皆様、お久しぶりです。2012年度奨学生の乾弘哲です。春休み直後に大雪に見舞われたアーバナシャンペーンでしたが、その後は順調に気候も穏やかになってきており、最近では、Tシャツ一枚で登校する学生も多く見かけるようになりました。 今回はあとわずか1カ月となってしまった留学生活についてお知らせします。
I. 授業
II. 春休み ~オーストラリアで模擬国連~ III. その他課外活動 ~宗教と映画~ IV. 英語の発信能力

I. 授業 前回のレポートで報告しましたように今学期はACDIS(Arms Control, Disarmament, and International Security)科目で時間割を作成したため、文系・理系科目を半分ずつ取ることになっています。
GELG118 Natural Disasters (Prof. S. Altaner) 3・11の大震災を始め、さまざまな自然災害を受ける運命にある日本を、英語の講義を通して振り返ってみたいと思い受講しました。基本的にFreshmen向けGeneral Studiesの授業なので、最初のうちは地震や台風など、日本の中学校の地学で習うような初歩的なことでしたが、講義は豊富な写真とビデオとともに進んでいくので印象深いものです。このヴィジュアルの力は強烈で、普段はそこまで意欲のない学生たちも、例えば東日本大震災で船が2階建ての建物の屋上に打ち上げられた写真がスライドに写されたときは学生たちも「Oh…」と絶句していました。その他にも、インドネシアやトルコの地震、カリフォルニアの地滑り、イタリアの火山噴火など、災害が世界各地で起こっていることを実感する内容です。
PS283 Introduction to International Security (Prof. S. Miller) 先学期に国際政治を勉強して興味を持った、アメリカという国における安全保障概念について知りたいと思ったのが履修のきっかけです。戦争や安全保障を語る上で、日本では第二次大戦という出来事のインパクトが大きい気がしますが、アメリカでは「冷戦」という出来事が予想以上に強い影響を持っていると実感します。先学期の授業で、9/11後のアメリカのテロリストへの対応は、共産主義に代わる新たな敵を見いだし冷戦時代と同じように対処しようとした結果であると言った話を聞きましたが、こうした授業を通して、色々な視点から物事を見られるようになっている気がします。 また、1月から2月にかけて、この授業では「Article Summary」なる課題が課され、文字通り1篇の論文を読んで要約するとともにクラスで扱われた題材とのかかわりを論じるというエッセイを書くことになりました。その論文の正確な理解が問われる分、普段のReading Assignmentよりもずっと時間がかかり、自分の読解力の至らなさを自覚できるいい機会だったと思います。
PHYS280 Nuclear Weapons & Arms Control (Prof. M. Perdekamp) 物理学科が提供している核兵器についての授業です。この授業はPhysics DepartmentのAcademic Advisorに会い、自分が留学生で、日本では4年生であることを伝えたら履修することが出来ました。とはいえ、物理学、しかもFreshmenは履修できないクラスということで内容的についていけるのか少し不安でしたが、physicsやtechnologyについてはそこまで専門的に深めることはせず、どちらかというと一般教養のような話が多くを占めていました。 この授業で面白かったのは、Discussionのクラスにいたクラスメイトの中には国務省や国防省・軍で働きたいといった学生が多く見られたことです。中には海兵隊出身という学生もいて、彼は現代のアメリカ軍の軍事技術について詳しい知識を持っているために授業中も存在感を放っていました。一方、核兵器の根絶を目指す「グローバルゼロ」というNPOに所属する学生も講義に来ており、核をめぐるさまざまな問題を考える機会になっています。
GLBL 397 International Diplomacy and Negotiation (Dr. T. Wedig) さすがに300番台の授業というだけあって学生もよく勉強していると感じます。担当教授が心理学や教育学などにも造詣のある方で、一般的なPolitical Scienceとは異なったアプローチで過去の国際問題に迫っていきます。 また、この授業の後半ではDiscussionのクラスごとに一国を代表して、オンライン上で他大学のチームと模擬交渉をしており、どのような提案を行うかについてペーパーを核といったグループワークもあります。ところが、この交渉の評価が最終成績にそれほど影響しないこともあって、皆この課題への取り組み方はのんきなものでした。私自身は従来の心配性な性格もあって、各課題の締め切りの1週間前くらいにはそわそわし始め、3日前くらいにはどうやってペーパー書く?とチームメイトにメールを出し始めるのですが、それに皆が返信をして作業に取りかかるのが締め切り前日の夜、ということも珍しくありません。最近では他の授業の課題が一段落したためもあってか、チームメイトも積極的に作業に参加していますが、この経験はどうやってチームで何かを成し遂げるかというリーダーシップに関する関心を深めるきっかけとなりました。
II. 春休み ~オーストラリアでの模擬国連~

春休みは、日本の大学の友人に誘われてはるばるオーストラリアに飛び、そこで模擬国連の世界大会に参加してみました。これは、世界各国から集まった同世代の学生200人ほどと1週間かけて国際問題について会議を行い、最終日には成果文書を採択するという大会です。複数の会議が同時に開催されるので、合わせると数千人規模の学生が集まることになります。この会議の事前準備の手引きでは、必要な能力としてpublic speakingやresearch、leadershipなど、まさに留学してから学んだような内容の項目が並び、また実際の会議でもこれらのスキルを以下にうまく発揮して会議をリードできるかが問われる場でした。 他の学生が、自分の代表する国の立場を表明するスピーチをするときも「あ、これはCMN101で出てきたAttention Getter(聴衆の注意をひくような言葉やパフォーマンス)だな。なるほど、これはうまい」と思わされる時が何度もありましたし、また自国の立場を成果文書に入れるべく皆が各々主張をし合っているときに、それら適度にコントロールし、すり合わせて形にしていくリーダーシップのスタイルも色々と学ぶことが出来ました。 目標としては、この模擬国連の場で留学の経験を活かそうと思っていたのですが、スピーチにせよリーダーシップにせよ、まだまだ他国の学生を引っ張るだけのものは提示できませんでした。議論の最初のうちは、自分の考えを大勢の前で発表するということもできたのですが、会議が進み、テーマが詳細になっていくと細かい表現やニュアンスまできちんと把握していないと議論についていけず、従って発言も減っていくという状態でした。それでも、これだけの学生を前に英語で発表できたのもそれなりの進歩ですので、道のりは長いながら着実に前進はしていると前向きに考えるようにしています。 また、連日の会議のあとの夕方にはSocial Eventとして飲み会やダンスパーティーがぎっしり詰まっており、留学してから学んだ「楽しむときは全力で楽しむ」という精神を発揮して積極的に参加しました。ちょうど春休み直前は中間テストに加えて各種Paperの締め切りが怒涛のように続いていたので、とてもいい気分転換になりました。 ちなみに、帰りは国際便が遅れ、またシャンペーンに大雪が降ったため飛行機がオヘア空港でストップし、一晩ホテルに閉じ込められることになりました。他の奨学生からこういうときの話を聞いていたこともあり、思わぬ予定変更への対処や航空会社との交渉といったこともそれほど焦らずに済ますことが出来ましたが、この度胸も、米国に来て身に着いたことの一つだと思います。III. その他課外活動 今期はこちらでの生活や英語にも少し慣れてきたこともあって、積極的に各種Eventにも参加してみました。以下ではその中のいくつかをピックアップして取り上げたいと思います。

Campus Worship まず、今学期に入ってから数回、ルームメイトとその友人たちのグループに誘われて、彼らの Worshipに参加してみました。アメリカに来た目的の一つに、この国の宗教観を知りたいというものがあったのですが、一言でいえばこのWorshipは極めてカジュアル化された宗教経験と言える気がします。初めて参加したときは大学の講堂で開催されたのですが、ステージ上にはバンドのセットが置かれ、最初は全員で現代的なムードの讃美歌を歌い(例えば”Forever Reign”とyoutubeで検索してみてください)、その後ゲストスピーカーによる宗教体験が語られます。キリスト教と言うと、映画などで見る教会をイメージしていたのですが、まるで人気バンドのコンサートか何かのような雰囲気でした。 その後、一通りこれらの式次第がすみ、最後にお祈りをした後は、会場に集まった学生たちが自由におしゃべりを楽しみます。参加している学生の人数は、初回は数百人規模で、中には壮年、高齢の方もちらほら混じっていました。
Film Festival このキャンパスではあちこちに特定の学問分野を研究する研究センターがあります。先学期は知らなかったのですが、調べてみるとこれらの社会問題や地域研究に取り組んでいるセンターがかなり頻繁にいろいろなイベントを開いていることが分かりました。最近はCenter for South Asian & Middle East Studiesが開催しているMiddle East Film Festivalで「Cairo 678」という映画を鑑賞してきました。この映画は、エジプトでのセクシュアルハラスメントと女性への偏見をテーマにした作品です。エジプトという国やイスラムという宗教の伝統、女性の人権などを絡めた問題を提示しており、考えさせられる内容でした。これらのセンターは他にも講演会などを企画しており、これまで知らなかったことを知る貴重な機会になっています。

IV. 英語の発信能力 最後に、今期の目標に掲げた英語での発信という課題について簡単に触れます。前回のレポートでも申し上げたように、今期はひたすら書くことを課題にしてAdvanced Compositionの単位が認定されるクラスを二つ履修しました。後で何人かの友人にはクレイジーだと言われましたが、たしかに、PS283のArticle Summaryも相まって、2月頃はルームメイトに「お前いつ見てもずっとエッセイ書いてるな」と言われる日々を送ることになりました。 その辛い時期を乗り越えたおかげで、目標としていたライティング能力はある程度向上したと思います。特にPHYS280では、一度提出したエッセイを1週間後にコメント付きで返却され、誤りを修正してその週のうちに再提出するというスタイルで課題が進むため、基本的な作文の条件のようなものはある程度理解することができました。一方、この間は課題に追われて一つ一つの言い回しや文法などがおろそかになっていたので、少し余裕のできた最近は時間を見つけて文法書を読み返すなど、いわゆる日本人の得意分野を補強するよう努めています。とにかく数をこなすことが上達への道であることは間違いないのですが、あまり量を増やし過ぎると個々を振り返る機会が取れずあまり学習効果が得られないのでバランスが大切だと感じます。 このように、自分なりには頑張ったものの、まだネイティブスピーカーに英文を見てもらうとほんの短い文章でも誤りを数か所指摘される状態なので、実際はまだまだ修行が足りないようです。これも、上記で挙げたスピーキングと同様に日々の地道な努力が必要なのだと実感します。
先学期と比べてみると、勉強以外にもいろいろと活動範囲を広げてみた春学期でしたが、それもあと1カ月で終わってしまうかと思うと複雑な気分です。帰国後はすぐに大学に復学しようと思っているため最近は日本とのやり取りが増え、ホームシックではないですが懐かしさを覚えます。ただ同時に、帰国2か月前ほどになってようやく「こちらでの生活にも慣れてきたよ」と自信を持って言える心境になったため、ここにいられるのもあとわずかなのだと思うとさびしい気持ちになります。とはいえ、どれだけさびしがってみてもあと1カ月、その間思う存分こちらでの生活を満喫したいと思っています。
2013年4月15日 京都大学法学部5年 乾 弘哲