JIC会員各位
2002年度奨学生の田中千絵さんの最終レポートを送付致します。
なお、田中さんからは9月25日にレポートを受け取っていたところ私の方の都合で、みなさまに転送するのがこれほど遅くなってしまったことを深くお詫び致します。
LAS(’00-’01)奨学生
小瀬垣 彩子
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JIC 最終レポート 2002年度奨学生 田中千絵
遅ればせながら無事留学修了の報告と共にこの一年間の総括をお届けしたい
と思います。 今旅行を終えて再びイリノイの友人の元を訪れ、キャンパス内
でこれをまとめていますが、学生たちをながめながら去年の夏を思い返すと本
当に感慨深い思いにとらわれます。
文字通り右も左もわからないながら、美しいキャンパスと寮での友達との生
活にとにかく毎日わくわくしていた最初の数ヶ月。体験したことのないような
寒さの中でも自転車をこぐ日々を過ごしながら日本でのことを含めていろいろ
なことをじっくりと考え、留学という貴重な経験の中で、変わっていく自分を
見つめていた冬。そして帰りたくないという思いを日に日につのらせながら、
日々が驚くほどの早さであっという間に過ぎ去ってしまった春。最後にはたく
さんの友達との別れにさんざん泣いた後がらんとしたシャンペーンでまた美し
さを取り戻した街並みを惜しみ、そして自分の旅立ちで再び涙した夏でした。
イリノイでの一年間の私の経験を一言で表すならば、五感を全開にしていた一
年間、と言えそうな気がします。こんなに素直に沢山泣くことも笑うことも、
そして周りの風景から人の機嫌までを敏感に日々感じとること、一日一日を貴
重に思えたこともこれまでにない経験だったと思います。これは日本人の傾向
に比べるとやたら感情表現がストレートで大げさなアメリカ人に多少影響され
たのもあるでしょうが、何よりも、そういう自分であることを許してくれるよ
うな、またはそういう自分でありたくなるような、多くの大切な友人に恵まれ
たからだと思います。日本にももちろんいい友人はいますが、いつもその人た
ちを大切に思っていると伝えること、また実際に大切にするのは意外に難しい
ものだと思います。けれども毎日友人と顔をつきあわせ、様々な局面で助け合
わなければならない様な環境の中では、日々、そういうことをきちんと伝えあっ
ていくことが大事になってきます。ささいなことで傷つけあうこともあれば、
小さな会話の積み重ねが家族のような絆にいつのまにか変わっていたりします。
この年齢になってきて友達と本気でけんかをしたり話し合ったりすることも日
本での生活を思えば非常に貴重な経験だったと思うのです。
また、これほど自分が人との支えあいの中で生きていることを日々実感す
るということも珍しいと思います。あまりに毎日が「人、人、人」との濃い関
わりで動いていくので、時には「今日はもう人に会いたくない!」と思うこと
などもあるほどでしたが、今ではやはり、夜中にでもすぐにノックして友達に
あいにいくことのできたあの寮での生活を本当に懐かしく恋しく思います。
留学後、帰国してから、自国での再適応に苦しむ人は意外に多いと聞きます。
私もその一人といえばそうかもしれませんし、連絡をとりつづけている留学中
できた友達はみなイリノイでの生活を恋しがっています。友人の一人が一年間
の留学生活という体験は“too intense”だといったのがとても印象に残って
います。それは“too intense to forget that and come back to real life”
などと続くのかもしれませんが、イリノイを故郷のように常に恋しく懐かしく
思いながら、自分の目標に向かって突き進み、その中で、イリノイで得た経験
を余すところなく生かしていく、ということがこれからできるのであればこれ
ほど素晴らしいことはないと思います。そして恋しいイリノイでの生活のよう
に、日々、自然の中で生きる感覚、人とともにある感覚、人を大事にする感覚
を忘れないで、少しでもそのような感覚を再現できるような場をどこにいても
作り出せるような自分でありたいと強く思います。
交換留学生という立場は、何を選んでもいいかわりに、特にどこに属してい
るわけでもなく、何をする特権も特に与えられていないという立場だと思いま
す。そういう立場だからこそ、授業にしろ、それ以外の活動にしろ、なにを選
んでその場でどれだけ自分の存在をきちんと認められるかはすべて自分の行動
にかかっているということをよく実感したものでした。その中で、いろいろな
ものに首をつっこみ、受け入れられたり拒絶されたりしながら、私は自分が何
を本当に必要としているか、強く強く受け入れてもらえるまで主張したいほど
に自分が本当にしたいものは何なのか、ということがだいぶ見えてきた気がし
ます。渡米前、あれもこれもできそうだけれども何が本当にしたいのか、でき
るのか本当には見えてこない、という時期にあった私にとってこういう思考に
至ることは、この留学のひとつの大きな目標でありましたし、それをある意味
達成できたことは私の人生にとって大きな意義をもつものだったと思います。
留学の一年間というのは誰にも説明しがたく濃い、濃いものだという話は、
JICの留学先輩の方々からもさんざん話には聞いていましたが、これほどまで
だとは本当に思ってもいませんでした。想像をはるかに超えて、濃く、強烈で、
そしてものすごい速さで過ぎ去った一年間だったとしみじみ思います。その経
験は何も知らない誰かに聞かれたら、やはり、行ってみないとわからない、と
答えてしまいかねない、私の人生、人生観を変えるような、言葉にできないも
のです。けれども、それを多く語らなくてもいつまでも深くわかりあえるのが、
この一年を共有してきた、ほかの3人の奨学生であり、JICのみなさまであり、
そのことの偉大さを、今、周りの人々に自分の経験を問われ、語ろうとするた
びに思い知ります。特に、同期の奨学生は、一年を通して、それぞれ生活の仕
方や勉強のフィールドは違っても、がんばっている様子をみて自分が励まされ
るような相手であり、まさに同志というような感じで、イリノイでできた多く
の友人の中でも、どこか特別な意味をもつ仲間だったような気がします。また、
最初にイリノイに行ったころに室賀先生に、そして帰国が近づいたころに郡司
先生にゆっくりとお会いすることができましたが、このように、JICを通じて
つながりがあるということでイリノイをよく知る方にお会いしに行き、そして
そこでイリノイについて語れるということもJICの皆様にお世話になっている
が故の貴重な機会だと思いました。また自分が単なる一回きりの留学生ではな
く同じ経験を共有する人々の縦の糸の中に編みこまれていく一人なのだという
ことを実感することができそれを光栄に思うことができました。
このレポートをもって私がこの一年間で抱えきれないぐらい多くのものを得
たことが伝われば幸いですが、ともかく、このような機会を与えてくださり、
そしておそらく私と同じようにイリノイでのご自身の留学経験を大切に思い続
け、その想いでもってJICを支えてきてくださっている皆様に心から感謝の気
持ちを送りたいと思います。そしてこれからもその一員であり続けられること
を光栄に思います。 ありがとうございました。
東京大学大学院教育学研究科総合教育科学
比較教育社会学コース修士課程 田中 千絵