくべきか迷いましたが、今後具体的な事柄をより正確に理解していくために必要である、基礎的な知識や用語、考え方をしっかり身に付けたいと思い、履修を決めました。私が受講している枠は週3回の講義形式ですが、Introのクラスとしては珍しく15人程の少人数で、学生の発言数が多い活発な雰囲気です。Preziというプレゼンテーション作成用のソフトで、教科書には載っていないデータや映像も取り入れながら作り込まれた講義内容のまとめが、毎回授業専用のWebsiteにアップロードされたり、定期試験やペーパーに加えてShort Assignmentも頻繁に課されたりと、学生に基本を教え込もうという熱意も伝わってきます。講義は、Unit1: Foundations of American Politics, 2: Individuals and Politics, 3: Linking Citizens and Government, 4: Institutions and Policy-Makingで構成されていますが、個人と政治との関わり方をPublic Opinion及びThe Mediaという二つのキーワードから説明をしていったUnit2には、リーディング課題として教科書とは別にいくつか論文も指定されるなど、特に重点が置かれている印象を受けました。具体的には、連邦議会によって創設された機関によるメディア規制の例として、Federal Communications Commission(FCC:連邦通信委員会)が、「公的に重要な争点に適切な放送時間を割き、争点を扱う際には、一つの見解に偏らずそれと対抗する意見も公平に報道しなければならない」ということを定めたFairness Doctrine(公平原則)などが取り上げられ、これが1987年に廃止されてメディア側の自由裁量部分が大きくなったことにより、ラジオ放送(特に聴取者参加型の「トーク・ラジオ」)は保守色の強い番組で占められるようになったという議論が紹介されました。また、メディアの報道が、政治家に対する世論に変化を起こしたPriming(プライミング効果)の例として、湾岸戦争への対処をめぐる一連の報道を境に、ブッシュ大統領(41代)の大統領としての評価が、湾岸戦争への対処という一点に基づく傾向が強くなったために、他の外交政策や国内の経済政策への不満を差し置いて支持率が上昇した、というデータを示した論文を扱いました。Unit1でアメリカ政治の仕組みの基礎を学んだ後に、その仕組みがつくった制度によって、メディアが映し出す政治や、世論の在り様が規定される面があるということと、その一方で、メディアと、メディアに影響された/されなかった個人は仕組みに対してどの様に変化を与え得るのかということを、様々な興味深い具体例を通して学んだことが印象に残りました。
・PS300 Politics of Racial and Ethnic Diversity
「人々は多様性にどう反応するのか」「国家は多様性をどう扱うのか」「国家による多様性を扱った政策に、国民はどう反応するのか」「多様性と社会福祉政策との関わりはどの様なものか」という四つの問いを軸に、毎週、”Diversity & the Creation of Identities”や”Diversity and Social Capitol”といったテーマが設けられ、週2回の授業では、課題論文に基づいたディスカッションを行います。論文の量が多く、他の学生の意見を聞き取り理解することや、議論の流れを汲んでその場で意見を述べることに大変な難しさを感じてかなり苦戦していますが、20人程のクラスの中にもアフリカン・アメリカンやラティーノ、白人、アジア系など非常にdiversityがあり、彼らの発言から、その背景や考え方をもっと知りたいという気持ちが強まります。学期の最後まで、諦めずに頑張りたいと思います。
・GLBL298 International Development and Community Service in Nicaragua
他の授業に比べて形式や内容の毛色が少し違いますが、UIUCのStudy Abroad OfficeとJICの奨学生が所属するCollege of Liberal Arts and Sciencesが共催している海外研修のコースです。10月半ばから開講される教室での授業(計6回)と、冬休み中の2週間の現地研修、そしてレポート提出によって3単位を受けることができます。このGLBL298のコースは、”Immigration and Cultural Diversity in Israel(イスラエル)”や”Globalization and Inequality in Post-apartheid Cape Town(南アフリカ共和国)”など計10程用意されている中から希望を出すことができ、9月の半ばにApplication Essayを提出して、第一希望であったニカラグアのコースに参加させて頂けることとなりました。冬休み中の現地研修では、首都マナグアでホームステイをしながら、ヘルスケアやフードエイドに関わるNGOや学校を訪れる予定です。参加者は14名ですが、留学生は私一人で、アメリカ人の正規の学生と一緒にニカラグアで2週間を過ごすことになります。その前にはUIUCでのLectureも組まれており、先日行われた授業は、各々がニカラグアにおける貧困を示すと考えられる統計データを持ち寄って議論をするというものでした。教授がかなり速いテンポで、各統計データと国連のミレニアム開発目標(MDGs)とを、また米国のODA実施機関でありニカラグアもその対象国であるMillennium Challenge Corporation(MCC:ミレニアム挑戦公社)の指針とを結びつけて話したり、「なぜ国民の活動の自由度が高いほどその国が発展していると言えるのか。中国は国民が自由を享受しきれているとは言い難いが、目覚ましい発展を遂げているよ。」「携帯電話の普及率が途上国において必ずしも低くない(アメリカは09年に197ヵ国77位であり、ランキングには先進国も途上国も入り乱れている)のはなぜだと思う?」などと常に学生に問いかけを行って意見を求めたりと、他のクラスと比べても双方向であり議論の色が強いと感じました。この中で、ネイティブスピーカーのみの発言に乗っていくということには、気持ちの面でも英語のスピーキング能力の面でも難しさを感じますが、自分の立場を生かして面白い視点を持ちこめるようになることを目標に、このプログラムを学び多い機会にしたいと思っています。
◇課外活動などについて
授業外では、特に苦手意識が強い会話力を伸ばしたいと思い、Quad Day(UIUCの学生団体やサークルが、キャンパスの中心にある広場Quadに集まり、新入生を勧誘する一大イベント)にて見つけた、2つの国際交流系の団体を通して、”International Buddy”や”Conversation Partner”と呼ばれるアメリカ人の会話相手を紹介してもらいました。彼らには、キャンパスから少し離れたカフェやショッピングモールに連れて行ってもらったり、Bible Studyや映画に誘ってもらったりと、日々の生活の中で助けられています。このうち地元の教会を基盤としているInternational Student Connectionsという団体は、留学生へ向けてAmerican Culture Classを開いており、私も度々参加してアメリカのTV番組や祝祭日について話を聞いたり、地元の農園へのフィールドトリップに出掛けたりしています。先日は、彼らが通う教会が年に一度開催する”Revival”というイベントがあり、クラスを主催しているJessicaと一緒に参加してきました。アメリカに居るうちに、一度教会が開くイベントというものを体験してみようという少しの好奇心から足を運んだのですが、結果として、この”Revival”は私にとって非常に考えさせられる、印象深い出来事となりました。
Jessicaの説明によると、”Revival”は、「同じ地域の教会に通う人達が一堂に会してお祈りをすることで、仲間とのつながりを強めながら、”God”をより近くに感じ、敬意を表する」という趣旨のようでした。このイベントはキャンパス内にあるAuditoriumで行われたのですが、私が会場に足を踏み入れた時には既に100人以上の人が集まっており、独特の雰囲気と熱気を感じました。最初の2時間程は、舞台上の生のバンド演奏と歌い手に合わせて、会場にいる全員でChurch Songを大合唱しました。Jessicaをはじめ多くの人が知っているポピュラーな歌ばかりのようでしたが、正面の大きなスクリーンに歌詞が映し出され、飛び入り参加をした私も、映画の様な光景に圧倒されながらも一緒に歌い楽しみました。その後、Columbia International Universityというクリスチャンの大学の総長をゲストスピーカーに招いたレクチャーを経て、お祈りの時間(Prayer time)となりました。Singing timeの間から、周りの人達が手を高く上げたり肩を組んだりする様子などから、彼らの感情の高まりが感じられて印象的だったのですが、Prayer timeでは、長い間涙を流したり、目を瞑って叫んだりしながらお祈りをしている人も多く、初めてそういった場面を目の当たりにした私には衝撃的な程に、大部分の人がその場に感情をぶつけている様子を感じました。また、一人で祈るだけではなく、周りの人達とそれらを共有している人が多かったのも印象に残りました。
帰り際に、Jessicaに何をお祈りしたのかと聞いてみると、「障がいのある人達をサポートする仕事がしたいけれども今すぐには難しいので、その資格につながる学校が上手く見つかって、奨学金なども得ながら勉強をして、将来職を得られるように。」ということと、「Christの精神を広めていきたい。以前中国でクリスチャンの教会に立ち寄った時に、異国の地で言葉が通じなかったけれども、教会の人達とはつながっていると感じて安心した思い出があるから。」と教えてくれ、「Mariは何をお祈りしたの?」と尋ねてくれました。Prayer timeに周りの人達の様子に圧倒されていた私は、Jessicaのような具体的なお願い事をするには至りませんでしたが、常日頃から「この留学を自分自身が納得できるものにしたい」と思っていること、そして、「一つ一つの課題に真摯に取り組むことを一年間続けることで、自信や余裕を身に付けて、今後社会の中で周りの人の役に立てるようになりたい」と思っていることなどを伝えました。非日常的な雰囲気に影響されたのか、また慣れない環境で2ヵ月を過ごし疲れていたのか分かりませんが、今までに非常に辛いと感じた経験や将来への不安なども織り交ぜながら、彼女と色々なことを話しました。聞き終えたJessicaは、”Can I pray God for you? “と言って座り直すと、「Mariがアメリカでの生活を通して、彼女自身に自信を持てるように。彼女と彼女の家族が皆幸せになれるように。」と随分長い間目を閉じて、私のために祈っていてくれました。
考えてみると、日本では、「神の助けを願い求める」という意味の「神頼み」がなされる際には、こちらの人達が教会で「必ず道が拓ける」と信じてお祈りをする(ように見える)のに比べ、「もうどうしようもないので何とかしてほしい」と、願いが実現するかどうかという点には不確実性が多分に含まれているように思います。また、Jessicaが祈っていたような具体的な進路や職業に関する迷いや悩みは、「神に祈るよりも自分で行動し解決すべき」という考えが、少なくとも私の周りでは一般的でした。私自身も、悩みや辛さを他人と共有するということに関して、誰かに相談して励ましてもらったとしても状況自体は変わらないのであり、ましてや不確実なものに向けて上手くいくよう祈ることは甘えに過ぎず、最終的には自分で考え決断し、行動し、結果にも自らが責任を持てるようになるべきなのだろうと考えてきました。しかしその結果、状況が上手くいかない時には自分が100%悪いのだろうと感じて萎縮したり、その一方であまりにも辛い時には誰かや何かのせいにしてしまったりと、上手くいかないことも多かった気がします。留学以前からそんな状況に苦しんでいた中で、Jessicaが、まだ数回しか会ったことのない私の悩みや不安を感じて涙ぐみ、自分が信じているものに向かって一生懸命祈ってくれたということは、驚きと温かさを感じたある意味でカルチャーショックの様なものでもありました。彼女が別れ際に、”Mari, thank you for being so honest. It always needs courage to talk about yourself.”と言葉を掛けてくれた時には、何とも言えない気持ちになりました。Auditoriumの荘厳な雰囲気も相まって、何か心を動かされるものがありました。
また、宗教という共通項によって、日本人の想像を越えた強固なつながりを持ち、歌と祈りを通して、100人以上もの人達にあれだけの一体感を生み出してしまうところに、(私自身はここアーバナにある教会のうちの一つで体験しただけですが、Jessicaが話してくれたように、こういった絆が場所を問わずクリスチャンの人達の間で共有されることも多いのであれば)アメリカという国の力強さを見た思いがしました。あの独特の一体感は、私が今までにした体験を持ち出してくるとすれば、(適切な例か分かりませんが個人的な感覚では)何かしらのスポーツなどの国際大会で、全く知らない人同士が日本を応援する中で一つにまとまっていく、というものに最も近かった気がします。帰属意識や連帯感を感じる対象や、そういった意識が顕著な形で現れる場面というのは、国や文化によって大きく違うものだとも思いました。しかし一方で、その表現の仕方や、同じ仲間意識を持つ人達に囲まれて普段よりも気持ちを解放することで払拭する日々のストレスや不安、悩みなどといったものは、国に関係なく似通ったものなのかもしれないとも思いました。ともあれこのイベントは、色々なことを考えさせられたと同時に、思い切って新しい場に飛び込んでいくことの良さを改めて実感させてくれました。
長くなってしまいましたが、色々な体験をさせて頂きながら、2ヵ月半元気に過ごすことが出来ています。常に好奇心を保ちアンテナを張っておくことで、日々の体験に対して色々な感情や疑問を抱くことができ、そこから思考したり調べたりすることで、その体験を、自分のものとしていくらでも広げたり深めたりすることができるのだと実感した2ヵ月半でした。今後の留学生活も、前向きな気持ちで、一日一日を大切に過ごしていきたいと思っています。
最後になりましたが、私達をUIUCに送り出してくださったJICの皆様をはじめ、応援してくれている家族や友人、先輩や後輩に、この場をお借りして感謝申し上げ、第1回レポートを終えさせて頂きます。いつも温かいご支援を頂き、どうもありがとうございます。今後ともどうぞ宜しくお願い致します。
【写真】Labor dayに出掛けたシカゴの夜景
東京外国語大学外国語学部4年
中村 真理