奥谷聡子さんの2013年4月分奨学生レポート

シャンペーンは木々が芽吹き始め、うららかな春の日差しが心地よく感じられる季節になりました。 1週間前とは一変して、キャンパスはTシャツ姿で道ゆく学生で溢れています。友人に、”Satoko, there are only two seasons in Illinois. Summer, and Winter” と言われ、なるほどねと笑ってしまいました。 留学生活も残すところ、4週間となったところで4月分のレポートをお送りさせていただきます。 今レポートは、Ⅰ授業、Ⅱ課外活動、Ⅲ寮生活の3点についてご報告いたします。

日本館の桜も芽吹きはじめました。

Ⅰ授業 PS283 International Security [Professor. Steve Miller]  この授業では、国際政治における安全保障とアメリカの外交政策について学んでいます。 講義の他に、国務省の現役外交官によるスペシャルレクチャーなどもあり、大使館での勤務経験や、9.11直後のホワイトハウスと国務省、防衛省の舞台裏について生の声を聞くことができました。毎週金曜日のディスカッションセクションでは、授業で学んだ理論をもとに、中国の安全保障ジレンマ、イランの核開発、テロリズム、人道的介入などについて議論しています。  最近、印象に残ったディスカッションでは、核外交と原爆投下の正当性について議論しました。TA[Teaching Assistant]が「あなたたちが仮に大統領だったら、広島、長崎に原爆を投下しますか?」とクラスに問いかけたところ、多数のアメリカ人学生たちが是と答えました。その理由としては、原爆は地上戦がもたらしていたであろう犠牲者を救い、戦争を早期終結させるための必要悪であったとの見方がアメリカでは一般的だからです。他方で、私は 当時の日本の悲惨な経済状況や軍の劣勢という観点から原爆投下は戦争の結果に影響はなかったと主張しました。感情論だけで話しても相手には伝わらないと感じたので、できるだけ論理的に伝えようと努めた一方で、原爆に対する議論が論理一筋で、そのドライな空気に違和感をも隠せませんでした。アメリカで 原爆の非人道性は誰が伝えるのでしょうか。「安全保障とモラルはそもそも相容れないものなのだ」と力説する米軍幹部候補生を見て、正直、アメリカの、そして世界の将来に懸念を覚えました。

PS199 Undergraduate Open Seminar: U.S. State and Local Politics [Megan Remmel] この授業では アメリカの連邦政府と州政府の憲法や法律、権限の違いについて学んでおり、今学期最も興味深い授業です。なぜかというと、アメリカの政治文化や宗教、人種の多様性は連邦制という政治システムに鍵が隠されているということをこの授業が現実の出来事と繋ぎ合わせてくれたためです。授業では、現在まさに話題沸騰中の銃規制、同性結婚、麻薬の合法化、妊娠中絶などを巡る問題について扱っています。州の政治文化はこれら全ての議題と深く関連しています。例えばイリノイ州は、リンカーン大統領の地として有名である一方で州政府の汚職スキャンダルが全米ランキング11位、C評価と悪名高くもあります。イリノイの政治文化は古くから個人主義的であり、政治はあくまでも功利的観点からプロに委任すればいいと多くの人が考えています。 同性結婚や妊娠中絶に関しても、イリノイは比較的リベラルなのに対して、州を一歩外に出たインディアナ州では対照的な政策が推進されていたりします。アメリカと一言で言えども、カリフォルニアとユタ州は全く異なり、土着の政治文化が地域特有のアイデンティティと価値観を形成しています。本来なら連邦法で違法なことが、州レベルでは合法であったり、ある州で違法なことでも他州に移動すれば合法であるなど、連邦政府と州政府間だけでなく、州政府同士の対立が複雑な問題を生み出しています。 ファイナルペーパーでは、イリノイ州とユタ州の妊娠中絶政策について現在リサーチを進めています。

GLBL250 International Development [Prof. James Kilgore] この授業では、国際開発について学んでおり、教授はジンバブエに20年間滞在経験があるアフリカ開発分野のプロです。授業スタイルも少人数制ディスカッションで、教授に学生一人一人の顔と名前を覚えてもらえる親密な形式になっています。毎週リーディング課題とグループプレゼンテーションをしなければならないので、準備が大変な授業ですが、「グローバリゼーションと開発の矛盾」について執筆した中間ペーパーが、優秀論文に選ばれたのはとても嬉しかったです。現在はファイナルプロジェクトとして、開発に関するドキュメンタリーの制作にパートナーとともに取りかかっています。最後の授業日に教授のご自宅でポットラックをしながら、プロジェクトの最終発表をするのを 今から楽しみにしています。

PS282 Governing Globalization [Prof. Konstantinos Kourtikakis] このコースでは、グローバル化が各国の外交政策や環境保護政策、人権、貿易、国家主権に与える影響について学んでいます。人、モノの国境移動が盛んになるにつれて、世界経済の融合と国家間の連携深化が増々進んでいます。多国籍企業が世界のあらゆる地域に拡大する一方で、インドネシアのNike Sweatshopsでは労働者の人権侵害が、ナイジェリアではShell Oilによる環境破壊が今なお行われています。世界的な富裕層が増大していく一方で、未成熟な発展途上国の経済はグローバル化の波についていけず、先進国でも中流階級が没落し、貧困化する現象が起きています。世界は豊かになっているはずなのに、海の向こう側の市民の人権侵害や環境破壊の犠牲の上で成り立っているという矛盾をこの授業で映像やディスカッションを通して分析しています。Joseph StiglitzやThomas Friedman、Saskia Sassen など大変興味深い文献を授業では取り扱っています。

 

Ⅱ課外活動

St.Louis Blues チームのロゴ

NHL プロアリーナで試合 2月23日にミズーリ州にあるプロNHLチーム、St. Louis Bluesのホームアリーナで(Scottrade Center http://www.scottradecenter.com/ ) アイスホッケー部の遠征試合を行いました。ホッケー選手の誰もが夢見るNHLのプロアリーナで、米国留学一年目の私が、幸運にも人生でおそらく最初で最後にその氷上を滑ってきました。それだけでなく、公式レフェリーのロッカールームを使用させてもらえ、カナダのアイスホッケー連盟本部に直通する有名な赤い電話機にも直に触ってきました。試合は残念ながら負けてしまいましたが、そんなことは気にもせず、人生に一度の経験をさせてもらえただけでチームメイトは皆大満足でシャンペーンに帰ってきました。笑

St.Louis Blues のホーム、Scottrade Centerのリンクでチーム集合写真

決勝プレイオフ 3月8日から10日にかけてRomeoville, ILのCanlan Ice ArenaでWomen’s Central Hockey Leagueの決勝プレイオフが開催されました。この日に至るまでに、毎週2日間の深夜練習を7ヶ月重ね、週末はチームメイトと長時間ドライブをして試合へ遠征し、シーズン計14試合を経て、ようやく決勝プレイオフへの切符を手に入れました。1試合目から私たちは強豪チームにぶつかり、第2ピリオドの終盤でゴールキーパーとの一騎打ちになり、私がゴールを決めました。激戦の末、試合結果は3試合とも同点引き分けになり、僅差で決勝戦には進めませんでした。でも、Illini Women’s Hockey B Teamチーム史上最高の成績をプレイオフで残し、私もその歴史に足跡を刻んできました。最終試合直後のロッカールームは、悔し涙を流すチームメイトたちでしばらく静まり返っていましたが、私の中では悲しいという気持ち以上にチームへの感謝の気持ちが溢れて涙が止まりませんでした。普段は厳しいコーチのAdamが最後に私のところへ来て、「チームに加わってくれて本当にありがとう。君はこのチームに欠かせない一員だった。」と目を真っすぐに見て言ってくれました。イリノイ大学での留学生活を振り返ると、アイスホッケー部に入部して本当に良かったと心から思います。ホッケー部のおかげでたくさんの友人に恵まれ、チームワークの真の意味を学びました。 チームワークとは、仲間意識ではなく、異文化から来た人たちの集まりでも、多様性を活かして同じ目標に向かって連携することなのだと思います。チームに所属しているからといって、チームの一員になれるわけではなく、自分にできることを考え、行動に移して、はじめて周囲のリスペクトを得られるのだと学びました。たくさんの思い出を与えてくれたチームへの感謝の気持ちを込めて、プレイオフ直前にムービーを作成して贈ったら皆涙を流して喜んでくれました。以下のリンクからムービーをご覧になることができます。 http://www.youtube.com/watch?v=ShFf9vVDBI8

プレー中の写真

青春のシーズンは3月10日を以て幕を閉じましたが、隣町のBloomingtonのコミュニティリーグに友人たちとチームを組んで、帰国までの4週間、アイスホッケーを続けることになりました。今月末に学年末のTeam Banquetが企画されているので、次回の最終レポートでご報告できればと思います。

Final Game前の円

Ⅲ寮生活                                                       Global Crossroads Chicago Trip 4月6日から寮(Global Crossroads)企画で1泊2日のシカゴ旅行に出掛けてきました。Global Crossroadsの学生限定でバスを貸し切り、Shedd AquariumやNavy Pierへ行き、ミシガン湖の湖畔を自転車でサイクリングをしました。夜は、Second City Comedy Clubでコメディーショーを楽しみ、シカゴのナイトライフを満喫してきました。Living Learning CommunityはLLC限定の旅行企画やイベントも盛りだくさんあり、特にGCは皆仲が良く、疲れた日も寮に帰ると暖かい仲間に囲まれ、今や皆私の家族です。

Navy Pierにて友人たちとジャンプショット

刻々と近づく4週間後の別れのことを考えると、正直切なさが込み上げてきますが、尊敬できる大切な友人に出会えた奇跡や その人たちとの思い出はこの先消えること無く、 一生私の人生のかけがえのないかけらであり続けるのだと思います。

私の座右の銘に「一期一会」という言葉があります。 千利休の茶道の心得ですが、「誰かと出逢っているこの時間は二度と巡っては来ないたった一度きりのものである。だから、この一瞬を大切に思い、二度とは会えないかもしれないという覚悟で人に接しなさい。」という意味が込められています。

残すところ4週間の留学生活、この言葉を心に留めて過ごしていきたいと思います。 最後になりましたが、いつもご支援いただいている日本イリノイ同窓会の皆様と両親にこの場をお借りして感謝申し上げ、第3回のレポートとさせていただきたいと思います。