JICの皆さま、ご無沙汰しております。また、このレポートを読んでくださっている方々は、はじめまして。現在第39期奨学生としてイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校に留学しております田中洋子と申します。
8月の下旬にこちらに到着してから、早いもので1か月以上が過ぎました。今回のレポートでは、留学の目標や新たな地での生活の様子、授業、課外活動などについてご報告させていただきたいと思います。
【留学の目標】
(1)教育について集中的に学ぶ
(2)迷ったらやってみるの精神でいろいろなことに挑戦する
の2つを大きな目標として掲げています。以下、もう少し詳しく説明を加えます。
(1)教育について集中的に学ぶ
私は日本の大学では法律を専攻しています。本当にいろいろと考えた末に法学部を選択し、それについて後悔はないのですが、将来は何かしら教育に関わる方面に進みたいと考えており、一度教育について時間をとって学びたいと思っていました。そこで、日本の大学で法律を勉強しながら教育学部の授業も受けるといったことをするよりも、グローバル化が進む中日本の大学も見習わねばならんと声高に賞賛されているアメリカの大学というものが実際どのようなものなのか自分自身の目で確かめてみたいという思いも手伝って、アメリカに留学して1年間しっかり教育について勉強してみようと思い立ちました。イリノイ大学を選んだ理由の一つも、教育学部のコースが充実していたからです。したがって、教育について集中的に学ぶというのは今回の留学の柱とも言えます(とは言え、後述の通り実際の時間割は教育学部の授業のみではありません。教育学部の科目に集中すべきかとも思ったのですが、勉強の手段は授業に出るだけではなく、自主的に図書館で見つけてきた本や論文を読んだりもしているので、自分の興味関心にしたがって選択した結果このような形になりました)。
(2)迷ったらやってみるの精神でいろいろなことに挑戦する
私がイリノイ大学にいられるのはたった9ヶ月という限られた時間です。日本であれば、運が良ければ「今年は出来なさそうだけど、来年やろう」と物事を先延ばしにすることも出来ますが、ここではそれは出来ません。私は、迷った末に何かをやらなかったせいで後悔をすることが嫌いなので、何か興味があることを見つけたらとりあえずやってみようと思っています。そうは言っても何かをやったせいで大後悔、ということも多々あるのですが、アメリカで失敗したところで大した傷にはならないはずですし、怖いと思っても、うまくいかなさそうだと思っても、挑戦することを大切にしたいです。
ではなぜいろいろなことに挑戦したいのか。それは、自分の中にある隠れた興味の引き出しを出来るだけ多く発見したいからです。私はまだ、自分が将来何をしたいのか確固たる答えが見つかっていません。そもそもそんなものいつまでたっても見つからず、とりあえずその時点で一番良いと思われる道を選んで、振り返った時に自分はやっぱり正しかったと思ったり、なぜあの道を選んだのか後悔したりするのが人生なのかもしれませんが、いずれにせよ何か選ぶときには選択肢が多ければ多いほど自分の下した結論に自信が持てるように思うのです。いつかはそれなりに自分の専門分野のようなものを選び、狭く深くそれを掘り下げる段階へと移っていくのでしょうが、今はまだ自分の幅を広げる段階だと思っているので、今回の留学を通して、自分の幅を広げる作業をしていければと考えています。
【生活の様子】
まず住居ですが、留学生用の奨学金の枠に応募してみたところ幸運なことに通ったためIllini Tower という場所に住むことになりました。タワーというだけあって16階建ての高層建築で、ここの10階に住んでいます。2部屋でキッチンやシャワーを共有するような形になっているのですが、ルームメイトは中国出身の工学専攻の1年生、向かいの部屋の学生は同じく中国出身のホテル経営を勉強する学生とシカゴ出身の中国系アメリカ人で保健衛生を専攻する学生で、2人も同様に1年生です。ここの寮は中国・韓国からの留学生がほかと比べて多いような気がします。
食堂もあるのですが、1週間に12食というプランになっているのと、毎日ピザやフライドポテトでは健康に悪いということで、部屋にある台所で自炊もしています。幸いなことに寮からバスでそれほど離れていない場所にアジアンスーパーがあるので、そこで日本食をたくさん仕入れることが出来ます。炊飯器も買ったので毎日白米を食べていますし、お味噌汁も作っているので、食生活は当初心配していたほどアメリカンにはなっていません。中華料理や日本食のお店も近くにあり、時々友達と食事をしに行っています。ただし、お店によって当たり外れが大きいので事前の情報収集が欠かせません。新しくラーメン屋さんが開店すると聞いて楽しみにしていたのですが、聞く人みんな「あそこはおいしくない」とのことでがっかりしています・・。矢部先生がシャンペーンにいらっしゃった時に私たち4人を連れて行ってくださったお店はどれもとてもおいしかったのですが、車がないと少々行きづらい場所にあるのが残念です。
車といえば、こちらの交通事情を少しご説明します。学生の基本的な移動手段は徒歩・バス・自転車で、車を持っている人はそれほど多くないように思います。バスは学生証があれば無料で乗ることが出来、それなりに頻繁に走っているのですが、休日や夜になると本数が減り、場合によっては次のバスを30分以上待たなければいけなかったりします。その点、自分の好きなタイミングで好きな場所に移動できる自転車はとても便利です。とても遠い場所でもなければ自転車の方がむしろバスより早く着けることもあるのではないかと思います。また、自転車を持ってバスに乗ることも可能です。
というわけでこちらに来て早速中古自転車を購入し快適な自転車生活を楽しみあちこち探検したりもしていたのですが・・なんと、先日盗まれてしまいました!!!!とっても悲しくて落ち込んでいます。ちゃんとU字の頑丈な鍵をかけていたのに。授業が終わって帰ろうと自転車置き場に行ったら、ない!あちこち探しましたが、やっぱりない。一応届け出はしましたが、返ってくる可能性は低いと思います。10月も終わりになると雪が降り始め4月頃まで自転車は使えなくなってしまうので、安くはない自転車を買い直す気にもなれず・・。短い自転車生活でした。
【授業】
今学期登録している授業をご紹介します。
<Public Speaking (CMN101 –L2)>
いろいろな形式のスピーチの仕方を学んでいく授業です。日本では、授業でプレゼンをするなど人前で話す機会もそれなりにはあるもののスピーチに特化した授業はなかなかないですし、高校生の時に英語弁論大会に出場した経験があるのですが、その際は基本的に全て自己流でやってしまっていたため、スピーチのルールというものを一度きちんと学んでみたいと考え、この授業を受けることにしました。通常の授業と英語が母国語ではない学生用の授業の2種類があったのですが、せっかくならばネイティブスピーカーの学生たちにまじって授業を受けた方が学べることが多いだろうと思い、通常授業を選択しました。結果として英語が母国語ではないのはクラスで私一人だけで、ほかの授業とは異なりライティングで挽回したりする機会もなくとにかくうまく話すことが命、英語能力がものを言う授業でこのような環境にあることには少々緊張が伴いますが、ほかの学生たちのスピーチを聞いていると非常に良い英語の勉強になりますし、幼い頃から人前で意見を表明する場に何度も立たされてきたためかみんな話し方が堂々としていて、話す時の身振りもとても参考になり、やはり通常授業を選択しておいて正解だったと思っています。
教科書に沿ってスピーチの方法について講義を受ける回と実際にクラスメイトの前でスピーチをする回が交互に組まれており、今のところ、ことわざを交えた自己紹介とdemonstration speechの2回を終えました。2回目のスピーチの際は、日本文化を紹介する良い機会だと思い、折り紙、浴衣の着方、お味噌汁の作り方、などいろいろと候補を考えたのですが、最終的に日本から持ってきていたけん玉を紹介することにしました。全員に本物のけん玉を用意するのは難しかったので、前日にスーパーで買ったプラスチックのコップとアルミホイル、ひもで作った簡易けん玉を配りました。アメリカ人学生は全員けん玉を見たことも聞いたこともなかったようで、自分のスピーチを通して彼らの知らない日本文化を一つ広めることが出来て嬉しかったです。
<Elementary French 1 (FR101)>
最初はアメリカに来てまで外国語の授業を取るつもりはなかったのですが、講読が中心の日本の外国語教育と比較してアメリカでは聞く・話す能力により重点が置かれているという話をよく耳にしていたので、実際にどうなのか体験してみるのも面白そうだと思い、大学1・2年生の時に履修していたフランス語を再度勉強してみることにしました。
確かに授業では聞く・話すことが圧倒的に重視されています。まず文法が説明され、あとは文章の和訳をひたすらするという授業を受けてきた私にとっては、文法の説明は最低限で、会話の中で各自段々と理解を深めていくような形式の授業は新鮮でした。主語がこれで、動詞がこの位置に来て、形容詞が・・と文法にあてはめて考えるのではなく、フレーズごととにかくまず覚えさせられるのです。なぜ「私は日本人です」がJe suis japonaise. なのかは細かく説明されず、Je suis~で「~人です」と言うことが出来る、と教えられます。フランス語に似ている英語話者であれば感覚的に分かるためこのような形式が取られているのかもしれませんが、このような日本とはずいぶん違った外国語教授法は、グローバル化に応じた英語能力養成が叫ばれ、英語を英語で教えるなど教授方法に関しても議論が生じている日本における英語教育を考える上で一つの参考になるように思います。
<Foundation of Education (EPS201)>
今学期履修している授業の中で一番好きな授業です。アメリカ教育史から派生したような授業で、公教育とはそもそも何か、なぜ必要なのか、公教育制度はどのような問題を抱えているか、といったテーマについてアメリカにおける公教育制度の成立過程をなぞりながら考えていく内容です。人種隔離政策を巡る裁判については日本で受けていた法学部の授業の内容とも重なる部分がありましたが、似た内容を学ぶにしても韓国系アメリカ人である教授ご自身のほかにも祖父母から実際に人種差別の話を聞いたことがある学生が少なからずおり、そうした人たちの話に耳を傾けていると問題に対する距離感がより近く感じられます。
教授がとてもエネルギッシュで熱気に満ちた授業をされる方で、どんどん学生に意見も尋ねるため、100人以上いる大教室での授業ではありますが非常に双方向的な内容になっています。また、履修している学生の大半は教育学部生であるためやる気のある人が多く、授業中に展開される高度な議論にはいつも刺激を受けています。
この授業は、週2回の講義と週1回のディスカッションがセットになっており、ディスカッションのクラスでは学生が持ち回りで授業と関連するテーマを設定し議論の司会を務めます。段々と英語を聞き取ることにも慣れ、TAやほかの学生が言っていることは大体理解できるようになってきたものの、まだ英語で考えながら同時に話すということがなかなか出来ず、つい日本語で浮かんできてしまう考えを一度頭の中で英語の意見にまとめ直す作業をしているとどうしても議論に遅れ、意見を言おうとした瞬間に議論のテーマが次に移ってしまうなど悔しい思いもしていますが、毎回興味のあるテーマで議論が出来るので50分の授業が本当にあっという間です。元々20人のクラスにいたのですが、少しでも発言の機会が増えるようにと思い5人しかいないクラスに移ってきたので、今後は議論をリードできるくらい頑張りたいと思っています。
また、私が日本からの留学生ということから扱ったテーマに関して日本の状況を尋ねられる場面が度々あり、うまく答えられないと恥ずかしいので聞かれそうな事柄を予習して授業に臨んでいるのですが、日米比較によって自分の意見もより深まり、とても良い勉強の機会となっています。
来月後半の自分が司会を務める回では、アメリカの英語教育政策のあり方について70年代カリフォルニアで起きた裁判に基づいて議論をすることを考えています。
<Educational Psychology (EPSY201)>
科目名の通り、教育心理の授業で、Foundation of Educationに劣らず教授が教育熱心な方です。同じ教授のゼミに入りたかったのですが、相談させていただいたところ、まずはこの授業で基礎を学んでからにすべきだとの指示を受けたためゼミは来学期に回して今学期はこちらを履修することにしました。
教育心理学の基礎を学んでいるのですが、とにかく実践につなげることに重きが置かれており、新たな理論を学ぶとすぐにそれを実際の教室でどのように生かすことが出来るかについて話し合いをさせられます。教科書を読んでその内容についてテストをするだけでは教科書の内容をいかに理解しそれを解答用紙の上で再現できるかということが重要になりますが、ここでは習った内容をいかに活用できるかということが大切にされているのです。
また、理論を学ぶ際も出来るだけ学生が実際の体験を伴いながら学べるように工夫がされています。例えば、ピアジェの思考発達段階説を扱った際には実際に5歳・8歳・12歳の子どもを教室に連れてきて私たちの目の前で実験を行ってくれました。ピアジェの説通りになった部分もあればそうではなかった部分もあり、教科書を読んでいるだけでは学べないことを知ることが出来、興味深かったです。
この授業も講義とディスカッションがセットになっており、近々ディスカッションのクラスの人たちとグループで受ける試験があります。何を参照してもよく、時間内に提出すればどこに行くのも自由という形式の試験で、今までこのような種類の試験を受けたことがないのでグループにきちんと貢献できるか不安である反面、とても楽しみにしています。
10月の後半からは、Career Theory and Practice という教育学部の集中講義が始まる予定です。また、ディスカッションがほかのクラスと被ってしまい登録できなかった授業の講義だけをこっそり聞きに行ったりもしています。
最後に教育学部の特徴ですが、とにかく女子が多い!新学期に新入生の写真撮影に行ったところ、ざっと見渡す限り女子は100人以上、男子はわずか4人という男女比で、ここまで偏るものなのかと驚きました。また教員志望の学生の割合の高さも特筆に値します。日本の大学では教育学部はあったものの教員志望の学生はかなり少なかったので、教員を目指すほかの大勢の学生と共に勉強出来る環境はとても良い刺激になります。
【課外活動】
教育学部所属の学生団体に2つ入りました。どちらも規模の大きい団体なので、どれだけ活動に参加するかはともかく、教育学部の学生の多くがとりあえず登録だけはしているようです。それぞれ2週間に一度部会を開いており、日にちが被らないようになっているので、どちらか一方に絞る必要性も特に感じなかったこともあり双方の部会に顔を出しています。部会では今後のボランティア活動の説明や近々予定されている教育関連のイベントの情報共有のほか、付近の学校で働かれている先生をお呼びしてお話を伺ったりしています。教員志望の学生がほとんどなので本当にみんな一心にメモを取りながら聞いていて、質疑応答も毎回かなり盛り上がっています。私自身は中学校と高校の教員免許を取得するつもりなのですが、小学校の先生のお話も興味深く伺っており、特に英語が母語ではない児童への接し方や学校で起こる文化的軋轢に関する苦労について実際に現場に立たれている方からお話を伺った際は内容が面白く、手を挙げて質問もしました。
また、部会のほかに不定期でイベントも開かれています。先日は”Waiting for ‘Superman’ “ という、様々な事情からチャータースクールへの入学を希望する親子の姿を追いながらアメリカの教育制度に対し問題提起していくというドキュメンタリー映画の上映会があり、日本にいた時は知らなかったチャータースクールに関する知識を得られたと同時に、上映後にあったディスカッションを通して教育機会の平等・質の担保といった問題についてほかの学生と意見を交わすことが出来、有意義な時間となりました。
Japanese Conversation Table (JCT)という、日本語を学ぶ学生の集まりにも参加しています。毎週金曜日に集まって日本語で会話することを通して日本語の上達を図るというのが趣旨のようですが、私にとっては「日本語ではこういう表現をするけれど英語ではどう?」と尋ねることで生きた英語表現を学ぶ機会にもなっています。練習の後は大抵みんなでごはんを食べに行くのですが、ここでは英語で話している人が多いので、日常会話の良い練習になります。ここで学んだ学生がよく使うスラングをほかの場面で使ってみて周りの人たちの反応を見るのも楽しいです。日常会話を勉強する方法はいくつかあると思いますが、せっかくこういう環境にいるので、どんどん積極的にネイティブスピーカーの自然な会話の中に飛び込むのがよいのではないかと考えています。
最後に、私が寮で作った映画クラブについてご紹介します。私はすごく映画が好きで、アメリカでも映画を通して日本に興味を持ってくれる人を増やせたらと思っていたのですが、ある日寮の同じ階の人たちと一緒にごはんを食べていたら、二人とも日本のアニメが好きだということが判明し、しかも寮の地下に大きなスクリーンのある映画室があることを教えてくれました。そこで近くのお店で「時をかける少女」を借りてきて上映会を開いてみたところ、これが予想以上にたくさん人も集まり好評で、せっかくならば活動は不定期でもいいからグループを作ろうと考え、Illini Tower Movie Society というグループを作ってしまいました。今のところ3回の上映会を行い、メンバーはIllini Tower 以外に住む学生も含めて20人近くいるというような状況です。次回はジブリ作品のどれかを上映しようと考えているところです。
今回のご報告は以上になります。段々と寒くなってきて、氷点下20~30℃と聞く冬の訪れに戦々恐々としていますが、次回も充実した内容をご報告できるよう、また日々頑張っていきたいと思います。読んでくださった皆さま、どうもありがとうございました。
*写真説明
・台所の戸棚の中身です。日本の家の戸棚とあまり変わらないくらい日本食を常備しています。
・授業で使用している教科書の一部です。アメリカの教科書は日本のものと比べて分厚くて値段が高いです。どうしても新品しか手に入らない場合は仕方ありませんが、出来るだけ中古の安いものを買うようにしました。
・文章中には出てきませんが、大学のスタジアムの様子です。キャンパス内にこんなに大きな施設があるなんて驚きです。学期中に一度アメフトの試合を観に行くつもりです。