【奨学生レポート第3回】
田中洋子
皆さんこんにちは。早いものでもう3月も終わりに差し掛かり、長いと思っていた留学生活も残すところ1か月半ほどとなりました。今回のレポートでは春学期の授業の様子や課外活動、春休み旅行について書いていきたいと思います。
【春学期授業】
まず授業全般についてですが、先学期は教育学部の授業を中心に履修していたものの、今学期はメディア系の授業、より具体的には映画に関する授業を主に取っています。元々映画鑑賞が趣味だったのですが、作られ方なども把握せずただ漫然と娯楽として接しているよりも、一度学問の対象として捉えてみた方がより深く作品のことも理解出来面白いのではないかと思い、せっかくならば独学するのではなく大学の授業を通して勉強しようと考えたことが理由です。また、後ほど詳しく書きますが、一鑑賞者としてではなく、ほかの人と作品とをつなぐという立場から映画に関わることにも興味がわき、作品の解釈などを学ぶ授業に加え、学生映画祭運営の授業も履修しています。
○CMN 368 Sexual Communication
今学期取っている授業の中で唯一メディア系ではない授業です。2学期目、私にとってはイリノイ大学で最後の学期。自分の関心に近い学部の授業だけ調べていて後から実は面白そうな授業を知って後悔するのは嫌だったので、新学期が始まる前に一通り授業の一覧に目を通していたのですが、「へぇ、こんな授業があるんだ」と一際目を引いたのがこの授業でした。私が知らないだけかもしれませんが、日本では性についてオープンに学ぶ機会がなかなか少ないような気がしたので、貴重な経験になりそうだと思い履修を決めました。ちなみに、コミュニケーション専攻の学生の間ではこの授業はなかなか有名らしく、私が履修登録をした時にはどのクラスもほぼ満席で、ぎりぎり残っていた枠に滑り込んだという感じでした。
内容としては、授業名の通り人々が性に関する事柄にどのような形で関わっているかを様々な角度から学ぶというものです。性に対する態度の男女間・人種間・世代間・国家/地域間の違い、性に関する知識の伝達における家族の影響、インターネットが性的なコミュニケーションに与えてきた影響、広告という媒体を通した性的メッセージの伝達、などテーマは多岐に渡ります。
授業の形式は、毎週2,3本ほど指定される論文に基づいて講義が行われ、そこで説明された内容についてディスカッションのクラスでより詳しく掘り下げて学ぶというものです。シラバスを読むと相当の負担があることを覚悟するようにといったことが書いてあり少々不安になるのですが、扱う内容は確かに多いものの、論文の要点がつかみやすいよう教授が要点に関する問いを載せた質問用紙を作成してくださっている上、穴埋め出来るようになっている授業ノートも配布されるため、それらをきちんとこなしていれば授業についていけなくなることはなく、とても親切なシステムになっていると思います。また、教授の講義はテンポがよく、ディスカッションクラスも私のTAさんは時間を最大限使えるようメリハリのある内容の濃い授業をしてくださるので、退屈に感じる時間がありません。
現在は、春休み直後に行われる試験に向けて勉強すると共に(と言っても、現在春休み真っ最中でこの文章も旅行から帰る列車の中で書いているので、どこまで時間が取れるかは分かりません。一応論文はスーツケースの中に入れてきました)4月下旬に提出のレポート執筆の準備をしているところです。このレポートは、一人ひとり違う問いを与えられ、性に関するエキスパートになりきって、資料に基づきその問い(ある人からの性に関する相談内容という形になっています)に答えるというもので、大量に論文を読まないとまともな内容が書けなさそうなので負担は大きいものの、このようなユニークなレポートを課されたことがないのでわくわくしています。
○MACS100 Intro to Popular TV and Movies
アメリカの映画・テレビ(今後テレビについても扱うようですが、今のところ主に映画について学んでいます)についてジェンダーやエスニシティ等の観点から分析を加えるという内容です。100番台の授業であるためそこまで高度な内容は扱われず、また履修人数が非常に多いこともありディスカッションクラスもないためそこまでの負担はないのですが、特に各エスニシティの表象に関しては、様々なバックグラウンドを持った人々が織りなすアメリカ社会のありようを垣間見ることが出来、外国人である私にとっては非常に興味深いです。映画の授業というよりはむしろ、映画そのものではなく、それを媒体にアメリカ社会の歴史やその内包する問題について学ぶ授業と言った方が正確な気がします。また、ジェンダー、特に女性の表象についてはCMN368 Sexual Communication で学んだ広告における女性の表象と重なる部分があり、相互に知識が深まります。気にしだすと切りがないというか、深読みしすぎてしまうのも逆によくないのではないかとも思うのですが、授業を受ければ受けるほど今まで何も気を留めてこなかったものの背後にある言外の意味に敏感になり、まだまだ浅い解釈しか出来ませんが観察者としての目が育つ感覚を面白く感じます。今まで観たことのある作品をもう一度観直して以前の自分と今の自分の解釈の差を確かめてみるのも楽しそうです。
授業の形式についてもう少し詳しく書くと、週2回の講義に加え、火曜の夜は出席が義務付けられた映画上映会があります。その週のテーマに沿った課題が毎週出されるのですが、基本的には授業で習った概念を上映会で観た映画と関連付けて自分で改めて説明し直すということが求められます。授業内で毎回選択式の小テストがあり、またオンライン上で提出する試験もあります(実質的には課題とそれほど変わりません)。これらに加え、学生がランダムに5,6人の班に振り分けられ3分間の映画を撮影するというグループ課題も用意されています。春学期の直前にようやく動き出したので、詳細については次回のレポートに書きたいと思います。
宿題のため映画を観に行ったダウンタウンの映画館です。ハリウッドの大作だけでなくインディペンデント映画や昔の名作も上映しており、度々足を運んでいます。
○MACS262 Survey of World Cinema
毎週違うジャンルの映画を扱い、そのジャンルの時代背景や著名な監督、有名な作品、表現方法の特徴、ほかの映画に与えた影響などを学ぶ授業です。今のところ扱ったジャンルは、イタリアネオリアリズム、日本のサムライ映画、ヌーヴェルバーグ、ドイツ戦後映画、ヒンドゥー映画など、本当に様々です。毎週全く異なるジャンルを扱うので、一つのことを深く追求するというよりは、幅広くいろいろな知識を身に着けるという感じで少々せわしない感じはしますが、限られた時間で濃縮された講義をしようという教授の努力が伝わってくる授業です。私はこのジャンルを特に詳しく知りたいというものがそれほどなく、むしろ今まであまり目を向けてこなかったジャンルを含め様々なものに触れてみたいという思いがあったのでこの授業を取ったのですが、同じMACSの授業でフランス映画、ドイツ映画、またネイティブアメリカン映画に特化した授業もあり、専門性が高くなるがゆえに難易度も少々上がるようですが、これらの授業を履修することも選択肢としてありえると思います。
週2回授業があり、前半は丸々映画の鑑賞に使われ、後半は前半で鑑賞し切れなかった分の映画を観た後に教授による講義を受け、最後に教授の立てた問いに沿ってクラス全体で議論するという形で、ディスカッションのクラスはありません。クラス全体で出席者は50人程度いるので、前の方の席に座っていないと発言が難しい上、少数ですが映画マニアのような人もいて段々議論の内容が高度になっていってしまうことがしばしばなので、なかなか毎回は発言できず、もう少し頑張らねばと思っています。
一般的な話として、私は学んだことが教室の外で生かせると勉強する楽しさを感じるのですが、この授業はまさにその典型で、授業で扱ったジャンルの有名な作品のDVDを図書館から借りてきて授業で習ったことをその作品の中に見つけると、今までは素通りしてしまっていたかもしれない場面をこの授業を受けたことで立ち止まって考えることが出来ている、と嬉しくなります。今までは脚本や俳優の演技に専ら注目してしまっていたのですが、それらにも客観的な分析を加えられるようになってきたことに加え、照明の使い方やショットの使い分け、小道具の意味などにも気が回るようになり、映画を観るという行為が何倍も面白いものになりました。あれこれとアンテナを張ってしまい、あまりのんびりと観られなくなるという側面もあるのですが・・・。
評価は授業で扱ったジャンルが全般的に問われるノート持ち込み可の記述試験2回とレポートでなされます。レポートでは好きな作品を各自選び、その作品の一場面に分析を加えるというもので、私は「イヴの総て」という1950年のハリウッド映画を題材にレポートを書き進めています。個人的に映画の感想を作品全体について書く機会は以前からあったのですが、時間にして数分に過ぎないある一場面について詳細に分析を加えるということはしたことがないので苦戦していますが、教授のサポートも手厚いので、その助けを最大限生かして納得出来るものを仕上げられたらと思っています。
○MACS464 Film Festivals
映画祭をテーマにした授業です。今まで映画自体には関心があったものの映画祭についてはあまり注意を払ってこず、映画祭に焦点を絞った授業というのも映画理論を学んだりする授業に比べあまり耳にしないので履修を決めました。400番台の授業なのでついていけるか不安もあったのですが、教授の面倒見がよく、学生が全部で15人程度しかおらずアットホームな雰囲気ということもあり、確かに負担はそれなりにあるものの何とか楽しく授業に出ています。
前半は映画祭の歴史的変遷や今日の世界に大小合わせて何千とあると言われる様々な映画祭のうち特にほかへの影響が大きいものについて書籍や論文を通して学んでいきました。よく考えてみれば当たり前なのですが、どんなに良い映画でもお金が生み出せなければ多くの観客に観てもらうことは出来ない、評価の高さも純粋に作品の質のみが反映されているわけではない、そして映画祭(特にカンヌやベルリンなど大規模なもの)は芸術としての映画を楽しむ場というよりはむしろビジネスの場としての側面が強い、それらを知ったことで映画を産業の観点からも捉えるようになったことがこの授業を通しての自分の中での一番大きな変化であるように思います。
外部の方を招いての講演も多く、地域の小中高生対象の映画脚本コンテストの主催者、サンダンス映画祭のスタッフ経験者、シャンペーンの映画協会の方々など、実際に映画の世界で働かれている方の生の声を直接聞くことが出来るのもこの授業の魅力です。
後半は、座学の授業と並行して私たち自身が学生映画祭を運営するというプロジェクトに時間が割かれています。この授業が開講されるのは今年が初めてではないので、一応の方向性やイベントの大枠のようなものは予め決まっているのですが、基本的には私たちが好きなように一から映画祭を作り上げていきます。クラス全体が会場、広報、プログラム、ウェブなどの小さな班に分かれて活動しているのですが、私はプログラム班の一員として、映画祭に作品を出展したい人との連絡や、審査をお願いする方々とのやり取りなどを担当しています。活動が本格化するのは春休みが終わってからになるので、これからが忙しくなりますが、少しでも貢献出来ることを探して良い映画祭にしていければと思っています。
【課外活動】
○Epsilon Delta
先学期から参加している教育学部公認の学生団体です。もう一つ顔を出していた同じく教育学部公認の団体があったのですが、こちらの方が知り合いが多く団体の雰囲気も好きなので、今学期からはこちらにだけ行くことにしました。
基本的には2週間に1回ミーティングがあり、これには出席が義務付けられているのですが、そのほかにもメンバーでボーリングやスケートをしに行ったり、ごはんを食べに行ったりと交流の機会が用意されていてなかなか楽しいです。ミーティングでは地域の小中学校の先生や教育関係のNGOの代表の方をお招きしてお話を伺ったり、教育に関連する映画を観てそれに基づき議論をしたりしており、毎回充実した時間を過ごしています。ほかの授業ではなかなか教育に関心のある人に知り合う機会がないので、ここで出来たつながりを今後も大切にしていきたいと思います。
○日本映画上映会
先学期からすでに細々と寮で日本映画の上映会を行っていたのですが、今学期になってから同じく日本映画上映会を開きたいと考えている日本人学生の人と知り合い、より多くの人に来てもらえるよう場所を移して新たな日本映画上映会シリーズを始めました。映画を通して日本文化の発信をしたいというのは留学以前から考えていたことだったので、このような出会いに恵まれたことに感謝しています。
先学期の上映会では専らアニメ映画を観ており、私自身アニメは好きですし、それはそれで楽しかったのですが、「日本映画=アニメ」という凝り固まったイメージを壊したいという思いがあり、今回は少しアニメも挟みつつ(来てくれている人の希望でジブリの「かぐや姫野物語」を鑑賞しました)基本的には実写映画を中心に観ることにしました。今まで鑑賞したのは、上記の「かぐや姫野物語」に加え、「用心棒」「東京物語」「HANA-BI」「二十四の瞳」などです。日本映画にそもそもあまりなじみがない人、アニメは好きだけれどほかのジャンルはほとんど見ない人に、日本映画はもっと幅広く魅力ある作品があるということを伝えたいという思いで始めたものですが、私自身名作をあらためて鑑賞することを楽しんでいます。
あくまで趣味の延長でやっていることなのであまり堅苦しくならず出来る時に上映会を開ければいいかなという姿勢なのですが、今のところ毎週のように上映会を開いており人数もそれなりに集まってくれているので、学期が終わるまで楽しく続けて行けたらと思っています。
イリノイ大学の図書館のDVDコレクションはかなりラインナップがよく、借りたい作品は大抵置いてあります。「二十四の瞳」は置いてなかったのですが、購入希望を送ったところすぐに購入してくれました。
【春休み旅行】
春休みの予定をそろそろ立てようかと考えていたところに丁度高校の同級生から東海岸旅行の誘いを受け、二つ返事で彼女と一緒に旅行に行くことにしました。行先はニューヨーク、ボストン、ニューヘイブン。かなり盛りだくさんの旅だったので全ては書けませんが、特に印象的だったことを抜粋して書いていきたいと思います。
○飛行機の大幅遅延!
空港に向かうバスの中で元々乗るはずだった飛行機がキャンセルになり、それより1時間遅く離陸するほかの飛行機に振り替えられたとのメール。ほんの少し前に吉川くんがワシントンに向かう飛行機がキャンセルになりホテルに泊まる羽目になった話を聞いていたので、「まさか自分の身にもこんなことが・・・」とため息をつきつつ、1時間程度の遅れなら我慢しようと思いました。しかもその日シカゴは雪がたくさん降っていてバスも1時間近く遅れていたので丁度よかったとさえ感じていました(感謝祭休暇中にサンフランシスコに行った際、空港に着いたのが離陸40分前でパニックに近い状態で空港の中をダッシュしたという経験から時間には余裕を持たせようと心を入れ替えたので、一応1時間程度のバスの遅れなら大丈夫なように予定は組んでいましたが)。
が、最終的には5時間近くの遅延。度々離陸時間変更のアナウンスが流れ、「ああ、一体いつになったら出発できるんだろう、友達はニューヨークで待っているのに・・・」と旅の出鼻をくじかれてしょんぼりしてしまいました。
とはいえ、何とか無事ニューヨークにたどり着き(ホテルに着いたのは夜の9時頃でした)友達と合流を果たせたのでした。一日目はほぼ移動に費やされました。
○ニューヨーク
自由の女神を見に行ったり、セントラルパークをお散歩したり、オペラ座の怪人をブロードウェイで観たり、とニューヨーク観光王道という内容でしたが、特に印象に残っているのはある映画・演劇の製作・配給・興行を行っている企業のニューヨーク事務所の方からお話を伺ったことです。OB・OGのつても何もなく問い合わせフォーム経由で面会をお願いしたので当初はダメ元という気持ちだったのですが、実際にお時間を取っていただけることになり、最初からあきらめず動いてみるものだなと思いました。
私はどちらかというと映像方面に興味があるのですが、ニューヨーク事務所は演劇に特化しており、今まで映画に比べるとそれほど関心を払ってこなかった演劇のことについて詳しくお話を伺えたのは新たな選択肢を知るという意味でとても貴重でしたし、そのほかにも仕事全般に通じる姿勢などもお聞きでき、本当に濃い時間となりました。
オペラ座の怪人の会場の様子です。生のミュージカルは胸に迫ってくるものがあり、感動して泣いてしまいました・・・。
○ボストン
ダックツアーという、水陸両用の車に乗ってボストンの主要な建物をガイドさんの説明つきで見て回るというツアーに参加しました。ちなみに、これはアヒルを見に行くツアーではありません。私はこのツアーに関してはすっかり友達任せで下調べをしておらず、ツアーの名前、河に入るということ、またアヒルグッズがあちこちで売られていることからすっかりアヒルを見に行くのだと思い込んで興奮しており、「ずいぶん陸を走る時間が長かったなぁ、あれ、でもようやく河に入ったけれどアヒルがいない??」と混乱してしまいました。
もちろん、アヒルは見られなくてもツアーはとても面白かったです。ボストンは非常に古い都市なのでまさにこの場所がアメリカ独立の歴史の舞台の一つだったのだと世界史の授業も想起され興味深かったことに加え、一緒にいた友達が都市のことを大学で勉強しているので時々建築物について授業で習ったことを教えてくれ、知識が深まりました。
ハーバード大学とMITもせっかくの機会なので訪れました。ハーバードはさすがアメリカ最古の大学というだけあって歴史を感じるアカデミックな雰囲気で、MITは同じく名門ではありますがやはり想像通り理系の空気が漂い、ハーバードと比べるとだいぶ現代的な雰囲気がする場所でした。大学巡りもなかなか楽しいもので、今後また旅行をすることがあればその地の大学を訪問することが一つの楽しみになりそうです。
名物ロブスターを堪能しました。うっかり写真を撮り忘れてしまったので、お土産に買ったロブスターマグネットの写真を載せておきます。
○ニューヘイブン
私の友人と私の共通の先輩をイェール大学に尋ねにニューヘイブンに行きました。なんと、そこで吉川くんとばったり。滞在時間が短かったため予定調整が出来ず会う約束はしていなかったのですが、もし偶然会うことがあったら、と話しており、実際に遭遇出来てラッキーでした。
キャンパスをじっくりと見せていただきながら昔の思い出話、大学生活について、将来の仕事や結婚のことなどいろいろなことをゆっくり3人で話したのですが、旅の最後にじっくりと内省の時間が取れ、これもまた普段の忙しい生活の中では出来ない、春休みならではの時間の使い方だったなと思いました。
今回のレポートは以上になります。留学生活もあと残り1か月半。どんな過ごし方をしたとしても、やはり何の悔いも残さないということは難しいように思いますが、それでも残りの時間を最大限生かして、シャンペーンを清々しい気持ちで後に出来るようにしたいです。