菊池智子さんの2011年10月分奨学生レポート

JICの皆様、ご無沙汰しております。そしてブログを見てくださっている皆様、初めまして。京都大学医学部4回生の菊池智子です。簡単に自己紹介をさせていただきます。日本では情報理工医学講座というゼミに所属し、iPadを用いた在宅医療の研究に携わっています。厳密には、研究が本格化する直前にアメリカへ来てしまったので、帰ってからみっちり取り組んでいこうと思っています。大学3年次までは、特に自分の専攻である医療に特化した活動に重きを置いており、日本国際医療保健学会を通してホンジュラスでHIV/AIDSの社会調査を行ったり、学生部会の運営委員としても活動していました。
もちろん自分の専門性を追求することは非常に良いことですが、そんな中で、私は「もっと広い視野で医療を見ていくことができないか」と考えました。一番の大きな転機はやはりホンジュラスでの調査で、私はただ医療に関する調査をしに行った(と思っていた)わけですが、実際に直面したのは、アメリカという大国の陰で抱えている経済的な問題や政治問題(2009年に起こったクーデターは記憶に新しいと思います)などでした。政治経済の知識は皆無であった私は、ヘルスケア自体が外界から受ける影響がそれほど大きいとは思っておらず、他の事業と比較し日本では特に善意のサービス色が強い医療を改めて別の方面から見直すきっかけになりました。アメリカでは日本の学部ではなかなか経験できなかった幅広い教養と、最も大きなエンタープライズであるヘルスケアシステムについて学べたらいいなぁということで、たくさんの人の協力もあって、いま実際にアメリカに来させていただいています。感謝、感謝です!
前置きが長くなりましたが、約2か月の留学生活を振り返って、以下、自分なりにレポートさせていただきます。
~渡米までの準備~
私はおそらく4人の奨学生の中で一番ばたばたしてしまったと思います。性格的に、比較的前からいろいろと手配しておかないと気が休まらない、実は心配性(!)な私ですが、5月以降は実習やアルバイトで非常にタイトなスケジュールの中、準備を進めていました。京都では一人暮らしをしていたせいもあって、アパートを引き払うための手続きや荷造りに追われてしまいました。そのため、しようしようと思っていた英語の勉強も時間が取れないままの出発となってしまいました。この点は少し反省です。
一番私が手こずったのは、ビザ申請でもなく健康診断証明書でした。ビザはできるだけ早めに予約さえしておけばあとは大使館で面接を受けるだけだったので簡単でしたが、健康診断書に関しては、どういった書類を揃えればいいのか、医師にどのように書いてもらえばいいのかよくわからず、後回しにしていたのでぎりぎりになってしまい、焦ったのを覚えています。今後の奨学生のために書いておきますが、健康診断書はそこまで心配する必要はありません。学校が始まる前、血液検査を受ける際にきちんと記入がされているか確認されるくらいでした。準備段階を経て今思い返してみると、その当時はとても大変だと思っていたことも、何とかなるというのがある意味で非常にアメリカ的だと感じました。
~アメリカ到着~
私はシカゴのオヘア空港に到着後、大学があるシャンペーンに向かう前に空港近くのホテルで2泊し、シカゴを観光しました。着いたときは、8月中旬にしてすでに半袖では肌寒く、曇り空が印象的でした。‘Windy City’ と呼ばれることは以前から知っていましたが、あとで聞くと、8月のシカゴは午前中快晴でも午後には雷雨になる日が多いそうです。
シカゴの街並みは洗練されてクリーンな印象が強いと同時に、アーティスティックでもあります。たまに道路をおしゃれな馬車が横切っていたりして、そのような光景を見ると乙女心がくすぐられました(笑)。「ニューヨークよりも、絶対シカゴの方がいいよ!」と、京都にいたときアメリカ人の友達からよく聞かされていましたが、本当にシカゴはいい街だと思います。まず、人がとても親切です。少し偏見がかっているかもしれませんが、カフェの店員さんは「アメリカなの?」というくらい愛想がよくびっくりしたのを覚えています。そして、上にも少し述べましたが、街がとても綺麗です。シカゴは高層ビルの建築でも有名ですが、典型的な最もアメリカらしい都市ではないかという感じがします。シカゴにいるときはただうきうきして、美術館やミシガン・アベニュー(ショッピングストリート)など、いろいろな所を一人で観光しまくっていました。


~大学の印象~
シカゴからシャンペーンまでバスで移動し、初めて寮に来た時は寮を見て「かわいい!」と思いました。建物はヨーロッパ調の赤レンガでできており、ロビーにはグランドピアノがあります。チェックインをして部屋に入ると、現地出身のアメリカ人のルームメートが‘Hello!’と笑顔で声をかけてくれ、緊張も一気に吹き飛びました。今まで海外に行く機会は多かったですが、実際に住むのは初めてなので、不安はありました。しかし到着した後はなぜかひと安心することができて日本と同じような気持ちにスムーズに入れたことが自分としても驚きです。
キャンパスの第一印象は「広い!」でした。おそらく皆が口をそろえてこう言うと思います。いわゆる「キャンパスタウン」です。気候は比較的穏やかで、晴れた日の透き通るような真っ青な空が大好きで、まだ暑い時期はよくQuadの木陰に寝転んで音楽を聞いていました。10月下旬ともなると、無理です、気温は0℃近くまで下がる日も出てきます、凍えます(笑)。
来る前までは何もないのかなあという印象でしたが、Terminalの近くに行けばおしゃれなカフェやレストランもありますし、学校の近くのGreen Streetにもおいしいお店はいろいろあります。小ぢんまりとしている中で必要なものはすべてそろっているという印象なので、特に不自由はしていません。


~授業開始~
私のスタンスとしては、秋学期はとにかく面白い授業やアクティビティを取り入れながら自分の学びたい勉強そして英語の練習をバランスよくしていこうと考えていました。
日本と違う所はやはりGPAをとても重視するところです。日本の学生の中には卒業のための単位取得に重きを置いて、内容は重視されないことが多い気がしますし、就職活動に関してもGPAの提示を求められないことが多いと思いますが、アメリカではGPAによって就職可能な企業、そうでない企業が出てくるという、いわば「足切り」のようなものが存在するようです(もちろんGPAがすべてというわけでもないとは思いますが)。
12Creditのうち1/4はイリノイ大学という総合大学ならではのAerobicsやFloral Arrangementのコース、残り3/4は統計学、医療システム学、(植物に特化した)栄養学といった自分の分野に比較的近い授業を取っています。
個人的に一番面白いのは医療システム学で、この授業ではアメリカでも最大のエンタープライズのひとつであるヘルスケアに関してgovernment policyやeconomics、人種の違い等の観点から切り込んでいく内容になっています。数週間前には元イリノイ州知事のJim Edgar氏がご登壇され、イリノイ州やアメリカ全体のヘルスケアポリシーのご講演を授業中にお聞きできる機会もありました。こういった内容は私が以前から興味を持っていたことでもあり、実際に学んでみたかったことなので、とても満足しています。ただ、私はアメリカの政治や経済に関する知識が乏しく、医療を考えるにあたって大きな影響を及ぼすこれらがネックになって、レポートを書くのが非常に困難なことがあります。これは、とても悔しいです。もちろん常識として知っておくべきことではあると思うのですが、来学期はPolitical Scienceの授業を取り、今の自分に足りないところを埋めていかなければと思います。もうひとつこの授業の好きな点は、複合的な学術プログラムやinfo sessionのアナウンスをしてくれることです。日本ではなかなか聞くことのないMHP(Master of Public Health)/MBAのdual degree programや、Health Care Consulting Firmのinfo sessionについて情報を得ることができ、先日もヘルスケアや病院経営、医薬品企業へのコンサルティングを行っている会社のinfo sessionに参加してきました。JICのプログラムに応募した当初は大学院進学を希望していましたが、このような話を聞いたり情報を集めることによって、まず社会の第一線で働き経験を積んだ上で、さらに上を目指してMPH/MBAのプログラムに挑戦したいという気持ちも湧いてきました。
Aerobicsではエアロビの他、ヨガをやったりサルサやズンバダンスも踊っています。Flral Arrangementのクラスでは意外と(?)体系的に講義とLab classが開講され、案外テストで覚えることが多く、大変だったりします。
他の3人の奨学生の中には勉強が大変すぎて死にそうな人もいるようですが、私は授業に関してはコンスタントに、特に辛いこともなくこなしているという感じがします。ただ、最初は自分の英語力にも自信がなく、多少敢えて余裕をもった感があるので、来学期はもっとレベルの高い授業に挑戦して勉強漬けになってみたいと思っています。
~midterm exam~
アメリカでは、日本と比べてテストが多いことも印象的でした。日本の大学と違って成績の付け方が非常にはっきりと明示され、日々のquizzなどこつこつと勉強する型が評価されるのがアメリカです。私は9月の下旬にmidterm1、10月下旬にmidterm2があり、遊ぶ時はもちろん遊ぶのですが、なぜかいつも「あ、次のテストいつだっけ・・・」と心のどこかにテストの存在がいたりします。しかし、授業さえきちんと聞いていれば特に問題はありません。英語がネックで解けないということはまずないと思います。
私の中では統計学のテストが2関数変数対応の電卓持ち込み可で午後6時~9時まで3時間のテストが一番焦りました。しかし、それも授業中に理解さえしておけば特にテストのためだけに勉強することもないということに気付きました。期末テスト前に詰め込む日本の形式よりも、私はテストが何回かあったほうがありがたいと最近はつくづく思います。
~学外の活動~
私がアメリカに来て非常に強く感じたのは、キリスト教という宗教の大きさです。日本人全体の傾向としては基本的に無宗教の人が多いと言われると思いますが、アメリカではキリスト教徒が大多数です。人々の実生活に溶け込んでいるので、何かと目にしたり耳にしたりする機会は多くなってきます。例えば、入学してしばらくは様々なBible Studiesのミーティングに誘われたり、キリスト教団体が思っていたより多いことに気がつきました。当初は「私、キリスト教徒じゃないし、バイブルスタディーズなんて行っても、逆に失礼じゃないか」と思ったりもしたのですが、彼らにとってキリスト教は生活の一部なので、裏を返せば、一番友達が作りやすい場でもあります。私はひとつの文化体験として、ミニオリンピックという年一回行われるキリスト教団体全体の運動会や毎週Bible Studiesに参加したり日曜日には教会にも行っています。今まで経験してこなかったことであり、今後こういった機会が実際にあるのかもわかりませんが、出会う人々や彼らの考え方に触れることでもう少し深くアメリカという国を理解できそうな気がします。
その他、週末にはパーティがあったり、連休の際には大学の友人の車でシカゴに遊びに行ったり、学校以外にも楽しいことはたくさんあります。
・・・と、ここまでいろいろ綴ってきましたが、何はともあれ周りの人は皆親切でいい人ばかりで、特に困ることはなく楽しく過ごせています。日本にいる時よりも悩むことは逆に減ったような気さえします。京都では何かと考えたり哲学することが多かった気がするのですが、やはりシャンペーンという土地柄のせいでしょうか・・・(笑)。穏やかな土地ではありますが、ここでは皆、学生のうちから積極的に将来に繋がる活動に取り組んでいて、とても刺激されます。留学生活の1/4が過ぎようとしていますが、残りの生活も新たなことに挑戦しながら、勉強や英語も頑張り、自分の将来についてもっと真剣に向き合う機会を多く持っていければと考えています。