守埼美佳さんの2016年9月分奨学生レポート

月日が経つのは本当に早く、昨日シカゴはO’Hareの空港についたばかりだと思っていたのに、もう最初の留学レポートを書くことになりました。この留学レポートは、留学を支えてくださった方々へのご報告、次の代の奨学生の留学準備の参考資料、留学をする可能性が少しでもある方への情報提供の、3つの目的を意識して書こうと思います。

8月14日早朝にシカゴのオヘア空港に到着。留学生の多くはこの日にシカゴに到着し、バスで大学に向かいました。バスの中ではアジア人が多く、窓の外に目をやる人もいれば、学期開始1週間前だというのに完璧に組まれた時間割を最終確認している人まで。特に中国人の多くはより高い教育水準や生活環境、仕事を求めて、高い競争率の中、尋常ならぬ努力をして国外で学ぶ機会を獲得するといいますが、その一面を垣間見たようで、少し緊張感を覚えました。

履修している授業の中で代表的なもの

・PSYC311
Behavioral Neuroscience Lab
動物の行動を脳から理解するための実験実習です。脳の部位についての講義や、羊の脳の解剖、ラットを扱う練習をしています。ただの講義形式ではなく、自分で考え知識を蓄える授業を取りたい、と思い、履修をしました。

・Stat 400
確率論から統計の授業までを履修する講義。
内容は日本の高校数学の確率から大学初期で学ぶ統計を合わせたものです。数学は日本語をほぼ直訳すれば大体意味を理解できる授業のため、言語のハンディキャップが少ないと言えます。そのためか、授業の主導権は中国人とインド人に握られています。日本と異なるのは、グループディスカッションがあるということ。機械的に計算をして正解を導くのではなく、答えが用意されない状態で少しでも正解に近づく過程が重視されているように感じます。そして、グループで討議をすると高い確率で間違いが淘汰され、正解だけが昇華されて残るところがとっても不思議です。

Psyc 453
視覚の構造について、例えば、自然界に存在する光を、人間はなぜ今見ているような「色」として見ることができるのかを、脳や神経系の構造から明らかにしていきます。講義とゼミの掛けあわせのスタイルです。余談ですが、講義をする先生が授業中に糖分補給としてM&Mをつまんだり、プレゼンを担当する学生が堂々と水筒を教壇に持参する点に、アメリカらしさを感じるのでした。

授業全般のまとめ
私が日本で所属していた大学は「研究機関」としての色が濃かったことに比べ、ここイリノイ大学はむしろ「教育機関」としての色が濃い印象を受けます。その理由としては、第一に、試験や課題の量が膨大です。大体の授業では、一学期に3回の試験、少なくとも2週に一度の課題の達成度合いから、成績評価がなされます。第二に、充実したITシステムを全学的に導入し全ての授業で活用していることも、特筆すべきです。大学に共通IDシステムがついており、授業のスライドや講義録、課題などは全てそちらにアップロードされます。このシステムには授業を担当する教授の連絡先なども全て記載されています。学生は授業の復習、教授への連絡、課題の復習、また課題に関する質問や議論をこのITシステム上で行うことができます。

交換留学生は必修科目がなく、好きな授業を履修できます。ただ、交換留学生にもアドバイザーがついており、履修した授業の難易度を個人個人に対して教えてくれます。授業の履修は自由ですが、自分が所属する学部以外の学部で開講されている授業の履修には当該学部への連絡など複雑な手続きが発生することもあるので注意が必要です。

日本でも聞いていたことではありますが、日本の講義が教授から学生に一方通行であるのに対し、アメリカの授業は教授と学生との対話にほかなりません。学生は教授の講義が途中であっても、疑問点があると手も挙げずに質問をし、教授もそれに対して回答をします。しかも大教室であっても、学生の声が教授に届く範囲なら、この形が維持されます。

アメリカの大学は授業料が高いという評判は本当で、ここイリノイ大学も州立大学であるにも関わらず、学生は日本と比較にならない額の授業料を支払っています。ただしその分、大学として学生に提供するリソースが大変多い。学生寮や食堂、交通機関、スポーツジムといったハード面はもちろん、各種催しや学習・就職のサポートなどのソフト面での支援も大変手厚いと感じます。高い授業料はこうした施設費や職員の雇用に還元されているのだろうと思います。

所感
渡米して数週間ですが、大雑把な日米比較をしてみたいと思います。
非常に大雑把ではありますが、日本は「型」を重視し和を維持する傾向が強く、それが「周囲の迷惑にならない、授業の進行を妨げないように静かに授業を聞く』講義のスタイルや、「多くの挨拶文を伴うe-mail」に顕著にあらわれているように思います。一方アメリカは「無駄をそぎ落とし、全体の効用を上げる行為」が賞賛される用に思います。それが、「疑問があったら全体の前やオンライン上で質問する」授業形態や、「必要最低限の内容のみが記載されたメール」にあらわれているように思うのです。
これらは質的な違いであり、一方がよくもう一方が悪いという判断を下すべきものではありません。ただし、ある目的や条件のもとでは、一方の手段がもう一方の手段より優っている場合がありそうです。例えば、授業は学生の学習効率を高めることを目的としています。その中で、もしも全ての生徒が、教授の講義を、全てその場で完璧に把握できると考えるなら、日本の大学のように、授業で質問をしない方が、50分の講義の中で多くの情報量を持った授業をすることができます。しかし、多くの学生は講義の内容に対して無知であるため、往々にして講義のどこかでつまずいています。また、学習は内容の入力だけでなく、思考の出力とそれに対するフィードバックとしての入力の繰り返しにより進むように思います。そうであるなら、不明な点をその場で解消することが学生の理解をより促進するものであり、ある学生が質問をした場合、その学生の疑問点が解消されることはもちろん、他の同一の内容で躓いていた学生に対しても益があるため、その授業はより多くの人に益をもたらす「良い授業」と呼べることになります。

アメリカは人種のるつぼ、とは中学校の地理の試験答案に繰り返し書いた記憶があります。当時は試験のために覚えたこの言葉ですが、実際にアメリカに来てみると、まさにその通り。普段人と話していても、英語のほかに中国語、韓国語、スペイン語などもう一カ国の言葉を話す人が大変多い。ゆくゆく話を聞くと、「私はABC(American Born Chinese)なんだ」「両親がチリの出身なんだ」というバックグラウンドを持つ人ばかり。歴史を紐解けば何の不思議もないことですが、実際にその世界に巻き込まれると感動は一潮です。
この環境の中にいて一つよいことは、他人と同じであることを強要されない「マイノリティ」にとって住みやすい国である、ということ。肌や髪の色、体格、ファッション、生活形態、全てが異なるものから構成され、多数派や少数派という概念は薄弱です。
ただもう一つ直視をしなければならない現実は、それぞれの民族にとってのcozy zoneは確実に存在するということです。多様性を尊重「すべき」という理念を共有していても、言語が通じ同じ生活習慣を共有し価値観の合う人々といるほうが楽なのは確実。中国人は中国人同士で、欧米人は欧米人同士で、インド人はインド人同士で友人や恋人関係を形成するのがまだまだ普通なように思います。

アメリカに来れば多様な人々が瞬時に共生できるというのは理想論なのかもしれません。渡米したばかりの興奮も次第に冷め、言語や人間関係、授業などで様々な壁が見え始めてきたこの頃、今後如何にこれらの壁を突破していこうか、考える余地はたくさん有りそうです。

 

2016年9月24日(土)
第41期小山八郎記念奨学生 守崎美佳

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本奨学制度に深いかかわりのあるAlice Vernonさんとそのお友達とディナーテーブルを囲んで。

深見真優さんの2016年9月分奨学生レポート

ご挨拶
Japan Illinois Club の皆様、ご無沙汰しております。現在41期小山八郎記念奨学生として留学しております、明治大学政治経済学部政治学科4年深見真優と申します。現在は1年間休学してこちらで、健康促進に関わる授業を複数の学部から受講しております。授業が開始してから1か月ほど経ちました。初めてのレポートに何を書けばいいか戸惑いもありますが、この1か月間の日常をご報告させて頂きたいと思います。キャンパスの様子も皆様が勉学に励まれていたころと少し変わっているのでしょうか。「懐かしいなー」と、キャンパスでの日々を振り返っていただけるレポートを書いていければと思います。今回のレポートでは、主に①受講している授業②ジャパンハウスでのイベント③週末④課外活動についてご報告できればと思います。

①授業

授業を受講するに当たっては、面白そうな授業が沢山あり悩んでしまいました。
1、文系の学生である私が健康に携わるにはどんな方法があるか模索する。
2、アメリカらしいオープンな授業
を念頭に履修を組みました。

1, Global Health
教授が毎授業、その週に起こった時事ニュースを持ち出してきて、それをきっかけに世界中の健康問題について触れていく授業になります。中間までの主なテーマは貧困と健康問題についてでした。最近の授業で印象的だったのは人種による妊娠リスクの比較でした。黒人の女性が妊娠した時の出産リスクが高い理由として日常生活における人種差別から引き起こされるストレスが大きな要因であるという事実に心打たれました。ある人種に生まれたというただそれだけで、健康状態に差が生じるということは日本に居る限り感じることのない事実でした。高学歴高収入であろうと黒人に生まれた時点でストレスにさらされる機会は多く、通常は健康に大きな影響を与える学歴や収入以上に多大な影響を与えることを示すドキュメンタリーは何とも言えない虚無感を残しました。いくら教育を施しても、なかなか乗り越えられない壁があることを目の当たりにした授業でした。自身の文化に誇りを持つことでしか、人種差別は乗り越えられない、と大教室で発言した女の子の意見に大きくうなずく学生を見ていると、まだまだ自分はアメリカに深く根付く、ダイバーシティーの豊かさの裏側を見られていないような気がしました。

2, Frame works for Health
この授業には、毎週様々な学部から教授が講義に訪れます。医学、政治学、社会学、栄養学、建築学など様々な分野から健康について考えます。授業内での小さなフィールドワークが多く、先週はキャンパス内を歩き回って、コミュニティとして健康を促進できる環境があるかについて考えました。健康と聞くと食や運動と直接結びつきやすいように思いますが、キャンパス内を歩き回ってみると、フレッシュな食材にアクセスできるスーパー、安全に運動できるアウトドアスペースなど、街の構造が健康に大きな影響を及ぼすことを改めて感じることができました。文系の学生として健康促進に携わる方法を模索するという目的にしっくりくる授業のため、毎回のフィールドワークや講義が楽しみです。学期の後期にはグループでのプロジェクトも控えているため、将来の自分の姿と照らし合わせながら、自分なりの健康促進への携わり方を考える授業にしたと考えております。

3, Medical Sociology
医療社会学と言われる分野です。Sociology in medicine( motivated by medical issues) とsociology of medicine (motivated by interaction and behavior) の大きく二つに分かれますが、こちらの授業では後者を主に扱います。この授業では、一つの健康問題に対して必ずpersonal problem の視点とpublic issue の視点を求められます。10人程の小さなクラスなので毎回discussionとlectureを同時進行しています。最近の授業で興味深かったのは肥満に関する授業でした。肥満であること自体が不健康なのではなく、ある一定の基準さえ満たせば肥満も個性の一部であるという認識の仕方がダイバーシティの豊かなアメリカらしい考え方だと感じました。その考え方の良し悪しはファイナルペーパーを書く過程でゆっくり考えていきたいと思います。

4, Sexual Communication
アメリカらしい、オープンな授業を受講したいという思いに見事にマッチする授業でした。日本のみならず、アメリカでも、性に関する議論はまだまだオープンにはなされていないのが現状の様です。先生は非常にパワフルでレクチャーの授業は毎回笑いとざわめきのなか進められていきます。実用的なsex educationのあり方から、日常のパートナーや家族間における性に関するコミュニケーション能力向上を目的とした授業です。日常会話に関わらず、sexual communicationにおいても、自分をいかにオープンにしているかが鍵となります。一番最初のペーパーはself reflection paperといって自分のsexual communication competence に関して論じるものでした。パートナーと良好な関係を築くことは、精神的充足を満たすうえで非常に重要な事です。sexual communicationという一見タブーに見られがちなトピックを日常の一コマとして切り取るおおらかでダイナミックな雰囲気がとても心地よいと思いました。

 

②Japan House Event <Matsuri>

こちらに来てから初めて参加したJapan HouseでのイベントはMatsuriでした。ジャパンハウスの敷地に、日本食の屋台、楽器演奏、浴衣の試着など様々なブースが展開され、まさに日本一色でした。私は日本からお招きした津軽三味線奏者佐藤通芳(さとうみちよし)さんのコンサートの通訳としてMatsuriの舞台に立たせて頂きました。この小さなキャンパスタウンのどこからこんなにも人が集まるのか…と息をのむほど沢山の方に来場して頂きました。プロの三味線演奏者の方の海外公演の通訳として英語も拙い私が舞台に上がっているのは何とも言えない感覚でしたが、佐藤さん、ボランティアの方々、そしてシャンペーンの優しい観客の方に囲まれながら、とても貴重な体験をさせて頂きました。言葉の壁も年齢も性別も人種も一瞬で飛び越えて、あっという間に会場を一つにする音楽の力強さを目の当たりにした一日でした。来場者数も去ることながら、前日準備から解体に至るまで、本当に沢山のボランティアの方がMatsuriに参加して下さっていることにとても感動しました。キャンパスの一角にあるジャパンハウスが、学生のみならず地域の方々に愛されているのを目の当たりにした温かなひと時でした。これからの、ジャパンハウスでの活動がとても楽しみになると共に、私は日本人として何ができるのだろうか…と、ふと立ち止まるきっかけになった一日でもありました。

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(写真1:日本でも着ない浴衣での通訳は緊張による冷や汗と猛暑による滝のような汗で目まぐるしい一日でした、三味線奏者の佐藤通芳さんと。)

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(写真2:Matsuri打ち上げでの一枚。ジャパンハウスでインターンを行う学生を始め、沢山の方々に支えられて無事終了したMatsuri。)

 

③週末の過ごし方

授業が始まって1か月と少し経ちました。初めての第一回mid term が終わり、少しほっとしながらレポートを書いています。私は、こちらでのメリハリのある学生らしい生活がとても気に入っています。平日は授業の予習復習や課題に追われ、常に何かに追いかけられているような気がしますが、アルバイトなどに気をとらわれることもなく、夜まで図書館で過ごすのもある意味贅沢なのではないかと感じています。ルームメイトは一つ年下のスウェーデンからの交換留学生です。私は150センチ、彼女は180センチあります。彼女はベッドに飛び乗れますが、私は階段がないとよじ登ることもできません(笑)そんな凸凹コンビですが、どちらもお喋りしだすと止まらないため、平日の勉強の合間にふと片方が話しかけると、2時間喋りっぱなし、なんてことも…。とても居心地が良く、人生初めてのルームメートとしてはもったいないくらいの彼女が、12月には帰国してしまうのが今から寂しいです。こちらでは月に1度ほどmurphy’s night と言って、green street にあるbarのmurphy’s でinternational students とlocal students の交流パーティーのようなものが開かれます。本当に沢山の学生が集います。こちらの学生を見ていて非常に強く感じるのは、勉強だけでなく、健康管理、社交性、趣味、様々なことにおいてバランスが良く、それが人としての魅力に通じているような気がします。会話一つにしても、質問をして相手との共通点を探すのがとても上手だと感じました。今まではあまり意識してきませんでしたが、自分から沢山質問をすること、これが、相手や相手の文化に興味を持っていることを示し楽しい会話の基になるのではないかと感じています。英語が拙いことを言い訳にせず、彼らの会話の仕方を見習いながら、新しい場所や環境に飛び込む度胸を付けていきたいと思います。

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(写真3:休日に友人のホストファミリー宅にランチに誘ってもらいました。ホストママはスペインからのinternational studentで、UIUC graduate school の卒業生だとか。一緒に招かれた彼らも大学院生です。手作りのスペイン料理に舌鼓を打ちながらあっという間の4時間ランチでした)

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(写真4:友人に誘ってもらったホームパーティーで偶然出会った彼女は、実は今年の夏に松戸でインターンシップをしていて、JICのリユニオンにも参加していて、私の顔を覚えてくれていました。It’s a small worldとしか言いようがありません。The bread companyで美味しいサラダを食べながら、試験勉強を忘れてはしゃいだブランチでした!)

 

④課外活動

毎週木曜日の夕方にジャパンハウスで茶道のevening classを受講しています。これは全く予想外でした。授業が始まった初めての週に、ジェニファーさんにお招きいただき、茶道のお稽古にゲストとして参加しました。日本での茶道経験はゼロです。私は日本に生まれ育ち22年余り、何をしていたのか、、、と考えさせられる1時間でした。アメリカで生まれ育った学生の美しい身のこなしに心奪われました。自分の無知を恥じると共に、異国の文化にほれ込む彼らの好奇心と、何歳になっても新しいことに挑戦することを恐れない心意気に、突き動かされました。日本文化に向き合ってこなかった自分を恥じましたが、同時に、何かを始めるのに遅すぎることは無いのではないか、という事を強く感じ、茶道のお稽古を始める決心をしました。毎回のお稽古は郡司先生のお話に始まり、私達ビギナークラスは、お稽古に数年通っている現地の学生によって進められていきます。アメリカでアメリカ人に日本人が日本文化を習う、というゴチャゴチャな環境ではありますが、様々なバックグラウンドを持つ彼らと一緒に学ぶからこそ、日本では見えなかったものに気づけると感じています。

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(写真5:毎週お稽古の際にはお茶菓子が振る舞われます。忙しかった一週間を振り返り、お茶とお茶菓子でふと日本を感じ落ち着く瞬間です。)

 

最後に

つい数日前まで半袖短パンでキャンパスを行き来していたのに、今日は長袖長ズボンを身にまとい、それでもバスを待つ間は身震いしてしまう寒さとなりました。いよいよ、噂に聞いているイリノイの寒さの片りんを感じ取っています。日本もそろそろ秋を迎える頃でしょうか。季節の移り変わりですので、どうか皆さま、お体ご自愛くださいませ。次回のレポートで皆さまに、また生活のご報告をするのを楽しみにしております。

内倉悠さんの2016年9月分奨学生レポート

JICの皆様、ご無沙汰しております。41期奨学生の内倉悠です。9月も終盤にさしかかり、夏の終わりと共に少し肌寒い秋の始まりを感じております。新学期が始まって約一ヶ月が経ち、こちらの生活にもようやく慣れて参りました。今回のレポートでは

・履修中の授業

・課外活動

の2点について書かせていただこうと思います。

 

履修中の授業

ART105 Visual Design for Non-Majors (3credit)

日常生活の中に溢れているデザインを発見し、考察するという内容の授業です。20人ほどの少人数クラスで毎週、デザインのボキャブラリーとして”Line”や”Space”などのお題が与えられ、それに関連した写真と考察を持ち寄ってdiscussionするという、100番台の割りにはかなりハードな授業だと感じております。好きなデザインを発見することは容易なのですが、なぜそれが美しいのか、という理由を語ることは容易いことではない、ましてやそれを英語でなんて、と打ちのめされそうですが、毎週少しずつ言葉が出てくるようになっているのを励みに、引き続き精進しようと思います。

 

ART153 Digital Photography Seminar (2credit)

毎週アーバナ郊外にある動物保護センターに行き、ホームページ掲載用に保護されている動物のプロフィール写真を撮影するという授業です。7人だけの超少人数クラスで、教授との距離が非常に近くアメリカの教育の質の高さを感じております。この授業では、デジタルカメラの基本的な操作方法からLighting、学期終盤には撮影後のPhoto Editingまで教わることができ、息抜きとして非常に楽しい授業です。ただ、教授からかならず撮影した写真の意図を問われ、その意図にあった技術の正しい運用が求められます。カメラはあくまでも”Tool”であり、撮影者自身がどのような意図を持って撮影するのかという部分が最も大切にされるべきところである、というのを痛感しております。

 

ARCH471 Twentieth-Century Architecture (3credit)

20世紀の建築を軸に、世界の建築がどのような潮流・コンテクストの中で発展していったかを考察する授業です。今学期の履修科目の中で唯一のレクチャー形式の授業で、毎回120枚ほどのスライドをバックに80分間しゃべり続ける教授に圧倒されながら、何とかしがみ付いていこうと必死です。単に時系列順に歴史をたどるのではなく、たとえば曲線やガラスのデザインがどう発達し、当時の社会状況の中でどのような意味を持ったか、といったようなデザインやマテリアルを軸にした建築思想史の解釈を試みる授業で、非常に魅力的な内容です。社会背景を考慮すると同時に形態デザインにも重きを置く、こちらの建築学部の理念が垣間見られる授業だと思います。

 

ARCH373 Arch Design and the Landscape (5credit)

この留学生活で核となる授業で、Semesterにつき2個の設計課題が課され、実在する敷地に架空の建築を設計するというものです。生徒数は全体で約100名、7つのセクションに分かれて各セクション16人ほどの規模で教授とcritiqueを重ねながら設計します。なによりもまず、トウモロコシ畑に囲まれた大学に、世界中から実に多様な国籍の人が集まって来ていることに驚かされました。Exchange Studentは僕だけでしたが、Transferで編入してきた人が数人おり、さらにinternationalということもあって、来る前に抱えていた「馴染めないのではないか」という不安はスタジオ初日に吹き飛びました。スタジオは非常にオープンな雰囲気で、教授ともソファに座りながらおしゃべりをするくらい距離が近いです。課題提出前にはみな泊り込みで作業をするため、他の学生と仲良くなる機会も多く、さまざまな国の人と繋がることができ非常に有意義な時間を過ごしています。こちらでは、批評は先生だけでなく生徒全員で行い、相手が誰であろうとお構いなしに良いと思うところは褒め、不明瞭なところは徹底的に問いただします。変な遠慮なしに互いに意見を交し合う姿勢が、オープンな雰囲気を作り出している所以なのだと思います。

先日一つ目の課題が終了し、こちらに来て初のreviewを経験しました。幸運なことに上位6選に選んでいただき、生徒・教授含め総勢約120名ほどの前でプレゼンテーションをする機会をいただきました。いきなりの英語でのプレゼンテーションで緊張しましたが、自分が何をしたかったのかということだけはなんとしても伝えてやろうと思い、なぜか開き直って挑みました。結果、持ち時間内での発表はなんとか切り抜けられたのですが、質疑応答でクライアント・教授陣にタコ殴りにされるという苦い経験をしました。単語の持つほんの少しのニュアンスの違いで大きな誤解を招きうる、デザインプロセスにおける言語コミュニケーションの難しさを痛感しました。しかし一方で、一枚のスケッチ、一枚のCG画像の持つ影響力の大きさを感じられた瞬間でもありました。

こちらではデザインのプロセスに重きを置くと共に、プレゼンテーションを含めデザインのアウトプットも同じくらい重要視します。教授にかけられた言葉で一番印象に残っているのは、「言葉よりも強力なCGを描け。」というものです。その言葉通り、他の発表者を見てもプレゼンテーションボードにはほとんど文字が見られず、とにかく視覚に直接訴えるようなものが多かったです。そしてなによりみなプレゼンテーションのスキルが高く、やはり話術では圧倒されました。今できることは、ただひたすら他の人のプレゼンテーションを聞き、どのような言い回し、表現、ジェスチャを利用しているのか盗み取ることだけだと感じております。一回目からかなり収穫のある内容でした。

東京大学での設計スタジオには日本人しかおらず、図らずとも少々煮詰まった雰囲気になってしまうことがありました。(相当仲がよいということでもあるのですが。)しかしながら、実際に社会に出て建築の仕事をする上では、さまざまなbackgroundを持った人々と協働することがほとんどで、ここにいるとその縮図のような、適度な緊張感を保ちながらも互いに相手を尊重し、切磋琢磨し合える環境を体感できるように思います。

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写真 1 プレゼンテーションの様子

 

 

課外活動

Lecture : Musturo Sasaki

2016年9月16日、イリノイ大学建築学部にて建築構造家の佐々木睦朗氏による特別レクチャーがありました。(参照ホームページ: http://www.arch.illinois.edu/node/516)

佐々木睦朗氏は建築構造家として伊東豊雄さんやSANAAなどの著名建築家の作品を数多く手がけられ、世界的に著名な自由曲面構造研究の権威でもあります。

佐々木教授が伊東豊雄さんと手がけられた作品の一つに大田区休養村とうぶという大田区の所有する宿泊施設があります。僕は10歳の時に偶然修学旅行でこの建物を訪れたのですが、この建物がきっかけとなり建築家を志すようになりました。僕自身もまさか日本から遠く離れたイリノイの地で、自分の人生の転機となった方にお会いできるとは夢にも思っていませんでした。

レクチャーに先立って、日本館で佐々木教授をおもてなしする特別なtea ceremonyがあったのですが、日本館の館長であるジェニファーさんのご好意で僕も参加させていただき、佐々木教授と直にお話する機会をいただきました。英語で”serendipitous encounter”と表現するように、この奇跡のような素敵な出会いは、留学生活の忘れられない経験となりました。

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写真2 Japan House Tea Ceremonyにて、佐々木教授を囲んで(最前列右から二番目が佐々木睦朗氏)

 

Part-time

上記の佐々木教授のレクチャーに関連して行われた佐々木教授のインタビューを翻訳し、和英のスクリプトを作成した後にインタビュー動画を編集し作成するというものです。tea ceremonyの時に偶然お会いした建築学部の教授が日英対訳のアシスタントとしてジェニファーさんを通してオファーして下さいました。教授のそばで経験を積めるだけでなく、自分の尊敬する方のインタビューを翻訳し見聞を深めることができ、その上おこづかいもいただけるなんて、本当に幸運に恵まれ夢を見ているかのような思いです。来月より本格的に始まるので、与えていただいたチャンスを充分に生かし勉学と両立できるよう励んで参りたいと思います。

 

Competition

設計スタジオをとる傍ら、現地の4年次に在籍する日本人学生とともに一般応募の設計コンペに応募しています。締め切りが10月30日と迫ってきており、mid-termと重なるためハードワークが予想されますが、実際の設計業務でもマルチタスクをこなすことが求められるため、よい練習だと考えております。もちろん学問優先ではありますが、決して妥協のないよう貫き通したいと思います。

(Japan Houseで行われたMatsuriに関する記事は奨学生定期レポートにも書かせていただいたので、ここでは割愛させていただきたいと思います。)

 

 

上記、現状報告に関して長々と書かせていただきましたが、書いていく中で自身のこれまでの留学生活を見つめ直すと、いかに幸運に恵まれ、周囲の方々に助けられてきたかということを痛感しております。留学前から現在にかけて、多くの方々にお会いし、お話を聞く機会を頂きました。勉学もそうですが、それ以上に多くの人から様々な影響を受け、自身を省み、これからの進路を考えさせられる毎日が続いております。それは決して著名な方や教授といった方々だけでなく、イリノイに来て出会った友人を含め全ての人です。

日本にいるときには、ある種自分の“居場所”のようなものがあり、アイデンティティが確立されていたため、ここまで他人から影響を受けることはなかったように思います。日本を離れ、自身の居場所を捨て、ゼロからイリノイの地で自分の在り方を模索する必要に駆られたことで、より敏感なアンテナを周囲に向けることができているように思えます。“Keep moving”という精神を大切にし、常に周囲に敏感であり、自分の在り方を模索し続けたいと思っております。

そして最後に、この場をお借りして、このような貴重な機会を頂いたJIC関係者の皆様に心より感謝申しあげます。

 

2016年9月25日

第41期小山八郎記念奨学生 内倉 悠