後藤直樹さん2011年1月分奨学生レポート

JICの皆様、レポートを読んでくださっている皆様、こんにちは。第二回目の奨学生レポートを送らせていただきます。

一月末の猛吹雪以来、(日本でもニュースになったかもしれません)冬らしい寒さが戻っていたキャンパスですが、ここ一週間は暖かい日が続き、雪解け水がキャンパスの至る所に水たまりを作っています。春の到来を期待するのはまだ早いかもしれませんが、とても気持ちのよい天気の中、いま、このレポートを書いています。

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写真1:リス(NewYork育ち)

先学期の授業について

振り返ってみて、未だに強く印象に残っているのは、Globalizationの授業です。前回のレポートでは国家の地理的な境界を超えて市場、生産面、両方でビジネスを展開する企業が、TNCs(trans national corporations)として概念化されていることについて書いたように思います。授業ではその後、80年代以降にIMFやWorld Bankを通して広められた新自由主義的な経済政策の、主に途上国に対する影響や、こうしたGlobalizationの否定的な側面に対抗する社会運動などが取り上げられました。網羅的に関連するトピックを扱う授業で、特に個々のトピックについて深く掘り下げられた訳ではありませんが、これからいろいろな機会にここで学んだことを思い出す予感がします。

面白いことに別に受講している人類学の授業でも、グローバリゼーションが重要な背景になっているエスノグラフィーを、授業の後半に読むことになりました。エクアドルのindigenous communitiesが、自治を求める社会運動を形成する過程でコミュニティ間の違いや対立を乗り越える必要に迫られ、それがかえって広い範囲でのコミュニティ意識を再形成するというテーマのエスノグラフィーです。

二つの授業を通して興味深かったのは、 共に別々の領域の学問であるにも関わらず、 グローバリゼーションというトピックがここで論じられる際に、少なくともこの両者の間には、ある一定の共通知識が 共有されているように思えたことです。これからいろいろなフィールドで物事を考える際に、グローバリゼーションという視角は非常に重要な切り口になると思いますが、その時分野を超えてベースとなる前提知識を、この授業では学べたように思います。

余談になりますが、アメリカに来てから、知らなければならない、と感じる情報が格段に増えたような気がします。 グローバリゼーションの授業や、日本の外で生活している、ということが影響しているのかも知れません。今まではドメスティックな範囲内で考えていたことでも、もっと広く深い文脈でとらえ直さなければならないように感じることが多くなりました。

情報技術の発達で、地理的に離れた場所の出来事が、世界に影響を与えるスピードが早くなりました。同時に個々人がアクセスできる情報も増え、手に入りうる情報は増え続けています。けれど情報にアクセスできるということと、それを把握できるということは当然別で、こちらに来てからその限界を感じる瞬間が多くなったように思います。 アメリカに来てから、世界が変わっていくスピードがはやくなったように感じるようになったのは、僕自身の感じ方が変わったからでしょうか。

一方でこうした情報の洪水の中で、どうしたら流されずぶれない思考が出来るのか、本当に知らなければならないことはなんなのか、そんなことを最近少し考えるようになりました。答えはまだ見つかっていませんが、留学をしていなければ、こうして真剣に考えている問題にすらなっていなかっただろうと思います。

サンクスギビング&ウィンターブレイク

写真2:セントラルパークから

写真2:セントラルパークから

サンクスギビングが始まると、まずNew Yorkに向かいました。かなり出不精な僕は、実はそれまでシャンペーン以外に町というものを知らず(シカゴもまだその時は行っていませんでした)、まるでどこかの地方から上京してきた学生のように、NYの「都会さ」にただ興奮するばかりでした。

ニューヨークという街には至る所に歴史が刻まれています。泊まっていたホテル(というかアパート?)が築100年以上経っているのに気付いたり(そして、そのせいでトイレが詰まったり)、 ふらっと入った教会の美しさに、心やすらいだりしました。東京も京都もNYもChicagoも、そしてその後行くDCも、どれも大都市ですが、それぞれに建物の色や種類、街に流れる空気が違って、そうした違いを各々に感じれただけで貴重な経験でした。

NYを満喫した後は、WashingtonDCに向かいました。実は義理の叔母のお兄さん夫妻(Kenny&Donna)がDCに住んでいて、渡米前から、サンクスギビングの時には是非来るようにと、声をかけていただいていたのです。

NYを発ったのは丁度サンクスギビングデイの日でした。その日は、Kenny&Donnaそして従兄弟と一緒に、Baltimoreに住む親戚のディナーに招かれていて、DCではなくまずそちらに向かうことになりました。親戚同士の集まりに、一人英語の喋れない日本人がいる訳ですが、とにかく温かく接してもらい、居心地の悪さは全く感じませんでした。

ディナーが始まると、二十人くらいが真ん中に蠟燭が立てられたテーブルを囲み、伝統的なサンクスギビングの食事と会話を楽しみます。会話の内容はあまり理解できなかったのですが、共通の祖父母の思い出話などに花を咲かせているようで、終始とても温かい雰囲気が流れてたように思います。彼らにとって、この日はとても大切な日なんだな、ということが肌で感じられる一日でした。

KennyとDonnaは、両方とも料理が大好きで、毎日のように手作りのお菓子を焼いてくれます。美味しかったのは言うまでもありません。この居心地の良さのせいか、クリスマスにも滞在させてもらったのですが、その際にDonnaから「はじめての時はGuestだけど、二回目からは家族の一員だからね」と言われ、とてもうれしかったのを覚えています。アメリカの家族のように思えました。

実は、Kenny&Donnaのお隣の方は、ご夫妻ともにIlliniで、一度挨拶に訪れイリノイ大学に留学中だと話すととても喜んでくださいました。君は僕らの誇りだよ、とおっしゃってくださり、話している途中に、あれ、ご主人がいなくなったな、と思ってしばらくすると、どこからか見つけてきたのか、イリノイのすこしくたびれたオレンジのキャップをうれしそうな顔でかぶって戻ってこられました。一年だけの留学ですが、それでもイリノイ大学で勉強していたということが、これからもいろんなところで、思いもよらぬ共通点を見つけるきっかけになっていくのだと思います。

写真3:Kenny&Donnaとお土産の箸と

写真3:Kenny&Donnaとお土産の箸と

今期の授業について

今期の授業は以下のものを履修しています。

HIST142    Wester Civilization Since 1660

PHIL203    Ancient Philosophy

ANTH430   History of Anthropology

MS410       Media Ethics

今回の授業のテーマは(後づけですが)、「西洋の歴史」だと思います。歴史という学問には、どこか自分のことを知りたい、という社会の自意識があるように思います。まだセメスターがはじまって一ヶ月ですが、最初の三つの授業を通して、西洋世界の自意識に朧げながら触れているように感じています。

とりわけ、人類学の歴史の授業は、平行して専攻である社会学の歴史も取り扱っており、自分が専攻してる社会学という学問が、ある特定の社会の特定の時代的背景から萌芽したものであるということを、強く意識し直すきっかけになっています。

この授業では、社会学の基礎を築いたとされる泰斗二人(ウェーバーとデュルケーム)の代表作を読むことになり、社会学専攻なのにその文献を実は読んだことのない僕は、恥ずかしいことに英語ではじめてそれを読むことになりました。

社会学という学問は、いったい何をやっているのですか、と聞かれる確率の非常に高い学問です。僕は今まで一度も満足に答えられた試しがなかったのですが、この二人の社会学者はそれを定義すること(しかもかなり違った形で)からはじめています。人類学の授業ですが、この授業には、日本に帰ってからやらなければならない課題をたくさん残されたように思います。

とりとめのない内容になってしまいましたが、今回のレポートは以上です。課題はたくさんあるのに、たいしてなにも出来ていない自分がときに情けなく思えますが、それでもそれを見つけれただけ幸せなことだと思います。こちらでの生活は、思い返せば、後ろ向き7割前向き3割程度ですが、奨学生レポートは前向きな時に書いています。ただ、とても貴重な経験をいましているのは確かで、このような有意義な機会を支えてくださっている、JICのみなさま、両親、同じ奨学生のみんな、友人に感謝の意を述べて、第二回目の奨学生レポートを終えさせて頂きたいと思います。

写真4:冬のユニオン

写真4:冬のユニオン

近藤千鈴さん2011年1月分奨学生レポート

JICの皆様、こんにちは。いかがお過ごしでしょうか。2010年度JIC奨学生の近藤千鈴です。

早いもので、もう第二回目のレポートの時期になってしまいました。考えてみると、もうこちらに来て5ヶ月も経ったことになります。日本に居た時は半期の留学は短すぎる、と思っていましたが、今は1年(実質10ヶ月程ですが)でも、あっと言う間だと実感しています。残りの滞在期間を考えて、焦りを感じないと言えば嘘になりますが、今は(当たり前のことですが)一日一日を大事にしていくしかない、と思っています。

それでは、第二回レポートをお届けしたいと思います。

まずは、以前のレポートでご紹介できなかった先学期のTheaterの授業について少しお話ししたいと思います。
私がとっていたTHEA170 Fundamentals Of Actingは、Theaterメ ジャー以外の人向けに開講されているものです。割と人気があるらしく、今学期私の友人も何人か履修しています。私の通う神戸市外国語大学では毎年語劇祭な るものがあり、それに以前から興味を持っていたことが、この授業を取る理由となりました。専攻以外の人向けとは言え、講師の授業への意識や生徒に対する期 待は高く、モノローグなどでは毎回非常に細かい要求をされましたが、そのぶんやりがいがありました。
こちらでは日常から、演劇の敷居が低いな、と思うことが多いです。演劇部もいくつかありますし、一部の学生達による自主公演などもさかんです。この授業を 取った時も、「自分のスピーチスキルを上げたいから」など、「劇に夢中」ではない学生が全く別の目的や、興味本位やから授業をとっていることが多く、面白 いなと思いました。

休暇
前回のレポート以降、サンクスギビング、冬休みと、2つの休暇をはさみました。休暇中、PAR, ISR, Sherman, Daniel 以外の寮はすべて閉まってしまうので、多くの留学生は早めに計画を立てて、どこで休暇を過ごすかを考えなければなりません。(キャンパスにとどまることも可能ですが、上記以外の寮の生徒は余分に滞在費を支払う必要があります。)
私はサンクスギビングはNYと、その後Chicagoに行きました。NYでは自由の女神はそっちのけで、街をひたすら歩き回り巨大なNYの街の雰囲気を満喫しました。反対に何度か訪れて少し慣れてきたChicagoでは友人と会ったりして、のんびり過ごしました。ちなみに10月ごろにChicagoに行った際には、Broadwayの劇場でビリーエリオット(邦題はリトルダンサー)を観る機会があったのですが、素晴らしかったです。ChicagoにBroadwayがあることはあまり知られていないのですが、小さな劇場がいくつかある通りがあり、Chicagoのお気に入りの地区になりました。

NYのタイムズスクエア
写真1:NYのタイムズスクエア

シカゴの劇場にて

写真2:シカゴの劇場にて

冬休みはイリノイから離れ、主にLAの友人を訪ねたりしました。滞在がクリスマスの時期だったこともあって、家族や友人の集まりにも参加させてもらい、暖かいLAで 楽しいひとときを過ごすことができました。この二つの休暇ではどちらもでも、友人の家に滞在させてもらう機会があったのですが、アメリカの家庭が垣間みれ てとても興味深かったです。子供に対する接し方、親戚などの集まりから、客人に対するホスピタリティやはたまた定番の夕食など、ほんの少しの間とは言え、 生活を共にすることで見えてくることも多かったです。
サンクスギビングは学期も中盤になり、モチベーションを保つのが難しくなっていた頃だったので、本当に良い息抜きになりましたし、冬休みは一度リフレッシュして前期を振り返る機会になりました。アメリカの大学では一旦授業が始まると、とてもintenseな生活になるので、こういった中休みや長期休暇は大事だな、と実感しました。
今学期の授業
今学期は、以下の科目を履修しています.

  • AAS258 Muslims in America
  • AAS315 War, Memory, and Cinema
  • ANTH363 Anthropology of Dance/Movement
  • ART191 Experimental Photography
  • UP204 Chicago: Planning& Urban Life

今期はAnthropologyにあまり取りたい授業がなかったことから、とにかく色々な学部のコースを探しました。とはいえ、授業中に人類学者が書いた文献を読むことも多いですし、以前は考えもしなかった学部の面白いコースが履修できたので結果的に良かったと思います。その中で、今回はAASと写真の授業についてお話したいと思います。
AAS258 Muslims in Americaは、Religious Studies, Latino Studiesを含めた3つのMajorに またがって開講されているものです。奴隷貿易時代に始まり、アメリカ史の中で常に重要なファクターであり続けた「ムスリム」がどのような歴史的変遷を経 て、なぜ今のような形で認識される(具体的に言えば、ムスリム=アラブ人、など)に至ったのか、ということを読み解くことが授業のテーマです。学期末のUrbana& Champaignでのフィールドワークを元にしたresearch paperが主要なプロジェクトですが、それ以外にもエッセイや、授業内でのプレゼンテーションなどが多く盛り込まれた授業なので、大変ではありますが、色々学べるのではないかと考えています。
AAS315 War, Memory, and Cinemaも、Cinema Studies, General Women Studiesにまたがって開講されている授業です。3時間の授業なので映画を観るのかと思いきや、基本的に全ての時間をその日の課題の映画/Readingに関するDiscussionに 費やします。そんな長時間の授業にも関わらず、とても活発な議論ができているのは、ひとえに教授のおかげです。非常にパワフルかつユーモラスな教授で、生 徒の意見を素早くくみあげフィードバックを返し、それ以前に出たトピックと関連づけ、議論を導いて行く様には圧倒されます。他にも、グループプレゼンテー ションが多々あるなど、この授業はとにかくPublic Speaking色が強い授業なので、そういった授業をあまり取っていない私には良い訓練になるかと思っています。
ART191 Experimental Photographyは、私の住むアレンの寮生のみを対象に開かれている授業です。
Art Major の 学生が多く住むアレンでは、楽器の練習室はもちろん、写真を現像する暗室や、陶芸室などが寮の地下にあります。この設備を使わない手はないだろう!と思 い、先学期に友人の助けを借りて暗室で現像を学ぼうと思ったのですが、写真の授業を取っていない、しかも過去に暗室を使った経験のない学生は使えません、 とすげなく断られてしまいました。それ以来ずっと後ろ髪をひかれていたのですが、今学期が最後の機会、ということで履修することにしました。日本ではそれ こそ、写真学校かセミナーに通うかしないとなかなか学べない技術なので、本当に貴重な機会だと思っています。

先学期にとった授業の反省として、課題の内容があまり充実していない、そのため評価基準も上手く分散されていない、ということがあったので、今回はその点を意識して授業を選ぶようにしました。その結果、日常的に、Readingに関するエッセイや課題、またプレゼンテーションなどがある授業をバランスよく取れたのではないかと思っています。また全体としてDiscussion形式の授業が多くなっているので、ひとつひとつの課題をこなしていくと同時に、授業中のDiscussionにどうやって関わり、理解を深めていくのかが、今学期の当面の目標/課題となりそうです。

2月現在のSouth Quad

写真3:2月現在のSouth Quad

明日にはもう2月 に暦が変わります。今年のシャンペーンの冬は友人に言わせると「ここ数年で一番まし」だそうですが、今日はずっと雪が降りつづけており、明日は冷え込みそ うです。次のレポートを書くころには、もう気温も上がって雪もとけているのだろうと思うと、不思議な気持ちですが、それまで後悔のないように毎日の生活を 充実させていきたいと思います。JICの面接に受かってから、ずっと応援してもらった家族、友人、そしてご助力いただいたJICの皆様には、ほんとうに感謝しております。今後ともよろしくお願いいたします。

神戸市外国語大学 外国語学部 国際関係学科3年
近藤 千鈴